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全てが滅んだ世界で、僕は魔王と旅に出る


とある廃墟となった城、そこには不思議な石像がある。

何千年も前から、この城が栄えていた時からずっと見守っていたちょっとだけ不思議な石像。

石像は世界のことを知らなかった。

人類が滅んでも、世界中から動物が消えても。

石像が『知る』という表現は間違っていない。


この石像には意思があり、その石像とは僕のことだ。

なぜその事を知ったのか、それはとある少女が関係する。


少女「…?」


まるで小動物のように首を傾げる少女。

彼女は人間ではないらしい。まぁマトモな動物が滅んだ世界で生きているからには納得せざるをえない。

ところで、今の僕の状況だけど…


宙吊りになって困っている。


石像「…え?何でこうなったの?」

少女「…仕方ない、悪戯好きの…ドリアードたちだから…」


ドリアード。

植物系の魔物で、縄張り意識が強く普段は穏便だが森を荒らす者には容赦がない。

だが、動物が滅んだ世界は彼らにとって最高だろう。


…いいや、『彼女』か。


ドリアード「おや、なにやら動いてると思ったら…アンタかい」

少女「…ひさしぶり」


ドリアードは繁殖の時期に入ると、人間の雄を食らって『種』を取り込もうとする。

その為美しい女性の姿が多い…でも食われるのは嫌だ。


石像「助けて下さい」

ドリアード「えぇ…折角捕まえた獲物をかい?」

石像「獲物って言わないで!?」


大変なことになった(割りと本気で)。

石像の時は体が欠けても少しずつ再生していったが、人間の体ではそうはいかないかもしれない。

そもそもドリアードは獲物を丸飲みして溶かす。

植物だから排泄は全て根から液体となって流出する。

そうなっては石像の時でも死んでしまうのではないか。


石像「…絶対に嫌だ!」

ドリアード「まぁ、どうしても嫌なら仕方ないねぇ…植物系の溶解液に溶かされるのは天にも昇る心地らしいよ?」


文字通り天に召されるじゃないか誰が上手い事を言えと。

第一僕は石像上がりで欲求など無い。眠らなくてもいいし、食べなくても生きられる。

性欲も存在しないのに、快感など求めるはずもない。

至極残念そうなドリアードに恐怖を覚えつつ、ドリアードの穏便さを体験して驚いた。

どの文献にもドリアードの本性は穏便だと書いてはあったが、実際に穏便なドリアードと出会った文献などなかった。


ドリアード「そりゃあそうさ、ドリアードは純情でもあるからね」


ドリアードは親切に答えてくれた。

美しい見た目を持ち、生きるのに水だけで事足りる。

『普通の生殖』でも人と子を成す事の出来る、一途な少女…なるほど、確かにそれは魅力的かもしれない。


ドリアード「“ドリアードは人を食らう”…もうそんな迷信を信じるヤツが私たちを見て怖れてたしねぇ、今も昔も変わりゃしないってわけかい」

石像「え?迷信だったの…?」


とんでもない事を聞いた、もし人類が生きていたら世界中の文献を書き直す事になっただろう。


ドリアード「気に入った雄は木の幹に引きずりこむだけさ」

石像「食ってんじゃん!?」


…いや、やっぱり要らない心配だった。

そう思った時、ドリアードが再び口を開いた。


ドリアード「木の中には魔法で空間を作ってるからね、そこでの1日が外の100年だから、死んだと思われてるのさ」

石像「…え?」


なんだそれ。空間を作り出す魔法なんて聞いた事も無い。

というかドリアードマジスゲェ。リスペクト。

しかし…1日が100年か。

時間と空間は密接には絡み合って、そのせいで空間魔法にはとてつもないリスクが存在する。

1日が100年になるのもその反動なのだろうが…それでも人間にはとても不可能な技だろう。


ドリアード「随分魔法に詳しいねぇ、石像だったんだろう?」

石像「広間に飾られてたお陰か、本を目にする機会が多くて」

ドリアード「ふぅん」


そう言うとドリアードは木々に紛れてしまった。

どういう原理か分からないが、溶けて混ざるように消えてしまい、ドリアードは見当たらない。


少女「…消えちゃった」

石像「気まぐれなのは文献通りなんだね…結局おろしてくれなかったけど」

少女「あ…」


…あれ?これってもしかして…。


少女「…届かない」

石像「ドリアードさぁん!?ドリアードさぁん!!!」


いくら叫べども、帰ってくるのは木霊する声だけ。

ドリアードは森の中を自由に移動できると聞く。捕食者が居なくなった世界にはびこるのは植物だけとなったのだから、物凄い規模の森でも不自然じゃない。

…かなりマズい状況になってしまった。


少女「…ジャンプしても、届かない…このまま?」

石像「う…っそだろ…!」

石像「…うあっ、頭が…」


頭がズキズキと痛む、こんな事は今までなかった。石像だったし。

何が起こってるかもわからない、ただ今は恐怖で一杯一杯だ。

目の前が霞む、一体自分の体に何が起こっているのだろう。

それすら分からないまま死ぬのか、なんとも情けない死に方だと思う。


?「…え?あれ?人間?…うおおおおおおおっ!!!!!」

石像「わああああああっ!?」


びっくりした!滅茶苦茶びっくりした!

なんだこの人!?急に出てきたと思ったら叫び始めた!

肌は普通だけど目が赤い…ってあれ?人間は滅びたんじゃあ…


石像「生きてるぅぅぅぅぅぅぅっ!?なんでっ!?」

?「うるさっ!お前うるさい!!」

少女「…二人とも、うるさい」


人間…じゃあないな、こんな奇抜な服装なんてよっぽど悪趣味なヤツでも着ない。

でも魔物や悪魔の類にも見えないな…服は禍々しくて魔族そのものだけど。


?「えっ?えっ?なんで?滅んだんじゃねぇの、ニンゲンって?」

石像「こっちのセリフだよ…でも君は人間じゃないね?」

?「あぁ、うん、まぁそうっちゃそうだけど…」

少女「…石像さん」


少女が話しかけて来る、今は少し待ってほしい。


石像「ちょっと待ってね少女、この人と」

少女「…その人、魔王」

石像「魔王さんとお話中だから魔王ゥゥゥっ!!?!?」

少女「…だからうるさい」


その男…まだ青年だろう『魔王』は、爽やかに笑って名乗った。


魔王「俺は魔王だ、元、だがな…アンタは?」


人間に作られた僕は、何故だか魔王に親しみを感じていた。

それは誰も居ない世界だったからなのか、それを知る術はないが…。






魔王「ほぉ…石像が意思をねぇ…」

石像「珍しいのかな、やっぱり」

魔王「珍しいっちゃ珍しいが…ドリアードなんかも植物だしな」

石像「あ…そっか」


ツルを剣で斬り、少々乱暴だがおろしてくれた。頭を打ったけど。

話してみると、さらに好感が湧いた。

彼もこの世界に取り残されてから一人ぼっちだったらしく、会話も弾んだ。

少女が寝息を立てる頃になっても、僕らは思い出話に花を咲かせた。


魔王「いやしかし勇者は凄かったな…もう少しで死ぬところだった」

石像「そういや、君と勇者の戦いで世界は滅んだんだろ?」

魔王「ん?まぁそうだが…」






魔王『ハッハァ!!いいじゃねぇか勇者ァ!!』


血沸き肉踊る、とはこの様な事を言うのか。

俺は人生で一番、『生』を感じていた。


勇者『魔王ッ!貴様を殺して平和を取り戻すッ!!』


今まで本気を出せた相手など居なかった。いや、本気を出せば消し炭だった。

本気で剣を振り、魔法を放ち、四肢を振ろうと致命傷にならない。

それどころか圧されているのでは、とさえ感じた。…実際、圧されていたのだろう。


魔王『楽しいぞ、最高だッ!お前と会えてよかったッ!』

魔王『こんな事は魔王としてアレだが…お前になら殺されても悔いはねぇよ!!』


本気でそう思った。この命を捧げるなら、こんな猛者に捧げたいと思っていた。


勇者『そうかッ…実はな!』

勇者『私もだ!勇者として恥ずべき事だが…貴様との戦いが、『楽しい』!!』

魔王『…カッハハハ!クソッタレ魔王と勇者失格らしいじゃねぇか!』


このまま世界の時が止まればいい…そう思いさえした。

だがもう残された体力も魔力も多くない、現実は冷たく進んでいく。


魔王『次で最後だ…お前にゃあ勝てねぇだろうが、魔王としての矜持ってモンもある』

勇者『分からんさ…私だってもう余裕は無い』

魔王『じゃあお互い…悔いのねぇ様に本気でやろう』

勇者『そんな事をすれば…世界が滅ぶかもしれない』


勇者なんだぞ、と言った。

流石だと思ったし、それに感動さえ覚えた…だが。


魔王『構わねェ』


競争心、それ以上の何か、“強いヤツと戦いたい”という本能が俺の中を駆け巡る。

きっとこの機械を逃せば、お互いに満足のいく相手など得られない。


魔王『やろうぜ…最後の最後まで、全力で。…手加減なんてつまらねぇ』

勇者『…貴様は、魔物の長ではないのか』

魔王『一番強いからここにいるだけだ、責任も何も知るかよ』


路地裏に捨てられ、殺し合って勝ち上がり、いつしか隣には誰も居なくなった。

魔王と呼ばれ、刺客は絶えず、ニンゲンからは存在するだけで憎まれる。

それでも…


魔王『テメェは譲らねぇ、本気で来い』

勇者『…ふふ、もし境遇が違えば…良き友人となれただろうに』

魔王『あり得ねぇな、殺し合ってたさ』


俺も、そう思っていたと…

それを望み、協力し合いたかった…“隣”に立っていてほしかったと…

最後まで本音を言う事は出来ず、ボロボロに欠けた刃に魔法を込めた。


一方は世界最強の光魔法を、一方は世界最凶の闇魔法を。


魔王『勇者ァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!』

勇者『魔王ォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!』


閃光が走り、全てを包んだ。城も、街も、星ごと全てを包み込んだ。

その間際に、虫の鳴くような声を、俺は忘れる事が出来ない。


勇者『本気でやってよかった…貴様との戦いは本当に………楽しかった』






石像「……」

魔王「これが全てだ、なんで俺が生き残ったのか、勇者も生きてんのか…分からねェ」

魔王「けど、俺が生きてるなら多分生きてるだろうさ…きっとな」

石像「…何百年も経ってるんだよ?」

魔王「あり得ねェと思うか?」


あり得ないと思う。

人は脆い、ましてや生き残ったとして、何百年という時に耐えられはしないだろう。

どんなに幸運だろうと、寿命は…


魔王「俺は、自分と同じくれぇ強いヤツと出会えるなんてあり得ねェと思った」

魔王「お前もだろ?意思を持つなんて思ってたか?…動けるなんて、あり得ると思ってたか?」

石像「!!」

魔王「俺はもう、勝手に決め付けなんてしねぇ、この眼で見たモンを信じる」


それを人は……


二人「「“奇跡”と呼ぶ」」


魔王「…クハハ、んだよ、お前も結局信じてんのか」

石像「うん…ねぇ魔王」

魔王「あん?」


石像「もし良かったら…僕らと一緒に旅をしないかな?その勇者も探してさ」



こんな寂しい世界にも、温かみを見つける事が出来るなら。

それは人と出会う事だと、僕は思う。

だから探しに出かけよう、僕は…


『全てが滅んだ世界で、僕は魔王と旅に出る』のだから。

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