逆転
「死ね! 死ね! 死ね!」
業を煮やした虎が咆哮する。
心臓が爆発的に血管に血流を送り、筋肉がパンプアップ。
身体全体が二周りは膨らみ、光を血走った目で睨みつける。
再生力、回復力を攻撃力に転化した虎獣は、道路脇の街灯を駆け上り、跳躍。
牙をむき出しながら、天高い頭上から獲物に襲いかかる。
その巨体が光に覆い被させる。
縮地。
光は獣の跳躍と同時に、背中から地面に倒れ込む。
背中が地面に跳ねる。
その反動を利用し、中空である前に倒れ込み、中空に左足を踏み込む。
破裂音。
前に倒れ込んだ慣性を、踏み込み足のブレーキングにより、股関節の回転エネルギーへと変える。
足首、膝、股関節、腰椎、胸椎、胸鎖の各関節がてこの原理で連関加速。
増幅した回転エネルギーが肩甲骨を発射する。
肩、肘の内旋がエネルギーを集約し、拳へと伝える。
後ろ足の蹴りに、アスファルトが陥没し、深く埋められた水道管が破裂する。
最大最強最速の右ストレート。
拳が一層強く輝き、辺りを光で包み込む。
その加速が光を越えた。
虎の爪より、牙より一瞬だけ早く、光の拳が虎を捉える。
爆発音のような破裂音と共に、虎の背中が弾け飛ぶ。
体毛が、表皮が、筋肉が消し飛び、骨格と内蔵を露出させる。
拳の衝撃力は虎を吹き飛ぶことさえ許さない。
その場にとどめ、衝撃が貫く。
虎の胸を捉えた拳は、体毛、表皮、筋肉、骨格を突き破り、心臓を破裂させ、背中を爆散させたのだ。
緩められると言うことは、逆に硬くなれるとも言うこと。
全身と見にまとう大気さえも、真綿から鋼へと光は変化させていた。
あまつさえ中空に踏み込むなど、物理限界さえ超越する宝玉のなせる力だった。
虎は、口から舌と涎と血を吐き出し、うつろな目には涙さえ浮かんでいた。
自分の再生力、回復力を転化した攻撃に、光を越えた拳でのカウンター。
相手の攻撃力に、自分の攻撃力を加えたその威力に、再生も回復も思考さえも停止していた。
「チェスト!!」
破裂した水道管から吹き出す水を切りながら、正宗がその頭上に飛来する。
再生する時間など与えない。
正宗の宝玉が強く輝く。
大上段の蜻蛉から、宙を蹴って刃を振り下ろす。
最後の二撃、一の太刀に迷いあらず。
宝玉の力、全部持って行け!!
虎の首が飛ぶ。
切断された頸部から黒しぶきが吹き上がる。
宙に飛んだ首を宙を蹴って追い、正宗はもう一度気合いの限り叫んだ。
「キィエーイ!!」
虎の頭蓋骨が、縦一文字に真っ二つに叩き割られる。
心臓の破壊、頸椎の切断、脳の破壊の三条件すべてが揃う。
その証拠に、虎の亡骸が静かに霧散する。
着地した正宗は、膝をつく。
宝玉の全力使用の二連撃は、負荷が大きい。
荒い息のままではあるが気丈にも直ぐに立ち上がり、刃を鞘に戻す。
ぎりぎりの戦いだった。
もう一振りもできる力は残ってはいない。
その場に大の字に倒れたい。
その衝動を何とか堪える。
勝てたのは幸運でしかない。
だが、とにかく勝てたのだ。
二十三異を葬ったのだ。
この功績は大きい。
勝利の実感に、正宗の呼吸が整う。
幸運の正体に足を向ける。




