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白の魔女は湖畔にて待つ  作者: セネカ
1 彷徨と知遇
44/54

32 『新たな刺客?』

「ラト姉、どこまで行ったんだろ?」


 オルガナクロスの十字路から北西に進み、街並みを抜け、緑の平野へと出て……街から続く敷石の道をもうずいぶん歩いたはずだ。

 けれど、先行しているはずのラトが姿を見せなかった。

 ユークは歩きながら片手をひたいに当て、きょろきょろとあたりを見回している。


「あいつはこの道慣れっこだし、俺たちだって迷わないとは思うけど」」


 行く先ははっきりしているし、ときどき港からやってくる人や荷馬車(知ってる馬よりずいぶんたてがみと尻尾が長かったけれど)ともすれ違う。

 だからといって、危険がないとも言い切れない。


「ディーラーや厘軍と鉢合わせる可能性はあります。油断はできません」

「ああ。だけどそれを警戒して先に行ってくれてんだけどな、ラトは」


 オドはずいぶんと張り切り先頭を歩いていた。ユークがその後ろについて、俺は最後尾だ。

 別れ際にイストリトに指示されたきり、ラトは姿を消していた。

 もちろん先にオルミスへの道を偵察してくれているはずだけど……本当にそうなのか、少し不安になってきた。

 それに、ラトとオドはまだ腕輪の影響下にある。

 秘号で無効化しているとはいえ、ディーラー側にはまだそれを利用する手段があるかもしれない。

 単独行動させてよかったのかな。

 イストリト、結構勢いでもの言うよなあ……。


「この先、ちょっと坂になってるね。オド、足元気を付けてね?」

「はい、ユークさん」


 二人の会話に反応して顔を上げると、確かに身長ほどの小高い丘が目の前にそびえていた。

 斜面は気にならないほど緩やかで、ユークの警告はあまり意味がない気がする。

 文字通り地に足ついてないから感覚わかんないのかな。


「ラルドさんが丘の反対側に潜んで待ち伏せする、という戦術をベルさんに教えていたことがあります。だれか隠れているかもしれません」

「えっ! ユウ、どうしよう!?」


 なるほど、気を付けたほうがよさそうだ。

 ……こんな人通りの多い街道じゃなければ、の話だけど。


「さっき向こうから来た人とすれ違っただろ、そんなのいたら怪しくて通れないっての」


 どっちかといえば、警戒すべきは藪とか木とか、すっぽり人の形を隠せるものなんじゃないか。

 オドの張り切り過ぎにつられ、自分も目を細めてあたりを見回してみる。

 ん、あの丘向こうに見えてきた木……赤い実でもつけてる?


「おおーい!! ユウくん、ユーちゃん、オドくーん! やっと来たよぉー」


 その木になっていたのは、もとい、その木の枝に立っていたのはラトだった。

 俺が彼女を見つけるのと同時にこちらを捉えたらしく、手を振り振り大声で叫んでいる。

 斥候役だってのに慎重さもなにもあったもんじゃない。


「あ、ラト姉! よかったぁ、もうあんなところまで行ってたんだね」

「お待たせしてしまったみたいです。いったいどんな魔術を使えばあんな早さで動けるのですか?」


 オドの疑問はもっともだけど、こっちに聞かれてもわかるはずがない。

 あいつ自身はなんでもないように使うし、ユークの言語魔法と似たようなもんじゃないのか?

 ともかく、こちらも手を振りかえしてやる。


「心配したっての! 先に行き過ぎだぞ、ラト」

「んんー? 聞こえなぁい! 待ってて、今そっち行くから!」


 目の前に緋色の髪が揺れていた。

 声が耳に届くか届かないかで、いきなりその主が現れるのだからたまらない。

 有言実行にもほどがある。

 一番前に居たオドなんか驚いて固まってるじゃないか。


「……いきなり目の前に出てくるのは心臓に悪いからやめてくれ、ただでさえいつディーラーみたいのが出てくるか不安なのにさ」

「ごめんって! でもオルミスまでざっと見てきたけど、ほとんど顔見知りの商人さんたちだった。心配ないと思うよ?」


 ラトはこともなげに言う。

 俺たちが追いつくまでにきっちり仕事をこなしてくれていたらしい。

 あんなに文句言ってたのに、イストリトの言うことはなんだかんだで聞くんだな。


「それよりさ!」


 ラトが手を叩いたかと思うと、目の前から消え失せる。

 ユークも俺も面食らってきょろきょろしてしまう。


「早く登っておいでよ! こっから海を見るの、あたし結構好きなんだ」


 すると、また坂の上から声が聞こえてきた。

 なんてせわしない奴なんだろう。

 イストリトなしであいつの手綱を握っていられるか不安になってきた。

 なんて思っているとようやくオドが正気づいたのか、ラトに誘われて坂を駆け上っていく。

 それにユークと俺も続くことにした。


「これが……海なんですね」

「オド、海見るのはじめてなの? だったら、わたしが教えてあげる!」


 年少二人は緑地の向こうに広がる海にはしゃぎはじめ、ラトはそれを見て嬉しそうにうなずく。

 たしかになかなかいい眺めだ。ラトが登っていた木を除けば、あたりには視界をさえぎるものがほとんどない。

 ただ、港がどんなものか確かめることはできなかった。


「あれがオルミスの港? 城壁で囲まれちゃってて、なんも分かんないけど」


 階段を横倒しにしたようなジグザグの壁が海岸線を、おそらくは港街をも隠していた。

 まだ数キロはあるはずだけど、この高台から観察しても上辺が見えないほどの高さ、そして視界の半分を占めるほどの長さがある。

 灯台か物見やぐらのような構造もあり、さながら城塞だ。


「そだよ。邪魔だよねえ、あれ。危ない人やモノ持ち出されるの防いだり、潮風から畑を守ったりするから大切なんだって、先生は言ってたけどさ」

「俺たち、門で足止め食らったりしないよな?」

「だいじょぶ。こっちから入る分には甘い甘い。それに出るときだって、ま、あたしなら……ね?」


 ね? じゃない。

 運び屋、なんて名乗ってたけど普段から危ないもん運んでないだろうな。

 自慢げなのは相手にせず、景色の話を続けることにする。

 

「でも、海側は霧が出てるみたいだな。天気が崩れなきゃいいけど」


 城壁の中ほどからこぼれる海岸線の向こうには、水平線を隠す黒いもやがかかっていた。

 積乱雲がそのまま降りてきたような……いや、それよりもずっと深い黒さだ。


「……えっ? あれが普通だよ?」


 俺の感想を待っていたらしいラトが肩透かしをくらったような顔をする。

 どういうことだ?

 これも異世界ギャップなんだろうか。

 前に教えられた『人を喰う夜』のような――そうだ。

 ラトが教えてくれた話に出てきた魔法使いは、昼でも夜の闇を身にまとっていたじゃないか。


「もしかして、あの黒いのって……まさか、『夜』なのか?」

「うん。なんでそんな当たり前のこと」


 ラトはぽかんとした顔のままだった。

 オドとユークも自分たちの話を打ち切り、こちらに不思議そうな顔を向けてくる。


「んん……裏一つ月だと、もう結構海を隠しちゃうんだね」

「ああいった形で日中に目に見える夜闇を、特別に『夜の(とばり)』と呼ぶんですよ、カゼオイさん」


 ユークはよくわからない心配事をしているし、オドは知識をひけらかしてくる。

 となれば、ふてくされるしか道はなかった。

 

「ああ、うん、分かった……。ただ俺が知ってる海は、もっとはっきり水平線が見えてたからさ」

「スイヘイセン……」

「とは何ですか?」


 やっぱり、三者三葉におかしな顔をされてしまう。

 ただ、ラトは珍しく考え込むような素振りを見せた。


「ね、それってもしかして空と海の境界線のこと?」

「ああ。想像はつくけど見たことはない、のかな」

「オルミスにね、それを探してる人がいるってだけ。『夜の帳』から抜け出て、新しい土地を見つけるんだって」

「冒険家ってやつか……」


 夜に行動するだけでも命の危険があるのに、海を超えるなんてできるんだろうか?

 疑問に思ったけど、今はあまり関係ない話なのでしまっておく。

 ……ラトが答えられるかどうか分かんないし。


「もう行こうよ、ユウ、ラト! オルミスまでもうちょっとだよ!」

「そうですね。雑談はこのくらいにして、目的地を目指しましょう」


 ユークとオドの方は会話に一区切りついたのか、道の先に立って手招きしていた。

 ……そっちだって雑談楽しんでたろうに。

 応じてついてはいくが、なんだか納得いかないので普段よりおしゃべりになってやることにした。


「歩きながら話したっていいだろ。さっきの続きだけど、水平線を探してるのってどんな人なんだ?」

「あ、あたしも友達から世間話で聞いただけだから。領主さんとこで働いてる子なんだけど、その人が何度も何度もやってきてうんざりしてるってぼやいてたなあ」

「じゃあ、その友達のこと聞かせてくれよ。これから行くとこなんだし、知っときたい」


 口に負けじと足を動かし丘を降りていくと、歩を進めるたびオルミスの城壁がどんどん高く大きく感じられるようになっていく。

 見慣れているラトはいつも通りのままだが、オドとユークは前方でひたすら騒がしい。

 俺も内心ははしゃいで写真でも撮りたい気分だった。その手段はないけど。


「コルトって名前のメイドさんでね。お仕事するうちに領主さんとこにも行くようになって、それで知り合ったんだ。歳はあたしと同じくらいなんだけど、背はユーちゃんくらい。でも、すごくできる子なんだよ!」

「たとえば?」

「買い出しに行ったら市場の勘定ごまかし見つけてしかも丸くおさめちゃうし、お掃除のついでに嘆願書の整理と分類もしてるっていうし、いつも時間ないはずなのに屋敷中のお洗濯までこなしてるの」


 思わず、オルミスの観察に忙しかった目がラトの方へ向いた。

 できるメイドってそういうんじゃないだろ。

 まず洗濯を最初にもってくるべきじゃないのか?


「……前半二つ、メイドの仕事か?」

「あと、いっぺん女の子のお客さんばかり集めてる商人さんのところへ潜入捜査に付き合ったかな。けっきょく、ただの布地屋さんだったんだけどね」

「だからそれ、密偵とかの仕事だろ……」


 これ以上とんでもない話が飛び出さないうちに、次の話題に移ってもらうことにする。

 というか、本当に聞きたいのはこちらだ。


「その子はともかくさ、領主さんやコーティカルトって夫人はどんな人なんだ?」

「あたし、見たことしかない。それも奥さんだけね、きれいな人だよ。直接陳情を聞いてくれるって評判だけど、あたしは行ったことないから」

「なら、俺たちとも気軽に会ってくれるかな」


 どうだろう、と答えるラトは友達の話をしていた時よりどこかそっけない。

 軍嫌いもそうだけど、権力をそもそもよく思っていないのだろうか。

 話題を変えたほうがよさそうだ。


「夫人さんがイストリト先生の後輩ってことは、やっぱり青歴院の出なんだよな」

「……ごめん、その話はパス」


 どっちにしろ地雷だった!

 人のことは言えないけど、ラトも自分のパーソナルに関係することはほとんど話さない。

 出会って日も浅いのだから当たり前だ。

 でもジャンドやイストリトに来歴を聞いてしまったからか、なんだかもどかしい心地だった。

 けれど、これ以上突っ込むことはできそうにない。


「そっか。……ところで前から気になってんだけど、この世界には魔物……危険な野生動物? みたいのはいないのかな」

「へ?」


 このまま話を終わらせては気まずい沈黙がやってきてしまう!

 そう思って質問をひねりだしたはいいが、ラトにはまたぽかんとした顔をされてしまう。

 でも、魔法がある世界なら、魔物だっているはずじゃないか。

 ニクスの話にもそれらしい単語はあったのだし、気になっていたことには違いない。


「ディーラーみたいな人間以外に、警戒しなきゃいけない野獣とかがいないかって話だよ。こうしてのんびり歩けてるんだから、今ここらは安全なんだろうけど」

「ああ、そういうの! ここらじゃまず心配ないけど、マハ山とか南のゲルトロウデを通って甫国側に渡る人は、護衛を雇ったりして気をつけなきゃいけないって言ってたかな」


 やっぱり存在はしてるのか。

 イストリトとかウィスハイドにもっといろいろ質問しとくんだった。

 ニクスに直接聞けばいいかも知れないけど、今は外じゃ話せないからラトが頼りだ。


「どんなのがいるか分かる?」

「ごめん、詳しくないから……あ! 海にいるネレイドの話は船員の人が何度も教えてくれたっけ。たまーに海面近くに浮かんでくる細長い手みたいな形のでっかい魚なんだって。大人しいんだけど、操舵をしくじってぶつかった船が沈められかけたことがあるとか言ってた」

「ネレイド? なんか……ユークが言ってたのと似てるな」


 前に彼女から聞いたネーレーイテスはもともと神様だとかいう話だった。

 地球で言うタツノオトシゴみたく、伝説からきた名前なのかもしれない。

 あとでニクスもまじえて聞いてみよう。


「ユウくんの言うようなやつとは違うけど、もっと身近な厄介者もいるよ。オルミスの港のあたりにはドロボーする鳥がいるの。だから、キラキラしたものは絶対に手に持って歩かないでね」

「持ってかれるのか?」

「うん、あっという間に! さっき話した布地屋さんも、甫国から仕入れたつやつやキラキラの生地を持ってかれないように、市場に並べずこっそりやってたから怪しまれちゃったんだよねぇ」

「わかった。二人にも教えた方がいいな」


 ユークの方に駆け寄ろうとする。

 が、彼女は既にオドと二人して立ち止まり、前方を指さし首をかしげていた。

 一体何事だろうか?


「ねえ、あの人何をしてるのかな?」


 いつの間にかずいぶんオルミスに近づいていたらしい。

 港へと続く門が遠目に見える。

 そして、その道はずれに頭を抱えて座り込む人物がいた。

 ユークが指さしていたのは、どうやらそいつだ。


「みんな、ちょっと待って!」


 突然俺たちの前にラトが背を向けて現れ、右腕を広げて俺たちをかばうように立ちふさがった。


「一体どうしたんですか?」

「さっき、オルミスまでの道にいたのはほとんど顔見知りだった、って言ったよね。違ったのは、あいつだけなの。でも、さっきだってこのあたりにいた。とっくに港に入ってると思ったのに……」

「まさか、待ち伏せ?」


 そんなわけがない。

 港から出てすぐの往来のど真ん中で、門の前には歩哨らしき人影だってある。

 こんな場所で人を襲うなんてできっこないはずだ。


「わかんない、でも……」


 ラトはこれまでにない真剣な瞳で考えを巡らせているらしい。

 ここは、ウィスハイドに貰った腕輪の力を試してみるべきかもしれない。

 たとえ相手が魔術師で、腕輪で眠らせられなかったとしても、少なくとも敵だと分かる。

 ただの一般人を眠らせてしまったとしても、道行く誰かが助け起こしてくれるだろう。


「あー! ねえ、そこの人ぉー!!」


 突然響いた甲高い声にぎくりとする。

 うずくまっていたあいつが突然立ち上がったかと思うと、こっちに向かって走り出した!

 深い青色のポニーテールが揺れているのが見える。女の子か?


「待った、一体何の用だよ!」

「ねえ、おねがーい! ボクにあの門を通らせて! どーしても船に乗りたいの! お礼に、ボクの宝物見せてあげるから!」


 その子はすぐそばまでやってくると、一方的にまくしたて始めた。

 オーバーアクションに門を指さしたり、船をこぐ真似をしてくる。

 彼女が手ぶりをするたび、むきだしのへそから目をそらさなくてはならなかった。

 ごく短い袖なしのボレロを羽織り、薄い胸には黒い布が巻かれているだけだ。

 対して、下半身はアラジンの履くようなサルエルパンツでがっちり守っている。

 一言で言い表すなら、中東の踊り子……みたいな恰好だった。


「見せてあげる、ということは……ぼくたちがいただけるのではなくて、見るだけ、なのですか?」

「うん、見せてあげる! ほーらほら、これ。ねえ、見たよね? じゃあ、手伝ってくれるよね?」


 言うが早いか、踊り子は胸元から青く輝く宝石のようなものを取り出し、両手を差し出してこちらに示してきた。

 しばらくそうしたかと思うと顔を乗り出してきて、勝手に話を進めようとする。

 異様なテンションに戸惑い答えあぐねていると、突然目の前を何かが横切った。


「……ドロボー(ローバー)(トロス)だっ!」


 はじめに声を上げたのはラトだった。

 何かが過ぎ去った後……踊り子の手にあった宝石は、消えていた。

 奪われたのだ。ついさっき話に出てきたドロボー鳥に。


「ちょっ、待ぁーてっ、コラァー!!」


 ドスの聞いた声を上げた踊り子は、サルエルパンツをまくり何かを取り出した。

 握りからL字に伸びる筒。

 その根本の突起にかかる親指。

 ……間違いない。あれは拳銃だ。

 街が近すぎる。

 銃声が響けば確実に騒ぎになる。

 ここで撃たせるわけにはいかない!


拘縛の王が(アラステッド)言ノ二(オード・タウ)!」

「にがさな……あぇ、なにするの、……ねむぅ」


 踊り子は鳥に狙いをつけようと俺に背を向ける。

 その首を左手で掴み、右手を腕輪に触れ呪文を唱えた。

 すると、彼女の身体から力が抜け、拳銃も取り落とされた。


「ユウ、鳥が逃げちゃう! 『止まって』ぇ!」


 ユークが叫び、盗っ鳥を阻止しようとしている。

 だが、相手はその声を意に介さないようだった。

 取り返してやる義理はないけど……さすがに放っておけばあとから面倒なことになりそうだ。


「ラト! あいつの下まで走れるか?」

「う、うん! でも、あたし飛ぶのは無理だからね!?」

「そこまで頼んでない! 行ってくれ!」

「この人はぼくが!」


 ラトはうなずき、その姿を消した。

 オドが踊り子を引き受け、両手を自由にしてくれる。 

 あとは……この腕輪の魔術が十分な射程を持っていることを祈るだけだ。

 頼むぞ、ニクス、ウィスハイド。


「届いてくれ! 拘縛の王が(アラステッド)言ノ二(オード・タウ)!」


 俺の声に応えるように、ローバトロスと呼ばれた鳥は失速した。

 もちろん、その嘴にくわえられていた宝石も落下していく。


「よっ……っと! ユウくん! あたし取ったよー!」

「すごい! さっすがラト姉!」

「うんうん、もっと言ってもいいんだよ、ユーちゃん。ユウくんもオドくんも遠慮しないで、お姉ちゃんをもっと褒めなさい」


 宝石はラトがうまく確保してくれたようだ。

 ユークとオドが彼女の方に駆けていく。

 まずは一安心だ。

 あとは踊り子が目覚めるのを待って、事情を聴けばいい。

 

「ユウくん? ちょっと、返事はー?」


 さて、他の三人は銃を知らない。

 このままにしては危ないと、慎重に拾い上げようとする。


(あ……れ?)


 だが、貧血にでもなったかのように体の動きが鈍い。

 息が荒れる。少し胸のあたりが苦しい。

 魔術を二回使ったぶんの消耗なのか?

 オドに怪訝な顔をされながら、やっとのことで銃を拾い上げる。

 撃鉄は起きていない。

 知ってる仕組みと同じなら、とりあえず暴発はしないだろう。


「ユウさん、それはなんなのですか?」


 オドは興味津々のようだったが、俺が警戒しているのがわかるのか迂闊には近づいてこない。

 それは助かったけど、質問に答える口はうまく回らなかった。


「お前は、聞いてないっ……けか。これが、イストリトの言ってた、甫国の武器……ん……?」


 いや、あれ、なんだ……これ?

 引き金が……ついてないじゃないか。



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