怒りと救出
時刻 "20:15"
奴との距離まで30m。
だが一向にこっちに気付く気配がない。
…いや、何かに夢中になっているのか?
オゥクロプスは右手に持った棍棒で何かを楽しむかのようにひたすら地面を叩き続けていた。
手元をよく見ると何かを握っている。
"…あれは、なんだ?"
もう少し近くで観察するため、正面に位置する茂みの方へと静かに移動する。
残り10mまで近づいたがそれでも気が付かない。
そして奴が何に夢中になっていたのか、その正体が分かった。
オゥクロプスの手元には破かれた衣服が握られており、地面には半裸に近い状態の少女が横たわっている。
地面を棍棒で叩くたびに少女は恐怖と絶望に怯え、口から今にも飛び出そうな悲鳴を必死に両手で抑えている。
その表情を見る度にオゥクロプスのゲスな笑顔が顔に浮かぶ。
少女をよく見ると両足は潰されており、原型はとどめておらず、ただの肉塊に近い状態になっていた。
恐怖と絶望で気を失いかけるも、地面を叩き付ける棍棒の衝撃で無理やり戻す。
オゥクロプスは自らの下半身を曝け出し、少女の体を左手で持ち上げる。
持ち上げられた際、肉塊となった足がそのまま引き千切れ、生気のない両目からは大粒の涙が溢れ、もうすぐ自らに迫りくるであろう更なる絶望に必死に耐えている。
「フゴフゥ…ッ! フゴフゥッ!」
「…ッ…ッ……ッ…!!」
その単眼に映る少女のあられもない姿が生気のない絶望色の目に移り、現実逃避するかのように目をぎゅっと瞑る。
オゥクロプスはそのまま少女の体を自らの下半身へと近づけていく。
「フゴォッ…!」
もう自らを襲う運命を、死を受け入れようとした少女ではあったが、その運命が少女に訪れることはなかった。
ちょっとした衝撃と共に地面に落下する感覚を感じるも、地面と衝突することはなく、何か柔らかいふわふわした何かの上に落ちる。
少女はゆっくりと目を開けると、そこには美しい銀色の毛並みを持つ銀狼が心配そうにこちらを見ていた。
「ぁ…ぇ……!?」
『無事、ではないな…。だが、もう大丈夫だ。』
慰めにはならないが、もう安全だという言葉が掛けられる。
オゥクロプスを見ると、首から上が消えた状態で地面に仰向けに倒れていた。
「ぅ…ぁ…」
何かを喋ろうとしているようだが、うまく言葉が出せないようだった。
ただ恐怖で言葉がうまく出ないのかと思っていたが、何やら声その物がうまく出ないようだ。
『…言葉が喋れないのか?』
「ぁ…ぅ…ぁぁ…。」
『若、たぶんその人の子はこれを飲まされてる。』
今度は小さな黒い兎がピョンピョンと飛び跳ねながらこちらに姿を現した。
その口には異様な形をした葉を加えている。
それをわかりやく開けた地面に置き、ゆっくりと後ろに下がる。
気が付けば、その歯の隣にはすりつぶされた緑色の液体が広がっていた。
『これは…?』
『"アロディーフ"と呼ばれる木から生る葉だ。効果は痛み止めに近いもんだが、実際は全然違う。
これを液体状にまで磨り潰し、飲ませると強力な媚薬効果があるんだ。
痛み止めといった理由はここでな。痛みを快楽に変換させる。
ここまで聞くと害はなさそうに見えるが、これを磨り潰し、液体状にさせると強力な酸性の毒を持つ。
これを飲めば、触れた部分から熔けて焼け爛れていき、またそれを快楽へと変換させる。
身体の内側から器官や内蔵を溶かしていく快楽に溺れながら死を迎えるという禁忌とされたモノなんだ。』
"えげつねぇもん使って…、ん?"
『え、それじゃあこの子は死ぬのか…?』
『まだわからない。ここにこんだけの磨り潰されたアロディーフの葉がここにある。だがこの人の子の足を見る限り、耐えられるはずはない。また上手く言葉をしゃべれないところからすると微量は飲まされている。』
「ぅ…ッ…ぉっ…ぅぅ…。」
ふと少女の方に目をやると頬を赤らめながらも、必死に何かに耐えている。
ケホッケホッと吐血しながらも、甘い息を荒くさせる。
『…この人の子は耐えているのだろう。自ら湧き上がる欲情を。』
『どうにかできないのか?』
『エネラに見てもらうしかない。ただ微量であってもアロディーフの葉を飲んでいるから、急いだほうがいい。』
アルフは頷き、必死に耐えている少女を背中に抱えてその場から離れようとした時、気配察知に引っかかった気配が6体感じ取った。
その方向を向くと、茂みから6体のオゥクロプスたちが異常な事態に気付き、様子を見に現れたようだった。
それぞれが手に棍棒を持ち、またもう片方には様々な生き物と呼べるかどうかさえも分からない状態になっている肉塊を握っている。
ただ一つ共通して言えることは、それらすべてが人の形、その一部を残しているという事。
ある肉塊は右手を、ある肉塊は顔半分を、またある肉塊はその小さな胸のふくらみだけが肉塊の中で残っていた。
『…若はその子を、早くエネラへと、見せに、行ってくれ。アイツらは、俺が、やる。』
気が付けばアルフは臨戦態勢に入ろうとしていた。
それを察したのか、オルダスはアルフへと静かに一言一言確かめるように伝える。
アルフの激情しかけた感情も冷静になり、静かにため息を付く。
『わかった。』
アルフはそう言い残し、少女を落とさぬように全力でエネラの元へ走っていった。
残されたオルダスは完全にアルフが居なくなったのを確認し、再度オゥクロプスたちの方を向く。
『若やお嬢の目に毒なんだよ、てめぇらは。あん時全員殺ったと思っていたんだが、ここにまで範囲を広げているとはな…。どうやら俺が甘かったようだった。今度は一匹も残さず潰してやる…!!』
オルダスは一飛びでオゥクロプスたちの方に飛ぶ。オゥクロプスたちも臨戦態勢へと入った…。
今回戦闘シーンは書いてありませんが、レベルアップはしておりません。
<オゥクロプスの生態について>
ランク:B
一つ目のオーク型の魔物。
戦闘能力事態はD以下とされており、動きも単調でこれといった特徴的な攻撃もしてこない。
本来オークという種族は何かしらの渇望によって行動する。
森豚人は食欲を渇望し、日々の生活は畑や作物を耕したりして過ごしている。
樹木豚のランクはDとそこまで脅威ではない。
だが同じオーク種であるオゥクロプスをBランク指定にまで上げた原因はその身に持つ残忍性でどのオークよりも凶悪性のある渇望:性快楽を渇望しているためである。
生物学的にメスの個体であればどんな相手だろうと興奮し、その身を嬲り、犯し、散々遊んでから喰らう。
しかもその目に見える範囲内の雌全てに対してその残忍な行動を行うため、一部の種族で雌の個体だけが全滅し、繁殖能力を失ったために絶滅したとされる魔物も少なくない。
雄の方も仲間で囲み、両手両足を叩き潰してそのまま放置することが多い。
中には雄に見せつけるように雌を嬲る個体もいるという話もある。
冒険者ギルドではオゥクロプスの姿が確認されたと報告が上がった場合、冒険者総出でオゥクロプスの退治に臨む。




