直ぐに調子に乗れるのは、溺愛されてきた証拠。
アンタは両方を見やる。
セーラー服と無数の影が対峙している。
日本刀女は自分を庇うように、影と自分との間に立っている。いやな女の上体が硬い。
スカートが小刻みに揺れている。
思わず、心配してしまう。
「おまえ、震えてんじゃねえか?」
「う、うっさいわね。
命の恩人に向かって、おまえとは何よ。
もう、武者震い。
そう、武者震いよ、これは」
影から目を逸らさないまま、正宗は背中越しに強がる。
自分の恐怖を図星に指摘され、恥ずかしさに顔が赤くなる。
そんな悪いタイミングで、正宗の背後に影が浮かび上がってきた。
前にばかり気を張っていたので、正宗はその気配に気づくのが遅れる。
位置も左後方と、刀を持った右腕から一番遠い。
影が手を伸ばす。
回避は間に合わない。
あの虚脱感を思い出す。
瞬間、身体が動いていた。
無我の境地。
速いのか遅いのか、遅いのか速いのか、分からない動き。
とにかく動いたと思ったら、次の瞬間には事を終えている。
そんな無我の動きで、影にタックルをぶちかましていた。
パンチでもキックでもないのは、正宗から影を遠くに引きはがすためだ。
無言のぶちかましが、影を吹き飛ばす。
数メートル宙に浮き、電柱にぶつかった後、影が霧散した。
無我の動きとはいえ、ダンプカーにでも跳ねられたような威力、現実的にあり得ない威力に、ただただ驚く。
さっきは触れたところから虚脱感が来たのに、今度は全くない。
もう一体浮かび上がってきた影を切り捨てながら、正宗が解説する。
「ワタシの活力を分け与えたんだから、当然よ」
「こいつらを、ぶっ飛ばせるってことか?」
理屈は分からないが、とにかく検証、試してみる。
浮かび上がってきた影に、軽くジャブを放つ。
ジャブの衝撃に、影は縦回転しながら吹き飛び、かき消える。
手応えに身体が震える。
いつの間にか、アスファルトに削られた裸足の傷も、全快している。
これなら、イケるぜ!!
自信が体中を駆けめぐる。
下腹部からの熱が血をたぎらせる。
「何にしても一時的なものよ。
感謝しなさいよ」
正宗の言葉を最後まで聞かず、殺されかけたお返しとばかりに、アンタは影に襲いかかる。
逆襲だ!!
近くに浮かび上がる影に、片っ端から殴りかかる。
ジャブ、ジャブ、対角線ハイキック。
影が横殴りにぶっ飛び、消滅する。
後方に肘打ち、そのまま裏拳。
振り返って、頭を掴んでの飛び膝蹴りを顔面にたたき込む。
伸ばしてきた手を払いながら掴み、足を刈る。
体勢を崩した胸元にかかと落とし。
数体重なったところを、助走をつけてのドロップキック。
ゲームのように技が爆裂する様に、アンタは酔いしれる。
面白いように技が決まり、その威力・手応えはマンガ的だ。
自分史上最高のコンディション、最大に身体が軽い。
最強な絶好調にのぼせ上がり、一直線に大きな影へと向かう。
立ちはだかる影の隙間を、軽やかなステップですり抜けながら、影を吹き飛ばしていく。
上体回避、上体潜行、拳での受け流し(パリング)で全弾回避し、ジャブ、ストレート、フックで吹き飛ばしていく。
最後の影をアッパーで天高く突き上げ、アンタは大きな影と相対した。
身体は上り調子だ。
どんどん動きが良くなってくる。
それに、どんな攻撃でも100パーセント、減退率ゼロの最大威力で命中する。
酔いに酔いしれたアンタは、真正面から大きな影に突撃する。
「あのバカ」
その無謀な姿に、取り囲まれた影を切り捨て、正宗は跳躍した。




