短いようで長い日
時刻 "4:00"
蜘蛛の間に向かうアルフたち。
アルフとアンジュはエネラの蜘蛛部分の御腹に乗せてもらいながら、移動していた。
道中、アンジュはアルフにヒールとリジェネを交互に掛け続けていたおかげか、ほぼ体力は満タンに近い。
ウルティアは蜘蛛の間に向かう前、ミノタナトスが使っていた異形の斧剣を取り、それを自らの得物として手に入れていた。
その横をディアプニル、その子がぴったりと寄り添うように歩いていく。
後もう少しで付くという所で、蜘蛛の間の入口に誰かの気配を察知した。
だがその気配は敵ではないとすぐにわかり、警戒を解く。
入口辺りが見えてきた辺りで1人の少女がこちらに気付き、手を振る。
「あ、みなさ~ん! おかえりなさ~い!」
ラーナの姿を見たちびディアプニルが勢いよく走っていき、ラーナに飛び込む。
抱きしめるように受け止め、頭を優しく摩る。
ちびディアプニルも嬉しそうに鳴き声を上げながら頭をラーナの胸にうずめる。
『ラーナ、もう傷は大丈夫なのか?』
「あ、はい! この蜘蛛さんたちのおかげですっかりと!」
「この子は一度治癒を終わらせた後、あの子を守るためにここに呼んで警護をお願いしておりました。」
「正直、黒蜘蛛さんたちだけでも良かったと今でも思うんだけどね~」
「あの子たちは戦闘専門ではありませんので、冒険者であるラーナ様の手が必要だったんですよ」
"まあ、その子のランクは低いけどな!"
「あれ、ちょっと今誰かが私に対して失礼なこと考えた感じが…」
一瞬冷や汗を流しながらも、アルフたちは何もない広い部屋へと入る。
その後に続いてアンジュ、ディアプニルとそのチビが入ってくる。
ウルティアは蜘蛛の間の入口で辺りを警戒してくれている。
ディアプニルとチビは疲れたのか、部屋に入って安堵し、その場に座り込んですぐ眠りに入った。
アルフも蜘蛛の糸で出来たクッションのような何かの上に寝かされ、エネラが詳しい診察へと入った。
色々と触ったり、御腹に耳を当てたり、手をかざしたりした後、ほっと安堵したようにため息を付く。
「ふぅ…もう大丈夫ですよ、若様。」
『そうか、ありがとうエネラ先生。』
『よかったぁ…お兄様、もうあんな危ないことしないでよ…!』
「そうですよ、若様。無茶はしないでと言ったはずなんですけどね…。でもまさかミノタナトスがいたなんて…」
確かに今まで見た生物たちの中であいつらは異質だった。
あのレベル、ランク、そしてあの殺意と醜い下衆な感情。
明らかにここでは不釣り合いな存在である。
どうしてあんな奴らがここに居たのか。どんな理由があってここに来たのか。
今アダントたちが各エリアを管理する上位者たちと共に原因を探っている。
でもこれといった原因はわかっていないようだった。
今はここに来た奴らを一匹残さず殲滅することに専念しているらしい。
以前までの平穏が戻るのも時間の問題とのこと。
となると、今の問題は…
『…ルイシャをどうするかだ。』
「アルフ様たちが保護したっていうあの女の子は確かミダ―孤児院の生き残りなんだっけ…」
『ああ、俺が助けに入ったときにはすでにあの子だけが生き残っていた。"気配察知"で周囲を確認したが、生のある気配はオゥクロプスたちを除いて他には誰一人いなかった。』
「…そっか。」
オゥクロプスに嬲られている最中に何とか助け出した孤児院の生き残りであるルイシャ。
両足は原型を留めていないほどまでに潰され、液体状にしたアロディーフの葉を飲まされ、喉、そして内臓の幾つかを溶かされ、瀕死状態となっていた。
何とか治療に成功するも、両足の切断、また声帯の消失、また幾つかの内臓の機能の大幅な低下という大きな傷跡を残す結果にアルフは悔しさを感じていた。
だが、それでもルイシャは生きている。生きて、笑顔をアルフへと向けてくれた。
『…。そういえば、ラーナ。依頼の方はどうなるんだ?』
「んー。多分失敗になると思う。依頼を出したのが孤児院のみんなと親しかった冒険者ギルドのギルドマスターさんなの。でも、ルイシャちゃんを残して院長や子供たち全員は死んじゃったから…。」
『…そうか。ギルドマスターさんも気の毒ってやつだな。』
「でも、ルイシャちゃんだけでも生き残ったことを喜ぶべきだと私は思うよ…。」
「…そうですね。ルイシャ様にとってとても悲しく辛い現実ではあります。でもそれを生きる糧にして、これから強く生きていってほしいものです。」
そういうとエネラはゆっくりと立ち上がる。
「今日はひとまずこのまま眠りましょう。もう時間は遅いですし、話はまた明日、皆さんが起きてからにしましょう。その時にはアダント様たちもいらっしゃると思いますから。」
『…そうだね。今は傷ついた体を休めよう。それで、エネラ先生は?』
「私はもう一度、ルイシャ様の容態を見てきます。一応容体は安定していますが、まだ予断は許さない状態ですから…。」
『なら俺もルイシャの傍に居よう。俺が傍に居た方が、ルイシャのためにもなるのだろう?』
『ならあたしもお兄様と一緒に行く。あたしの回復魔法があのルイシャって子の助けになれるならあたしはその為にこの力を使いたいの…』
「え、えぇ~と…じゃあ私は…」
「きゅい♪」
とラーナも何かを言う前に突然起きたチビが逃がさないとでも言わんばかりにその胸に飛び込む。
「ですよねぇ…。はあ、じゃあ私はこの子たちと一緒にいるね。」
観念したように苦笑いを浮かべ、甘えてくるチビの頭を優しく摩る。
そのまま再度眠りに入ったチビを見て、優しく微笑む。
『それじゃあおやすみ、ラーナ。』
「はい、おやすみなさい。」
こうしてその部屋を後にして、静かに眠るルイシャの元へと向かう。
部屋に入ると静かに寝息を立てて寝るルイシャの姿があった。
アルフはルイシャの右手がある位置に移動し、体を寝かせる。
アンジュは反対側の左手の位置に移動し、同じく体を寝かせた。
エネラは眠るルイシャの体に手をかざし、その手から白い光が浮かび上がる。
白い光はそのままエネラの手からルイシャの体へと移動し、光は消えた。
その後、エネラはルイシャに微笑むと、
「ではわたくしはこれで。お休みなさいませ、若様、アンジュ様。」
とだけ告げて部屋を出た。
部屋に残ったアルフとアンジュはその手に頬を触れさせ、そのまま瞼を閉じた。
――そして、長い一日が終わりを告げた。
特になし




