デモンベアの事情
時刻 "10:40"
"ん~、どうしたものか。"
今現在怪我の治療のため、絶対安静の支持の元、つまりは療養中である。
レベリングにも出かけられないし、だからといってじっとしているだけじゃほとんど何もできない。
その思いそのまま、どうしたものかと悩んでいるとどこか寂しげな足取りでデモンベアがやってくる。
『…それじゃ、アルフくん。あたしはそろそろ行くね。』
『行くって、どこか行く宛はあるのか?』
『ううん。でもここにいつまでもいるわけにはいかないから…。』
『別に俺はそんなこと気にしないよ?』
『…そっか。アルフくんはあたしたちデモンベアについてまだ知らないんだね。』
『まさか、不吉の象徴とか災いの元とかそういったことでも言われてんのか?』
『ねぇ、本当は知ってるでしょ?』
疑いの目でこちらを睨むように見つめてくる。
その後、デモンベアがゆっくりとその重い口を開く様に語る。
デモンベア、通称"災いを呼ぶ悪魔の熊"。
強大な力とその巨体に似合わぬ高い魔力適性を持ち、破壊の限りを尽くす最恐にして最凶の化け物。
血の臭いを敏感にかぎ分け、数キロ先まで場所を特定し、そこへ瞬間移動"ワープ"を使ってやってくる。
また殺し合いを好み、ひとたび暴れ始めると一国の精鋭1個師団を用いても撃退できるかどうか怪しいとまでされている。
そのため、デモンベアの成体を見かけた際は大掛かりな大規模討伐体が組まれ、全力で対処に当たることになっている。
だがそれでも倒せるかどうかは五分五分といったところらしい。
『すげぇなお前って…。お前も今言った風になるのか?』
『ならないわよ!…というよりもなれないの。本来、デモンベアの覚える魔法は"破壊魔法"っていう破壊に特化した最悪の魔法だけなの。でもあたしはその魔法を覚えられない。それどこか、逆に癒し魔法を覚えるようになって…』
『デモンベアの中の特異種ってわけか。』
『うん…。パパとママのように戦える力がなく、あまり効果のない癒し魔法だけを覚えるデモンベアがいる。。そんな噂はあっという間に広がって、あっけなく人間たちに見つかって…。』
後は想像の通りだった。
戦う術を持たぬこのデモンベアを逃がすため、父ベアと母ベアは囮となり数日戦い続け、ついに討ち取られたという。
目的のデモンベアは無事森の奥まで逃げることができるも、デモンベアの存在自体が他の生物たちにとっては恐怖の対象でしかなかったらしく、近づいたりしても逃げられ、誰にも助けを乞う事さえできずにいた。
また戦闘力も皆無なため、狩りを行うこともできず、食糧もないまま数日が立ち、もう餓死してしまうんだなと思い始めたときに俺と出会った、と。
『でも、あたしが居るだけでアルフくんたちに迷惑を掛けちゃうかもしれないから…』
『だから別にいいって言ってんだろう?』
『そうよ、デモンベアちゃん。なんなら私たちの家族にでもなりましょうか?』
とそう言いながらエフィが様子を見に顔を覗かせていた。
突然の登場、そして爆弾発言にびっくりしたデモンベア。
目が震える様に焦点が定まらない様子で動揺していた。
『え、でもあたしは…』
『デモンベアだからなんだというのだ? 我はここの主ぞ?』
と今度はアダントがエフィに続いて姿を現す。
どうやら2人で昼食に食べるための食料を取ってきたようだった。
『デモンベアとは以前戦ったことはあったが、それほど強くはなかったぞ?』
『そうねぇ。大体3分も持ってたし、良い方じゃない?』
『へ?! え、デモンベアを相手に3分でいい方…、それにこの主って、え…?』
『そういや説明してなかったな。俺の母さんでエフィ。んで親父のアダント、ここの地帯一帯を治める主、らしい。』
―えぇぇぇぇええぇえぇぇぇえええ!?!?!?!
という叫びが森中に響く。
遠くではクスッと口元を隠しながら笑いを堪えるエネラの姿が見える。
一通りの説明を受けてその身をさらに収縮させる勢いで縮こまっていた。
今まで普通の強い狼としか思っていなかったようで、謝罪の言葉がまるでマシンガンの様に飛び出していく。
『別にいいわよ、アルフを助けてくれた恩人ちゃんですもの。』
『そうだな。こうして無事息子と会話できるのもお前のおかげのようだからな。感謝する。』
『あわわわ、いえいえいえいえいえそんなそんな…お、おお、恐れ多いですぅ…!』
『そう縮こまらなくていいわよ。こほん。さて、デモンベアちゃん。さっきの私の申し出はどうかしら?』
急に話を戻され、あっけらかんとしている。
何が何だかといった表情で、先ほど言われた言葉さえ忘れてしまっていたようだった。
『別に一匹増えた所で何も問題ないわよね、貴方?』
『構わないぞ。それに元々我らは数匹の子らを養うつもりでおったからな。』
『そうね。アルフにも家族が増えるわけだし!』
『で、でも…?』
『あら、それとも私たちの所は嫌なのかしら?』
とエフィは意地悪っぽい感じにデモンベアへと問いかける。
すると首が捥げそうな勢いでぶんぶんと横に振りながら、否定をアピールする。
『それじゃあ決まりね!これからもよろしくね、デモンベアちゃん!私をママだと思って存分に甘えてもいいのよ?』
『あの、…あの…。いいん、ですか…?あた、し…デモンベア…なんですよぉ…?』
『先ほども言ったはずだ。だからなんだ、と。"災いを呼ぶ悪魔の熊"を娘に持つ父とあれば、我が名もさらに高まるだろうしな!』
デモンベアは顔を俯かせ、肩が若干震え始める。
何かを堪えるように、何かを耐える様に。
デモンベアは一言一言確かめる様に問うた。
『こんな…あたしを…、家族に、…その輪の中に…入れて、くれるん…ですか…?』
―ポンッ
そこに例のポップアップが表示される。
<デモンベアを家族として受け入れますか?>
なんの迷いもなく言い放った。
『おう!』
<受理されました。>
そのポップアップが消えると同時にその場でデモンベアは泣き始めた。
今まで溜めていたもの全てを、今まで堪えていたもの全部を吐き出す様に。
エフィはそっと頬で泣き崩れているデモンベアに触れる。
その表情は慈愛に満ちていた。
泣く子をあやす様な母性溢れる優しげな表情はデモンベアの心に届いたのだろう。
エフィの頬を抱きしめる様に身を委ねるようにして泣き始める。
それを見ていたアダントとアルフは少しほっこりとした気分になった。
『これからはお兄ちゃんであるアルフを支えてあげてね。』
さりげなくデモンベアが妹へと格付けされた。
それに反抗するかと思いきや、精いっぱいの笑顔で、
『はい、お母様!』
と返事を返した。
"あんたからアルフくんに格上げされたかと思いきや妹になるとは…。"
『まぁ、なんだ。色々と思うことはあるかもしれないけど、これからはよろしくな。』
『はい、お兄様…!』
俺の呼び名が、アルフくんからお兄様になりました。
『さて、そろそろ腹も減ったころだろう。良い肉を見かけたからな、皆で食べよう。』
『うふふ、今日はいっぱい獲ってきちゃったから!』
そういいながらアダントとエフィはそのまま立ち上がると、蜘蛛の間へと戻っていく。
アルフもなんとか立ち上がろうとするが、左後ろ脚がうまく動かせず倒れそうになったが、そこをすかさずデモンベアが体で支えてくれた。
『お兄様、大丈夫?』
『あ、ああ。ごめん。つか、お兄様って…』
『変かな? あたしの中じゃお兄様って呼び名がしっくりきちゃったんだけど…』
『…まぁ、お前がそれでいいならいいさ。』
『えへへ。それじゃあ今度からお兄様って呼ぶね。』
『お、おう…』
何ともむず痒い気分だ。
そんなことを話しながら蜘蛛の間に行くと、エネラが困ったような顔で立ち往生していた。
どうしたのだろうと疑問に思っていたがすぐにその原因が分かった。
森の入口に、大量に積まれたディアブロアたちの死骸。
少なくとも50頭近い数のディアブロアたちの死骸が山の様に積まれていた惨劇がそこにあった。
それを笑顔で見ているアダントとエフィの姿が視界の隅に映る。
"…穏やかどころかこれ全滅させる勢いで殺してねぇか?"
この日、大量に減ったディアブロアの数により、増えすぎたディアプニルたちによるエリア一体の森林の餌を食いつくし、バランスが崩れかけるという大事件が起きたが、すぐに収まったという。
ということでデモンベアちゃんがアルフくんの妹になりました。
ヒロインじゃないからね、妹枠に埋まりました! まあそのヒロインもまだ当分出てこないんですが…。




