その光は希望か、絶望か。
………
『…となれば、高位の魔族かそれに近い高位の種族である銀狼種の父様と母様なら!』
『それは出来んのだ…。』
とアルフが期待を込めて挙げた提案が、銀狼の長であるアダント直々に却下の申し出があった。
その説明をとばかりにラーヴァリアが話す。
「生まれ変わりを行うためには相手の血を一定量その身に取り込む必要があります。その時、素体の体にすでに別の種族の血液が混ざっていた場合、取り込んだそれぞれの種族の血同士が反発し合い、生物としては呼びにくい複合劣種として生まれ変わってしまいます…。」
「つまり、生まれ変わる条件として元が純血であることが必要ってことですか?」
そう疑問を問いかけたのはエネラ先生だった。
「はい。この国とは別の国の出の人間であったとしても同じ人間種同士の混血なら問題はありません。」
『ならルイシャは大丈夫な…』
はず…と言いかけて、先日エネラ先生と話したことが脳裏に過る。
(祖龍の純血…)
ふとエネラ先生の方を見ると、彼女も苦悶の表情を浮かべていた。
そしてそれを受けて先ほどのアダントの出来ないと即答した反応を思い出す。
祖龍の純血に関する情報はエネラ先生は秘密にしていたはず…、いや。
そして思い浮かぶ疑問に基づく仮説…。そして、
『父様はルイシャに使われた物をご存じなのですね?』
アダントの方を見てまっすぐに問いかける。
その問いを受けて、アダントは静かに頷いた。
『うむ。エネラから事前に相談を受けていてな。オゥクロプスが出現したことを受けて、すでにその古の遺物に関する相談を持ち掛けてきた辺り、こうなることは予想していたのだろう。だが、エネラの反応からして生まれ変わり自身は知らなかったようだがな…。』
「…申し訳ありません、主様。私にもう少しそういった知識にがあったならば…」
エネラはアダントへ深く頭を下げる。
だがアダントはそんなしおらしくなったエネラを元気づけるかのように優しい口調で語り掛ける。
『気にする必要はない。それにアレを一刻も早く使わなければ、ルイシャの命はなかったのだろう?その時、エネラが下した最善の選択は決して間違っていない。それにルイシャが生まれ変わるための条件である高位種の血液を一定量その身に取り込むという条件は達成している。』
「主様…。ですが祖龍様はすでに…」
ルイシャに祖龍の純血を何度も投与され、あの小さい体から察するに6~7割は龍の血になっているだろう。
祖龍の純血だ、高位種なんてもんじゃない。生命体の原点にして頂点といっても過言ではない。
条件としてはオーバーするぐらいにはクリアしている。
だが問題は、その祖龍はすでに昔に自らの体を5つに分けて古龍を生み出して消えてしまった。
契約を結ぶためにはその血の元である祖龍に頼まなければ…、いや。
そこで一つの仮説が思い浮かぶ。
『自らの体、力を5つに分けて古龍を生み出したんならその古龍たちでもいけるんじゃないか?』
『…確かに。自らの力と体を分けたんだ。祖龍様と同じ血液を持つ古龍でも同じことができる、そういうことか我が息子よ。』
「その可能性は確かにありますね…。」
『…でも古龍様も世界を汚染していた瘴気を浄化して以降、姿を現していないのならそれなら結局…』
『…いや、いるぞ。』
そこでアダントがアンジュの言葉を遮り、言い放った言葉。
『…え?』
余りにも突然だったため、アルフは今アダントが言った言葉に理解を示せずアダントに問いかける。
『いるって…どういうことです、父様?』
『言った通り、この地に1体の古龍様がおられる。』
聞き間違いではなかった。
しかもここに5体のうちの1体がいるらしい。
『そもそもその歴史で語られていた話事態、少し間違っているのだ。』
「どういうことですか…?教会ではそれが正当なる話だって…」
意外にもユリアがその話に食いついているようで、アダントに問いかける。
確かユリアは教会の人間に幼馴染を殺され、そして彼らのもとで信仰を受けて勇者となった経緯がある。
『確かお前さんは勇者だったな…。』
「はい。私がいた教会で語られる歴史が間違っているって…どういうことなんですか?」
『そうか、人族にはそのように歴史が伝わっているのか…。ならば我が知る歴史を教えよう…。』
アダントから語られたその歴史はそこまで間違った事を言っているわけではなかった。
問題は後半部分…。
『祖龍様は魔王との戦いの後、5体の古龍へと分かたれた。5体はそれぞれ"龍の眼"、"龍の角"、"龍の声"、"龍の両翼"、"龍の尾"、それぞれの部位が古龍化した存在だ。そして古龍らは自らの力を持って世界各地へ散らばり、自らの体を触媒にその祖龍の力を持って全世界に魔法陣を敷き、とある古代魔法を発動した。』
「それが、魔王が残した瘴気を祓うための魔法…?」
『いや、違う。そもそも魔王の瘴気を祓うことはできなかったのだ…。』
「え…?!」
人族と魔族の間に語り継がれる歴史の違い。
人族では魔王の瘴気を祓ったと伝わった。だが、魔族では全然違うようだった。
『祖龍様の力と勇者の力を持ってしても、強すぎる魔王の瘴気を完全に祓うことができなかった。』
そして予想されるのはたった一つ。
よくある展開、前世で散々読んだダークファンタジー系の小説やゲームで見た光景…。
『魔王の瘴気をその身に全て引き受けたのだ。』
「そんな…!?」
驚きを隠せないユリア。
『そしてそれぞれの古龍は地下深くに作られた結界へとその身を閉じ込め、勇者の聖剣の力を持って5体の古龍を封印した。結界外へ瘴気を決して漏らさぬよう厳重にな…。』
後半の伝わり方が全然違う。
ハッピーエンドとバッドエンド。
魔王の瘴気を悪用しないように人族は歴史を改ざんし、このようにきっと伝えられているのだろう。
いつの日も人間が悪魔よりも醜い存在になることを当時の魔族、そして人族も感じていたはずだ。
だからこうして片方に嘘を、片方に真実を。
あの時の惨劇を繰り返さないために…。
そこで生まれる新たなる疑問。
ユリアはアダントに問う。
「…なら、それなら何世代に渡って繰り広げられる勇者と魔王の戦いってなんですか?そもそも魔王って…?」
『魔王とは、結界の綻びから漏れ出たごくわずかな魔王の瘴気を浴びた生命体の事を言う。人族、魔族とわず、瘴気にあてられた者は魔王へとなる。そしてその魔王を倒し、勇者は自らの力を持って綻びが出た結界を修繕することが使命である。』
「………。」
どうやらユリアが教会から告げられていた勇者の使命とは違っていたらしい。
言葉が出ず、そのまま押し黙ってしまった。
『そして古龍様の内の1体である"龍の声"様がここの地に眠っておられ、それを守ることが我らが課せられた使命でもあるのだ。』




