一つの変化
時刻 "15:40"
気が付くとあの空間にアルフは立っていた。
そして聞こえてくるあの不気味な声。
「よぉ~、待ってたぜぇ?」
後ろを振り向くと真っ暗な空間が広がっている中、不自然なほどまでに佇む白い人影。
両目に当たる部分は黒い穴のようなモノが存在し、口のように見える広がる黒い三日月。
不愉快極まりない話し方でこちらの感情を逆撫でするようにニタニタとした笑いを挟んでくる。
『…俺はお前なんか待っていないんだが。』
「そういうなよぉ、It my me~。」
それは少し文法がおかしくないか?なんていう突っ込みをギリギリ抑え込む。
『どうして俺はここにいるんだ? 寝ていた記憶がない。』
「どうして…って、おめぇ覚えてねぇのかよ?」
『確か俺はルイシャたちと一緒に思念話術の特訓をしていたはずだが…』
すると突然ケタケタ笑い出す目の前の白い人影。
どうしてそこまで笑い出すのか、アルフは理解に苦しむように眉をしかめる。
一通り笑った後、一息付くように白いモヤが大きく揺れる。
「いやぁ、俺だってあそこまでやるつもりなんざなかったんだぜ? 少しずつ俺との均衡が崩れる中でよ、俺の持つ記憶が一気にお前に戻って廃人みたいにならんよう気を付けてたんだが…、まさかいきなりあんな記憶を引き当てるたぁつくづく笑えて来るってもんだぜぇ、ぎゃははははははは!!」
『お前の持つ記憶だと?』
「以前言っただろ? てめぇは俺にわる~い記憶を全部押し付けて、幸せだった記憶だけを持って自ら意識の奥に引っ込んだってよぉ。まあ俺がそう持ち掛けたわけだがね、ぎゃははは!」
なのにその記憶の一部が俺の中に流れた。
つまりそれは…
『つまりお前は俺と一つになろうとしているわけか?』
「んあ?そうに決まってんだろ。元々俺たちは一つだったわけだし、まあ今は何故かこうして分かれちまってるけどな!」
『俺たちが元々一つ…だと? 一体…』
「おぉ~っと、そろそろ時間みたいだぜぇ? まあここでの記憶と起きた時の記憶さえも分かれてるみたいだから起きたらここで俺との会話なんざ綺麗さっぱり消えてるからそう気にすんなって。」
" ん じ ゃ 、 頑 張 れ よ ? "
最後にそう言い残し、目の前が真っ白に染まっていく。
ゆっくりとその重い瞼を開けると、最初に映り込んだのは目に涙を溜め、静かに寝息を立てて眠るアンジュの姿だった。
ゆっくりと立ち上がろうとしたが、前足がアンジュの手で掴まれていることに気付きく。
身体を起こすのをやめ、頭だけ起こすと丁度部屋にエネラが入ってきた。
意識を戻したアルフに気付き、エネラは安堵したため息を付く。
「もう大丈夫なのですか?」
『…すまない、俺はどれくらい寝ていたんだ?』
「半時です。それほど時間は経っていませんよ。」
そっと俺の前に水が入った器が置かれた。
頭をゆっくりと下げ、水の入った器に口を持っていくと、舌を使って水を掬い上げて飲んでいく。
全ての水を飲み干し、空になった器の底を軽く舐めて肺に溜まった息をゆっくりと吐きだした。
身体を縛っていた緊張のようなものが解れ、先ほどよりも気が楽になっていた。
エネラは空になった器を手に取り、
「とりあえずそのまま夕食までゆっくりしてくださいね。」
とアルフに伝え、部屋を出ていった。
辺りを見回すと、改めてここはルイシャの居る部屋ではないことを知った。
あの後、エネラがすぐさま部屋を移してここで看病してくれていたのだろう。
未だに前足を掴んだまま眠っているアンジュを見る。
"…こうしてみると、可愛らしいテディベアみたいで可愛いよな。"
アルフはアンジュに掴まれていない方の前足で、アンジュの目に溜まっている涙を拭おうとするが直前でアンジュが小さく呻き、目を覚ました。
『…ぁ』
『起こしたか?』
『起きたら起こしてくれてもいいじゃない、お兄様…。』
『寝ている者を無理に起こすほど酷な行為はないぞ?』
『もう…! それよりお兄様、もうお体は大丈夫なの?』
『元より体は丈夫な方だ。』
『でもお兄様、最近無茶な戦闘ばかりしてたから…』
今思い返せば確かに自分のレベルとかけ離れた奴らと戦ってばっかりだったことを思い出した。
普通に考えれば明らかに無茶な行為である。
少しでもミスを犯せば簡単に死んでたりした戦闘も少なからずしていた。
それで今まで平気だったとしても突然、後からその時の反動が帰ってきてもおかしくはない。
ボーナスポイントも上限値まで溜まってるし、倍増ボーナスも後1回だから手軽な鳥獣種を倒せばいいか。
『…そうだったな。だがもう俺は大丈夫だよ。』
『お兄様がそういうなら…。』
とはいえ、夕食まで時間はかなりある。
それまで何もせずにじっとしているのももどかしい。
『夕食までじっとしていろとエネラ先生には言われたが…』
『…そんなのできないんでしょ、お兄様は。』
『わかってるじゃないか。手軽な鳥獣種を探して狩りを行おう。』
『さっきの話を聞いてたの…?』
アンジュがため息を付きながらアルフに問う。
『ああ。だから手軽な奴を探して狩るんだ。その1体だけでいいんだ。』
『…もう、わかったわよ。夕食までには終わるだろうし、あたしも付いていくわ。これ以上お兄様が無茶しないよう監視しないと。』
『おう、そんじゃ行くか。』
アルフとアンジュはゆっくりと立ち上がり、部屋を出るとすぐそこでユリアとばったり会った。
「あ、アルフくん!」
『ん、ユリアか。』
「ユリアか、じゃないよー! 倒れたって聞いて心配したんだからね! でもその狩りに向かう気満々な様子じゃ大丈夫そうだね。」
『ユリアも一緒に行きましょ! お兄様がこれ以上無茶な戦闘をしないために監視するの!』
つくづく信用されてねぇなぁ…。なんて意味を込めたため息を付くアルフを余所にユリアは
「もちろん!」
なんて元気よく返事を返してアルフのPTに加わった。
1人と2匹はそのまま蜘蛛の間を抜け、手軽そうな鳥獣種を探しに辺りを見回す。
するとアルフの気配察知に1つの気配が引っかかる。
「何かいた?」
『そのようだ。様子を見にいこう。』
『はーい。』
アルフたちは物音を立てず、静かにその察知した気配の方へと向かう。
茂みから出て目の前に居たのは死んでいるディアプニルの肉を貪る一匹の見たこともない生物だった。
なし




