呼び出し
時刻 "8:30"
あれから幾分か時が過ぎ、アルフたちはエネラのいる広場まで戻ってきていた。
帰ってきたアルフたちを見て、いつもの優しい笑みを浮かべて出迎える。
朝食の支度をし始め、ユリアと後から起きてきたラーナはその手伝いをし始める。
残されたアンジュとアルフはルイシャの様子を見に部屋に訪れていた。
部屋に入るとルイシャはすでに起きており、身体を起こして窓の方を向いていた。
その表情はとても暗く、悲しみを感じさせるほど曇っていた。
だが、部屋に入ってきたアルフに気付くと先ほどの表情から変わってパァーっと明るくなった。
『おはよう、ルイシャ。体の具合はどうだ?』
『…だぃ…じょ…ぶ…』
『そうか、だがもし辛くなったら無理しないですぐに言うんだぞ。』
『…は…ぃ…』
未だにうまく思念話術は扱えていないが、最初よりかは大分マシになった方だ。
それから多少の談笑を交えつつ、時間を潰していると部屋の中にエネラが食事を持って入ってきた。
食事とは言っても今のルイシャは固形物は飲み込めず、またちょっとした香辛料による刺激でも今の身体には厳しい。
また熱すぎても、冷たすぎても身体を傷つけてしまう恐れがある。
そのため、今のルイシャが食べることができるのは温くなったスープである。
ただのスープではあるがちゃんとした栄養を摂取するために様々な食材を細切れにし、十分に煮込んでいる。
エネラが何とかしておいしく食事をとってほしいと考案したものだ。
味も薄みではあるが、十分においしいと感じ取れる。
アルフもルイシャと同じものを頼んでいた。
ルイシャだけちゃんとしたものが食べれないんなら、同じものを食べて少しでも今のルイシャと同じ気持ちを共有しようとアルフが以前エネラとアンジュに話を持ち掛けたのだ。
それを聞いてアンジュもそれに賛同し、御飯を共にとれる際はルイシャの部屋でルイシャと同じものを口にすることになった。
最初こそルイシャは遠慮していたが、今では嬉しそうに共に食事をとってくれていた。
…まあ、狩りという名のレベリングを終えればスキルのためにその肉を喰らうため、そこまで意味はないのだが。
『御馳走様でした。』
『ふぁ~、おいしかった~!』
『…ご…ちそう…さ、ま…でし、た…。』
アルフたちの言葉の後に、エネラが部屋に入ってきた。
「はい、お粗末様でした。」
エネラは食べ終えた木の器を手に取り、重ねて一つにまとめ上げる。
そのまま部屋を出ると、残されたアルフたちはいつもの日課であるルイシャの思念話術の練習に入ろうとしたとき、入れ違いにラーナが部屋に入ってきた。
「アルフさま~、お客様だよ~。」
『…ん? こんな時間に誰だろう?すまないが、俺抜きでやっててくれ。』
『はーい。』
アルフはラーナと共に部屋を出るとそこにはラーヴァリアが凛とした立ち姿でアルフを待っていた。
「おはようございます、アルフ様。こんな朝早くに大変申し訳ございません。」
『おはよう、ラーヴァリアさん。そんなの、気にしなくていいよ。それで、今回はどうしたの?』
「はい、アルフ様の父君であるアダント様が御呼びになられております。」
『父様が?』
多分、昨晩行われた会議についての続きか何かだろう。
潔く了承し、また昨晩と同じようにラーヴァリアに抱き抱えられ、その場から一気に飛び立った。
またもやラーヴァリアの柔らかな膨らみに触れる半身に気まずさを感じながらも気が付けば我が家に到着していた。
そこにはアダントとエフィ、そして他にもオードンとジュレアナ、アドゥレラ、そして見慣れぬ白いローブを羽織った幾人かの姿もあった。
地面にゆっくりと降り立ったラーヴァリアの腕から、アルフはゆっくりと地面に降りる。
『おはようございます、父様、母様。』
『ああ、おはよう、アルフ。ゆっくりと休みは取れたか?』
『おはよう、アルちゃん。ちゃんと眠れたかしら?』
『はい、おかげさまで。して、私を呼んだ理由は昨晩の会議のことで、でしょうか?』
アダントは静かに頷く。
『察しが良くて助かるな。昨日に対峙したカービスに関しての情報があれだけでは足りないらしく、オードンの方で幾人かの魔術士たちを連れてきて、アルフの記憶を見せてほしい、とのことらしい。』
"ああ、そのための白ローブたちか。でも記憶、を見られるのはちと抵抗があるな…。"
と考えているとどこからか、あの不愉快な声が頭に響いてきた。
―なら俺に良い考えがあるが、どうするよ?
"ん? 俺の記憶を見せることなくオードンたちにカービスを見せることができるってことか?"
―おうよ。ま、ある意味俺としても賭けに近いもんだが。
まあ、記憶が見られないなら、と白き闇が出した提案を聞き始める。
『…アルちゃんが嫌なら別にいいのよ?』
突然無言になったアルフに心配の念を浮かべたのか、エフィが語り掛けてくる。
『ああ、違うんです。記憶を見せるよりも良い方法を思い浮かんだので。』
「ん、アルフ殿の記憶を覗かずともカービスに関しての情報を得る方法があるのか?」
『はい。もしよろしければ、ですが。』
「よい、記憶を見られるということは正直良い気持ちではないからな。して、どうするのだ?」
とオードンが問いかけると、アルフは静かに目を閉じ、白き闇をその場に呼び出した。
魔法陣さえ展開せずに、突如として現れた白いモヤモヤにアダントたちは一瞬驚きの様子を見せる。
白き闇の紹介を始めようとアルフは思念話術を使う瞬間、白き闇が勝手に語りだした。
「一同、初めまして。俺は…、あー、マーヴェリックってぇ名前だ。気軽にマーくんとでも呼んでくれ。」
「…して、そのマーくんを召喚した理由はなんだね?」
「俺があんたらの知りたがってるカービス・ベヘモスを見せてやるよ。」
そう、頭の中で白き闇が提案してきた案というのが、白き闇自身がカービス・ベヘモスへ姿を変異させるというもの。
なぜそんな発想に至ったのか、理由は一切話すことはなかった。
ただ、それができる、と白き闇はそう伝えた。
確証はないが、なぜかそれができると確信があった。
「見せる、とは。一体どうやって…」
とオードンの最期の言葉を待たずに白き闇はゆっくりとその体が変異し始める。
白いモヤモヤとした体から無数に生えてきた手の形をしたもの。
それらの手は次第に全身を覆い始める。
幾つにも重なり合った手がゆっくりと、あの姿を形作る。
白かった手は次第に暗い黒を帯びた紫に色が染まっていく
モノの1分も掛からず、あの時見たカービス・ベヘモスに完璧に変異した白き闇が姿を現した。
その姿を見て、アダントは顔を険しくし、エフィはうっすらと恐怖の表情を浮かべ、オードンとジュレアナは絶句し、ラーヴァリアとアドゥレラは自分たちさえも気が付かぬうちに後ろへ一歩下がった。
「これがあの時、俺と戦ったカービス・ベヘモスだ。」
特になし




