新たなる悲鳴。
時刻 "00:25"
気が付けば、あの黒い空間が目に移った。
だが自分が今いる場所は前回の最後に居た白い空間だった。
"…夢か。"
「そ~だよぉ? また会えたなぁ~!」
黒い空間に浮かび上がる白い人影のモヤ。
顔部分に浮かぶ2つの黒い点と三日月。
ユラユラと揺れているそのモヤから聞こえてくる自分の声。
"正直もう会いたくはなかったが。"
「そう言うなよミー。俺はこんなにも会いたかったんだぜぇ~? それにしても大活躍だったじゃねえか、ええ?ロリコンさんよ。」
"ロリコンじゃねえーよ! っつか知ってるのかよ、というよりも見てるのか?"
「だってお前は俺なんだぜぇ? お前の見ている景色、聞いている話、感じる殺気や肌を伝う温もり。いやぁ、あの子の手は温かかったよなぁ?それに久々の人間だもんなぁ?」
ケヒャヒャヒャヒャヒャ!と笑いながらそれに連動するかのように激しく揺れる。
そして白いモヤから2本の細長い何かが伸びた。
どうやら彼の腕のようだった。
白く揺れる腕がゆっくりと広がっていき、そして自分の体を抱きしめるように腕を回す。
「そしてギリギリのタイミングで救出なんざ凝ってるよなぁ?ええ?」
"別に狙ってやったわけじゃない。"
「でもよぉ? いつからお前さんは人助けをするようになったよぉ? あぁ~んなに人を恨んで、憎んで、自分から遠ざけておいてよぉ?」
アルフには彼が何を言っていたのか理解できなかった。
人を恨む? 憎む? 遠ざける? 一体話だ?
必死に記憶を巡らせるが、何も思い出せない。
だがそれを否定するための確証さえもない。
むしろ、そうであったかのような感覚が自分の中にある。
なぜ助けた? なぜ見捨てなかった?
どうして? なんで? あれだけ俺を…
…俺を? 俺をなんだ? 一体何を思い出そうとしている?
これは、いったいなんだ?
「思い出せないかぁ? だって、その記憶はぜぇ~んぶ、俺に押し付けて自分は楽しい記憶と一緒だもんなぁ? いいもんだよなぁ?ええ? 押し付けたとは言っても全てってわけじゃないから、幾つかのいやぁ~な記憶はあるはずなんだけどよぉ、それさえも忘れたか、それとも記憶の奥底に閉じ込めてんのか。ほんと、お前は都合がいいよなぁ?」
"何を、言っている…"
「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! あぁ、おっかしいわ~。ま、俺が俺として存在するのには全然先の先だからこの記憶もぉ? 今俺が感じている憎悪とかもぉ? それらがわかるまではぁ? まだまだ先だがよぉ。安心しろよぉ、なあ?」
なあ、の最後、頬を伝う冷や汗を感じ、一瞬、瞬きと当時にその白いモヤはすぐ顔面前にまで移動していた。
そして三日月と思われていた部分が、リアルで大きく裂けた口で一言、こうつぶやいた。
" や く び ょ う が み さ ん よ ぉ ? "
『がはっ…!? はぁ…はぁ…。』
飛び起きるように目を覚ます。
その衝撃で頬に触れていたルイシャの手が離れる。
手が落ちた衝撃で目が覚めたかと思ったがルイシャはぐっすりと眠っており、離れたことに気付くこともなかった。
一息つき、ゆっくりと立ち上がり、音を立てずに部屋を出る。
外は未だ月夜が辺りを照らしていた。
自由に使っていいと言われた湧き水が沸いて小さな池のようになった水たまりのところまで移動する。
この水たまりはエネラの魔力により浄化され、MP回復とリジェネ効果付き、更には味も最高にうまいという三拍子の揃った湧き水をガブガブと飲んでいく。
"…ふぅ、うめえなぁほんと。"
満足のいくまで飲み終え、一息つく。
身体の内から広がる水の冷たさが体中に溜まった疲労を和らげるようだった。
またその場から移動し、今度は少し開けた場所まで移動する。
ゆっくりと腰を落ち着かせ、夜空を見上げた。
赤い月と、その反対側の夜空に青い月の2つがそこに存在していた。
まるでファンタジーの世界そのもののようで、何とも美しい光景に目が奪われる。
「あら、若様。起きていらっしゃったのですか?」
背後から声が掛かる。
振り向かなくともその声の主は察しが付く。
月白を帯びた美しいアラクネ。エネラが若様と呼ぶアルフの隣に移動し、そっと蜘蛛の体部分を寝かせる。
アルフが見ている方をエネラも同じように見上げる。
目線だけを動かし、双月を見上げるエネラの横顔を見た。
それに気づいたエネラは顔を動かすことなく、アルフへと話しかける。
「眠れないのですか?」
『…。』
悪夢に魘され、目が覚めたなんて子供っぽいことは言いにくい。
でもその見た悪夢の内容さえ覚えていない。
「わたくしも、子供の頃…。眠れぬ夜はこうして外に出てあの2つの月を眺めてました。」
『…エネラ先生にもそんなことがあったのか?』
「もちろんです。あの時は怖~い夢を見て目が覚めた日でしたね。起きてまた眠りに入ろうという気持ちはなかったと思います。またあの夢を見たらどうしよう、なんてね。」
『…。』
「結局、外であの双月を眺めている内に気が付けばぐっすりと眠りこけていました。」
エネラがその思い出を懐かしむように微笑み、語ってくれる。
『…俺も同じようなもんだ。悪夢を見て飛び起きて、でもその悪夢の内容一つさえ覚えてない。でも体はその恐怖を覚えている。多分、また寝れば今度は大丈夫なんだろうけど、でも…多分、きっと怖いんだと思う。』
気が付けば自然にエネラへと自らの思いを語っていた。
最後まで言い切ってから気づき、そのことに自分自身で驚いている。
でもエネラはそっとアルフの頭をその白い手で優しく摩る。
アルフは突然のことに、エネラの方へと顔を向ける。
アルフの視線を感じたのか、エネラもアルフの方を向き、優しく微笑む。
「よく、頑張りましたね、若様。」
『…えっ?』
「若様のおかげであの少女は助かりました。若様にはそのまま見捨てる事も見殺しにする事もできたでしょう。でも若様は救出の選択を選びました。それにどうか疑問を持たないでください。若様は誰もが誇れることをしたのです。その身を危険に晒してでも、あの少女を助けたのです。その事を誇りに、胸を張ってください。」
『…エネラ先生には俺がそう見えたのかな。』
「時々、あの少女の方をチラチラと見ながら悩んでいる様に見えましたので、きっと若様が見たという悪夢に関係することなのでしょう。」
『…ははっ。そうっぽいかもしれん。ほんと、叶わないなぁ…。』
胸のどこかに引っ掛かっていたつっかえが取れたかのように不安な気持ちが自然と消えていく。
再度、双月へと目を移す。
きっとどこかで自分がやった行為を認めてもらいたかったのかもしれない。
でもなんで? どうして? という疑問が浮かび上がる。
まあ、今はそれを疑問に思うことはないか。
と気持ちを切り替え、エネラの方を再度向く。
『ありがとう、エネラ先生。』
「ふふ、どう致しまして。」
エネラへと感謝の気持ちを述べ、それに優しく微笑み返す。
だがその直後、アルフの耳に微かに聞こえる何かの悲鳴。
――きゃあぁぁぁあああああああああ!!
間違いない。女の子の悲鳴だ。
『エネラ先生!』
「わたくしにも聞こえました…! 今すぐそちらにわたくしの配下を向かわせます。」
『わかった。俺も急いでそっちに向かう。』
とアルフは悲鳴の聞こえた方へと向けて走り出す。
「若様! 無理をしてもいいですが、どうか決して無茶だけはしないでください! わたくしの配下もすぐに到着するはずですから!」
『了解!』
アルフはレベルアップしたその身体機能を全力で生かしながら、悲鳴の方へと向かう。
たどり着いた先で、少女が小さな剣を片手に小さなディアプニルの幼体を庇うように一際大きなオゥクロプスに立ち向かっていた。
特になしです。ちなみに前回登場したルイシャちゃんもヒロインじゃないよ!多分!




