集会、その後…。
時刻 "1:30"
あれから会議はあまり進歩はしなかった。
特にカービス・ベヘモスに対する処置をどうするか、各々が色んな案を挙げるがこれといった有効打のある案は何一つなかった。
あれから3時間ぐらい経過し、結局次回の集会に持ち越しとなった。
それぞれ自分の住処へと帰路に付いていく。
その場に残されたアダントとエフィ、アルフとラーヴァリア、そしてアドゥレラの5名。
未だにカービス・ベヘモスに対する攻略法を話し合っていた。
アルフはカービス・ベヘモスに関する記憶を再度思い出していた。
そこでふと、背筋が凍る予想が脳裏に思い浮かんだ。
『だがその方法だと…』
『父様。』
『危険だと…、ん?どうした、アルフ。』
『一つ、どうしても伝えないといけないことができたんだけれど…』
『…なんだ、我に伝えないといけないことと言いつつ、歯切れの悪い。はっきり言ってみるがよい。』
『そうよ、アルちゃん。こういう時ははっきり言うものよ!』
数秒躊躇った後、意を決して言うことにした。
『…じゃあ。まず、あのカービス・ベヘモスは、父様が見たあの姿になる前はただの塊のような何かだった。だけどアイツはディアプニルの死骸を喰ってその姿を変えたんだ。もしかしたら、喰らった種族によってその姿を変えるんじゃないかと俺は予想してる。つまり、強くてやばい種族の死骸でも喰ったら…』
「その種族に姿を変える、ということですか。」
「そんな馬鹿な話が…いや、でもないとも言い切れない…。」
アルフが語った0ではない最悪な可能性。
ラーヴァリアとアドゥレラは戦意を失いかけ、アダントとエフィは押し黙った。
この世界にどのような種族がどれぐらいいるのか、アルフはわかっていない。
だからどの種族が喰われたらやばいことになるのか、一番としてはドラゴン系だろう。
カービス・ベヘモス、という名前も"・"に区切られているところもこの予想を確信に近づけている要因の一つだった。
本来、ベヘモス、という名前はベヒモスという旧約聖書』に登場する陸の怪物の別の言い名で、様々なゲームにおいて"獣の王"というイメージの元作られているところが多い。
つまり鳥獣種であるディアプニルを喰らい、獣の王であるベヒモス…基ベヘモスの名を冠している。
本来の名は"カービス"で、その"・"の後に喰らった種族を意味するものが続く。
そこまでアルフは予想した。
もしかしたら、これは単なる世迷言なのかもしれない。
だが、その可能性が0である根拠もない。
不安と恐怖に皆が静寂を口にしている中、アダントはゆっくりと口を開いた。
『我が攻撃と、ラーヴァリアの攻撃により奴は消滅した。色々と危険なリスクはあるが、倒せないわけではない。今はそれだけ分かれば良い。奴の名は、アルフが示した"カービス"と命名する。それらしい姿を見かけた場合は一人で対処せず、すぐに全域にその存在を知らせる事。では本日はこれにて解散!』
アダントが簡潔に議題を〆た。
それを聞いて各々頷いた後、アドゥレラたちも自分のエリアへと帰っていく。
ラーヴァリアも帰ろうと翼を広げた時、エフィに呼び止められた。
『ラーヴァリア、少しいいかしら?』
「はい、エフィ様。いかがなさいましたか?」
『この事をシェラディちゃんにも伝えてもらいたいの。』
「かしこまりました。」
ラーヴァリアは静かに頷いた後、向かおうとしていた方面とは少し違う方へ翼を広げて飛んでいく。
ラーヴァリアが向かっていった方が、ここに来ることができなかったシェラディという上位者の住処なのだろう。
彼女の姿が見えなくなったところで、アダントが声をかけてきた。
『まだ休養中なのにこんな時間まですまぬな、アルフよ。気分はどうだ?』
『問題ないよ、父様。それじゃあ俺はエネラ先生の所に戻るよ。』
『わかった。エフィ、アルフを賢者様の所まで連れて行ってくれ。』
『は~い。貴方はどうするの?』
『再度、この辺りを見て回ってくるつもりだ。』
『なら、アルちゃんを送り届けてから合流するわ。』
エフィに咥えられ、数分のうちに蜘蛛の間へとたどり着いた。
アルフの頬を軽く舐めた後、すぐさまアダントの元に戻っていく。
ゆっくりと自分が寝ていた部屋へと向かっていくとき、部屋からユリアが出てきた。
ユリアもこちらに向かって歩いてくるアルフの姿を見つけ、表情が柔らかくなる。
「アルフくん…。」
『目が覚めてしまったのか。』
「うん…。」
『…なら、少しこの辺りでも一緒に歩くか。』
「え?あ、アルフくんは大丈夫なの?」
『ああ。誰かと話すことも精神汚染を回復させる手段だと先生は言っていたからな。』
「そうなんだ…。」
ユリアの歩く速度に合わせ、1人と1匹はそのまま蜘蛛の間を出て歩いていく。
木々に生えたキノコが発する淡い光に包まれ、会話もないまま広けた所に出た。
「ここって…」
『お前たちと出会った場所だな。』
意図してきたのかどうか定かではないが、初めてアルフとユリアたちが出会ったあの広場に来ていた。
生々しい戦闘の傷痕が所々にそのまま残っているため、景観はさほどいいとは言えなかった。
近くの切り株にユリアは腰を落とし、その隣にアルフは伏せた。
『…ユリアよ、何を悩んでるんだ?』
「ふぇ? あ、いや…その…、なんとも言えないんだ。ただ、私このままじゃダメだと思う…。」
『勇者として、か?』
「う、うん…。」
やはりユリアは勇者であることに悩みをもっていた。
「勇者の癖に私はそれほど強くないし、さっきのアレだって見られただけで私…」
そこでユリアは何かを言いかけて口籠った。
確かにユリアは勇者としてそれほど強さは感じられない。
『焦る必要はない。最初から強い奴なんざ誰一人としていない。俺だって何度も死にかけたよ。ほんと文字通り。少しでも間違えれば簡単にこの命散らしてしまうぐらいに。でも、死にかけても俺は生き残った。生き残り、学んでそれを次に生かす。小さな積み重ねがあったから今の俺がいるんだ。』
それは今のアルフだけではなく、前世の人間だったころの自分も重ねていた。
アルフの言葉を聞いて、ユリアは静かに目を閉じる。
「………み…ぃ…。」
一瞬、ユリアは何を呟く。
だがあまりにも小さすぎてアルフは聞き取れなかった。
『ん?何か言ったか?』
「ううん、何でもない! ほんと、落ち込むなんて私らしくない! 頑張るね、私!」
『無理しない程度にな。』
「ブフッ!」
突然ユリアは吹いた。
先ほどの返答のどこに笑いのツボがあったのか、アルフは理解できなかった。
『何か変な事言ったか?』
「え?いや、違うの。ごめん、何でもないんだ。大丈夫!」
『そ、そうか。』
えへへと苦笑いを浮かべながら、気持ちを取り直し、ゆっくりと顔を上げる。
空に浮かぶ紅と蒼の双月が、辺り一帯を優しく照らし出す。
月明かりに照らされ、ユリアの横顔が妖艶さを醸し出しており、アルフは一瞬その横顔に見惚れていた。
アルフに見られていることに気付いたのか、ユリアは不思議そうにアルフの方を向く。
「どしたの?」
『あ、いや。何でもない。そ、それよりも…。』
慌てて目線を反らし、口籠りながらどもる。
ふと、ユリアが見ていた双月を見て、アルフも顔を上げる。
夜空に映える双月を見て、つい感激の言葉が口から零れた。
『…双月が綺麗だな』
「ブフッ!」
それを聞いて、ユリアはまた吹いた。
なし




