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ラッキースケベ&アクション2  作者: LSA製作委員長
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大人しい娘ほど乱れたらスゴイ

 新部室の掃除は明日に持ち越し、保健室で傷の手当てを受けた後、下校する。

 旧部室でジャージから学生服に着替え、部長と別れる。

 部長と房代は新部室の明け渡し手続きやら、制圧時の状況報告書の作成など残務処理があるとのことで、部員だけが先に帰された。

部員の尽力により、部長も房代も無傷なのだ。

手当の最中、何度も何度も頭を下げる房代に、

「部員は超弩級のMだから、気に病むことはない。

ダメージが物足りないぐらいだからね」

「そうなんですか!?」

 部長の冗談を真面目に受け取る房代に、部員は内心微笑み、面白そうだから黙っていることにした。

「ほれほれ、消毒のしみに勃起しているぞ。

変態だな、部員は」

 そのキーワードに房代が顔を赤らめる。流石にそこは否定しました。

 廊下を歩き、部室棟を出る。

時間はもう夕方を過ぎている。

他の部活も終わっているか、部活棟横のグラウンドに人はまばらだった。

暮れる夕闇が赤暗く土を染めている。

 中庭を歩き、校舎棟を抜ける。

学校正面の事務棟を抜け、正門へと出る。

門をまばらに人が通り抜けて下校していく。

その脇に誰かを待つかのように、一人の女子生徒が立っている。

正門脇でこちらに背を向けている。

 小さな時から見てきた背中だ。

正面から見なくても誰だかはっきり分かる。

 小学校までは相手の方が大きかったが、そこから成長しなかった華奢な身体に、少々猫背気味の姿勢。

髪は伸びかけで、待っている間に風に揺られでもしたか、少々ぼさぼさだ。

 また風が吹く。

髪の崩れに気づいたのか、女子生徒が持っていた手提げ鞄を探る。

 なかなか出てこなかったそれを持ち、髪へと通す。

ぼさぼさが和らぐ。

 お誕生日会であげたブラシ、まだ持っていてくれたんだな。

 見覚えのあるブラシにちょっと胸が熱くなる。

何だか分からない恥ずかしさを、咳払いで追い払う。

女子生徒がこちらに気づく。

慌ててブラシを鞄へとしまう。

なかなかそれもしまらなったのだが。

「よっ、待っててくれたのか?」

 幼なじみに声をかける。

幼なじみの女子生徒がこちらに振り返る。

前髪も伸びかけで、目に入るのか伏し目がちに答える。

「あの、その。

一緒に、帰え、ろう」

 横に並び歩き出す。

二人で家路へと着く。

正門を抜け、大通りに出る。

片側二車線の道路の歩道を歩く。

ガードレールの横を歩く。

幼なじみの静はとても静かだ。

無言が続く。

 話しながら歩いていないので、歩く速度と歩幅の差が特に出る。

置いてけぼりにしないように、静に合わせてスピードを調整する。

速度を合わせるために、静を時折見る。

何か言い足そうに口を開けようとしてはなかなか開けられないようだ。

 いつから、こうなったのだろう?

昔は静の方がおしゃべりだった。

よく逆上せて鼻血を出していた自分を、よく助けてくれる活発な女の子だった。

ティッシュのかみさま、と呼んだら殴られたことさえある。

 あまりに気になったので、少し前に聞いたことがある。

静の答えはこうだった。

「お、幼なじみちゃん。

か、か、カッコ良くなったから。せ、背も高く、なったし」

 静は、目を逸らしながら答えた。

 衝撃に言葉が出なかった。

小さな頃、オシッコの飛ばし合いを女の子に仕掛けた男を、あまつさえ勝負に乗って来られなかったので、みてみてとこんなにとぶんだぜと、自慢げに露出した男を、カッコ良いと褒めるとは。

雑巾が着飾るような恥ずかしさに、罰ゲームかとさえ思った。

それ以来、この話題はしないことにした。

 信号を待ち、交差点を渡る。

静は無言のままだ。

だが、この空気感は嫌いじゃない。

むしろ、何だか安心する。

静といると時間がゆっくり進むような、止まったような感覚がある。

その感覚に何だか安堵する。

 誘い水を出す。

今日の一日の出来事を、朝から順に話す。

面白おかしく大げさに盛って話す。

 静は聞き上手だ。

 うんうん、の同意。

 それで? の促し。

 そうなんだ、の感心。

 たまに入ってくる、他にもあったんじゃないの? の視点の追加

を、絶妙のタイミングで返してくる。

ごくまれに見せる、笑い声を抑えたちらりと歯を見せる笑顔が、また魅力的だ。

 自分が一方的に話しているのは自覚しているが、静の気持ちよい相槌に、それをやめられない。

 曲がり角に差しかかる。

そろそろお別れの時間だ。

静は左に曲がり、駅に向かう。

こっちは右に曲がって寮に向かう。

 曲がり角で静が立ち止まる。

合わせて歩みを止める。

横に並んだ二つの影が、道路に長く伸びている。

「あ、あのね。

わ、わたし無口だから、一緒に帰るの。

い、嫌じゃない?」

 不意に静は聞いてきた。

前髪の向こうの目と視線が合う。

逆光なのか、眩しそうに目を細めている。

鼻で笑う。

「嫌だったら、毎日毎日一緒になんて帰ってねえよ。

てか、今更聞くかね?」

 数年は続いている習慣に、疑問を投げられても困る。

静が少し笑った気がした。

「そ、そうだね。

小学校以来、からだもんね」

「まっ、腐れ縁ってやつだな」

 今度は静の表情が曇った気がした。

調子に乗って滑ったか、罰が悪い。

「んじゃあな、また学校で」

 足早にその場から逃げ出す。

静はまだ何か言いたそうだったが、明日また聞けば良い。

明日もまた一緒に帰るのだ。

 背中越しに手を振り、寮へと向かう。

ずっと見ている気配が消えるまで、手を振り続ける。

「あ、あのね。

わ、わたし。

お、お、幼なじみちゃんのことが好きなの」

 用意していた台詞を、今日もまた言いそびれる。

静は大きくなった幼なじみの背中を、遠くに消えるまで見送った。

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