侵蝕汚染体への攻略
お昼過ぎぐらい
アダントの背に乗せられて走り出してから数刻が経った頃、目的地に近づいているのか段々と森が開けていき、鼻に付く匂いの中に何か焦げた臭いと以前嗅いだことのある臭いを感じ始める。
ただアンジュとユリアの表情から徐々に余裕が消え去っていくのを見て、侵蝕汚染、そしてカースドエネミーに近づいていくのがわかった。
だがここで一つ、アルフの中に違和感を感じ始める。
(…なんともない。あの時、呪淵・獣と対峙した時はかなりしんどさを感じていたはずなのに…。それほどあいつらがヤバかっただけだったのだろうか?)
『見えてきたぞ! 気をしっかり持つのだぞ!お前たち!』
そう告げるアダントの前に火の手が上がり、遠くからでも聞こえる人々の悲鳴のような怨声が聞こえてくる。
そして町を取り囲む城壁が大きく崩れ、そこに佇む巨大な黒い何か。
遠くからでははっきりとはわからないそれはゆっくりとではあるが、今現在、侵蝕汚染体の頭部に当たると思われる部分だけが町の中へ入っていた。
カースドエネミーの進んだ後を辿るように侵蝕汚染のあの黒い手の波が広がっていた。
未だ距離はあるものの、そこで一度アルフをエフィの背に移し替えるとアダントは大きく顔を持ち上げる。
そして溜めのような動作に入り、4つ足を衝撃に備えるかのようにバランスよく開いて侵蝕汚染体の方へとゆっくりと向けると静かに口を開くと
『インパクトハウリング・レイ!!!』
アダントの口から侵蝕汚染体に向けて、一直線の細い線のような波動の波が繰り出された。
放たれた衝撃にアダントの後方には強い衝撃波の影響か、暴風が吹き荒れ、木々を激しく揺らし、後ろに居たエフィたちも吹き飛ばされそうになるがエフィの体が風よけとなったおかげで難を逃れた。
一方、繰り出されたアダントの攻撃により、町の中に侵入した侵蝕汚染体の頭部を含めた上半身部分だけに直撃し、跡形もなく消し飛ぶと同時に着弾した衝撃により侵蝕汚染体の胴体は後方へ大きく吹き飛ばされる。
さすがに衝撃波だけは町に対してもかなりの影響を及ぼしたのか、崩された城壁がさらに崩壊し、その付近に居た民家が跡形もなく吹き飛ぶ。
町から大きく引き離された侵蝕汚染体を見て、アダントとエフィは背に子らと勇者を乗せて町に向けて走り出す。
城壁付近へと駆けつけている間、崩れた城壁から兵士と魔術師を率いるジュレアナが飛び出してきた。
そしてアダントたちの姿に気付いたジュレアナは喜びのような安堵のような表情を一瞬見せ、こちらに手を振る。
「アダント殿、こちらです!」
『使者殿から話を受け、緊急事態により助けに馳せ参じた!今の状況は?』
「城壁で何とか侵蝕汚染体の攻撃を受け止めながら、遠距離からの攻撃で必死に抵抗したのですが…」
状況を見るに突破されたらしい。
上半身を失ってもなお、ゆっくりと置き上がる侵蝕汚染体。
マジかよ…!?と思いつつ、カースドエネミーの姿が今ここで確認できた。
上半身、とは言っても頭部と胸辺りが抉れているだけで、両腕、両足は未だ健在。
そして起き上がったソイツの姿勢からして思い当たる動物が一つだけ思い浮かんだ。
『…ゴリラ?』
「今回侵蝕汚染にあてられ、侵蝕汚染体になったのは恐らく西の森を統治する"巨骨猿"かと思われます…。」
『アヤツか…。』
どうやらアダントの知り合いだったようだ。
深く頭を下げ、悲しそうに目を瞑る。
『アナタ…』
とアダントを励ますようにエフィは傍に寄り添い、顔同士をこすれ合わせる。
覚悟を決めたのか、再度目を開けるとカースドエネミーと向き合い、牙を見せ威嚇する。
ジュレアナの計らいで数人の白魔導士たちによる浄化結界をユリアとアンジュに張ってもらった。
アルフは未だ自らに来ないあのしんどい感覚がないことから、2人を優先的に張ってもらうようにしてもらう。
『友よ、許せとは言わぬ…。存分に我を恨め、そして安らかな死を与えよう!』
『アナタだけに背負わせはしないわ。私も共に…』
そういうと2体同時に、
『『メテオ・ハウリング!!』』
を繰り出す。
だがそれを巨骨猿は両腕で防御態勢を取ってうまくガードする。
視界を両腕で遮ったのを見て、アダントとエフィは左右に瞬時に分かれるように展開し、
『スラッシュ・ハウリング!』
まるで刃の様に鋭い衝撃波が巨骨猿へと次々に繰り出していく。
防御でカバーしきれていない横部分に次々と攻撃が入り、大きく怯むようにその場に膝を付く。
だがここでアルフたちに別の脅威が迫ってきていた。
『息子よ! そっちにこやつの骨猿らがいく! ジュレアナと共に遠距離から迎撃するのだ!』
森から15歳ぐらいの人間の子供なみの大きさを持った、侵蝕汚染によって黒く染まった猿のような何かが複数体飛び出し、猛スピードで巨骨猿の脇を抜けてアルフたちの方へと向かっていく。
「いいか、我らのいるこの位置から後ろへと何人たりとも進ませるな!ここが最終防衛ラインと心せよ! 兵士は弓を、魔術師は魔法による遠距離攻撃で奴らを倒せ!」
「「「はっ!」」」
ジュレアナの簡易的な演説を受け、士気を高めた兵士たちが次々に攻撃へと入る。
結界内でアンジュは自らの力を持って前方に魔法障壁のようなものを張り、ユリアは魔力をアンジュに注ぎ、魔法壁の強度をさらに増していく。
(まずい…、遠距離攻撃相手には回避して懐に潜るという戦法ばかりで対策してたから、近接不利な状況での対策がまだ出来ていない…)
―いや、俺様よ。方法はあるぜ?
(お前と同化してアバター姿になって、光剣を弓に変換しての遠距離攻撃ってことだろ?だがお前、呪淵・獣と対峙した際に攻撃の全てが無効化されてたじゃねえか!)
―確かにあの時はそうだったな。だが俺を纏うだけでいい。俺を纏って、アイツに近接で挑め。
(何を言ってる!? 侵蝕汚染に触れて侵蝕汚染体になった奴に触れたら、アイツらと同じように侵蝕汚染に侵されて侵蝕汚染体に…)
―いいから俺を信じろって。大丈夫だ、俺様ならいけるぜ!
ジュレアナたちの攻撃により、次々と倒されていく骨猿たち。
だがそれでも数が数のため、全てを倒し切れるはずもなく…
「まずい!」
一匹の骨猿がジュレアナたちの猛攻をかいくぐり、こちらへと飛び掛かってきた。
それをアンジュが張った魔法障壁に阻まれるも、何度も何度もその拳を魔法障壁へと打ち込み、壊そうとしてくる。
『うぐうう…!ここ、から先には…行かせ、ないん…だからあ!!!』
瞬時にジュレアナが障壁に張り付いた骨猿を剣撃による鋭い衝撃波で倒すが、徐々に張り付いてくる数も増えていく。
(まずい!)
―いいから俺を信じろ! じゃなきゃあの子熊が持たねえぞ!
(…わかった!)
そういうと大きく遠吠えを上げ、白き闇をその場に召喚して同化を開始する。
そして同化が完了しても何故かアバター姿になることはなく、銀狼の姿を保ったままだった。
そればかりか、アルフの全身を覆うような白い装甲のようなものが現れていた。
その状態のまま、スキルの"隠密"と"幻影"を同時に発動し、自らの姿を完全に意識から外す。
『…え、お兄様!?』
「気配が…え、アルフくん…!?」
遠距離攻撃を持たぬことを知るアンジュとユリアが、アルフのしようとしていることに気付いたのか、急いで止めに入ろうとするがすでにアルフの姿はその場にいる誰もが認識できないでいた。
作り出された複数の幻影たちが骨猿たちに食らいつこうとし、一斉に飛び掛かるが触れると同時に幻影たちは姿を散らしていく。
そしてそれは起きた。
「…そんな馬鹿な!?」
『うそ…!?』
「一体なにが…!?」
目の前に張り付いていた骨猿たちの首が瞬時に消し飛び、消滅したのだ。
それと同時にアンジュが張った結界外へと姿を現したアルフの口には、もぎ取ったのであろう骨猿たちの首を咥え、地に落とすと首は静かに消滅した。
<巨骨猿"ギガオスゴリラ"の生態について>
・ランク:B~S
倒した獲物の肉を喰らい、その骨を自らの体に付けて武装する特徴を持つ骨猿という魔物たちを統率する長。
骨猿たちはE~Dランクの魔物や動物の骨を身に付けるが、巨骨猿はさらにその上のBランク指定の魔物たちの骨をその身に纏っている。
そのため今現在、冒険者ギルドではBランク指定のモンスターではあるが、中には龍の骨を身に纏う個体も発見されているため、各個体によってランクがBからSまで変動する。
巨骨猿と出くわした時、その身に纏う骨が一体何ランク指定のモンスターの骨なのかを瞬時に見極め、撤退するか交戦するかの判断が自らの生死を決めるため、魔物たちに関する知識が乏しいとギルドから判断された冒険者はたとえAランクだったとしても巨骨猿に関するクエストは提示されない。




