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白の魔女は湖畔にて待つ  作者: セネカ
1 彷徨と知遇
12/54

2 『尋問』



 ぼくは木陰に寝かされていた。

 起き上がろうとするが、体に力が入らない。

 背中がじりじりと痛んだ。

 しばらくもがこうとしていると、聞きなれた少女の声がする。


「わたしの名前はユークレート。慧国の魔法使い。あなたの名前は?」

「黙れ、バケモノ……。なんで助けた、さっさと殺せよ!」

「もう一度聞くわ。あなたの名前を『教えて』」

「……サ、ファ、ド」


 歯を食いしばりながらサファドと名乗ったその少年は、ぼくのはす向かいの木にもたれかかっている。

 その手足は木の根のようなもので縛り付けられていた。

 あんなに恐ろしく感じた敵が、今は本当に同年代の少年にしか見えない。実際そうなのだろう。


 傍らにいるユークが、杖に向かって話しかけている。


「……ねえニクス、次は何を聞いたらいい?」

「お嬢は拷問吏として希有な能力を持ちながら、それを活かす才はまったく持ち合わせておらぬようで」


「そいつは……」


 口だけを、どうにか動かすことができた。

 ユークは振り向いて笑顔を見せてくれる。


「ユウ! ごめんね、マルカの結界みたいにうまく治せなくて……痛いよね」

「体が……動かない。痛くはないけど」


 強がりだ。


「それより……何をしてるんだ?」

「見ての通り尋問だ。洽覧深識たる我輩といえど未来のことは知りようがないのでな」

「もう! ちょっと話を聞くだけだよ。……ねえ、どうしてそんなにわたしのことが嫌いなの?『教えて』」


 一拍を置いて、サファドは荒々しく口を切った。


「魔術師は戦争しか能がない、人殺しのゴミクソだ……。テメェも大昔にやらかして、こんなところに閉じ込められてたんだろうが!」

「…………そうかもね。でも、あなたたちを傷つける気はないわよ」

「ウソをつくなッ!」


 言語魔法の効果なのか、ただの罵倒なのかは分からない。

 ただ、吐き捨てられた言葉が彼の本心だということは分かる。ぼくも彼女の問いかけから逃げられなかったからだ。

 彼にとっての魔法使いはユークから聞いていた姿とはずいぶん違うらしい。


「威勢のいいことだ。きさまを生かすも殺すもお嬢の御心次第だというに」

「だから、傷つける気はないってば! せっかく助けたんだから、そんなことしないよ」

「こやつの主義主張よりも、身になることを尋問すると致しましょう」


 ニクスの誘導で、ユークはサファドから様々な情報を引き出した。


 サファドは魔術師狩り(マギ・ディーラー)と呼ばれる組織の一員であること。

 先の二人が失敗したことを知り、手柄を挙げるため独り先行してやってきたこと。

 組織の仲間が追っ付けやってくるであろうこと。


 サファドの故郷は(ホバール)国ということ。

 隣国の(リーンベダ)国の魔術師に故郷を焼かれ、孤児となったこと。

 そのままディーラーに拾われ、そこで教育と訓練を受けたこと。


 慧国という名は聞いたことがないということ。

 ここは先の両国の境界近くで厘国側だということ。

 最寄の人里はそう遠くなく、自分もそこに潜伏していたということ。


「殺せ……殺せよ!これ以上ハジをかかせんじゃねェ……!」

 

 一通りの質問が終わると、サファドは半ば涙声で懇願しはじめた。

 ぼくだって年下の女の子にこれほど丸裸にされればたぶん泣く。

 

「こやつ自身は死を賜りたいようですが」

「ダメ。わたしたちのこと、忘れてもらうだけでいいよ」

「……オレは忘れねェぞ……未来永劫、テメェらを狙って」


 サファドの言葉はそれで途切れた。


「わたしたちのこと、ぜんぶ『忘れて』」


 気を失った彼の傍らに数枚のクッキーと水入りのゴブレットが置かれる。

 ユークの計らいだ。

 仲間がすぐに来るというのならそれで心配はないはずだろう。


「行こっか、ユウ」


 ぼくはといえば、例の軽くなる魔法をかけられ麻袋に入れられている。

 その袋はニクスに紐でくくりつけられ、ユークが歩くとずるずる引きずられていくのだった。

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