重ねた影
時刻 "11:45"
「ぬぅああっ!」
『くぅぅうう…っ!』
ウルティアはアンジュへ向けて武器を振りかぶる。
強烈な一撃を両手で受け止め、そのまま力任せに弾き返す。
弾き返された影響か、ウルティアは大きくよろめく。
「そこぉぉおおおっ!!」
そのチャンスをラーナは逃すはずはなく、一気に懐まで潜り込むとそのまま体を回転させながら両手で握った2対のダガーで一気に切り付ける。
だが最初の一振りの時点で右腕を掴まれる。
「これでもダメなのぉ!?」
「ぬぅうんっ!」
ウルティアは掴んだ腕をそのまま力任せに投げた。
ラーナは何もできずにそのまま吹き飛んでいき、場外に貼られていたエネラの蜘蛛の巣に突っ込んだ。
蜘蛛の巣は大きく伸びていき、そのまま伸びきると元に戻ろうと一気に縮んでいく。
蜘蛛の巣が元の大きさに戻っている頃、巣に引っ掛かっていたラーナは目を回し、戦意喪失していた。
「うにゅうぅぅ…。」
『ラーナちゃあん!』
「あちゃー…。」
そこからユリアたちは多少ばかりと粘っていた。
だが、アンジュはウルティアの一撃を受けると同時にスキルの効果時間が切れ、次の一撃を受け止めきれずにそのままラーナの隣に貼ってある蜘蛛の巣まで吹き飛ばされ、そのまま気を失う。
『うにゃあぁぁ…。』
「アンジュまで…、あー。」
とアンジュの方から視線を前に戻すと、ウルティアがすでにユリアに向けて攻撃を繰り出していたところだった。
ユリアは完全に引き攣った笑顔を浮かべたまま、ラーナとは反対側に貼られている蜘蛛の巣まで吹き飛ばされた。
「うへぇ……」
「…。」
3人は場外に貼られていた蜘蛛の巣まで吹き飛ばされたところで、無事ウルティアとの実戦演習は終了したようだった。
エネラは御腹に乗せたルイシャをアルフに託し、壁を伝ってラーナたちの引っかかっている蜘蛛の巣まで移動すると、そのまま蜘蛛の巣事ラーナを糸で包むとゆっくりと下へ降ろした。
下ろした3人につながっている糸を切ると、糸でくるんだ状態のまま別室へ移動させた。
どうやらあの蜘蛛の巣には自然回復効果と傷を治癒する能力が付与されているようだ。
『さて、ルイシャからみてこの戦いはどのように見えたかな?』
『…えと、よく、わからなかった、です。で、でも…』
『でも?』
『あの…、ウルティアさんの、動きは、見ていて、とても、不自然に、見えました…。』
戦闘初心者であるルイシャでさえ、ウルティアの動きに違和感を覚えているようだった。
それほどまでにウルティアの動きは、今のウルティアは非常にまずい状況だったのだ。
今のウルティアの動きは、まさにミノタナトスの影を追いかけ、見失い、路頭に迷っている迷子そのものだった。
ミノタナトスの動きを真似ようとし、だが体がそれに馴染めず、拒否さえしているように見える。
ただ、ミノタナトスは防御をしていない。
そのためウルティア本来の動きが出ているせいか、無駄な動き一切なく、完璧な動作で防御に徹することができていた。
『わ、私…、へんなこと、言っちゃい、ました…、ごめん、なさい…!』
『いや、ルイシャのいう事は正しい。だから胸を張れ。それじゃあ部屋に戻ろうか。』
『はい…!』
背中に乗るルイシャに余計な振動を与えぬよう、歩く際には最小限注意し、ルイシャの部屋へと向かっていく。
そのままベッドの上まで乗りあげ、優しくベッドに横たわらせる。
『本日、は…、ありがとう、ございました…。』
『気にするな。いつもここに寝たきりじゃ体に毒だろうからな。ああいった気分転換は必要だ。』
『…なら、また…外に、出ても…いい、でしょうか…?』
『遠慮するな。体調が優れている時には外にでも散歩に行こう。』
『…は、はい…!』
嬉しそうに返答を返すルイシャ。
どうやら今回の事がとても楽しかったらしい。
随分とはしゃいだようで、横になった途端すぐに可愛らしい寝息を立て始めた。
毛布を口に咥えると、ベッドで寝息を立てて眠るルイシャの肩まで掛け、静かに部屋を出る。
外では自ら手にしている武器を見つめているウルティアの姿があった。
様子から察するに、ウルティア自身でも違和感を感じている様だった。
アルフは意を決し、ウルティアの所までやってきた。
近づいてきたアルフに気付き、武器を収めて膝を付き、頭を下げる。
アルフは、"そんなことしなくてもいいよ。いつも通りで頼む!"と慌ててウルティアへ告げると、ウルティアは顔を上げた。
「どうしたのだ、若殿?」
『さっきのユリアたちとの戦いについてだ。多分、ウルティア自身も感じてると思う。』
「…やはり、そう思うか?」
"あの戦闘に関して一切縁のないルイシャでさえ違和感を感じるほどだぞ"と苦笑じみてウルティアに告げる。
ウルティアも"ははっ…"と小さく笑い、次にため息を付いて収めた武器を取り出す。
「この武器の使い手はあのミノタナトスだ。だからこそ、アダント様より賜ったこの武器をうまく扱いこなすためにあの動きを真似てみたのだが…どうにもうまくいかぬようでな。」
『あの武器を使いこなすためには、すでに使いこなしていたミノタナトスの動きを真似ているってことか?』
「そんなところだ。実際、我が使いこなしていた武器は自らの角だったからな。こうして初めて武器を手にし、どう扱えばいいのかわからぬのだ。」
近くに見本を見せてくれる指導者もいないわけだし、当たり前の理由だった。
そう、全てから逃げ、ゲームにのめり込む様になって、強くなろうと1人で足掻こうとしていた頃の自分だ。
協力してくれる友も、知人も、あても何も居ない。
だから様々な動画サイトや実際の上位プレイヤーの動きを見て、それを真似てその強さに肖ろうと無我夢中になっていた頃の自分だ。
結果、酷い失敗をした。
ものすごく、取り返しのつかない失敗をしたのだ。
だがその失敗があったからこそ、ソロ専、最強プレイヤーの一匹狼"マーヴェリック"は生まれた。
でも、それでもウルティアには、そんな思いをしてほしくない。
――んじゃあお前が、ウルティアを指導すればいいじゃねえか。
突然聞こえてきた不愉快な声。
"んなことは言っても、今の俺は狼だ。そんな俺に、今のウルティアに何をしてやれる?"
と白き闇へ問いかけると、アルフの背後から突如として白き闇が現れた。
そして、現れると同時にアルフとウルティアの2匹"ふたり"へ、
「んじゃあ、俺が指導してやんよ!イーヒヒヒヒ!」
爆弾発言を言い放った。
特になし




