ディバイス攻防戦Ⅱ
お昼
―…、ここは?
気が付けば、転生前の姿で立っていた。
―ここは…、アパートか?
辺りを見回すと見慣れた自分の部屋の中心…より少し浮いた辺りに自分はいた。
下を見れば、布団が敷かれた方へ倒れ込んで寝ている自分がいる。
そして倒れた衝撃で落ちたであろう煙草の灰皿と微かに火が燻っている煙草が地面へと散らばっていた。
燻っていた煙草の火はすぐに地面の畳を熱し、呆気なく火の手が上がる。
だが3日もの徹夜を続けて限界を迎えた自分が、その火に気付けぬほど深い眠りに落ちている。
あっという間に火の手は広がっていき、近くの椅子と机に移り、ゴミ箱、パソコンや本棚、タンスへと燃え移っていく。
まるで自分を取り囲むように規則性のある広がり方を見せる炎に違和感を感じていた。
―あの時は気づけなかったけど、俺が寝ている間にこんなふうになってたんだな…。
そして火は床から壁へ、壁から天井へと移っていく。
あっという間に自分自身が眠る布団以外の場所はものすごい勢いで燃え盛っていった。
黒煙も上がり、燃えて崩れていく天井。
窓ガラスが割れ、外へと黒煙と火の手が上がっていく。
だが炎はついに布団へと移り、そして自分の着ていた服にも燃え移った。
―これを見る限り、正直に言って寝ててよかったと心から思うよ…。
でもなぜこれを見ているのか、どうして前世の自分の死を見ているのか?
それとも、これは誰かが間接的に見ている別の誰かの視点なのか…?
もしそうならこの状況を見ている存在は一体誰なのか…?
ふと自分が動かしたわけでもないのに、燃えていく自分の視点が揺れ、玄関の方へと動く。
玄関の扉を激しく叩きながら扉の向こう側で誰かの叫び声が聞こえるのがわかった。
「…ぱい…!! お…か…せん……い!‥あけ…くだ…‥!! せんぱ……!!」
自分の事を呼んでいる。
そしてその声にも聞き覚えがあった。
だがその声の主とは過去に縁を切って疎遠になっていたはず…。
―なんで…、来るな…! 今扉を開けたら…!!
そう焦っていると扉が勢いよく開き、そこに一人の女性が焦った様子で部屋へと入ってきた。
だがその瞬間に火の手が勢いよく吹き荒れ、入ってきた女性へと襲い掛かる。
―やめろおお!!!
~~~~~~~~~~~~
『うわあああ…!!』
「…あ、起きたんですの?」
勢いで目を覚まし、体を起こそうとしたが激痛が走ってまたすぐに横になる。
目の前には黒髪お下げを垂らす10歳ぐらいの少女が心配そうに顔を覗かせていた。
そばかすが微かに広がりつつも顔の形は整っており、美少女という奴なのだろう。
『ぐっ…こ、ここは…?!』
「あ、まだ寝てないとだめなんですの!」
無理やり体を起こそうとするが少女に抑えつけられ、体を寝かせられる。
少女の近くには真っ赤に染まった布と赤い液体の入った桶が置いてある。
「両足と左前脚はグチャグチャ、左腹部から骨が突き出てて、更には顔も半分ほど潰れていたんですの!」
よくもまあそんな状況で生き残ってるな…?
「あ…、オオカミさん…!」
と少女の存在に気を取られて気が付かなったが、その傍にふと見覚えのある顔があった。
『…たし、か‥ユリアと一緒に…いた…』
「ポーラです! 今冒険者たち全員がこの町の市民たちの避難誘導をしてて…」
「そこに君が町の壁をぶち壊しながらここまで吹き飛ばされてきたんですの!」
運よく黒髪おさげのそばかす美少女の前へと吹き飛ばされ、運よく持っていたハイエリクサーポーションを急ぎで重傷部位へ掛け、たまたま近くで避難誘導を行っていた僧侶のポーラを呼んで治癒魔法をかけてもらった。
『…という、ことか?』
「そうなんですの!」
「でもこの傷は只事ではありませんよ! 一体何をしたら…」
そもそもあの巨骨猿の拳を真面に喰らって生きていることに、自分自身でも吃驚している。
圧倒的レベル差と攻撃力、体勢を崩した状態で繰り出されたために7~8割ほど下がったパンチだったとしても真面に喰らえば1撃でミンチになるレベルのはず…。
―≪幻影・分身体≫のおかげだぞ。
どういうことだ…?
―分身体には、本体が受けるダメージを自分のHP分肩代わりする分身体専用スキル≪身代わり≫があるんだよ。あのパンチを受ける直前に目の前が真っ黒に染まったろ? 影狼が咄嗟に≪身代わり≫を使って俺様の体を覆い被さった状態でメスゴリラのパンチを受けたんだ。まあそれでも残りHPは2しか残らなかったがな…
一度も攻撃を受けてなかったフルヘルスの状態の影狼が攻撃を庇った結果、一瞬で影狼のHPを消し飛ばし、その上で本体のHPを9割以上も減らした…。
―今の俺様は重傷のデバフが入ってるから真面に動けねえよ。治るのも相当時間がかかるレベルのやつだ。
『…いそい、で‥もどら、ないと‥‥‥!』
「なっ、オオカミさん! こんな状態では真面に動けませんよ!それにこの状態でいったら今度こそ…!」
『もどら、なきゃ…アンジュ、ユリア…あいつ、らが…危ない、んだ‥‥‥!』
「私たちを助けてくれた恩人で、ユリアのお友達を死にに行かせるなんてできません!」
『だが‥‥‥!』
「安心するんですの! だって、そのためにあたしたちが急いで帰ってきたんですの!」
そう言って、無い胸を誇らしげに張りながらドヤ顔を決める。
~~~~~~~~~~~~
『アルフぅ! 我が息子!!!』
アダントの目の前吹き飛ばされていったアルフの後を追おうにも、目の前の首のない巨骨猿に奥で体勢を立て直そうとするもう一体の巨骨猿。そして森の奥からどんどん沸くように現れる骨猿たちでこの場から動けずにいた。
本来の相手ならば遅れをとることは決してないアダントとエフィではあったが、一切の被弾を許さない相手、それもかなりの数相手に下手な立ち回りも許されず、また骨猿たちの攻撃は壁だけじゃなく首無し巨骨猿の掩護か、アダントとエフィにも立ち向かっていく。
それらを遠距離攻撃で対処しつつ、首無し巨骨猿を相手取らねばならない。
さらにその状況で、更にもう一体の巨骨猿の出現、その驚異的な長距離射程の骨尾鞭による掩護も飛んでくるとなると…
『ちいっ…!』
『あなた…!』
『グオオオオオ……!!』
奥で巨骨猿の鞭が振り上げられる動作が見え、咄嗟に後方へと飛ぶとその直後に先ほどまでいたアダントの場所に鞭による強打が入る。
着地した場所へ骨猿たちが飛び掛かってくるが、真上へと高く飛ぶと自分の真下に向けて、
『メテオ・ハウリング!!』
自分へと飛び掛かってきた骨猿たちが一瞬にして消滅していく。
『あなた!!』
『…なに!?』
鞭を撓らせながら、そのまま上空に飛んだアダントに向けて首無し巨骨猿が手に持っていた骨棍棒を放り投げる。
咄嗟にエフィが骨棍棒に向けて
『インパクトハウリング・レイ!』
と精確な攻撃を繰り出し、アダントへの直撃の軌道を反らした。
『グオオオオオオ!!!』
それを骨尾鞭の返しでうまく骨棍棒へとぶつけて軌道を無理やり修正させた。
『まずい…!』
『あなた!』
アダントへの直撃をその場にいる誰もが確信した。
だが、その予想は決して当たることはなかった。
「≪煌く炎華≫」
どこからか聞こえてきた声。
次の瞬間、骨棍棒が空中で炎に包まれたと当時に爆発四散し、遅れて轟音と共に巨大な爆発音が辺りに轟く。
続けて、
「どっせぇえええええいいい!!!」
と女性の力強い雄叫びと共に巨大な槍のようなものが火を噴きながら突撃していき、空中で撓る骨尾鞭に直撃して粉砕した。
「≪降り注ぐ太陽の花≫!!!」
そして骨猿たちのいる所のみを正確に射抜くように上空から光の柱が降り注ぎ、骨猿たちに赤く光る花が開花すると同時に次々と巨大な爆発が起こっていく。
辺りには骨猿たちの姿はなく、ただただ黒煙のみがその場に広がっていた。
「遅れましたわ! アダント殿、エフィ殿、もう大丈夫ですわ!」
そういって、その巨大な機械槍を携えた金髪のポニーテールが特徴的な鬼人が立っていた。
「わたくしアネラ・フェイジス! そしてわたくしの友、ジャーニー・マクドルア!共におふたりの掩護にきたんですわ!」
特になし。




