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全てが滅んだ世界で、僕は不思議な少女と出会う


…いつからだっただろう、自我が芽生えたのは。

とある城に、気が遠くなるほど縛り付けられていた…いや、『存在した』。

僕は生き物じゃない。ゴーレムのような動く物体でもない。

“ガーゴイル”…城の監視をする石像、あれに似ている。


ただ一つ違うのは、アレらは第三者によって命を吹き込まれて生まれるが、僕はそうじゃない。

僕は偶然生まれた『意思を持つ石像』だ。この城が栄え、そして滅びるまでを見てきた。

何千年という月日が流れても、この城には誰も寄りつかない。

今日もまた、変わらない日常が過ぎて行くだけだった…そのはずだった。


少女「……」

石像『……』


石像|(…えっ誰?)


どう見たって普通じゃない。こんなボロボロで汚い古城に、子供が迷い込んでいるのだ。

それに近くに誰かいる様には思えない。迷子だろうか?


石像『……』

少女「…えい」


痛っ!?石を投げつけてきた!?

なんだこの子!どんな教育を受けたら、今日初めて会った石像に石を投げるように育つんだ!

…いや、投げるかもしれない。というか僕でも投げるだろう。

少女は相変わらず黙っている。なにやら不思議な雰囲気を持っている彼女は、引き込まれそうな魅力にも良く似た『何か』がある。

石像だから動けないけど。


少女「…『バイバイ』」

石像|(……?)


今、少女は何と言ったのか。

『バイバイ』と、確かにそう言った気がする。

石像とは言え、僕は誰かの姿を形作られた像だ。声をかけられても不思議じゃあない。

意識が生まれて数百年は、城に人が居たが、誰一人として僕に気付かなかった。

街一番の占い師は、僕の隣の像を指さして『不吉だ』と言った。

どんな凄腕の魔法使いも、占い師も、僧侶や牧師、賢者だって欺いてきた。

きっとあの子も、人の姿の石像にあいさつをしただけだろう。

なんら変わらない日常。それが明日から戻ってくる。


…だけど何故だろう、あの子にまた明日会える、と思うととても心が弾んだ。





少女「…おは」

石像『……』


あの子はまたやってきた。

僕は動けないけど、この子は僕の身体をやたらペタペタ触ってくる。

まるで玩具のスイッチを探すように、目を輝かせて。

親の形見に触れるように、そっと、慎重に。


少女「……」


ただ黙々と作業する彼女は、まるでロボットの様。

ロボット少女と石像。うん、なかなかいい画なんじゃないだろうか。

…問題なのは、僕が鏡を見たことがないって事だ。僕は自分の姿を知らない。


少女「…かっこいい」

石像|(…!)


偶然だろうけど、凄いタイミングだ。

この子はまるで僕が生きてる事を知っていて、話しているみたいな不思議な気分になる。

もちろんそんな事は無いのだろうけど、それでもびっくりする。

僕はこの子と話してみたくなった。無理だけど、生まれ変わったら…なんて思う。

でもこうして何千年も生きているところを見るに、僕は死なないのだろう。

この城に住んでいた人間も、人間が居なくなってから100年程の間は住みついていた動物や魔獣も、いつしか死んでしまう事は知っていた。

どれも500もすれば死ぬことを知った。最も長く生きたもので1023年だ。


だから僕はこの少女を見守った。

もう魔獣も寄りつかないこの城に、何千年も経ってから訪れた、久しぶりのお客様を。


少女「…バイバイ、また、来るね…」


そう言って少女は去っていった。

『また来る』という言葉は僕を支えているようで、なんだかくすぐったかった。





次の日、少女は来なかった。

雨が降っていたのだ、きっと濡れるのは嫌なのだろう。

傘や合羽を持っていないのか?…と疑問に思い、気付いた。

僕はいつしか、彼女を追っていた。

『明日』に怯え、憎んでいたはずなのに、いつしか待ち焦がれるようになっていた。





さらに次の日、少女はまるで約束を破ってしまった子供のような顔でやってきた。

その通りと言えばその通りなのだが、そんなに気にする事だろうか?

僕は石像だ。生き物じゃない。ましてや人間でもない。

無機物と交わした約束など、無いようなものだ。むしろ、無いものだ。

それでも少女は、取り返しのつかない事をしてしまったかのような顔でしょぼくれる。

なんとなく、嫌だな、と思った。


…ガチン!


少女「!」


久々の『運動』だ、上手くいくかは分からないけどやってみよう。

この城は『魔城』だ、魔力を流せばある程度は動かせる。

その力は今までほとんど役に立っていないが、今なら役立つだろう。

止まった歯車を回す。錆びついた魔力エンジンに僕の魔力を流す。

長い針と短い針が上を向いて重なる、そうして音が流れ出す。


リーンゴーンガーンゴーン…


『気にして無い』と受け取ってもらえるだろうか?

勝手に鳴り出す時計なんて、気味悪がって二度と近付かないだろうか?

どちらにせよ、僕は動けないのだが。


少女「……」


何故か僕にしがみつく。

怯えているのだろうか、小刻みに震える姿は生まれたばかりの仔山羊の様だ。

…惜しむらくは、その縋る相手が元凶だと言う事なのだが。


少女は結局、笑顔で帰って行った。

時計を三時まで進め、鳩時計の機能を追加すると、とても喜んでいた。

また明日も来てくれるかなぁ…。





次の日、彼女は大きなバックを持って来た。

中にはブドウ酒とパン、そして水筒らしきものが入っている。

お使いだろうか?『教会』と言う者を信じている者は、ブドウ酒とパンを好んでいた気がする。

この少女も『宗教』とやらを信仰しているのだろうか?


少女「…あげる」


僕の前に差し出しやがった。

こう見えても僕は意思がある。好奇心も旺盛だ。育ち盛りだ。…遅すぎるが。

食べ物…というか、『食事』にはもの凄い興味がある。

物を食べるとはどういう事なのか、どんな感覚がするのか。

だが僕は石像だ。動けないし食べられない。全くの無意味、悲しきかな、人生…いや、石生。


だが少女は諦めないようだ。僕の口にブドウ酒の栓を開けて突っ込んでくる。

…何これ美味ァ!味を感じた!

いやでも…触覚も聴覚も視覚も嗅覚もある。味覚だけないのは不自然か。

しかしこれを教えてくれた少女には感謝だ。僕は思いこんでしまっていたらしい。

石像が食事…かなりおかしな話だが、まぁ別に……ッ!?


石像|(…!?)


身体が…熱い!?まるで身体の部品部品が熱を持っているようだ!

触覚がある…それは熱を感じるし、痛覚もあるという事だ。

だが今まで体験した事のない熱が、僕の身体を駆け巡る。

死んでしまうのかと思うほどの苦しみだ…これほど継続して苦痛が訪れるのは初めてだ。


少女「…大丈夫、貴方は死なない」

少女「…また明日、来るね?」


やっぱり、この少女は普通じゃあない…!

賢者すら見抜けない僕を見抜き、さらにこれほどまでの苦しみを負わされるとは…。

暴れまわりたい。暴れて、少しでも気を紛らわせたい。

初めての感情だが、戸惑うより早く痛みが襲ってくる。

何度も何度もナイフを突き立てられるような痛みに、いつしか僕は気を失っていた…。

生まれて初めての『気絶』は、僕をゆっくりと闇の中へと引きずりこんでいった。





少女「…大丈夫?…生きてる?」

石像『!』


あの少女だ!また僕に苦しみを与えに来たのか!

とっさに身構え、彼女から遠ざかろうと……


『身構え』た?


少女「…どう?動ける身体になった気分は?」

石像「…!」


動ける。足は指の一本一本が動くし、手で色んな物が掴める。

首を動かして周りを確認できるし、立ったり座ったりできた。


石像「なんだこれは…!?」


喋ってまた驚いた。自分が、石像が喋るのだ。

少女はクスクスと笑った。ねぇ、どんな気分なの?、と尋ねた。

僕はしばし呆然とし、そして考えようとした。

この少女は何者なのか、僕は何故動けるようになったのか、僕は一体何をされたのか…

疑問は尽きない、それどころか溢れて止まらない。


少女「…いいや、落ち着くまで待ってあげる」


…この少女は敵なのだろうか。

あれほどの苦痛は何なのか…おそらくだが、身体を作る痛みだろう。

無理矢理に石を血肉に変えて身体を作ったのだろう。その副作用といった所か。

そうして僕の前に姿を現した。何故?

僕に襲われないと分かっているから?僕よりずっと強いから?

僕はただの石像『だった』。魔力は放出できても、魔法のようには使えない。


少女「…どーしたの?」


ニコ、と妖艶な笑みを浮かべた。

その少女は、その年齢からは想像もつかないほど艶めかしい雰囲気を纏っていた。

何千年も生きてきたが、彼女はそれよりずっと…まるで、世界が出来た頃から存在していたかのような錯覚をおぼえる。

恐ろしく、しかし美しい少女にだんだん引き込まれていくのを感じる。


少女「…貴方、お名前は?石像さん、なんて呼びたくないわ」


名前など無かった。僕はただの石像だったのだから。

しかし、これからこの身体で生きていくには、名前が無ければ不便だろう。

人は何かと名前を付けたがる、人間同士はなおのこと、動物や建物まで。

どうしたものか、と呟いた。

必要、となれど、名前など考えた事もない。

名を聞かれれば困るだろうし…。


少女「…名前なんて、聞かれないわよ」


何故だ?ふつう、初めてあったやつには名前を聞くのじゃあないか?

それとも人間はそれほど互いを嫌いあっているのか?

そうだとしても、この少女の知り合いにあった時などは困ってしまうだろう。


少女「…誰も、居ないもの」


僕は黙って少女に続きを促した。

きっと、これから語られる事は、自分に物凄い衝撃を与えるとして疑わなかった。


少女「…知らないの?世界は…滅んだんだよ?」


想像以上の衝撃だった。

何の事もなげに言ってのける少女も少女だが、それほどの事が起こっていたとは。

しかも、それに一切気付けなかった自分が情けない。

睡眠も必要とせず、窓の外の景色を見るだけの日常だったのに…。


少女「…もう、何百年も前」

少女「一人の魔物と、一人の人間が戦って…その結果、全てが死んでしまった」


世界中の動物という動物が死に絶え、何故か植物のみが生き残ったらしい。

ドリアードやマンドラゴラといった、一部の植物族の魔物は生きているらしいが。

彼らは基本的に穏やかで、己の領地を侵すもののみに攻撃的になる。

全てが滅んだ世界では、暇を持て余しているらしい。


石像「…でも、なんで君は生きてるの?」


彼女は見るからに人間で、植物族でもなさそうだ。

呼吸もしているし、魔力も感じられる。その量は、儚い人間らしい微量のものだ。


少女「…だって私、人間じゃないもの」


なら何なの?と僕は訊いた。

笑ってはぐらかすだけで、結局答えてはくれなかった。

ただ、彼女は笑顔で笑いかけ、それが可愛らしいな、と思った。

妖艶な美しさではなく、年相応の可愛らしい少女なのだろう。


少女「…なら、貴方は石像さんね。私は人間」

石像「今は僕だって人の形をしているよ…少女って呼んでいいかな?」


いいよ、と彼女は答えた。

もともと呼び名にこだわるつもりはなかったのだろう。

むしろ僕が決めたのを喜んでいるように見える。こんなにも笑顔が可愛い人は初めてだ。

そういうと、少女は恥ずかしそうに俯いたが。

いままで手玉に取られていた分、その光景は新鮮で微笑ましく思えた。


少女「…残念だね。やっと動けるようになったのは、世界が滅んだ後なんて」

石像「…そうでもないよ」


友達、なんてものに憧れた。

家族、その温かみをいつか知れるのではないかと期待した。

それらは無情にも泡となって消え…新しい物を生みだした。


少女「?」

石像「…ふふ」


『全てが滅んだ世界で、僕は不思議な少女と出会う』。

それが、今の僕にとっての全てなのだから。

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