問題点の山積み、訪れる脅威
『そして今回の魔王の出現は、"龍の声"様の封印の綻びから溢れ出た極僅かな瘴気を浴びた一体の魔物が原因と判明した。』
『…え、ここの地域に魔王が居るって事ですか、父様?』
『うむ。そして魔王を討伐し、封印の綻びを修繕することができれば僅かな時間ではあるが、"龍の声"様とお会いすることができる。』
「…なるほど、そういうことね。」
小さくそう呟くユリア。
つまり、ユリア自身が魔王を討伐して封印を治せば少しの時間、祖龍の力を受け継ぐ古龍 "龍の声"との会談が可能になる。その時にルイシャを連れて行き、契約を結ぶことが出来ればルイシャを助けることができるかもしれない。そういうことである。
だが、一番の問題は…
『…でも、ルイシャの体がそこまで持ちこたえないと思う…アダントお父様。』
その疑問を真っ先に挙げたのはアンジュだった。
多分、その場にいた誰もがそれを感じ取っていたのであろう。
アダント自身も一筋の希望を見いだせた提案を出したが、その問題にも真っ先に気付いている。
『そこなのだ。可能性を見いだせはしたが問題は山詰みである。そこをどう乗り越えていくか…』
『でも大丈夫なのですか? ここに魔王が出現したって…』
「そこは問題ありません。魔王が出現したのは最近のことで、封印の間にて未だ眠り続けています。覚醒するまではまだ時間は掛かるかと。」
「じゃ、じゃあ寝ている内に私が魔王を倒せば…!」
『そううまく話はいかぬのだ。魔王は未だ寝ていると言ったが、それは瘴気を浴びた魔王の素体となる魔物がその瘴気に順応するために、その素体を媒体に魔王の瘴気を体の内に生み出し続けている。その状態で魔王を討伐すれば、体に溜まっている順応されてない魔王の瘴気が溢れ、辺り一帯は死の地帯となるだろう。』
「つまり、魔王を討伐したけりゃお互いのコンディションが万全の状態じゃないとだめって事か~…」
確かにそんなうまい話しがあるわけなかった。
眠っている内に魔王を倒し、チャンチャンで終わればこんな重苦しい雰囲気でこの世界の歴史の話ができるはずがない。
…ん?
『あの…侵蝕汚染って、魔王の瘴気と違うんですか?』
『あれらは全く別のものだ。むしろ、敵対関係のようなものらしくてな…。』
話を聞けば、3代目の勇者が魔王と激戦を繰り広げていた際、どこからか侵蝕汚染が発生し、生み出されたカースドエネミーたちが魔王を攻撃し始めたことがあったらしい。
それもあってか難なく魔王討伐、その後封印の綻びを修繕したらしい。
ますます意味が分からない。
両方共に自分たちに対しての敵意や殺意はあるが同時に互いにも影響を及ぼし合っている…。
とそこに複数の兵士を連れた使者のような恰好をした人間が会議に割って入ってきた。
「お、お集りの中、大変失礼致します…! 緊急事態です! 我がオードン様が治める領地ディバイスの町はずれにて突然カースドエネミーが現れ、襲撃を受けてます…!周囲にも侵蝕汚染が広がり始め、町に大きな被害が及んでおります…。どうか、我らに援軍を…!」
よく見れば一緒に連れてきた少数の兵士たちも無事ではないようで、所々に出血、中には重傷クラスとも思える怪我を負っていた兵士もいた。
きっとカースドエネミーの攻撃をかいくぐり、必死にここまでたどり着いてきたのだろう。
ラーヴァリアとアンジュは怪我を負う兵士たちに治癒魔法をかけ、いつの間にかやってきた黒い蜘蛛たちが兵士たちに蜘蛛の糸を怪我部分へと巻いていき、エネラが処方した薬品を器用に垂らしていく。
いつの間にかエネラ先生の姿は見当たらなかったが、状況を瞬時に判断して薬を処方するために部屋の奥に籠ったのだろう。
ユリアとラーナは聖水をコップに汲んで、兵士たちに次々と渡している。
先日のオゥクロプス率いるミノタナトスの襲撃、そして今回のカースドエネミー襲撃…。
偶然じゃない気がする。
『父様!これは罠の可能性もあります!』
『だろうな…。これは我々を誘い出そうとする陽動だろう。だが、我々とオードンは盟友であり、同盟関係である。このまま我が友が苦しんでいるのを見過ごすことなどできるはずがない!』
やはりアダントは熱い狼のようだ。
友のためならば、その身をもってどこまでも馳せ参じる。
親バカで、友バカな、誇らしい銀狼。
『さすが父様です! それに狙いが何なのかわからない以上、後手に回っては戦況が不利になる可能性もあります!』
『この状況でそう判断できる知恵を持ち合わせているとは…くうう!! さすが我が息子よ!』
強く遠吠えを響かせるアダント。
それに共鳴するかのようにエフィもまた遠吠えを上げる。
最近分かったことなのだが、この遠吠えの意味は2種類ある。
この地域に存在する各地の上位者への警報的な意味合いと、自らの家族の惚気の自慢…。
『ウルティア、オルダス、ラーヴァリア!お前たちはここを死守せよ!』
「御意!」「お任せください!」「おう!」
『ラーナたちはここに止まり、負傷した兵士の治療とエネラを手伝うのだ!』
「はいな!」「キュイ!」「キュッ!」
『アルフとアンジュ、そしてユリアは我らと共に来い! 良い機会だ、カースドエネミーとはどんな相手なのか見て感じろ!』
『はい!』『わかったわ!』「へ!?あ、はい!」
『アドゥレラ、お前はこの地域の者らに状況を伝え、周囲を偵察。何か違和感や異常があればすぐに報告、現状を警戒せよ!』
何もない空間へとそう叫ぶ。
どこからともなく強い風と複数の羽音が聞こえ、それぞれ地方へ散っていくように音が小さくなっていった。
そしてアダントは自らの背にアルフと使者、エフィの背にユリアとアンジュを乗せてその場から一瞬にして兵士がきた方向へ跳躍する。




