崩壊竜が遺した最後の言葉
自らのやるべきことを果たし、アルフたちの元へ走り出そうとしたとき、
『人間さん…』
「…え、誰?!」
突然、ユリアの脳裏に響いてきた声。
口調からしてアダントかと思ったが、距離的に思念話術…は届きそうにない。
周囲を見渡してみたけど、話しかけてきそうな存在は…
「まさか…、魔王さん‥ですか?」
ふと魔王の瞳を見るとこちらを覗くように瞳がこちらを向いていた。
瞳の奥には小さな光が灯っている様にも感じられる。
「え?生きてたの?!もしかして助けられるの!?待ってて、今回復魔法をかけるから!」
ユリアは急いで自分が扱える中で一番効果の高い≪聖回復≫を唱える。
先の戦闘で負った傷が徐々に回復する様子が見られる。
だが、
「…だめ、体が徐々に崩れてってる…間に合わない…」
『やめてください、人間さん。私はもう助からないですから…。』
「そんな…ごめんなさい…ごめんなさい、魔王さん…」
『優しい人間さん。どうか、私の最期の言葉を聞いてください…。』
ユリアの異変に気付いたアルフたちが急いでユリアの元へ駆け寄る。
到着したころにはすでに消滅していく魔王と、それに寄り添い涙を流すユリアの姿があった。
ユリアから、魔王が死ぬ間際に正気を保っており、絶命する寸前にユリアに言葉を残していたことを告げられた。
『それで、魔王は最後に何を言ってたんだ?』
「…最後に、自らの心残りと警告を言ってきました。」
『警告、だと?』
「はい…。魔王として覚醒する直前、自らの巫女を殺され、その復讐を果たせなかった事。」
魔王になる前はすでに崩壊竜として存在しており、その原因を作った存在への復讐を果たそうとしたが返り討ちに合い、死ぬに死にきれず、何とか生き続けていたところに魔王の瘴気にあてられ、魔王となってしまったとのことだった。
『なるほどな…。その相手は?』
「見たこともない魔物…、禍々しい騎士の風貌をしていたそうで、成すすべなくやられてしまったと…」
『禍々しい騎士の風貌をした魔物、か…。』
「そして、もう一つ…多分これが一番重要な内容でした。」
『重要な内容、と。』
「はい。自らが魔王として完全体と成った時、共鳴した存在が4つあったそうです。」
『…共鳴、だと!?』
魔王として共鳴する相手は一つしかない。
『他にも、魔王がいる…ということ?』
つまり、魔王は後4体存在するという事になる。
『なんということだ。魔王の脅威が後4つ存在するという事か…。』
『アナタ…』
『…嘆いている暇はない、森の各守護者に伝令せよ。全ての森を探索し、魔王の脅威を探すぞ。』
『アルフちゃん、私たちは一旦森に帰るわ。アルフちゃんたちはこのままディバイスの町に残って今の話をオードンちゃんに伝えてあげて。』
『わかりました、母様。』
『ではいくぞ!』
アダントとエフィはアンジュの治癒魔法の治療を中断し、自らの森へと目にもとまらぬ速度で戻っていった。
残されたアルフたちは完全に消滅した魔王に弔いの意味を込めて静かに祈る。
崩壊竜が守っていた巫女は人間の少女で、赤ん坊の頃から共に育ってきた大事な存在だったそう。
「魔王さんは今、その子の元に無事行けたのかな?」
『…だといいな。』
『会えているわよ。きっと…。』
それから幾数分が経ち、ディバイスの町へと向かう。
ほぼすべての建物が崩壊しており、被害状況からすれば壊滅状態。
だが怪我人こそ多いものの、死者は1人も出せていないという奇跡に、町を訪れたユリアの姿を見た町の住民たちからは聖女様と崇められるようになった。
一瞬にして人だかりができ、身動き一つできない状況に陥るため、オードンの元にたどり着いた頃にはすでに陽が落ちていた。
「おお、我らが勇者殿。」
「はいぃ…こんばんわぁ…」
元気の塊とも言えるあのユリアが疲れ切ったような声で返事を返す様子に、オードンは苦笑していた。
「すまないな、勇者殿。今や勇者殿は我らを救ってくれた救世主様なのだ。町の者たちも悪気はないのだ…」
「いえいえぇ…大丈夫ですよぅ…」
『大分時間も遅いし、今日は一旦休もうか。魔王戦の後だからな。さすがに疲れただろう。』
「ごめんなさい…」
『ということで、領主様。今日はもう休むことにします。』
「うむ。私に話があってきてくれたのだろうが、今はどうかゆっくりとお休みになられるとよい。だが今の町の状況からして、真面に休める場所はないと思う。一度近くの森へ帰られるとよい。」
『そうね。ありがとう、りょーしゅ様。』
アルフはぐっだりしているユリアを背中に乗せると、オードンに深く頭を下げて挨拶をし、アンジュと共にその場を後にした。
隠密スキルを駆使して誰にも気づかれることなく町を出て、近くの森へと入るとアルフは体を丸め、自らの体を寝床代わりにさせて、ユリアを休ませる。
ユリアに寄り添うようにアンジュも共に丸まり、2人揃って数秒も経たないうちに寝息を立て始めた。
『…お疲れさん。ユリア、アンジュ。この2人が良い夢が見られますように…。』
アルフ自身も静かに欠伸をして、瞼を閉じた。




