女子高校生登場
時は遡ること少し前。
正宗はインカムで会話していた。
「正宗、緊張してる?」
通信相手が心配そうに聞いてくる。
初めてのソロミッションだ。
緊張しない方がおかしい。けれど強がる。
軽口を叩く。
「大丈夫よ、お姉さま。
ワタシの独り立ち、勲章ものの戦果を挙げて見せるわ」
自分でもいつもより早口なのを自覚する。
緊張を和らげようと、合わしてくれるお姉様の優しさが温かい。
「そうね。
正宗は強いコだもんね。
勲章用意しとかなきゃ」
正宗には、チームでの支援位置での討伐記録しかない。
なのに今回がメインでかつソロなのだ。
無茶にもほどがある。
「正宗、ごめんね。
バディも付けてあげられなくて」
適合者の人数不足は知っている。
十年前の大戦で激減しているのだ。
正宗ら若い世代がちらほらと生まれてはいるが、その数は少ない。
十年前なら複数で任務に当たるのが普通だったが、近年はソロも珍しくはない。
多くて二人だ。
お姉様のサポートバディの正宗は、正宗のメインバディであるお姉様を気遣う。
「大丈夫よ、お姉様。
ワタシやれるわ。
そんな予感がするの」
そこで作戦司令室からの状況連絡が入る。
「結界班まもなく結界の構築に入ります。
なお星見班の再予測も従来予測よりズレはないとのこと。
予定通り、二四○○時、状況を開始します」
別任務に向かうお姉様は、最後に愛しのバディに囁く。
これが最期かもしれないと言う想いは、お互い様だ。
お互いに支援もできず、お互いに任せるしかない。
お互いに背中を守ってあげられない。それ故に、
できるだけ強く誓い合う。
「正宗。
現場では」
「現場では、できるだけ頑張らない。
マンガのように、都合の良い援軍は来ないし、力が飛躍的に覚醒したりもしない。
演習で培ってきた能力を、淡々と発揮して、敵を打ち倒すのみ」
「そして」
二人の声がハモる。
「打ち倒すよりは、生きて帰ることを優先。
戦果より生還が絶対厳守*2」
力強くハモったのち、もう一度ハモる。
「さらに、逃げても良いのは、私たち女の子の特権*2」
と笑い合った。
そんなことするはずも、できるはずもないのに。
腕時計の針が二四○○を刺す。
「状況開始」
結界が張られる。
インカムを外す。
結界内は物理的な干渉が無視される。
通常通信は不可能なのだ。
最期に一言だけ言葉を交わす。
「宝玉のご加護を*2」
次に言葉を交わせる保証など、何一つない。
正宗はお姉様を思い浮かべた。
結界が正宗を包み込んだ。