大胆な蘇生
「ちょっと、いつまで」
遠くに声が聞こえる。
夢の中から現実の目覚まし時計のアラームにつながったような。
声の大きさが増していく。
「もう、とっとと起きさないよ」
わき腹に痛みを感じる。
咽せながら目を覚ます。
目に入ってきたのは、自分をのぞき込む人影。
女?
セーラー服?
ぼやけた焦点が整ってくる。
セーラー服姿の女が、間近で民間人を見下ろしている。
そうだ!
あの時気を失って。
あれから、どうなったんだ!?
思考が覚醒する。
慌てて飛び起きる。
そこでやっと気づく。
お腹に刀が突き刺さっていることに。
Tシャツがめくられパンツを少し下げられ露出させられた下腹部に、金属色に輝く刃が突き立てられていたのだ。
「ちょ、おま」
「やっと起きたわね。
ったく、とっとと起きなさいよ」
正宗は驚く民間人を無視し、民間人の腹部から切っ先を抜く。
「ちょ、おま、血が出る、血が出るよー」
取り乱して叫ぶ民間人を無視し、刀身を鞘に納める。
民間人は飛び起き、刃が突き刺されていた下腹部を触る。
必死で傷口を押さえる。
あれ?
無い、無い、無い。
どこにも無いぞ。
下腹部を何度も探す。
そこには、傷口もなく血も出ず、痛みもない。
どころか刺されていた部分が温かく、心地よい熱ささえ感じる。
なんぞこれ?
状況を全く理解しできない民間人に、正宗はため息のあと、状況を説明してやる。
「奴等にとり殺されそうになってたアンタを、この正宗様が助けてあげたのよ。
感謝の意は?」
アンタは思い出す。
そうだ、あの時死を覚悟して意識が薄れていって。
最後に薩摩示現流の独特の気合いの声が聞こえたような。
自分の思考に入るアンタに、正宗は苛立った声を上げる。
「お礼の言葉は?」
「ありがとう」
その剣幕に、アンタは反射的に答えてしまう。
それでも正宗は満足せず追い打ちをかける。
「ありがとう?」
「ありがとうございます」
物足りない剣幕に、大きな声で大きく頭を下げる。
その姿にやっと満足したのか、正宗は鼻を鳴らした。
「奴等に、存在を食われて死にかけていたアンタを、この正宗様が活力を分け与えて回復してあげたのよ。
その点について」
「ありがとうございました」
食い気味に感謝する。
大げさに頭を下げた姿に、正宗は鼻を満足そうだ。
頭を下げたまま、パンツとTシャツを直し、辺りに目をやる。
確かに影の姿はどこにもない。夢のように消え去っている。
虚脱感も全くなく、むしろ刺されていた下腹部から熱が全身へと溢れている。
身体が異様に軽い。
助けられたのも回復してもらったのも事実のようだが、感謝を強制するどや顔に、感想は一つしかなかった。
いやな女だ。
顔を盗み見る。
年の頃は自分と同じぐらいか、セーラー服姿の女が、日本刀を脇に挟んでいる。
正宗は胸を張って腕を組み、ご満悦な表情で頷きを繰り返す。
うんうん。
民間人の侵入と言う、結界班の失態をカバーが百点。
うんうん。
影の討伐数の、スコア更新が百点。
うんうん。
復息の刃の、初実践での初成功が百点。
万々歳に顔がほころぶ。
何と言っても、初めてのソロミッションでここまで百点満点の、いえ得点計測不可能の出来。
天賦の才、天賦の才を磨く努力の才、天賦と努力の才を生かす引きの才。
うんうんうんうん、うんうんうんうんうんうん。
我ながら天才すぎて、腰が抜けちゃいそうだわ。
熱くなった頬に両手を当てる。
そのまま息を吐き少し冷やす。本番はここからだ。
さあて。オードブルで、自信も身体も良い感じに温まったところで、メインディッシュに移りますか。
正宗は気配に振り返り、刀を抜いた。




