挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

悪役令嬢に転生した後、本編に入る前に色々やらかしてしまいました。

悪役令嬢に転生した後、死亡イベントを潰してしまいました。

作者:ゴローン
刑事ドラマとか見てると、1シーズンに数回くらいは発砲シーンを目にすると思います。黒光りした拳銃から弾丸が発射される時の銃声は凄いですよね。油断してたら驚いちゃいます。

でもあれ、実はかなり盛ってるんですよ。ショットガンとかバズーカとかじゃない限り、何十丁もの銃が一斉に発射されても、鼓膜が破れる~! とか気絶する~! っていうほど大きくはないんです。よくよく考えてみたら当たり前ですよね。あんなに大きかったら耳栓してなきゃやってられないですもん。

それより魔法で発射される火の玉とかの方がよっぽど凄い迫力です。もう手元からバスケットボールくらいの大きさの炎が、爆音を上げながら敵陣に突っ込んでいくんですもん。銃なんかより遥かに恐ろしいですよ。





いきなりファンタジー設定入れるなって? じゃあアンタアタシと代われよ!! こちとら身をもって生の銃と魔法味わってんだよ!! 弾丸だろうが炎だろうが当たりゃ死ぬんだよ!!!




「魔導隊退却ッ!! 銃隊と歩兵部隊で前線を維持するんだ!!」

「無理です! 敵軍の兵士が、単独で次々と歩兵部隊を………!!」

「クソ………ッ!! 射撃が済み次第銃隊も退却させろ! この戦線は棄てる!」


中世風の市街地のなか、怒号めいた命令、負傷した兵士達の叫び声、そして銃声を引き連れた弾丸が飛び交います。さっきも言った通り銃声はそこまで大きくないけど、弾丸の威力はドラマや映画とまったく変わりません。当たったら大怪我ですし、運が悪いと、いや結構な確率で死にます。

鼻につくような火薬の匂いが辺りに漂い、街の姿が少しずつ崩れていきます。窓ガラスは砕け散り、普及したての街灯は折れ、白く綺麗な石灰の壁も、次々と黒い弾痕で傷つけられてしまいます。

私がいるのは大通りに面した一軒家の中。枠しかない窓のすぐ下で、乾いた銃声を聞きながら震えて縮こまっています。室内にまで弾丸が飛んで来ることは流石にありませんが、家主が大慌てで逃げ出したのか、強盗でも入ったのかというくらい家の中は荒れていました。


「ううう………どうか誰も入ってきませんように………!」


両手を合わせて私は一心にお祈りを続けます。といってもこの世界の神様なんてよく分からないし、そもそも生まれ変わる前は無神論者でした。ピンチの時だけ祈ったりなんかしても、天は救いを与えてくれそうにはありません。

だけどそれでも私は祈り続けます。だって、この場所にはもうすぐ、私が大好きなダグラスおじ様が来るんだから。おじ様を悲しみから救ってあげられるのは、未来が分かる私しかいないんだから。






とある王国の第三王女である、この私アリシア・エリミーヌ・フォン・ディスクレーゼには秘密があります。それは私がこの姿に生まれ変わる前は、しがないOLだったということ。そして転生したこの世界は、その時にプレイしていた乙女ゲームの世界だということ。

乙女ゲームなんだから、当然攻略対象であるカッコいい男性キャラもいます。ちょっと枯れ専な私の推しメンは、王国の近衛騎士団長ダグラス・ハルトムート様。渋くて風格がありながら、どこか陰のある顔つきに私は一発でオチました。

このダグラスおじ様、乙女ゲーの攻略対象でありながら、実は奥さんも子供もいるんです。じゃあなに、まさかの不倫&NTRルート? だと思ったアナタ、違います。妻子はいることにはいるんですが、戦争で敵の兵士に殺され、本編開始の時点で既に二人とも亡くなっているんです。

妻子を失ったダグラスおじ様の悲しみは、本編でも癒えてはいません。本来のストーリーならそこで恋心を抱いた主人公が寄り添い、おじ様も宿敵の兵士を打ち取り決別して、二人は結ばれる………はずなんですが。

何を隠そうこの私アリシアは、実は主人公じゃなくてそのライバル、俗にいう悪役令嬢の立場なんです。つまりは私がどう頑張っても、ダグラスおじ様とは結ばれないということ。

悪役令嬢に転生したことが分かった時、一番ショックだったのがこの事実でした。元の世界に帰れない事よりも、家族や友達と会えない事よりも、ダグラスおじ様と愛を育めない事が一番辛かったです。

泣いて泣いて泣き続け、苦しみ抜いた果てに私が導き出した結論。それは「ダグラスおじ様が病んでしまう原因となる、妻子の死亡イベントそのものを叩き潰す事」――――――この世界の理に反した、無謀な行いだということは分かっています。

だけど私は我慢出来ません。自分が主役じゃないのはいいとしても、目の前で自分の推しメンが寝取られていく光景なんか見たくないんです。もちろん本当の主人公がおじ様を選ぶとは限らないけど、可能性だけでも潰しておきたいんです。主人公がまだこの国を訪れていない、過去編の今だから出来る。

それにもう後には戻れません。おじ様以外のキャラに関しても、いじめから庇ったり、勝手に会いに行ったり、また会う約束を取り付けちゃったりと好きに動いてしまいましたから。もうシナリオ通りの未来は訪れそうにない。

だったら―――――悪役令嬢らしく、わがままに生きてやる。せめてダグラスおじ様だけは、悲劇から守ってあげる。そう決めたんです。







ひたすら待ち続けて数十分。ついにあの方がやってきました。退却のしんがりを務めたものの、自分の部隊は全滅。妻子を連れて傷だらけの姿で逃げる、ダグラスおじ様が。

妻のナタリーさんは後ろの足首がぱっくりと裂けて、真っ赤な血がだらだら流れ出ています。下に履いている白いスカートの、裾の部分が赤く染まっています。

とっくに限界だったのでしょう、ちょうど私が隠れている家の前で力尽き、よろよろと倒れてしまいました。慌てておじ様と娘のヘザーちゃんが駆け寄りますが、もう背負っていく体力も時間もありません。


「貴方………私はもう………………この子を連れて………逃げて………!」

「な………何を言ってるんだ!! もう少しで本隊に追いつく!! だから、だから早く………!!」

「お母さぁん………! 起きて、起きてよぉ………!」


二人が悲痛な顔で必死に呼びかけますが、もう奥さんは碌に返事も出来ていません。この市街地に敵軍が侵攻した直後、おじ様の奥さんと子供はずっと捕えられていたのです。

王国の軍との戦闘は三日三晩続き、命からがらおじ様は二人を助け出したのですが………努力もむなしく、この場所で殺されてしまいます。そう、あいつに―――――


瀕死の三人の元に歩いてくるのは、真っ黒の鎧を身に着けた一人の兵士。機能的で余計な装飾は一切なく、まるで鎧が本当の姿のようです。

持っているのは、同じく黒の槍をただ一本だけ。鎧と一緒で最低限の耐久性しか持っていなさそうなのに、傷一つ付いてはいません。

一見したらそこまで強そうには見えないこの兵士こそが、ダグラスおじ様の部隊を壊滅させ、そしてこの場で二人を殺す敵軍の幹部、トール。幾度も刃を交えたおじ様の宿敵。雷のように、瞬く間に敵を滅ぼすその強さから、付いた二つ名は「黒騎士トール」――――――

改めて思います。設定が雑だと。雷になぞらえるんだったら、なんで鎧を金じゃなく黒にしたんだと。そしてどうして名前をトールにしたんだと。この人の親は子供が雷神の如く活躍するのを予見していたのかと。だとしたら私以上のエスパーです。

そして意外に小さいぞと。おじ様の奥さんより背が低いです。ハードボイルドな悪役なので結構好きなキャラだったんですが、ちょっと冷めました。いやまぁ、予想はしてたんですが………


「頼む………妻と、娘だけは………!」

「………狂犬と呼ばれたお前が、家族を庇うとはな………人は変わるものだ………」

「何故だ………なぜ今更、俺の前に現れた!!」

「………鈍った決意を奮い立たせる為だ。愛は剣を曇らせ、自ずと敗北を(いざな)う。縛鎖を断ち切る為に、俺はこの槍を振るう………」


黒騎士は槍を構えながら、おじ様にそう言い放ちます。でも実はこれ伏線なんです。この言葉はダグラスおじ様ではなく、自分自身に向けて言った言葉なんです。

そして黒騎士の声は、変に低いです。元々高い声の人が、無理してしゃがらせているような、そんな風に聞こえます。この声も結構低い身長も、ちゃんと理由があるんです。


黒騎士が奥さんに襲い掛かるまで、もはや一刻の猶予もありません。だけどまだチャンスじゃない。ゲームのシナリオ通りなら、あともう一つセリフがあるはず。背中にじっとりと嫌な汗を浮かべながら待ち続け、奴はついに言い放ちました。



「………これでようやく、断ち切れる………」



槍を高くかかげた黒騎士が、聞こえるか聞こえないかの大きさでそっと呟いた瞬間。私は手に持つマスケット銃を構えて、住宅から飛び出しました。

一瞬の硬直。まさかまだ逃げていない住民が居るとは思いもよらなかったのでしょう。おじ様も奥さんも子供も、そして黒騎士すらすぐには反応できません。千載一遇のチャンスを狙い、私は小さな体で銃を構え、黒騎士の胴体に向かってぶっ放しました。

撃った瞬間に聞こえてきたのは、やっぱりそこまで大きくは無い銃声。だけど威力と反応はドラマ通り。齢11歳の私はもろに反動を喰らい、住宅の壁に背中を強く打ち付けます。

当たれと願った鉛の玉は、無事に言うことを聞いてくれました。マスケット銃の弾は、過たず黒騎士の左腕へと飛んでいきます。この日のために、何回も練習した甲斐がありました。そして、もろに銃撃を喰らった奴は―――――


「――――くうぅぅ………………ッ!!! 貴様、いつからここに………ッ!!」


かなり高い声を絞り出します。そりゃもう男性では発声不可能な、JCっぽい可愛い声。声を聞いたダグラスおじ様は、「お前、まさか………!!」と驚いています。

そう、実はこの黒騎士トール、女性なんです。兜と甲冑で全身をぴっちり覆っていますけど、別の攻略キャラのルートでは、主人公のライバルとして出てきます。とはいえ今は詳しく説明している暇はありません。

黒騎士がうずくまっている間に、私は素早く家の中に戻ります。そして取っ手を掴んで持ってきたのは、用意していた台車。呆然としている三人の元へ、ガラガラ音を鳴らして近づいていきます。


「これを使って!! 早く!!」

「き、君は、確か、第三王女の………! どうしてここに………!」

「いいから早く!! 後でお話しますから、今はとにかく逃げて!」


混乱しているおじ様を急かして、私達はナタリーさんを荷台の上に乗せます。背負っては運べないおじ様も台車ならなんとかなるようで、私に言われるがまま慌てて引っ張っていきます。悲しいことに、なかなかどうして似合ってしまっています。



ついにやってしまいました。本来ここで死ぬべきだった二人を、私のわがままで助けてしまいました。これからこの物語がどうなってしまうのか、私には分かりません。

だけど後悔はありませんでした。大好きなダグラスおじ様が悲しむこともなくなったし、黒騎士との因縁もなくなります。あのキャラも結構好きだから、おじ様に殺されることもなくなって嬉しいんです。

走りながら後ろを振り返ると――――――腕を撃たれた黒騎士は、追いかけもせずペタリと座り込んでいます。いくら撃たれたとはいえ、動けないほどの重傷ではないはずです。

やっぱり、一度くじけてしまったら、そう簡単に覚悟を決め直せないのでしょうか………そんなことを考えながら、私はおじ様を連れ一目散に逃げ出していきました。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ