全てが滅んだ世界で、僕は勇者の夢を見る
いつからだっただろう。
僕は気付けば、何かを追いかけていた。
それは屋敷の住人だったり、駆けまわるネズミだったり、入り込んできた蟲だったりした。
それはきっと、僕の本心を表していたのだろう。
『真実を追いかけたい』
僕は考えることは出来ても、動くことは出来なかった。
僕は夢を見る事が出来ても、実行することは叶わなかった。
いつしか僕は、追いかけることを諦めていた。
…けど。
魔王「何やってんだよ、石像?」
少女「…早くいきましょう、石像さん。次の村まではまだ遠いですよ」
魔王「跡地だがなぁ!家の形が残ってりゃあ奇跡だろう!」
魔王「なんつったって俺の全魔力をつぎ込んだ一撃だからな!」
石像「……」
少女「…石像さん?こんな馬鹿はほっておいていいんですよ?」
魔王「(´・ω・`)」
少女によって動きだすキッカケをもらった。
魔王によって、諦めない心を教わった。
きっと今の僕は、本当は存在しうる事の無いモノだ。
でも、存在した。二人によって肯定され、動いている。
石像「…ううん、なんでもないよ」
だから明日もこうやって、三人で歩いていたい。
魔王「くぁ…っ」
石像「…ていっ」
あんまりにも無防備にあくびをして、大きな口をあけるものだからつい、その辺に生えていた葉っぱを投げ込んでしまった。
魔王「わ?…おおおおおおっ!!?」
石像「うわぁ!?」
魔王「お、おま…ゲホ、そ、それトリカブトだぞ!」
トリカブト…非常に強い毒性を持つ植物。即効性があり、吸収から数十秒程度で死に至る。
ヨーロッパでは、魔術の女神ヘカテーを司る花とされ、庭に埋めてはならないとされる。ギリシア神話では、地獄の番犬といわれるケルベロスのよだれから生まれたともされている。
少女「…もう手遅れ」
魔王「魔族がその程度の毒で死ぬか…ゲホ」
石像「あー…骨は拾ってやるよ?」
魔王「死ぬと思ったらテメェも殺してやる」
それは怖い。かの有名な魔王ならばやってのけるだろう。
もう十秒が過ぎる…症状が出て来るならそろそろ頃合いだろう。
石像「…あ、忘れ物をしてしまった」
魔王「おうコラ待てや」
ホントだよーちょっと前に青い宝石のネックレスをみつけたんだけど拾うのをわすれててさー。
…別にこのままだと殺されるかもなんて考えてない。
魔王「こうなりゃ道連れだッ!お前一人生かしゃァしねーぞ!!」
石像「やめろよ馬鹿!お前だけ犠牲になれ!」
魔王「“壊滅魔法”…!」
石像「ばっかお前それマジなヤツ―――――」
……………………………………………………………………………………………………………
石像「……」
石像「何処だここは!」
見渡す限り一面の真っ白。網膜をドームとして考えたら、空から牛乳を零したような白色。
何処までも続いているようで、希望に溢れているようで、綺麗に見える世界…。
『無限』に『虚無』の続く、美しくも残酷な色。
絵柄のない真っ白なパズルを延々とやっているかのような絶望感。
石像「…はは」
寂しい、と思った。
それが普通だったのに、ぬるま湯に浸かってしまったから。
使い古したパレットのように、僕は沢山の色を自分に重ねてしまった。
世界は残酷だ。それを望んでいるのに、簡単に消してしまう。
漂白剤で洗えばパレットは元通り真っ白に。でも心まで流れ落ちてしまったら…。
僕に一体、何が残るというのだろう。
?「キミの心は残ってるよ」
石像「……」
ダレかが話しかけてくる。それは懐かしい人物で、初めて会う人だ。
そんな事もお構いなしに、僕は一心不乱にうずくまる。
ただの石になってしまえば、何も感じなくてもすむのだから。
?「キミは理解している、自分の事も、他人の事も」
?「だからキミはここに来た、自分の分からない回答を求めて」
何を言っているのかさっぱり分からない。僕がここに来たのは偶然だ。
僕には魔王にあくびをさせるなんて事は出来ないし、自然に起こったことだ。
偶然投げた草がトリカブトで、偶然それが上手い事魔王の口に入った。
全ては偶然によって起こった事だ。僕は望んでこんなところに来たわけじゃあない。
?「本当に?」
?「キッカケこそ偶然かもしれない、だが手段なんてなんだっていいんだ」
?「船で行こうが飛行機で行こうが車で行こうが、目的地が同じなら辿りつく先は一緒だ」
?「魔王の魔法で気絶しなければ別の方法で。眠りの中で起こるかも知れない」
あぁうるさい…だから何だっていうんだ。
知ったかぶって僕を語るな、君に僕のなにが分かるっていうんだ。
「それを言うなら君の方さ」
なんだって…?
僕が…何を知ったかぶってるって?
「ただの石像が言うようになったね、君が歩くことの難しさを知ったのはいつだい?」
「生きることを君が語るんじゃないよ、君はまだ世界中に存在する苦しみの1%も理解していない」
な…っ!?
それと君が僕を語るのと何の関係があるんだ…!
「簡単な話さ…」
「私の言葉で傷付いた"ソレ"が君の"心"だ、君が守ろうとしたものが"心"なんだよ」
……!
「何も迷うことはない、君の求めるものはすぐそばにある」
「私が君に会うのは初めてじゃない…初めて会った日から、君のその素質には気付いていたよ」
勇者「私の名は勇者、かつて君の屋敷に訪れたんだ」
貴女が…勇者!?
そんな…じゃあ、僕は昔に勇者と…
勇者「…もう、行かなくては」
…ま、待ってくれ!魔王が君を待っている!
僕も貴女のことを知りたい!勇者がどんな存在なのか…貴女の言う"心"を僕に教えてほしい!
勇者「それはすでに持っているものだ」
勇者「それに私は記憶の残骸に過ぎない…魔王には悪かったと伝えてくれ」
そんな…なんとかならないの!?
僕は今まで"どうしようもない"って思ったことでも乗り越えてきた!今度は貴女が挑戦する番だ!
勇者「そういう訳にもいかない…
勇者「世界には"決まり"があって"制約"がある、それを無視すれば報いを受けることになる」
なんで…なんで僕の夢なんかに!
魔王は君に会いたがって……
勇者「君に会いたかった」
!!
勇者「魔王とは最期を過ごした、次は君と話したかった…それももう、叶った」
勇者「さよならは言わないさ、またいつか会える」
勇者「その日まで…また」
魔王「――――――い、おい!目を覚ませ!」
石像「あ…れ…?僕は…?」
大声で呼び掛けられて目を覚ます。
魔王が少し慌てていて、端っこの方で少女がうとうとしているのが見える。
魔王「目を覚ましたか…悪いな、俺の魔力に当てられたみたいでずっと眠ってたんだ」
石像「あぁ…そうなのか…」
ふと思いだし、あれが夢だったのかと思う。
だがきっと違う、あれは本物だろう。
何故かそういう確信がある、理由もなにも無いのに。
石像「…ねぇ、魔王」
魔王「おう?」
何処まで続いているか分からない、この世界━━
その全てを歩くと決めて、僕は再び歩き出す。
石像「全てが滅んだ世界で、僕は二人と出会えてよかった」
_____________________________________________Fin.




