魔王戦、終決
アルフとユリアと白銀の騎士、そしてアダントとエフィの2組に別れ、2方向から魔王へと攻撃を開始し始める。
また上空からはヴァレルの射撃とジャーニーの魔法という支援攻撃もあり、攻撃の手が怯むことはない。
そしてなによりもユリアの≪寵愛された勇者の加護≫の効果によって魔王への攻撃が真面に通るようになり、攻撃を受ける魔王の悲鳴からしてその手応えは確かに感じるものになっていた。
『ユリア、今から分身体を作るからユリアはそれに乗り換えてくれ。』
「うん、わかった!」
ユリアに合図を送り、自らの魔力を練り上げる。
「≪幻影・分身体≫!」
アルフは自らの分身体を生み出すと軽く飛び上がり、ユリアを空中に浮かせるとすぐに分身体と自分を交代させる。
するとすぐさま白銀の騎士の元までやってくると、
『同化するぞ!』
「へいへい!」
白銀の騎士の体が不安定に揺れ始め、モヤのようになるとそのままアルフを覆い尽くしていく。
敵の精神汚染を無効化し、かつ、低レベルのアルフが敵の攻撃によって肉体汚染を受けるのを防ぐため、白銀の騎士は同化した際、鎧をイメージしていた。
だが今回は違う。
そういったデバフの心配もなく、≪寵愛された勇者の加護≫によって足りない部分のステータスはある程度補えている。とは言っても一撃貰えば瀕死になりかねない状況であるのは変わりないが。
今、アルフが求めているのは防御ではなく、揺るぎない力。圧倒的な存在を前にしても怯まず立ち向かえる果てなき力。
モヤとなり同化し、形作ったそれは、"剣"だった。
アルフはそれを口に咥えると、一気に駆け出していく。
『ユリア!お前に合わせる!だから存分に暴れろ!』
「…オッケー!これでも剣の鍛錬は毎日欠かさずしてたからね!分身体くん、行くよ!」
ユリアの掛け声に合わせ、分身体は自らの速度を更に加速させる。
魔王が口を開き、禍々しく光ったと同時に無数の光線をユリアに向けて放つ。
が、それを自らの速度を落とすことなく、軽々と回避しながら一気に距離を詰めていく。
その勢いのまま魔王へと飛び掛かると、ユリアは剣に魔力を溜めていたようで徐々に光を帯び、
「聖なる光の一撃をかの者に…!≪ホーリースラッシュ!≫」
光る魔力が魔王の胴体を深く切り裂くように軌跡を残した。
「グォォオオオアアアアアアアアア!!」
魔王の上げる悲鳴が、ユリアの攻撃によって受けたダメージがどれほど深いのかすぐにわかる。
残光する軌跡が、まるで溶かすかのように、傷口から煙が煙があがり、傷口が焼け爛れている。
そのため、自動回復の効果が無効化されているのか、傷口が閉じることがなかった。
間を置くことなくアルフはユリアが付けた傷へと飛び掛かる。
まるで星の輝きの様に淡く輝き始め、残光の軌跡を残す。
「星破連撃斬!」
首を後ろへと大きく捻り、そのまま魔王の横を通り過ぎながら、まるで駒のように体ごと回転させてユリアが与えた傷と同じ場所を連続で斬りつけていく。
計6回転を終え、胴体から尾に掛けて魔王の横をすり抜けるように回転斬りをかまし、その場から離れる。
「「メテオ・ハウリング!!」」
アルフたちの攻撃が終わると同時にアダントとエフィの同時攻撃が反対側の方から魔王へと直撃する。
悲鳴さえあげる暇など与えられず、上空からはヴァレルの支援射撃に合わせてジャーニーの火炎魔法が降り注ぐ。
「グウウ…!! グオオオオオオオオオオ!!!」
が、やはり魔王と呼ばれるだけあるのか、攻撃の手を休めずに与えているにも関わらず、頭を持ち上げ、空中に自らの内に込めた魔力を放ち、それが弾け、無数に枝分かれして周囲を無差別に破壊し尽くす。
アルフたちは間一髪でそれらを避け、体制を立て直そうとしていると、魔王はあの時に見せた≪死ノ雫≫を打ち出そうと全身の魔力を一か所に溜め始めた。
「…!!ダメ、させない…!!」
阻止しようとユリアは自らの剣に魔力を込め始め、分身体はユリアがやろうとしていることを瞬時に悟ってトップスピードで魔王へと急接近すると、
「≪ホーリーグレートスラッシュ≫!」
込められた魔力が剣を媒体に巨大な剣へと形取り、溜め込まれた魔力を叩き斬った。
制御を失った魔王の魔力は相反する勇者の魔力と反発し合い、巨大な爆発を生み出した。
「グオオオオオオオオ…!?」
魔王はその爆発を顔面で真面に受けてしまい、堪らず悲鳴を上げながら大きく仰け反り、そのまま転倒。
『ユリア!』
アルフが急いで駆け寄ろうとしたが、舞い上がった土煙からユリアを乗せた分身体が高く飛び上がり、その場から距離を取る姿が見えた。
ユリアの元まで急いで駆けつけ、怪我の具合を確かめる。
分身体は所々ダメージは貰ってはいるようだったが、あの爆発を近距離で受けた身としてはそこまで深い傷ではなさそうだった。
が、ユリアに関してはほぼほぼ無傷といってもいいほどダメージを貰っている様子はなかった。
『ユリア、大丈夫か?』
「うーん…大丈夫みたい?」
『まったく、無茶をする…。』
「えへへ…。」
魔王の様子を見るとアダントたちの攻撃を受け続け、もう立てなくなるほどボロボロだった。
『…魔王もこれで終わりのようだ。』
「みたいだね…。」
と、アダントがアルフたちの方を向き、まるでこちらに来いと言わんばかりの視線を向けてくる。
アルフとユリアは顔を見合わせ、頷くと、アダントたちの元へと走っていく。
アルフたちが近くまできたのを確認すると、アダントは静かに頷き、魔王の方へと見やる。
そこにはもはや立つことさえできぬほどボロボロにされた肉塊に近い魔王…崩壊竜の姿があった。
傷口からはまるで宝玉のような禍々しい何かが顔を覗かせている。
『ユリアよ、勇者の力を持ってあの宝玉を浄化せよ。さすれば、瘴気は取り除かれ、魔王は消えよう。』
「…はい。」
ユリアは分身体から降りると、魔王へと歩みを進めていく。
『父様、ユリア1人で向かわせて大丈夫なのでしょうか?』
『大丈夫だ。もはや魔王に戦う力も、意志も残っておらぬ。ただ、救いを望んでいるだけだ…。』
ユリアはそっと魔王の体に触れる。
弱々しい脈動を感じられる。手の平から伝わってくる崩壊竜の魔力からはただただ悲しみと怒りが伝わってきた。
「…ごめんね。」
その感情にあてられたのか、ユリアの目からは一筋の涙が零れ落ちる。
「今、楽にしてあげるからね…。」
今度は禍々しい色に染まった宝玉に手を触れ、静かに目を瞑る。
自らの内に感じる力を腕、腕から手、手から宝玉へと流すイメージで注いでいく。
触れた部分から白い光に包み込まれ、それは広がり、やがて宝玉全体を包み込む。
完全に瘴気を取り除いたのを確認し、アルフたちの方を振り向くと手を振る。
「終わったよー!」
その掛け声が、魔王戦の終わりを告げるものとなった。




