一筋の光
時刻 10:30
あれから数日が経った。
その間、ルイシャに発作が出ることはなかったが意識さえ戻ることもなかった。
未だずっと深い眠りについたまま、戻らぬ意識に不安を掻き立てられる。
だがエネラ先生が言うにはあの液体の効果で死んではおらず、ただ意識がないだけだからとのこと。
でも未だに起きずに眠ったままのルイシャを見ていると、どうしても胸に沸き上がる不安を拭いきれない。
「アルフ様、やはりここにいらっしゃいましたか。」
ルイシャを見守るように傍に居続けるアルフの元に、エネラが訪ねてきた。
アルフは狩りとアンジュとユリアとの鍛錬、ウルティアとの剣術指南以外の時間は全てルイシャの傍にいることに費やした。
『エネラ先生、何かあったんですか?』
「ええ、ちょっとよろしいでしょうか?」
エネラにそう言われ、ゆっくりと立ち上がりるとエネラの後に続いて部屋を出ていく。
向かう先にはアンジュたちの他にアダントとエフィ、そしてバファルメイドのラーヴァリアが佇んでいた。
アルフの姿を確認すると深くお辞儀をするように頭を下げる。
『父様に母様…それにラーヴァリアさんまで…』
「わたくしが皆様を呼び集めました。」
そう告げたのはバファルメイドのラーヴァリアだった。
どうやらあの時の話はもうこの場に居る者たちには全て伝達されていたようでアダントたちはその話を受け、どうにか出来ないかと色々と模索している中、1つの方法があるかもしれないと提案を出したのはラーヴァリアだった。
そしてその話を聞いてもらうため、皆を集めてもらうようにアダントとエフィ、そしてエネラに協力してもらったとのこと。
『ふむ、これで全員だな。またここにおらぬものには後で我より音声伝達で知らせを送る。』
「有難うございます、旦那様。」
『ラーヴァリアさん、ルイシャを助けられるかもしれないってどういうこと?』
「はい。その方法は"生まれ変わり"で御座います。」
『…生まれ変わり?』
そう言いながら、ラーヴァリアは自ら被っていた山羊の頭骨をそっと脱ぎ、皆の前にその素顔を晒す。
仮面に隠されたその素顔はとても美しいと思えるほどの美貌だっただろう。
その顔半分を占めるほどの大きな傷のような痕が無ければ、の話だが…。
全員がラーヴァリアの素顔を確認したのを見て、静かに口を開く。
「わたくしは元々人間の出で御座います。」
その言葉に一部は目を丸くしたように見開き、アルフも驚きを隠せないでいた。
ラーヴァリアは話を続ける。
「この顔に負った傷、元はわたくしを殺そうと放たれた魔法を顔に受けて頭の半分が吹き飛んでしまった際に負ったものです。その後、バファルメイドの長を務めるイズナデルラという方に助けていただきました。そしてわたくしはバファルメイドとして魔族に生まれ変わった際、その時に負っていた傷は全て消え去りました。」
『でもそうしたらその傷痕は…?』
魔族として生まれ変わった際に、人間の身で受けた傷は全て消えたと告げた。
なのに顔に残すその傷痕に疑問を持ったアンジュがラーヴァリアに問う。
「これは人間だったころのわたくしが犯した過ちを忘れないために、あえてこの傷だけは残していただいたのです。本来であれば生まれ変わりに成功した場合、体が内側から新たに構築されていくため、傷という傷は全て癒えます。」
『それなら…』
「はい、ルイシャ様を魔族とはいかなくともそれに近い種族への生まれ変わりが出来れば、アロディーフの葉で負った傷を癒し、命を助けることが可能です。」
絶望しかなかったルイシャの生存への道に一筋の光が差し込む。
だが、そんなうまい話は決してない。
『…条件とかあるよな。大量の魔力をその身に宿すことが条件とか、稀なユニークスキル持ちだったり…他には希少なアイテムが必要とか、生まれ変わりを可能にする魔法とか何か…』
「いえ、特にそういった厳しい条件はありません。」
その不安を一気に吹き飛ばす勢いで、ラーヴァリアはアルフの質問に答える。
「生まれ変わりを行うためには、生まれ変わることのできる高位の種族の血液を一定量その身に取り込み、その種族の者と契約を交わすだけです。」
高位の種族…。
バファルメイドという種族は魔族の中でもかなり高位の存在らしく、悪魔の王であるサディアンに唯一仕えることができるというかなりやばい種族らしい。
「わたくしは人間の身からバファルメイドへと生まれ変わった身のため、最初からサディアン様に仕えるには技術も身のこなし、そして強さや経験が圧倒的に足りないため、サディアン様の古き友人である旦那様の元に修行も兼ねて身を置かせていただいております。」
『もはや我が娘同然の可愛いラーヴァリアをあのバカに返すつもりはないがな!』
『そうです。ラーヴァリアはずっと私たちのためにその身を挺して尽くしてくれました。ならば私たちは愛情を持ってその恩義を返すまで。もはや今では私たちの娘同然です!今更ラーヴァリアを返せと言われても決して返しません!』
「旦那様…奥様…」
2人からの言葉を受けて、その眼に涙を浮かべて静かに喜ぶラーヴァリアをアダントとエフィは顔を寄せて頬で擦るように自らの気持ちを伝える。
(いやいや、悪魔の王だっけ?それと古い友人関係を結ぶ父様と母様って一体…)
その微笑ましい光景にアンジュたちは感動する中、たった一匹だけ苦悩の表情を浮かべるアルフ。
―家族が多い事は賑やかでいいもんだぜ?
アルフの影からひょっこり顔を出す白い闇。
(ラーヴァリアが娘同然なら…姉として今後慕うべきなのかな…。)
―まあそこは俺様の自由にすればいいんじゃねえか? まあ姉って言われたらきっと嬉しがるだろうけどな。
(はあ…俺が知らないだけで他にどれほど家族が居るのやら…。)




