新たなる仲間
時刻 "3:40"
『大丈夫か、若!』
倒れ込むアルフを心配そうに声を掛けてきた黒い小さな兎、オルダス。
気が付くと周囲に濃い霧が張り巡らされていることに気が付いた。
『この、霧は…』
『私の能力よ、アルフ。あの銀狼が来たからもう大丈夫よ。』
『あの、銀狼…父様、ですか、母様…。』
霧の中から顔を出した銀狼のエフィ。
その背にはエネラが乗っており、アルフの所まで近づいてきた辺りでエフィの背から降りる。
急いでアルフたちの所まで近寄るとアルフの前でゆっくりとしゃがみ、怪我の具合を確かめる。
すでにヒールを掛けているアンジュからある程度の状況を聞き、ディアブロアとアルフの2体同時にヒールを掛ける。
話をしている最中に番いのディアプニルとその幼子が見えた。
番いとその幼子はディアブロアへと駆け寄ると、安堵したように互いの頬を頬擦りし始める。
その時、茂みの奥から何かが飛んで地面へ叩き付けられた。
よく見るとそれはグチャグチャに噛み砕かれたミノタナトスの死骸だった。
『あら、あなた。遅かったじゃない。』
『すまない、殺しただけじゃ気が済まなくてな…』
『ちゃんと私の分も残っているんですよね?』
『…すまない。ただ、この近くにオゥクロプスたちが幾匹か隠れているぞ』
『そいつらならオルダスが殺ったわよ…。』
よく考えれば、ディアブロアとミノタナトスの死闘の最中、残りの10体ほどのオゥクロプスたちは手を出してこなかった。
それどころか気が付けば気配すら消えていた。
ミノタナトス、そして他のオゥクロプスたちにも気付かないように、一匹一匹確実にオルダスが潰していっていた。
最後の一匹を潰し終えたとき、アルフたちがすでに危機的状況を迎えていたため、瞬時に茂みから飛び出し、ミノタナトスの胸に"2度蹴り"をかまして後方へ一気に吹き飛ばした。
もちろん、アダントが待ち構えていた方へ吹き飛ばし、後の始末をアダントに任せた。
結果、今まさにエフィがモグモグしている肉塊と化していた。
『はぁ…、私だけ不完全燃焼ね…。』
『ですが母様…、この霧は一体…』
「それは私が外に出るために必要な配慮なのです。」
その理由を口にしたのは他でもないエネラだった。
「私とオルダスは特別な理由でアダント様の庇護を受けております。オルダスは黒い兎とそこまで目立ちは致しませんが、わたくしは白きアラクネ。この森では些か目立ちすぎます。あの間ではわたくしの特殊な結界のため、その中に居れれば問題ないのですが…」
『つまり、この白い霧は…エネラさんの体の保護色、ということか…。』
「その通りです。この霧の中なら、わたくしがあの場から出たとしても誰にも見つかることはありません。」
"エネラ先生たちはどんな理由があってそこまで身を隠さなければいけないのか…"
「ごめんなさい、若様…。今、その理由についてはわたくしの口から教えられません。」
『…まあ、気にはなるけどそれだけだ。追求するつもりはないよ。』
「…ありがとうございます、若様。」
エネラは静かに目を瞑り、手を胸においてアルフに礼を述べる。
アダントは治癒魔法を受けているディアブロアの元へと近寄る。
そして、ディアブロアに深々と頭を下げる。
『ディアブロアよ、我が子らをその身を挺して守ってくれたこと、感謝する…。』
「グ、グォォ…」
『貴殿が居なければ、我が子らはこうして生き延びることはなかった…。心より、感謝する…!』
『そうです、ディアブロアさん。本当にありがとう…!』
アダントに続き、エフィまでディアブロアに感謝を述べ始めた。
明らかに戸惑いを隠せない様子のディアブロアを余所にアダントは言葉をつづける。
『…ディアブロアよ、先のミノタナトスとの闘い。オルダスの援護がなければ、貴殿は殺されていた。そう、貴殿はミノタナトスに実質敗北した。』
「…グゥゥ!」
そう、オルダスが割り込まなければそのまま異形の斧剣を振り下ろされ、首が斬り落とされていた。
その事実は変わらない。そのことに悔しさを込めた呻き声を上げる。
その声を聞いて、アダントは一歩足を踏み出す。
『お前たちディアブロアの限界は今の貴殿である。その限界を超えてみる気はないか?』
「グォォ…?」
『我ならば、限界を超える力を与えられよう。その身に感じる限界を超えるきっかけを与えられよう。』
「…」
ディアブロアはディアプニルと幼子に支えられながらゆっくりと立ち上がる。
だがディアブロアの眼には鋭い闘志を宿していた。
その眼を見たアダントはゆっくりと頷く。
『ならば、ディアブロア。これから貴殿の名は、"ウルティア"と改めよ。』
ディアブロアにウルティアと名を与えた瞬間、ディアブロアの体が白く光り始める。
全体を包み込み、その姿を変形していく。
四脚体型から二脚体型、つまり人に近い形へと姿を変え、三本だった角も新たに生え4本に戻った。
白い光が薄くなり、全容が見え始めた。
肩と腰から鎧のような甲殻、背骨を守る様に生えた細くなった背甲、その一部は鋭く鋭利に尖っている。
また胸を守る様に肋骨が突き出て覆っており、その隙間から硬質化した筋肉がはみ出ている。
隙間なくダークブラウンの体毛が覆っており、また頭からは長い体毛がまるで髪の毛のように靡いている。
アルフの目に映るウルティアは正に武士そのものだった。
『…これ、が…』
ウルティアから発せられた思念話術。
新たなる姿に戸惑うように何度も自らの手を眺めている。
アルフは生まれ変わったウルティアを"鋭い眼差し"で見る。
====================
Lv42
名前:ウルティア
種族:魔族種 ディアブシン族
ランク:A
====================
名前を与えられ、種族共に変わっていた。
種族は鳥獣種から魔族種に、ディアブロア族からディアブシン族と変わっていた。
またランクがDからAへと一気に格上げされている。
ここまで一気に変わるものなのか…。
"俺がアンジュに名前を授けた時はここまで変わらなかったんだが…。"
番いのディアプニルと幼子は姿を変えたウルティアを見て一瞬戸惑いの様子を見せた者の、すぐに近寄ってその頬でウルティアを撫で始める。
生まれ変わった夫を受け入れた妻と子に安堵のため息を吐いた後、2匹を抱き寄せる。
『そういえば、父様は今までどちらに?』
『我とエフィは共に"最古の知識を識る山"で起きた異変を解決しに向かったのだが…』
『この様子を見るからに、私たちを誘き出す陽動ってところかしらね。』
「ですが、彼らの目的は一体…。アダント様たちを"最古の知識を識る山"に誘き出した後、一体何を…」
『分からぬ…。だが我らを誘き出した後、ここで次々と我が同胞、仲間を大勢殺した。そして、我が子もだ…!!』
アダントのその言葉に怒りの感情が伝わってくる。
エフィの表情からもいつものあのほんわりとした雰囲気がなくなり、冷たい殺意が伝わってくる。
その時、頭上から黒い蜘蛛が1匹、エネラの元へと降りてくる。
その黒蜘蛛からエネラは何かを聞き、それをアダントたちへと伝える。
それを聞いたアダントは表情を変えることもなく、静かにため息を付いた。
『…わかった。目前の脅威は去った。我らは残りの残党を狩りに行くぞ。ウルティアよ、我が子ら連れて蜘蛛の間へと向かわせてくれ。』
『御意に…。』
「わたくしも一緒に行きます。まだ若様の怪我が治しきれておりませんので…」
『うむ。では我とエフィ、オルダスはこのまま各エリアの管理者と共に残党を狩れ。ウルティアは貴殿の番いである者らを含め、アルフとアンジュ、エネラを連れて蜘蛛の間まで安全に護送し避難せよ。』
アダントがそれぞれに指示を出し、了承の意を込めて頷いた後、全員が別れ、その場を後にした。
今後の展開のため、ウルティアの進化先の種族名を変更します。(2021/08/23)
ディア・ブ・ロード→ディアブシン




