お泊り会と黒兎との出会い。
時刻 "19:30"
あの後、エネラが持ってきた器に入れられている透き通った水を舌で掬うように飲んでいく。
アンジュはチロチロと舌の先辺りを水に浸して飲んでいる。
なんとも飲みにくい…。
一度ディアプニルを倒した付近で流れていた川の水を飲もうとガブガブと噛み付く様にして飲んでみたが頬袋がない狼の口ではうまく水を飲めなかった。
少なくなった水は舌で舐めとる様に飲み干し、一息つく。
アルフに少し遅れてアンジュも飲み終えたようだった。
『御馳走様でした。それにしてもこの水はなかなか上手かったな…。』
「ふふ、それはよろしゅうございました。この水はわたくしの魔法で清められた水です。若干の魔力補充と自然治癒の能力上昇がセットになってますよ。」
『この水をもっとください。』
「では後日、若様の所に持っていきますね。」
なんて談笑を交えていると、気が付けばすでに陽は傾きかけていた。
アルフはそろそろ時間だと話を切り出し、アンジュは帰り支度を始めた。
エネラはアンジュの手伝いを始め、アルフもそろそろ準備を終えた時、ふと何かの気配が入口の方からしたため、そちらの方を向く。
そこには黒い兎がピョンピョン飛びながらこっちに来ていた。
『ただいま戻ったぞ。』
「あら、オルダスさん。今日はお早い帰りですね。」
『この兎さんは誰?』
『ん?おお、あんたがアンジュ様か! となると、そこの銀狼"シルバーウルフ"は若様か!』
と黒兎はアルフたちの姿を見るとその場から一飛びでこっちまで来ると、ジロジロと見始める。
エネラは苦笑しながら黒兎を抱き上げ、アルフたちに紹介する。
「こちらはオルダスさん。わたくしと共にここにやってきて、アダント様の庇護を受けさせてもらっている者です。」
『よう、若!お嬢! エネラの紹介にあったオルダスっつぅもんだ。よろしくな!』
明らかにその見た目に似合わないとても渋い中年男性の低い声に違和感を覚える。
オルダスは2人にその短い前足を片方だけ上げて挨拶をする。
『ああ、よろしく。もう知っているとは思うけど俺はアルフ。』
『そんであたしがアンジュ。よろしくね!オルダスさん!』
それぞれが挨拶し終える頃にはすでに陽も落ちかけていた。
急いで帰ろうとしたとき、それを制止するようにオルダスがエネラの元から降り、2匹に声を掛ける。
『若、お嬢。アダントの親仁より、"最古の知識を識る山"の方が騒がしいから様子を見てくるため、2人ともここでお預かりすることになった。』
「…ということはここで若様とアンジュ様はお泊りということですか?」
『ああ、それを報告するため俺も早めの帰宅というわけさ。』
『今日はエネラ先生と一緒に寝るんですね!』
とアンジュのテンションはかなり高い。
初めてのお泊りということに興奮を抑えられないのだろう。
アンジュはエネラ先生へ嬉しそうに抱きつきながら、今後の予定について話し合っている。
アルフは"最古の知識を識る山"がある方へ顔を向けた。
『…心配か?』
ふとオルダスが近くに来ていた。
『…いや、父様の方は心配はしていないよ。その"最古の知識を識る山"で起きていることが気になる、かな。オルダスさんは何か知っているのか?』
『若、俺のことはオルダスでいい。だが"最古の知識を識る山"で起きていることは俺にはわからない。
突然だったんだよ、急にアダントが
―…すまない、今日は我が息子をそちらで預かってくれないか?
あっちで何かが良くない事が起きているから確かめに行ってくる。
そう言ってエフィ様を連れて行ってしまわれた。』
『またすごい急だな。』
全くだ、と返事を返しつつ、オルダスも今アダントが居るであろう方向を向く。
アルフは今ここでそれを気にしていても仕方がないと割り切る様に、オルダスの方を向く。
オルダスと目が合い、その気持ちを察するように静かに頷く。
『まあ、あの2匹なら大丈夫だろう。』
『…だね。』
『んじゃ、俺たちもあっちに…』
『いや、俺は少し辺りでやることがある。』
ここに来る前に感じた幾つかの気配。
そのうちの一つに今までに感じたことのない強い気配をその身に感じた。
正体を確かめ、あわよくば今の戦闘能力についてどんなものか把握しておきたかった。
『なるほどな…。なあ若、俺もついていってもいいか? せっかくだ、若の力を見ておきたい。』
『ああ、別に構わないよ。』
『よっしゃ。それじゃあエネラに話を付けてくるから少しだけ待っててくれ。』
そういうとオルダスはエネラたちの方へとピョンピョン飛び跳ねながら向かっていく。
それから数分後、エネラと話をつけたオルダスが戻ってきた。
オルダスとアルフは蜘蛛の間を出ると、"気配察知"を使い来るときに感じた気配を探る。
少し先にある開けた場所に同じような気配を感じ取った。
オルダスはアルフの動きで察したのか、"隠密"を発動させ、二匹でゆっくりとその気配に近づいていく。
茂みから開けた空間に周囲へと目を配らせる。
月の光に照らされた巨大な人型の何かがそこに立っていた。
"鋭い眼差し"でその生物を見てみる。
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オゥクロプス Lv12
名前:無し
種族:魔物種
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『…あれはオゥクロプスだな。』
ポップアップに表示された名前を見るのと同時にオルダスはその名を呟いた。
オゥクロプスは何かに気付いたのか、一瞬こちらの方へと振り向く。
だがこちらの気配には気づいていないのか辺りを軽く見渡した後、その場に座り込んだ。
全長は2mほどで、一つ目。豚のような丸い鼻と太った容姿。
ただ、両腕は引き締まった大きな筋肉が付いており、右手には棍棒のような何かを握りしめていた。
"見た目的には、オークとサイクロプスが合体した奴だな。名前もそれっぽいし。"
女騎士みたいなやつが居たら絶対に"くっ殺せ!"展開は免れないだろうなぁ…
なんて思っていたとき、ふと足元を見てみると何か白いモノが転がっていた。
小さな人骨だった。
明らかに子供用サイズ。
『ちなみに好物は子供だったりするか?』
『ああ。それも雌の子供ばかりを狙うクソ野郎だ。たまに迷い込んだ人間族の雌の子供を捕まえては嬲ったり、犯したりと一通り満足するまで楽しんだ後、生きたまま喰うらしい。』
『ほんとクソ野郎じゃねえか…。』
『だが基本的には"雌"の"子供"であれば、基本的に何でもいいらしい。』
オルダスが説明するその口調から怒りと憎しみが感じられる。
相当アイツに対しては深い恨みを持っているらしい。
もしあの時、黒い蜘蛛たちが現れず、正面からアイツと鉢合わせした場合…。
アンジュが、そんな目に合っていた可能性がある。
そう考えて、アルフの心にも怒りの感情が沸き上がるのを感じた。
―アイツは生かしてはならない。
それだけはわかる。
オルダスもすでに殺る気満々のようだった。
『…子供たちの未来を、アイツは奪う。それだけは許せねぇことだ。』
『なら、やることは一つしかないな。』
" 目 の 前 に 居 る あ い つ を ぶ っ 殺 す "
アルフとオルダスの思いがシンクロしたのか、左右に分かれて隠密状態のままオゥクロプスへと近づいていった。
オゥクロプスの全体図は次回に。
オゥクロプスの全長を2.5m → 2m に短縮させました。




