ブラジリアン・ミドルキック
「てめえ、オレの女に何しやがる!!」
唐子は怒声より先に、蹴りを放つ。
口より先に手が出る性格なのだ。
前足を踵から踏み込み、地面の反発力を受ける。
その勢いで股関節を回転させ、畳んでいた膝をしならせる。
健康的な太股がミニスカートを翻す。
てめえは、生足の付け根に気を取られ、反応が数瞬遅れる。
健康的な少年男子の邪な欲望が、回避を遅らせる。
スパッツ履いてます、残念!!
目に映ったグレーの短パンに舌を打つ。
避けられないのでガードを固める。
腕を畳み肩をすくめ首を固め、衝撃に備える。
歯を食いしばる。唐子の蹴りとガードが激突する。
硬い革靴が上腕を激しく叩く。
ハイキックに大股開いても、スパッツ吐いてますから。残念!!
重い蹴りに腕のしびれを感じながら、また舌を打つ。
いくら頭では、スパッツを履いていると分かってはいても、健康的な思春期真っ盛りの健全安全青少年の最優先される本能が、もしかするとを期待させてしまうのだ。
「生意気にガードしてんじゃねえ!!」
蹴りを思いっきりぶち込む快感を邪魔され、唐子が逆ギレる。
物足りなさに苛立ちながら、次の攻撃に移る。
スパッツがてめえの目を奪ったため、まだ唐子のターンだ。
防がれた蹴り足を戻し、もう一度同じハイキック。
さすがに、てめえは三回も見とれない。
先ほどのガードにもう一方の腕を加え、両腕をクロスさせる。
上体を少し上げて、蹴りを待ち構える。
蹴られる寸前に、腰を落としその重力で、蹴りを弾き跳ばそうとする。
沈墜勁十字受けだ。
かかった!!
唐子の蹴りが変化する。
膝の軌道は初弾と同じだが、膝から先が今度は変化した。
膝下中上変化蹴り(ブラジリアン・ミドルキック)。
柔軟な膝関節がそれを可能にする。
顔面と見せかけ、(胴体)ミドルを蹴るフェイント技だ。
てめえは、まんまとフェイントに引っかかり、唐子の蹴りが今度こそ炸裂する。
てめえの胴体にまともに蹴りが入る。
衝撃が筋肉と骨のガードを突き破り、内蔵にダメージを与える。
息が詰まる痛みに、てめえの動きが止まる。
隙だらけだ。
唐子はその隙を見逃さず、とどめのハイキックを放つ。
蹴られた痛みに膝を着きたい衝動を利用し、てめえは屈んでハイキックを避ける。
唐子の蹴りが宙を泳ぐ。
片足立ちの不安定を見逃さず、てめえは唐子の軸足を刈る。
前足で軽く軸足を引っかける。
それだけで不安定な唐子はバランスを崩しよろめく。
ヤバい!!
蹴りを思いっきり空振ったせいで、身体ごと泳ぐ。
足の刈りに何とか転倒は免れたものの、バランスは崩したままだ。
次の行動には移れない。
てめえは屈んだことで足に力を蓄えている。
飛び込み突撃されたら、避ける手だても防ぐ手だても唐子には無い。
てめえは、じわじわ増してくる痛みに、歯を食いしばる。
足に蓄えた力を何とか解放する。前に倒れるように地面を蹴り、唐子へと迫る。
ヤラれる!!
全力ダッシュで迫り来るてめえに、唐子は身を硬くする。
防衛本能が勝手に衝撃に備える。
その横をてめえが駆け抜けると同時、始業開始の予鈴が鳴り響く。
負けを覚悟した唐子の顔が、拍子抜けとその照れ隠しに、見る見る赤くなっていく。
脱兎のごとく走るてめえの背中に罵声を浴びせる。
「オレは負けたなんで思ってねえぞ。てか、こら逃げんな!!」
じたんだを踏む唐子を置いてけぼりにするてめえ。
登校時の毎度毎度の光景、風物詩に、同校生達が呟く。
「てめえ君の勝ち逃げは、これで何度目かしらねえ」
「唐子さんの負け惜しみは、パターンが少ないわねえ」
「二人とも元気ねえ」
学生都市第三学園の朝は、いつものようにこうして始まった。




