エンディング
「ねえ、知ってる? 今日転校生来るんだって」
「知ってるよ、さっき職員室でそれらしいの見た。
後ろ姿は美人だったよ」
「髪はどんな感じだった?
長い?
短い?
ウェーブは?」
「うるさいよ、この髪フェチが」
クラスメイトの空騒ぎが聞こえてくる。
もうすぐホームルームが始まる時間だ。
あれは夢だったのだろうか?
買い出しに出かけ、よく分からない影に襲われ、セーラー服と日本刀が現れて、ファンタジーものに出てくる虎型獣人に襲われて、幼女を慰めて、そこからの記憶が無い。
気が付くと自分のベッドの中だった。
身体のどこにも傷も何もない。
ただ臑だけがなぜかひどく痛かったが。
翌朝まかなさんに聞くと、買い出しから帰ってきて、疲れた、の一言の後部屋にこもったらしい。
夜中に叫んで起きたようだが、まかなさんが心配してホットミルクを入れてくれたようだが、それを飲んだ記憶もない。
記憶が曖昧すぎる。
あまりにリアルな夢だったが、もしかするとあまりにリアルな夢を見る、あまりにリアルな夢だったかもしれない。
境界線が曖昧だ。
だが、いつもの日常は否応無く始まっていく。
また見るなら、今度はもっと楽勝な夢がいい。
二回も三回も死にかける夢なんて、目覚めが悪い。
予鈴が鳴り、クラスメイトがばたばたと席につく。
扉が開き、担任教師が教卓に進み、その後に噂の転校生が続く気配がする。
「黒髪、長髪、痩身、色白。
美少女、セーラー服、カチューシャ、サラサラ。
切れ長、手足長、ボン、キュ、ボン。
やーん、女子力高すぎるうー!」
歓声が遠くに聞こえる。
何だか異様に眠い。
頭を上げる気になれない。
登校してから、ずっと机に突っ伏したままだ。
担任教師による紹介、転校生自身による紹介が続いたようだ。
「先生。
ワタシ、あの人の隣がイイです」
歓声。
今日は教室が騒がしい。
眠れそうにない。
顔を上げる。
首を鳴らし、伸びをし、焦点を教卓に合わせる。
目が瞬時に覚醒する。
驚きのあまり立ち上ろうとして、机の底で太股を強打する。
セーラー服と日本刀のいやな女。
見覚えのある顔がそこに立っていた。
夢の中での見覚え、あれはリアル?
いや傷が無い。
いや。
混乱する幸運に対し、正宗はもう一度宣言する。
「先生。
ワタシ、あの人の隣がイイです」
また歓声。
中途半端に立ったまま固まる幸運。
それににっこり微笑む正宗。
噂好き女子が、一番槍の勢いで切り込んだ。
「はい、しつもーん。
どうして正宗さんは、幸運の隣がイイんですか?」
正宗は少し顔を赤らめ、照れ隠しに熱くなった頬に手を当てる。
クラス中が正宗の次の一挙手一投足に注目する。
「だってぇ、幸運さんはワタシの許嫁ですから。
きゃっ、恥ずかしい」
「なあにい!?」
クラス中に歓声が巻き起こる。
扉が開き野次馬が飛び込んでくる。
「てめえ、やるじゃねえか」
「お兄ちゃん、どういうこと?
聞いてないよ」
「うほん、部員。
うちの部は、不純異性交遊は禁止しているはずだが」
「部員さん、ちゅ、ちゅ、注意します」
「お、幼なじみちゃん。
ふ、不潔だよ」
「あら、あなた。
二号さんね、ふふ」
急転直下の出来事に、幸運は腰を抜かしていた。
何が起こったのか理解できない幸運に、正宗は優しく微笑んだ。
「今日からよろしくね、ダーリン♪」
湧くクラスメイトに、詰め寄ってくる関係者。
あなたと正宗の物語は、こうして始まった。




