絶望の足音
時刻 "2:15"
『…お前たちはここに何しに来たんだ? 人探しか?』
「そうそう。この近くにある町からね、依頼があったの。なんでも町はずれにある孤児院の子供たちと院長が森に出かけてから戻ってこないから探してきてほしいって。」
その時、ラーナの言葉を思い出した。
彼女もまた、町の依頼でこの森に探しに来ていた冒険者の1人でもある。
その時、ラーナはこんなことを言いかけていたな。
確か、"―いえ、私以外にも何人かこの依頼を受けて来ている"…だっけか。
ラーナ、そして勇者ユリアたちの御一行。
彼らの他にも幾人かこの依頼で来ているらしい。
その依頼中に起きたイレギュラー、オゥクロプスたちの出現。
「確かこの依頼って、私たち以外にも数十名ほどの新米冒険者〈ルーキー〉たちが受けてたはず…。」
『そういえば、そのうちの1人を助けたな。確か名はラーナという。』
「ラーナちゃん!? そっか、よかった…。」
安堵するユリアに寄り添うポーラ。
どうやらラーナとは面識があるようだ。
この依頼をユリアたちに紹介したのもラーナだったらしい。
途中まで一緒に行動していたのだが、この混乱の最中にオゥクロプスたちに追われ、逸れてしまったらしい。
ラーナの探索も含め、オゥクロプスたちを退治しつつ、子供たちを探していた最中、あの大群と出くわした、とのことだった。
アルフはここで孤児院の子供の1人を保護したのを思い出す。
『そういえば、お前たちの受けている孤児院の子供と院長の探索についてだが…』
「え、何か知ってたりするの?」
『その孤児院の子供らしい者をこちらで1人保護している。』
「なんということでしょう…。貴方様のような魔族の者が人を救っていただけるなど…有難うございます!」
ポーラは満面の笑みを浮かべ、祈るようにアルフに感謝の礼を述べる。
だが、次の一言でその表情は悲しみ、嘆きといった曇りの表情へと変わる。
『だが、他の子たちは救えなかった。もうオゥクロプスたちにやられていた後だったよ。保護した者も、助けにいった際はすでにその最中でな、すでに両足は使い物にならなくなっていた…。』
「ああ…神よ…。」
「…でも助けてくれたんだよね。ありがとう、オオカミさん。でもなんで? 魔族ってあまり人に干渉しない種族だって聞いたよ?」
「そうよ、第一私たちを助けてメリットなんてないじゃない。一応ユリアは勇者なのよ?」
『勇者が居る、ということは魔王という存在もいるということか?』
素直な疑問。
異世界なんだから、勇者なんて職業はあるわけだ。
そして勇者の対となる存在は魔王。俺も狼でこうして話しているし、魔族なんて種族もあるし…。
「ええ、魔王はいます。でもそのことは貴方様ならすでに存知上げているのでは?」
『まだこの世に自我を宿して日が浅い。この世界についての情報に関してほとんど無知に近い状態なんだ。』
「あら、そうだったの。珍しいこともあるものね。」
『先ほどの言い方、魔族と人間の間というのは争い合っているものなのか?』
俺の前世、つまり地球に居た頃はどの小説もゲームも、ありとあらゆるファンタジーモノでは勇者と魔王は相容れぬ存在であり、それは人間と魔族も同じこと。常に互いに争い合い、互いの生存権を巡って日々泥沼な戦争を続けている、というのが俺の世界での認識だった。
「そういうわけではありません。魔王がこの世に顕現した際、魔族の方からも魔王討伐のご協力があることもあります。」
だがここでは違うようだ。
『つまりは人と魔族は共存し合っていると?』
「共存している魔族たちもいる、という見解の方がいいですね。」
「幾つかの魔族は争いをせず、静観しているわ。」
『なるほどな…。だが、魔族がなぜ魔王を討つ?』
「それは…。」
その時、どこからともなく一本の鎖が繋がれた楔が射出され、ジャーニーの脇腹を抉る様に貫いた。
貫いた楔はそのまま抉った脇腹を通り、元の場所に戻った。
口から血を吐き、地面へと倒れるジャーニー。
バンダルドは急いで駆けつけ、地面に倒れているジャーニーを守る様に大楯を構えて防御体勢を取る。
楔が飛び出した方を向くと、その木々の間から巨大な一匹の牛の姿をした魔物が姿を現す。
「バカな、アイツはミノタナトスじゃねえか…!オゥクロプスと同じBランクを代表とするモンスターがなぜここにいるのだ…!」
「ジャーニーさん!」
ポーラが大楯の内側へと入り、穴の開いた脇腹にそっと両手を翳し、祈りを捧げる。
「 " 大 い な る 神 の 癒 し "〈ハイ・ラ・エヒル〉!!」
仄かに緑色を含んだ暖かな白き光が傷を覆う。
流れていた血が止まり、傷口が徐々にではあるが塞がっていく。
「はぁ…はぁ…くぅ…、油断、したわ…!」
「今は喋らないでください! 今は安静に…!」
バンダルドの前に小さな剣を構えたユリアが飛び出してくる。
ミノタナトスと対峙するユリアの足は震えていた。
アルフは全員を"鋭い眼差し"で見てみる。
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ユリア・ヴァレニアス Lv10
職業:勇者
冒険者ランク:Fランク
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バンダルド・ドガルノフ Lv46
職業:戦士
冒険者ランク:Bランク
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ジャーニー・マクドルア Lv44
職業:賢者
冒険者ランク:Cランク
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ポーラ・エディニア Lv43
職業:司祭
冒険者ランク:Cランク
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やっぱりユリアだけが断トツに低い。
勇者になりたてか? 地道にこういった依頼をこなして経験値を溜めていくつもりだったのだろうか。
そして目の前に仁王立ちで立つミノタナトスを"鋭い眼差し"で見てみる。
全長は凡そ2.8mぐらいだろうか。
赤黒い毛並み、大きく膨張している筋肉、頭から生えている2本の巨大な角。
そして右手には鎖が繋がっている楔を巻き付け、左には巨大な異形の形をした斧のような何かが握られている。
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ミノタナトス Lv51
名前:無し
種族:魔物種
ランク:B
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オゥクロプスなんか目じゃねぇほどの高レベルとランクじゃねぇか…。
というよりもこれは…
『まずい。』
今のこの状況はどうあがいても絶望的であることは明らかだった。
重傷を負ったジャーニーを庇いながら、目の前のあいつを対処するのは正直に言うと無理だ。
アルフも今までは10レベル差であれば傷をいくつか負いながらも勝つことができる。
だが、そんなレベルの差を埋めることができない圧倒的な存在が今目の前に居る。
「バカな…!?」
バンダルドがボソッと呟いた。
それもそのはず、背後の茂みから次々とオゥクロプスたちが姿を現したのだ。
レベルこそ10~16の間ばかりだが、数が計20体近く。
そしてオゥクロプスたちの手には未だ慣れない小さな亡骸が握られている。
この圧倒的な絶望の前に、ユリアはもうすでに立つだけで精いっぱいのようだった。
足や剣を持つ手が震え、剣先が定まらない。
幸いだったのが、ジャーニーは気を失い、ポーラは大楯の内側でポーラの回復に集中していたため今のこの状況がわかっていない。
ここでポーラが今の状況を見てパニックに陥り、ジャーニーの回復が途絶えたなんてことになったりでもしたらさらに最悪だ。
「わ、わた、私、は…あ、諦め、ない…んだから…!!」
震える声でユリアは小さく叫ぶ。
思いは重々だったが、体がそれを拒否するかのように動かない。
すでに体が悟っているのだ。
今あいつに挑めば待つは死だけだと。
「なん、で…動か、ない…のぉ…!!」
涙目になりながら必死に自分の体を動かそうともがく。
それを見て、にやりと笑うミノタナトス。
ゆっくりと重みのある歩みでこちらに近づいてくる。
"さすがの俺も逃げるだけで精いっぱいだなこれ…。"
今ここにいるユリアたちを見捨てて逃げ出せばアルフだけは無事だろう。
だが、心はそれを許さない。
"まあ、そうだろうな。"
小さくため息を付いた後、アルフはユリアたちの前に出る。
「…え?」
ユリアたちの方を向かず、今考え出した唯一の策を伝える。
『俺がここを足止めする。だから急いで助けを呼んでくれないか?』
そう、ここで俊敏なアルフが時間を稼ぎ、ユリアたちを逃がしたのちに助けを呼んでくる。
これしか今この場を凌ぐ策はなかった。
ミノタナトスのイラストは今必死に考えているので多分次回に出るんじゃないかな。
イメージは出来てるんだけどうまくそれを纏められないのが原因です、はい。




