覚醒という名のチート
「これが、勇者の力って奴か?それにしては随分と限定的だな?」
周囲の惨劇を見ながら、皮肉を込めてユリアに告げる。
「うーん…。あの攻撃事態を防ぎたかったんだけど、まだまだ使いこなせてないみたい。ごめんねー。」
苦笑しながら言い返すユリア。
ため息を付き、気持ちを切り替えると光剣を生成し、握ると構えなおす。
アダントもゆっくりと歩み寄り、ユリアの目線まで体を地面におろす。
『いや、十分だ。崩れた建物はまた建て直せばよい。破壊し尽くされた森はまた皆で木々を植え、育んでゆけばよい。だが生ある存在はそうはいかぬ。人間、魔族。そして森に住む動物たち。彼らにも家族が居り、仲の良い友達が居り、生活を共にする仲間がいる。その者らが死にゆけば、その者と交わっていたであろう道はこの先決して交わることはないのだ。それをユリアよ、お前は救ったのだ。誇れ、勇者ユリア。』
「…はい!」
ユリアは町の方を見ると、建物の崩壊に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになった者らを救わんと住民たちが力を合わせて救出活動を懸命にしていた。
またある者らは難を逃れ、生き残ったことを強く噛みしめ泣いている者もおれば、抱きしめ合う者らもいた。
そして自らを救ってくれたこの奇跡、それを起こした者が勇者であると誰もがそう信じた。
崩落になんとか巻き込まれず、ゆっくりと立ち上がるジャーニーは裾に付いた誇りを祓い、杖を構えなおす。
遠目でユリアたちの姿を確認し、ジャーニーはほっと胸を撫で下ろすと
「…そっか。ユリアちゃん、やったんだね。なら私も出来る事をしに戻らなきゃ!…必ず勝ってね、みんな。」
静かにそう呟くと、町の住民たちの救出へと向かう。
「覚醒ってやつか。お熱い展開で正直ホッとしたわ。」
『しかし、この力は先代勇者様でもあり得ぬほどの力ぞ…。』
「え?そうなんですか?」
『うむ。我らの仕えていた先代勇者は"指揮する者"と呼ばれていてな、カリスマという能力を持っていて、それは自らの能力を上げるような能力ではなかったが、仲間になった者らの力を何倍にも跳ね上げ、"女神の加護"と同じ力を持った"勇者の加護"を授ける能力だ。そのため、勇者ではなかった我々も魔王にダメージを与えることが出来てな。だからこんなふうに魔王の攻撃から完璧に仲間を守るような能力ではなかったし、まして我の負っていた深手をも完全治癒してしまうようなことはなかった。』
『…かつて、"調べを織る者"と呼ばれた2代目勇者様が使われた≪絶対守護領域≫と同じような力ですね。』
と後方からやってきたエフィが徐に話し出す。
『なに?エフィ、何か知っているのか?』
『いえ、文献や昔話とかでそういった話を聞いたことがあるだけです。確か…発動者を中心に、範囲内に存在する者たちが魔王によって受けるダメージを全て無効化する、という能力でした。でも傷を治癒する…なんて効果は確かなかったはずでしたけど…』
「なにそれ…魔王限定のチートスキルかよ…。…ん?」
「マーくん?どうしたの?自分の手のひらなんて見て」
ふと白銀の騎士は何かに気付く。
その違和感を確かめるべく、再度魔王に向けて一気に距離を詰めながら光剣を投げつけ、スキル≪光弾雨≫を発動させる。
「ちょ、マーくん!?いきなりなに、を…あれ?」
突然飛び出していった白銀の騎士にアダントたちは驚くのも束の間、次々と着弾する光弾の弾幕にさっきとは打って変わって、悲鳴を上げながら大きく怯む魔王の姿に驚愕する。
魔王から距離を取り、アダントたちの所まで退避しつつ大きく体勢を崩して転倒している魔王の様子を見て、白銀の騎士が抱いていた疑念が確信に変わった。
「…こりゃあ、指揮する者の能力じゃねえか?」
『な、に…!?』
その報告を受け、アダントたちは念じ、自らのステータスを確認する。
『…≪寵愛を受けた勇者の加護≫。若干名前は変わってはいるが、先代勇者様の力と同じモノだ。』
「つまり、俺たちはこれで魔王に対して真面に攻撃が通るようになったっつうわけか!」
「"調べを織る者"の力と"指揮する者"の力…。」
ユリアの扱えるスキル等には真新しい追加されたスキルは一つもなかった。
だがその力を、その扱い方を、私は知っている。
そしてそれだけじゃない。
もっと、それ以上の力を感じる。
沸いて沸いて、溢れ、止めることができない。
「私、いきます。今なら、魔王に勝てる…!」
『なら、俺も一緒に行く。』
「え…?」
振り向くとそこには重傷を負って回復に専念するために眠っていたはずのアルフが目を覚ましていた。
そして、蒼白の瞳であったはずのアルフの目は黄金色に光っている。
『アルフちゃん!?』
『息子よ、もう起き上がっても平気なのか!?』
『うん、父様、母様。心配かけてごめんなさい。でももう大丈夫です、戦えます!』
『アタシもいること忘れないでよね!』
とアンジュがどや顔でエフィの上から顔を覗かせていた。
「アルフくん…、それにアンジュちゃんまで…」
『ユリア、俺の背に乗れ。俺の回避能力と機動力でお前を支援する。なんだか体が随分と軽いんだ。』
「えっと、あの…」
アルフはユリアの様子が若干おかしいことに気付く。
顔を赤らめ、もじもじをしている。
何をしているんだ?と言わんばかりの顔で一瞥すると、ユリアの傍まで来るとユリアを口に咥えてそのまま背中の方へと放り投げた。
「ひゃあ!?」
と可愛らしい悲鳴が聞こえたが、
「やっこさん、体制を立て直してきた。そろそろ攻めるぞ。」
白銀の騎士の攻撃で大きく体勢を崩していた魔王が、すでに起き上がっており臨戦態勢状態だった。
口元からこぼれ出ている禍々しい光が、今まさに放たれようとしている。
『大丈夫だとは思うが…。ユリア、落ちるなよ?』
「ふふ、お手柔らかにお願いね。」
「…ったく、イチャイチャしてる暇あったらとっとと突っ込めって―の。」
白銀の騎士に茶化され、アルフも自然と笑みがこぼれる。
気持ちを静め、足に力を込めると地面を強く蹴った。
『いくぞ!』
「はい!」
「んじゃ、行くぞおらあ!」
~スキル説明~
≪絶対守護領域≫
・調べを織る者と呼ばれた2代目勇者様が使っていたとされる防御系スキル。
効果:発動者を中心に、範囲内に存在する味方全てを対象に、魔王によって受けるありとあらゆるダメージを無効化する。
*ただし、建物や地形等の被害は出るため、2次災害によるダメージは防ぐことは出来ない。
≪勇者の加護≫
・≪指揮する者≫の力によって、得られる加護。
効果:≪魔神の加護≫の効果を半減させ、ダメージを与えることができるようになる。
また自身の全能力値を上昇させる。
≪寵愛された勇者の加護≫
・覚醒した勇者がアダントたちに無意識に付与した能力。
効果:≪魔神の加護≫の効果を一切受けず、ダメージを与えることができるようになる。
また自身の全能力を大きく上昇させ、魔王から受けるダメージを半減させる。
変更点
調べを織る者:セージ → ケルヴィラ
指揮する者:カリスマ → ヴァーチェラ




