嵐が起こる前の静寂
時刻 "2:20"
「な、なにを…馬鹿なこと、言ってるの…!! あんた、の能力水準…的に、無理、よ…!」
最初に叫んだのは瀕死状態のジャーニーだった。
きっと賢者である彼女は他人のステータスを見る魔法とか持っているのだろう。
なら、俺が銀狼だということもわかっているはず。
世間的に見て、銀狼は出会えば死とか好戦的イメージが持たれているような風潮がある。
その上で、俺を銀狼だとわかった上でなお、平然と接してくれたのだ。
ジャーニーは俺を少なくとも敵だと思っていない。
俺にとってはそれだけで助ける理由としては十分だった。
『今のお前たちを抱えた状態でそこの戦士が満足に立ち回ることは厳しい。』
「逆にワシが亜奴らを相手取って、足の速いお前さんが助けを呼びにいくという手が遥かに効率的ではないか?」
あの3人には劣るが、それでもそこそこの俊敏値を持ったアルフならそれほど時間もかからないうちに誰かに助けを求めに行くことはできるだろう。
だがそれはアルフにとっては選択できない策だった。
『俺は銀狼だ。助けを呼びに行っても怖がられるか逆に戦闘になりかねない。それに俺の知る恩師たちに助けを求めても、人間だから、と手を貸してくれない可能性もある。』
「そんなことを、言ったら…私らも、助けを呼ばずに…、そのまま逃げる、かもしれない、わよ…?」
「ジャーニー!」
瀕死状態で絶え絶えになりながらアルフへと返答する。
だがそれを良く思わなかったのか、勇者が声を上げる。
『逃げたなら、逃げたで構わない。囮である必要がなくなるわけだから俺としてもさっさと逃げればいいだけだしな』
正直、今述べた意見はアルフにとっては本音に近かった。
助けを呼びに行ったユリアたちがそのまま逃げてくれれば、待つ必要もなくその場から逃げ出せる。
ただアルフを見捨てて"逃げた"という確信が持てるまでは囮をし続けなければいけないわけだが。
『それに、オゥクロプスたちを相手取ってわかったことがある。アイツらの動きは単調だ。攻撃も大振りで躱しやすい。複雑な小技とかそういったことがない限りは俺にとっては相手ではない。ミノタナトスの動きを常に警戒しながら、オゥクロプスたちの攻撃の位置取りに気を付けて動けばさほど問題はないだろう。』
以前やっていたオンラインゲームの中に、何千という敵を相手に戦うモノがあった。
それは無双系ゲームに近いものではあったが、リアルな戦争を体現したゲームだった。
5つの国があり、そのどれかに傘下として入らなければいけない。
それぞれの国は対立しあい、領土を得るため戦争を行う、対人、つまりPvPに特化したRTS寄りの戦略シミュレーションゲームである。
そのゲームは最大50vs50という大規模PvPが売りで、またプレイヤーとは別にさらに50人ものNPCが加わり、単純計算で100vs100という、まるで本当に戦争をしているかのようなリアルな体験ができると、多くのゲーマーを魅了した。
またそれとは別で大いに引き込んだそのゲームの特徴として、自分が操作するキャラクターは一般兵士だということだ。
つまり囲まれれば成すすべなく敵に倒されるし、また自身のキャラクターも攻撃を1回でも喰らえば倒されてしまうほどあっけない。
また一度倒されてしまうと復活するまでかなりの時間を要することから、簡単には死ねない。
1人1人が呂布のように、主人公のように無双をするのではなく、仲間たちと協力し合って連携を取るゲームなのだ。
時にはボイスチャットで、時にはテキストチャットなどで互いの位置、作戦、戦況を報告し合って戦う。
だがそんなゲームでもどうしても炙れてしまうもの、どこのチームや連携が取れないプレイヤー。
いわゆる"はぐれ兵士"が存在する。
もちろん、連携など取れていないからあっけなく殺されてしまうため、味方に多大な迷惑をかけてしまうとのことで、どこかの分隊に入るか、やめてしまうかの2択しか道はない。
だが俺は"はぐれ兵士"として自ら所属した国に多大な貢献をし、また強大な大国へと導いた。
戦績は常にトップに君臨し、それはアルフ自身がそのゲームがサービス終了するその時まで続いていた。
NPCとは言ってもその戦術AIは高く、普通であれば2人以上と相手するだけでも簡単にやられてしまうほど強かった。
だがそれ以上に分隊を組んだ敵プレイヤーたちとの連携は手強く、無傷とまではいかないもののそれでもアルフはそんな相手に勝利し続けていた。
そして今の状況、これはまさにはぐれ兵士とNPCたちとの戦いに似ていた。
『それに、俺にはちょっとした策があるんだ。お前たちが助けを呼んでくるという案はあくまで失敗した時のために過ぎない。』
「…そうか。ではここは主に任せるぞ。…銀狼、主の名はなんという?」
『アルフだ。ここは俺に任せてさっさとそこの瀕死になってる魔女さんを安全な場所に避難させてくれバンダルド。』
「魔女、じゃないわ…! 私、は賢者よ…いたっ!」
「ジャーニー、興奮しないで! 治癒中の傷口が開いてしまいます!」
興奮気味に叫ぶジャーニーの頭をポーラのゲンコツが入る。
痛そうに頭を抱えているジャーニーの姿を見ると、本当に瀕死状態なのか疑問が沸いてくるが、至って本人は大まじめなのだ。
「アルフ、さん…」
『ユリア、だったか。また機会があれば会うこともあろう。それまで勇者らしく成長してみせろ。』
「…はい! また、また必ず…!」
バンダルドはミノタナトスたちを睨みつけながら、片手でジャーニーを抱き上げるとそのまま奥へと走っていく。
その後に続くようにポーラとユリアが続き、そしてアルフはたった1人その場に残された。
色々とイベントが多すぎて全然更新できないですね。
一応脳内では結構進んでいるんだけど、時間が足りませんw
<ミノタナトスの生態について>
ランク:B
鎖のような楔と、異形の骨を組み合わせて作られた武器を用いて戦う2本足で立つ牛型の魔族。
相手を嬲るような戦い方、常に相手の嫌がる状況に追い込みつつ、絶対に勝てない状況に陥れて絶望する表情を見ることが何よりも好きとされている。
その戦い方も独特で、左手に巻き付けている楔を投げつけ、動きを制限したところで右手に持つ武器で相手を切り付ける。
また楔によって相手を縛りそのまま投げたり、逆に武器を投げて地響きを起こして動きを制限させ、楔を投げて体を貫いたりと多種多様である。
そして奴の攻撃は何よりも楔やその手に持つ武器だけではなく、頭から生えた2本の角やその拳、その蹄もまた脅威であり、相手の攻撃を角で受け止めたり、その拳、蹄から繰り出される近接攻撃も大抵の冒険者を瀕死にまで持っていくほどの高い攻撃力を持つ。
冒険者ギルドではBランク指定のモンスターとされているが、Aランク指定に格上げしてもいいのではないかと議論されており、闘い方の残忍性を考慮して近々Aランクへと上げられる。
ギルドではミノタナトスとの戦いに挑む場合、Bランク指定のモンスターではあるがAランク以上の冒険者に対してのみクエストを開示しており、その攻略法としては常に最新の準備を持って、全力で挑むこと。
また基本的なセオリーの戦い方、相手に翻弄されない強い精神力を持って、決して油断せずに戦いに臨むようにされている。
特にこれといった弱点や攻略法もなくただただ基本に堅実に、相手の攻撃を盾持ちや近接で攻撃を防ぎ、遠距離攻撃で相手にダメージを与え、狙いが近接から遠距離に向いた隙をついて近接攻撃を繰り出す。
何一つ欠けることなく、またパーティーの連携も重要で一つでも損なわれた場合、パーティーの勝ち目はほぼなくなってしまう。




