少女
時刻 "22:38"
数分も掛からずに蜘蛛の間に戻ってきたアルフ。
異常な様子に気付いたエネラはアルフの元へと掛けより、背中の少女を見て目を細める。
「若様、これは一体…?」
『この近くでオゥクロプスたちが少女たちを嬲っていたのを見つけた。この子はその生き残りだ。』
エネラはすぐさま少女の目を見たり、口を開けて中を見たり、鋭く尖らせた爪で指の先に突き刺し、様子を確認。また刺された部分から流れる血液を指でふき取って口元に持っていき、味を確かめる。
そこにアンジュも何事かと姿を現し、少女を見て驚きの声を上げる。
だがすぐさま少女の元へと駆け寄って、"ヒール"を掛けていく。
「アンジュ様、少しお手伝い願えますか?」
『あたしにできることなら何でも言って!』
「助かります。若様もその子をそのままの状態で一緒に来てください。」
『わかった。』
エネラに連れられて入ったところは、まるで書斎の様に木々の隙間がまるで本棚の如く本が収納されており、周囲に貼られた蜘蛛の巣に引っ掛けられた様々な形のガラス瓶と液体物たち。
その中央に置かれた机のような木の切り株の上をさっときれいに片付け、そこにまるで白い布を引く様に蜘蛛の巣を張らせていく。
数秒で出来上がった簡易的な手術台の上に少女をゆっくりと乗せる。
その間にもアンジュはヒールを掛け続け、アルフはその台に少女を乗せ終えるとその場から離れる。
「若様はこの子の傍にいてあげてください。どうやらこの子は若様に対して心を開いているようですので。」
『…わかった。』
「…ぅぅ…ぁぅ…」
少女の手にアルフはその鼻で触れる。
ピクッと一瞬反応した後、それがアルフだとわかると頬へと指先で触れる。
少し安堵したのか、少女の苦痛に満ちた表情が若干和らぐ。
エネラは蜘蛛の巣に引っ掛けてあった赤い液体の入ったガラス瓶を取り、少女の口元に持っていく。
「さあ、こちらを飲みなさい。そうすれば今感じている苦痛は和らぎます。」
それを聞いて少女はゆっくりと赤い液体を口にする。
ゴクッ…ゴクッ…と遅いペースではあったが、ゆっくりと確実にその赤い液体を飲んでいく。
全てを飲み終えた少女はその意識が深い所に落ちていくように重い瞼がゆっくりと閉じられた。
それを確認し、エネラは肉塊になった足の方へと意識を向ける。
まず、まだ原型として残っていた太ももの中間部分を残し、その先を爪で切断。
すぐさま蜘蛛の糸で傷口を縛ると同時に何重にも重ねて包帯を作り、切断した両足に巻いていく。
そして今度は別の緑色の液体が入ったガラス瓶を蜘蛛の巣から取り、それを切断した足に巻いた糸の包帯へと緑色の液体を垂らしていく。
その液体を吸った包帯は、白から緑へと色を変化した。
それを見てエネラは一息つき、体中に飛び散った返り血や白い液体の跡のようなモノを自らの糸で編んだのであろう白い布を水に浸してそれらを丁寧に拭いていく。
全てが終わり、ディアブロアの皮で作られた毛布のようなものを半裸状態の少女へと掛ける。
「これで一通りは大丈夫です。アンジュ様はそのままヒールをこの子に掛け続けてください。また自然治癒の能力を高めるためにリジェネも一緒に。」
『任せて!』
「若様はこの子が起きた場合に備えて傍に付いてあげてください。」
『了解したよ。』
「わたくしはその間にこの子の服を編んできますね。」
そういってその部屋から出ていった。
残されたアルフとアンジュは静かに寝息を立てている少女を眺める。
飲まされた薬がどうやら効いているようだ。
またヒールとリジェネで傷もどんどん癒えているらしい。
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ルイシャ・ヘリント
年齢:12歳
種族:人間種 幼体(雌)
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Lv:1
HP: 4/ 5(8)
MP:12/12
状態異常:リジェネ効果中
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体力の方もそこそこまで回復できている。
とりあえずこのルイシャはもう大丈夫だろう。
後はこの子の頑張り次第ってところか。
"ただ、両足はもう戻らんよなこれ…。"
とりあえずあの状況下で生き残れたことだけでも祝おう。
『…ねえ、お兄様。一体何があったの?』
アンジュがルイシャへとヒールを掛けながら、何が起こったのか気になっていたようだった。
その詳細を聞くべく、アルフへと質問を投げる。
アルフはあの時、何が起きたのか簡易的にわかりやすくアンジュに説明した。
話を聞いていくうち、アンジュの表情が徐々に暗く、青ざめていく。
全ての話を聞き終えたアンジュは何とか吐き気を堪えながらも暗い表情を顔に落としていた。
『今オルダスさんが奴らの対処に当たっている。』
『もしかして、お父様たちが"最古の知識を識る山"へと向かったのってこれが原因…?』
『わからない。でもオルダスのあの状態から察するにあそこにオゥクロプスたちが居ること自体異常な事らしいな…。』
『…。』
『大丈夫、何かあったら俺が守るさ。大事な妹なんだ、指一本触れさせはしないよ。』
『そう言ってもらえると頼もしいね。その時はお願いね、お兄様。』
あれから数十分経った時、オルダスがどうやら戻ってきたようだった。
オゥクロプスの首をそれぞれ木の蔓で繋げ、持ち帰ってきていた。
外でエネラがオルダスに事情を聴いているようだった。
所々、エネラの小さな悲鳴が聞こえたりしている。
どうやら驚きを隠せない様子だった。
それから少しして、ルイシャが目を覚ました。
ゆっくりと辺りを見渡し、アルフの姿を確認すると安堵したかのようにそっと微笑む。
震える手でアルフの頬を摩り、アルフも触れている手に頬を擦る。
そこにエネラとオルダスが様子を見に来た。
目を覚ましたルイシャを再度、検察していく。
全ての検察を終え、静かに一息付いた。
『それで、エネラ先生。この子…ルイシャの様子はどうなんだ?』
「…一応、何とか命だけは繋ぎ止められたようです。ただ、ルイシャの喉は完全につぶれているため、声は出せません。」
『…そうか。』
「それと、アロディーフの葉により体はひどく傷つき、衰弱しています。しばらくは絶対安静が必要でしょう。」
ルイシャは笑って見せていたが、触れていた手の震えが増していた。
とりあえず数日の間は様子を見ながら、体調管理をしっかりしていくことで方針は決まった。
エネラは治療に必要な素材を手に入れるために、黒い蜘蛛たちを呼び出し、何やらお願いをしていた。
願いを聞き入れた黒い蜘蛛は一斉に散らばっていく。
「とりあえず、今日はもう遅いですから寝ましょう。詳しい話や方針はまた明日ということで。」
ルイシャの身を案じて今日はこれで解散となった。
ただアルフだけはルイシャの傍から離れることはせず、ルイシャの隣で寝ることにした。
『大丈夫だ、俺が傍にいるから今は安らかに眠るんだ。』
「…ぁ…ぃぁ…ぉ…。………。」
何かをアルフへと告げ、ルイシャはまた眠りに入る。
その言葉はしっかりとアルフの心に届いていた。
― あ り が と う 。
アルフも少女が完全に眠ったのを確認して、迫りくる睡魔に身を委ねるように眠りに付いた。
特になし!




