死闘の後
時刻 "8:35"
――だい……?! ねぇ……っと………かりして…!!
どこか遠くで自分を呼ぶ声が聞こえる。
何とか起きようとするも、意識が未だ朦朧としてうまく目が覚めない。
――おね……! しんじゃ…! …きて……!!
自分を起こす声が徐々にか弱くなっていく。
そして涙声の入り混じる様になってきた。
『お願いだから…死なないで…! 私を独りにしないでよぉ…!』
今度ははっきりと聞こえた声。
その声に導かれる様に、意識が徐々にはっきりしてきた。
ゆっくりと瞼を開き、何回か瞬きした後にゆっくりと目線を涙目になりながら必死に起こしているデモンベアに向ける。
それに気づいたのか、みるみる内に顔がぱぁーっと明るくなっていく。
『あぁ、よかったぁ…!』
ディアブロアにとどめを刺し、経験値がこちらにも回ってきて驚いている時、バタリとアルフが倒れたまま動かなくなってしまい、ヒールを掛けても反応もないため必死にヒールを掛けながら起こしていたという。
『…心配、かけた。』
『本当に死んじゃったかと思ったんだからぁ…!』
自分のステータスを確認する。
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Lv:1
名前:アルフ
種族:シルバーウルフ
HP:3/10
MP: 2/ 2
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残り体力が3、少し前に見たときには2だったから1回復したということか。
でも2でこの状態なら、1だと完全に意識は吹っ飛んでるなぁ…。
なんとか起き上がろうとするも、うまく足が動かせずにもつれてその場でまた倒れる。
気が付くと、左後ろ脚が折れているのに気付いた。
尻尾に打たれ、無理な体勢で着地した時に折れたようだ。
正直、こんな生死を掛けたぎりっぎりの死闘なんて普通だったら遭遇することはないから、終始アドレナリンが出っぱなしで気づかなかったんだろうなぁ…。
『だ、大丈夫!?』
『ぐっ…、どうやら足が折れてたみたいだ。』
『ちょっとそれまずいじゃない…! 待ってて! 今ヒール掛けるから!』
そういうと、足が折れている部位にその丸い手をかざす。
青白い光が現れ、優しく折れた部分を包み込む。
ゆっくりとだが痛みも引いていく。
だが折れた骨が戻る気配はなかった。
それを察してか、申し訳なさそうに口を開く。
『ごめん、あたしのヒールじゃ痛みを和らげるぐらいしかできないの…。』
『…なんで謝る?』
『だって、あたしのヒールじゃ今あんたが負ってる怪我を治せないんだもん…。』
『痛みが和らぐだけでも十分助かるよ。それに謝るのは俺の方だ…。』
『…へ? なんで?』
さっきまで泣きそうになっていた表情がキョトンとした呆気ない表情に変わる。
謝られる心当たりがどこにもないって表情でこちらを見つめる。
『いや、俺があの時あのディアプニルを倒して君にその肉を譲ったから間違われ、こんな危険な目に合わせてしまった。もっとディアプニルに対して知識があれば、番いのディアプニルを見分けて別の安全な方にいけば…』
『そ、それこそあんたが謝ることはないわよ…!』
『だが…』
『あれはあたしの警戒不足よ…。目の前にある肉に夢中で背後から来てた気配にすら気付けなかったんですもの…。』
そう言いながら、視線を折れた足へと戻した。
少し考え事をした後、またこちらの方に視線を向ける。
『…それにあの時だって、あたしは餓死寸前だったの。あのお肉を食べれていなければ、数分後には動けなくなっていたわ。だから前回のと、そして今回のも合わせて。助けてくれてありがとう…!』
頬を赤く染めながら、笑顔で感謝を述べる。
きっと、目の前の可愛らしいクマではなく、美少女だったのならイチコロで落とされるシチュエーションだろう。まあ、このクマでも十分可愛いため、胸にキュンと来るものはあるが…。
『そういえば君の名前は?』
『名前はまだないの。名前を貰える前にパパとママが死んじゃったから…』
『…ごめん。』
『なんでまた謝るのよ。別に謝るようなことじゃないでしょ? それにもうあたしの中で区切りは付けたから。』
『…強いんだな。』
『別に強くないわよ。そうでもしなきゃ、ここでは生きていけないからね。でも、ありがと。』
『おう。あ、俺の名前は…』
『アルフ、でしょ? さっきのあたしも聞いてたもん。』
『そ、そうか。』
『クスッ』
と気を紛らわす様に談笑したところで、どこからか強大な気配が一直線にこちらに向かってくるのを感じた。
嫌な予感がしたので、デモンベアにそのままヒールを継続させてもらう。
その数秒後に…
『アルフぅううううう!!! 無事かぁああああああ!!』
とアダントがその場に飛び込むように姿を現した。
アダントの後に続く様にエフィも姿を現す。
アダントは周囲を警戒し、安全だと確認してからゆっくりとアルフと向こうで骸になっているディアブロアを交互に見る。
『…アルフよ、お前があのディアブロアをやったのか?』
少しだけ悩んで正直に答えることにした。
『…そうだよ。』
そこからアルフが今までの経由を事細かく話していく。
最初こそ黙って聞いていたが、ディアブロアを倒した辺りで静かに呻る。
『…以上だよ。んでこのデモンベアは俺の足をヒールで癒してくれているんだ。』
『………。』
"…やっぱまずいことしちまったかな? 生態系とかに何かしらに影響とかあ"
『やっぱ我の息子さいっきょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
とその場でまたもや咆哮を天に上げる。
もう慣れてしまっていたのでアルフは動じなかったが、デモンベアはびっくりしたのか、ヒールが止まって後ろにコロンと衝撃で倒れそうになるもエフィが鼻先でデモンベアの背中を支える。
『あなた! この子が怖がってるじゃないの!』
『あ、すまん!』
『んもう…。ごめんね、うちの主人が。』
『へぁ!? い、いえいえいえいえいえ! そそそそ、そんな! とと、とんでもないですぅ!』
『ふふ、そこまで怖がらなくても取って食おうなんてしないから。それよりも家の子を助けてくれてありがとうね。』
『いいいい、いえいえいえいえいえ! そんなとんでもない…!』
デモンベアはものすごく緊張している様子だった。
それを見て苦笑しながら、横たわっているアルフの首根っこを軽く噛み、自分の背中へと乗せる。
デモンベアにも背中に乗る様に促し、おどおどしながらもアルフの真後ろの方に座る。
『それじゃあ賢者様の所に向かいましょうか。』
『うむ、我はこのディアブロアを巣に持ち帰ってから向かうとする。』
『それじゃあまた後でね。』
アダントはディアブロアの首を噛みつき、そのまま引き摺る様に住処の方へと持っていく。
エフィとアルフ、デモンベアはそのままエネラの元へ向かうことになった。
特に変わったものはなし。




