模擬戦
時刻 "10:00"
「おお…これが、話で聞いた…!」
「なんて、悍ましい姿なの…!?」
"なんて醜い…"、"恐ろしい…"、"ひぃっ…"
と白ローブたちでも動揺が広がっており、あまりの恐怖に腰を抜かして尻餅を付いた者がいるほどだった。
ただし、これは見た目を変化させただけであって能力…、つまり侵蝕汚染等の影響は一切ない。
その上でこの狼狽え様、それほどまでにこの容姿はこの世界の彼らにとっては酷く悍ましいものだったのだろう。
もし本物のカービス・ベヘモスと出会ったら、ここにいる彼らは目も当てられないくらいあっさりやられるんだろうなぁと苦笑を浮かべていると、白き闇もアルフと同じ気持ちなようで肩を静かに落としていた。
ただ、ラーヴァリアとアドゥレラはマジマジとカービス・ベヘモスの姿を観察していた。
特にアドゥレラは小さな飛行虫を複数飛ばし、様々な角度から姿を観察するほどだった。
「あの、アルフ殿。少しよろしいか?」
そんな中、アルフに問いかけてきたのはオードンだった。
『はい、どうしました領主様?』
「オードンと気軽に呼べ。して、今変化したソヤツとは戦えたりはするのか?」
「オードン様!?」
素っ頓狂な声を上げたのは、傍にいた鎧に身を包んだジュレアナだった。
片手を上げて、ジュレアナの追及を制止し、先ほどの問いの返答を望んでいるように再度アルフを見る。
アルフはそのまま白き闇の方を見ると、白き闇は首を傾げてこちらを見返していた。
「戦い、つぅよりは俺と戦ったまんましか再現できねぇぞ?」
「それだけではだめなのか?」
「アイツ、戦いながら戦闘に関する成長がものっそい上がってるっぽくてよ。再現だけじゃ多分、意味がないと思うんだよ。」
「なに?戦いながら成長する、だと…?」
新たなる絶望に険しい表情を浮かべているオードン。
―……戦い………動き……戦………変………。
突然脳裏に響く子供の声。
辺りを見回しても、その声が聞こえた者はアルフだけのようだった。
その声と連なり、カービスに関する情報が微かに脳裏に浮かんでくる。
"今の子供の声は一体…"
「それはお前の古い記憶の一部だろ。俺の持つ記憶って言っても全部じゃないからな。お前と同化したことによって、封印された記憶が徐々に蘇ってくるんだろうさ。」
"なるほどな…。それじゃあカービスの動きは俺が今イメージしたのってお前の方にも伝わってたりは…"
「もちろん、伝わってるよ。しっかし、こりゃあ…。」
と脳内で白き闇とちょっとした会議を行っていた。
ある程度結論が出た所でオードンの方へと向き直る。
「すまん、たぶんなんとかなりそうだわ。」
「…なに、本当か? しかしどうして…」
「まあまあそんなことはどうだっていいじゃねえか。んで、どうするよ?」
と少々煽るようにオードンに返答を急かす白き闇。
多分、あまり詮索されないように白き闇なりの取り計らいなのだろう。
少々呻った後、オードンは静かに頷いた。
「…うむ、では頼もう。」
「だが、おっさんが相手するのか?」
「いや、私がしますわ。」
そういって隣に居たジュレアナが前に出る。
オードンももとよりそのつもりだったらしく、ジュレアナに横眼で目線を送る。
ジュレアナも兜越しに目線を受け取り、静かに頷いた。
白き闇はそのまま後方へと距離を取り、準備はいつでも万端だと言わんばかりに地面を前足で叩く。
ジュレアナも腰に携えていたレイピアを静かに抜き放つと、凛々しく構える。
その立ち姿は様になっており、静かに放つ殺気に肌がピリピリと刺激する。
「んじゃあ、侵蝕汚染はさすがに再現できねえがそれっぽい状態にしてやるよ」
と白き闇が言い放つと、突然強大な重圧がのしかかってきた。
また、白き闇の方を見ると体中をピリピリした麻痺に襲われる。
ジュレアナも同じ状況なのか、先ほどまでの凛々しい立ち姿から一変、若干な乱れが生じていた。
だがそれでもそこまでひどい乱れではないため、さすがと褒めるところなのだろう。
「とまぁ、こんな感じだな。んじゃあ、いくぞ?」
「は、い…! いつ、でも…!」
ジュレアナの返答を聞いて、白き闇…基カービス・ベヘモスは一気に飛び上がった。
飛び上がったのを見て、ジュレアナも様子見とカービス・ベヘモスと距離を取ろうとした。
だが、飛んでいる途中で手顎が開き、無数の手がジュレアナ目がけて飛んでくる。
アルフも見た、カービス・ベヘモスの動きそのままだった。
ジュレアナはこちら目がけてくる手目がけて連続した突きによる衝撃波を飛ばして落としていく。
「触るとアウトってのも十分わかってるな!」
「もちろ、ん…ですわ…!」
そう、見るのもデバフ、見られるのもデバフ、また近くに居るだけでもデバフ。
それだけでもきついのに、カービス・ベヘモスに触れたり、触れられたりするだけでもデバフという4重デバフ持ちなのだ。
そのため、カービス・ベヘモスに変化した白き闇も、触れた際のデバフを用意していたらしい。
ジュレアナは先日の会議でアルフが話したことと、基本戦法として極力接近戦は避ける様にしていた。
"そのための剣撃による衝撃波、ってわけか。しかも突きによる衝撃波だから貫通力がありそうだ。"
正確にジュレアナ目掛けてくる手を落としていく。
カービス・ベヘモスはジュレアナへ手を伸ばしながら飛び掛かり、一気に距離を詰めていく。
最初こそ落とし切れていたが、徐々に押され始めてきた。
ジュレアナもそれを感じていたのか、剣撃波で落としながら空いた手で静かに魔法を溜めていた。
≪我、望むは鋭さなり。全てを貫く、無数の槍を、今ここに!≫
「 " 百 花 槍 乱 "〈フラウ・ドレ・ランツ・レード〉!!」
突き放たれた手から光の玉が弾け、ジュレアナの後方から無数の槍が出現し、無数の手を薙ぎ払いながらカービス・ベヘモスへと向けて突貫していく。
突貫してきた魔法の槍を無数の手で抑え込んでいくが、そのいくつかがすり抜け、カービス・ベヘモスの体を貫いていく。
これで少しは差が付いたと思ったが、一切微動だにせずにジュレアナへと飛び掛かっていく。
そんなことはある程度予想していたのか、咄嗟にとびかかってきたカービス・ベヘモスにも反応していく。
身体を翻して飛び掛かりを回避し、そのまま地面に向けて拳を叩き込むと同時に詠唱を言い放つ。
≪我、求むは力なり。俊敏な獣の如く、風を駆け抜ける力をこの身に宿せ!≫
「 " 風 獣 な り し 同 化 "〈ビオ・ウィル・ザ・フェイド〉!!」
まるで鎧の様に風を身体に纏い始めた。
カービス・ベヘモスはジュレアナに向けて次々と手を伸ばしていく。
身軽になったジュレアナは、軽快なステップで次々と交わしながら正確に手を落としていく。
一瞬の隙を突いてカービス・ベヘモスへ剣撃破を飛ばし、体を貫いた。
身体が貫かれたのにも関わらず、ジュレアナを攻撃する手は一切緩むことはない。
それどころか徐々にその手は増えていく。
最初こそ互角に戦い合えていたジュレアナだったが、未だに緩まない攻撃の手に焦りを感じ始めたのか、今までに正確な攻撃に少しばかりミスが生じ、伸びてきた手を落とし損じてしまう。
カービス・ベヘモスはその隙を逃すはずはなく、そのままジュレアナを思いっきり殴り飛ばした。
ジュレアナの体は宙に浮かび、そのまま後方にあった岩へ叩き付けられる。
また殴られた際に触れてしまった兜は触れられたところから溶け始めていた。
ジュレアナは急いで被っていた兜を脱ぎ捨てる。
その兜の中から現れたドリルにカールした金髪、藍色の瞳、凛とした顔立ち。
そして、左目から頬に掛けての傷跡が目に映る。
その藍色の目からは恐怖が混じった怒りのような感情が取れる。
「くぅ…っ!」
「ほらほら、休んでる暇はねぇぞ!」
と休む暇なく、手が伸びていく。
ジュレアナは軽い身のこなしですぐさま体勢を立て直し、その場から一気に距離を取る。
先ほどまでジュレアナがいた場所に次々と手が突き刺さっていく。
が、すぐに標的を再度捉え、無数の手が伸びていく。
後方へステップしながら剣撃破を放ち、次々と手を撃ち落としていく。
撃ち落としながら幾度かカービス・ベヘモス本体へ向けて強力な剣撃破を突き放ち、それらは幾度なく体を貫いていく。
だが、貫いたはずなのにそんなダメージを受けた様子さえ一切見せずに手を伸ばしていく。
「なんで、私の攻撃、が…効いて、いないん…ですの…!」
ついジュレアナの口から不満に近い弱音が零れ落ちる。
そんな言葉を聞いて、カービス・ベヘモスはほんの一瞬だけ、攻撃の手が緩んだ。
これはチャンスとばかり、レイピアの刀身に指で触れる。
≪我、望むは鋭さなり。あらゆるものを貫く強力な鋭突を!≫
「 " 剛 撃 槍 破 "〈ランス・ド・ウェル・ハウ〉!!」
レイピアの刀身が薄い光を放ち、そのまま流れるような動きでレイピアを突き出す。
纏っていた光がよりいっそう光り、突き出されると同時にまるでビームのように解き放たれ、無数の手ごとカービス・ベヘモスの体を貫いていた。
これはさすがに効いたのだろうと一瞬、ジュレアナの表情に笑みが浮かぶ。
だがすぐにそれは絶望に変わった。
「な、なんで…、」
だがカービス・ベヘモスはあの攻撃を受けても微動だにせず、余裕の動きを見せていた。
「いったろ、カービス・ベヘモスは戦いながら成長するってよ。まあさすがに、相手の攻撃に合わせて身体を変異させ、回避する。なんて考え付かなかったか?」
そう、カービス・ベヘモスの体を貫いていたであろう場所は、重なり合った手が隙間を作り、攻撃を素通りさせていただけだった。
「そん、な…」
「おっと、この程度でがっくりしてんなよ、っと。」
と一瞬の油断に付け込まれ、無数の手が次々とジュレアナに伸び、そのまま手、足、体と掴み、そのまま地面へ押し倒した。
その上から次々に手がジュレアナ目がけて叩き込まれ、全身が手で抑え込まれる。
徐々に溶けていく鎧。そしてゆっくりと近づいてくるカービス・ベヘモスにジュレアナの表情は絶望に染まっており、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
そして顔前まで迫り、ゆっくりと上の手顎が開かれ、そのままジュレアナの頭を飲み込もうとしたところで、
「とまぁ、こんな感じだな。お疲れさん。」
とカービス・ベヘモスの動きが止まった。
特になし




