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「いないの」
まばゆい光が収まる。
目の前に現れたのは、膝を抱える小さな物体。
淡い白のワンピースを着た理香より小さい、いや幼い幼女が膝を抱えうずくまっていた。
「いないの、ゆうしゃさまがいないの」
泣いているのか、うつむいた幼女の胸元が、一粒一粒濡れている。
「ちからがほしいの。
せかいをすくえる、ゆうしゃさまのちからがほしいの」
バカの存在に気づいていないのか、ずっと泣いたままだ。
顔を上げる気配はない。
ワンピースの胸元の粒が染みとなり、広がっていく。
「いないの」
何が何だかよく分からないバカは、幼女に近づいていく。
幼女はそれでも気づかず、強く泣きじゃくる。
自分のワンピースを掴んで、両腕で自分を抱きしめる。
「ゆうしゃさまがいないの、せかいをすくいたいの」
バカは理香にそうするように、少し屈んで手を伸ばした。
嗚咽する幼女は、不意に頭に温かな感触を覚える。
自分の世界にはない、伝わってくるその温かさに泣き声が止まる。
顔を上げると、何かがそこに立っていた。
絵本でしか見たことのないその姿に、目を奪われる。
貧弱そうな骨と肉に、知性を感じない目。
だが吹けば飛ぶそうな手からは、この上ない格別の温かさが伝わってきている。
「もう大丈夫。心配ないよ」
「痛いの痛いの、飛んでいけー」
「だったら一緒に勇者様を探しに行こう」
「オレがその勇者様だ」
などはバカは気の利いた事は言わない。
無言で、幼女の目から浮かぶ涙が止まるのを待つ。
温かさに、幼女の涙が止まる。
ぼやける視界をしっかり見ようと、袖で涙を一生懸命拭い、顔を上がげる。
つぶらな瞳に映る自分に、バカは触れていた手を引く。
座り込んだ幼女に、深く屈んで目線の高さを合わせる。
手を差し伸べ、精一杯微笑む。
さあ、一緒に行こう。
幼女は差し伸べられた手に、おっかなびっくり触れる。
バカはがんばって微笑んで、えくぼを見せる。
手に伝わってくる、自分の世界にはない活力に、幼女は心を決めた。
「あなたがせかいをすくうゆうしゃさまなの!!」
そう叫ぶなり、幼女はバカの胸に思いっきり飛び込んだ。
契約完了。




