示現裏業流
「チェスト!!」
助走をつけて跳躍。
中空から大上段に振り下ろす。
蜻蛉からの斬撃に、影が蜘蛛の子を散らすように飛び退く。
剣圧で影を追い払う。
何でこんなところに民間人が?
結界班は何してんのよ!
返す刀で一番近い影に切りかかる。
刀身が逆袈裟に胸部を捉える。
傷口から血しぶきならぬ影の黒しぶきがあがる。
断末魔の叫び代わりに、影は硬直した後、無音で霧散する。
それを背後に、正宗は次の攻撃に移っている。
一対多の戦いだ。
一々成果を目視している暇はない。
柄を握る手に伝わる手応えだけで十分。
日本刀の切っ先が影の喉を突き破る。
影しぶきならぬ黒しぶきと共に、影が雲散する。
こいつら、影の攻撃は、接触による活力吸収のみ。
触れられなければ、問題はない。
そしてその動きは、
遅い!!
伸ばしてきた手を小手で切り、すれ違いざまに胴を凪ぐ。
黒しぶきを避けるように、正宗は地面を転がり、今度は膝下を切り飛ばす。
セーラー服が翻る。
組織の戦闘服は便利だが、ワタシは適合者である前に、人だ。
笑いも泣きもする女子高校生だ。
いつ死ぬとも分からない命、戦闘服を死に装束にはしたくない。
普段着のセーラー服を着るのは正宗の意地だった。
愛刀一本に、攻撃も防御も回避も、その命さえもすべて賭ける。
面、胴、小手。
袈裟切り、脛切り、逆袈裟切り。
十字切りに燕返し。
三段突きからの切り、払い、突き。
影の中を縦横無尽に日本刀が走り、セーラー服がはためいた。
正宗はスピードの圧倒的な彼我戦力差で、影を全滅させる。
刀を鞘に戻し、一息つく。
さてと、こいつをどうにかしないとね。
うつ伏せで倒れたままの民間人。
そのわき腹を蹴って仰向けにひっくり返す。
気絶した人間を正宗は無造作に蹴り飛ばす。
それでも民間人は起きない。
起きてくる気配を感じない。
民間人は死んではいないようだが、奴等の活力吸収を食らったので、虫の息のままだ。
初めてやるけど、まあ何とかなるでしょ。
気楽につぶやき、正宗はまた刀を抜いた。