本になったわたしと四人の仲間達3
どうもお久しぶりです。異世界に召喚されて何故か本になってしまった悲劇のヒロイン、加賀谷千春です。
いや、別に悲劇というほどじゃないし、ヒロインって柄でもないけどね。
慣れれば本も悪くないなあ、と思う今日この頃。いかん、人間に戻るという決心を忘れてはならない。馬鹿ラクを見返すためにも。
と、わたしの方は通常運転なんだけど、最近、仲間の一人の様子がおかしい。
その仲間とは、皆の心のおかん(と、わたしが勝手に言っている)、気配り上手なスナイパーのエルシュである。
「ねえ、エルシュー」
「…………」
「エルシュってばー」
「……あ、ごめん。なんの話だっけ?」
困ったように笑うエルシュに、わたしは溜め息を噛み殺した。
こんな感じで、いつもは陽気に楽しい話をしてくれたりするのに、最近はなにやら考え込んでいることが多いのだ。
……どうしたのかなあ。
「そりゃあれだ。男の事情ってやつだろ」
エルシュが小用で席を外した時、皆に相談してみたらガラクが訳知り顔で答えた。
「男の事情? なにそれ」
「なにって、あれだよ。最近大きめの町に寄ってないからなあ。溜まってるんじゃねえの」
「なっ……この馬鹿ラク! あんたと一緒にしないでよね!」
「なんだと! 男はそんなもんなんだよ! なあ、ウォード、セシル!」
「……私に振られるととても困るのだが」
「え、えっと。僕はまだよくわかりません……」
ウォードさんは苦笑し、セシル君は真っ赤になってうつむく。うむ、ウォードさんは許そう。大人だから仕方ないよね。そしてセシル君はかわいくて問題なし。
「と、いうかセシル君にまで同意を求めるないでよね、ガラク!」
「なんでだよ。セシルだって男だろ」
「あんたとは違うの!」
「はあ? 意味わかんねえし」
「お待たせーって、あれ? なに騒いでんの?」
ぎゃあぎゃあとわたしとガラクがくだらない言い争いをしていると、当の本人が帰ってきて首をかしげた。
「あ、お、おかえりー。別になんでもないよー」
「そう?」
「そうだよ。ねえ、ガラク」
「ああ。たいした事じゃねえよ」
「……ふーん? 珍しいね、二人の意見が合うなんて。俺がいない間に仲良くなったわけ?」
にんまり、と笑いながらエルシュがわたしとガラクを交互に見る。わたしとガラクはお互いを見て、それからエルシュに叫んだ。
「そんなことあるわけないじゃん!」
「はあ? ありえねえよ!」
「あっはは、やっぱり仲良くなってるよ。息ぴったり」
「違うってば! 誰がこんな馬鹿ラクと!」
「それはこっちの台詞だ!」
「あはは。まーまー、二人とも落ち着いて」
「誰のせいだ!」
「誰のせいよ!」
「あっはっは。ごめんごめん」
またわたしとガラクの言い争いが始まり、それをエルシュが宥める。ちょっとだけいつも通りに戻って、ホッとした。
*****
でも、やっぱりエルシュの様子はおかしいままで。夕飯を作りながらもぼんやりしてて、珍しく干し肉を焦がしてしまったりしていた。ほんの少しだけだったから、気にしないで食べたけど。
とにかく、おかしい。
そこでわたしはエルシュと二人きりで話し合ってみることにした。
「へい、そこの彼氏。ちょっとわたしとお喋りしない?」
「……なに、いきなり」
皆が寝静まった後、わたしは焚き火の番として起きてるエルシュに声をかけた。ふざけているのは、なんとなく緊張してるからだったりする。ほら、わたしも一応女子だしね。本だけど。もし仮にガラクの言ってた通りならなんて言えばいいのかなあと、ドキドキしてるのですよ。その場合はウォードさんに任せよう、うん。
エルシュがコーヒーに似た飲み物を作り終えるのを待って、わたしはそっと切り出した。
「単刀直入に訊くけどさ」
「うん?」
「……溜まってるの?」
「ぶっ! ごほっ、ごほっ!」
うわっ! コーヒーモドキをすすっていたエルシュが吹き出してむせてる!
「ごご、ごめん。やっぱり、こういうデリケートな話はわたしよりウォードさんの方が良かったね。リテイク、やり直し! いやー、今日もよく歩いたよねえ。わたしはセシル君に持ってもらうだけだけどさー、あははー」
「……もうなにから突っ込んでいいのかわからないよ」
エルシュはがっくりとうなだれた後、頭を振ってわたしを見た。
「……変な誤解されてるみたいだから言うけど。皆にはまだ内緒にしていてもらいたいんだ。いいかな?」
「う、うん」
なにやら真剣な様子に、ごくり、と唾を飲み、わたしは頷く……ように目をまたたいた。エルシュは一口コーヒーモドキを飲み、それから上着の内ポケットから小型の銃を取り出した。
メタリックな光を放つその銃は、エルシュの世界で作られたレーザーガンだ。それをもてあそびながら、エルシュは困った顔をする。
「実はね。思った以上にエネルギーの減りが早くて、もう後一回か二回で使えなくなりそうなんだよ、コレ」
「え……そうなの?」
「そうなの。だから、困ったなー、どうしようかなーって悩んでたわけ。まさか妙な方向に誤解されるなんて、思ってもみなかったよ」
「そ、それは馬鹿ラクが……!」
「しー」
大声をあげかけたわたしを、エルシュが人差し指を唇にあてて周りを見渡しながら止める。う。皆、寝てるんだった。ごめんなさい。
幸い、誰も起きなかった。ガラクがうなり声みたいな寝言を口にしてたけど。
「静かにね。……で、まあ、エネルギーをどうにか出来ないか考えているから、皆にはまだ言わないで欲しいんだよ」
「ごめん。でも、うーん。言っておいた方がいいんじゃない? ほら、心構えとか必要だと思うしさ。それに、それがなくてもエルシュは弓も使えるから問題ないんじゃないかな?」
「いや、駄目だよ。相手がそこらの獣ならともかく、魔獣には弓はたいして効果がないからね。それに、まだ完全に使えなくなるって決まったわけじゃないんだ」
「え、そうなの? なにか方法があるの?」
「うん……まあね」
エルシュはちらりと眠っているセシル君を見て、またレーザーガンをいじった。
「セシルが魔術を使うと、僅かだけどエネルギー残量が回復するんだよね。だから、もしかしたら魔力とエネルギーは似ているのかもしれない」
「なら、セシル君に頼めば……」
言い掛けてわたしは口をつぐんだ。エルシュが苦笑して肩をすくめる。
「それが出来たら良かったんだけどね」
「……セシル君、この世界じゃほとんど魔力が回復しないから、大量に使うと倒れちゃうもんね」
「そういうこと。皆に秘密にして欲しいのもそこら辺が原因なんだよ。セシルはあーゆう性格だから、変に思い詰めそうだしね」
「あー……うん、ありそう」
「でしょ?」
エルシュはレーザーガンをポケットに戻すとコーヒーモドキを飲んだ。
「まあ、まずは大きめの町で魔術道具を売ってる店を探して、話を聞いてみることにするよ。案外、バッテリーみたいな物が売られてるかもしれないしね」
「そうだね。あ、ならついでに、わたしの事も訊いてみてくれない? どうにかして、びしょ濡れにならなくても人間に戻りたいんだよねー」
「あはは、ラジャー」
最後は和やかな雰囲気で深夜の内緒話は終わった。
だけど、話はそううまくはいかなかったのだ。
*****
「くそっ、数が多い!」
「ガラク、無理をするな! エルシュ、セシルをもっと後ろに!」
「駄目だ、ウォード。後ろからも来た!」
もう少しで次の町につく、というところでわたし達は魔獣の群れに襲われた。大きな芋虫みたいなやつと、石で出来たアルマジロみたいなやつが、十数匹。わたし達を取り囲むように現れたのだ。
「どうしますか、ウォードさん。なにか大きな魔術を使いますか?」
わたしをしっかりと胸に抱き締めながらセシル君がウォードさんに尋ねる。うん、こんな言い方したらなんだかロマンチックだね。実際は本を抱き締めているだけなんだけどさ。
「いや、今セシルに倒れられるとまずい。まずは一点集中で囲みを破ろう。エルシュ、武器を使ってくれ」
「……それは」
ウォードさんの言葉にエルシュが息を呑んだのがわかった。こんな事になるのがわかってたら、もっと早くに皆に話していたのに!
「どうしたんだよ、エルシュ。早く使えって。出し惜しみしてんじゃねーよ!」
「馬鹿ラク! あのね、レーザーガンはね」
「いいよ、チハル。自分で言う」
弓で魔獣を寄せ付けないようにしながら、エルシュは言った。
「ごめん、皆。レーザーガンは後一回か二回しか使えない。だから、レーザーガンでこの囲みを破るのは難しい」
「はあ!? なんだよ、それ! なんでもっと早くに言わねーんだよ!」
ガラクが芋虫の一体を切り捨て、エルシュに怒鳴る。その息はかなり荒くなっていて、体力が尽きかけていることがわかった。
「……参ったな」
渋い顔をするウォードさんも、今日はもう竜になってしまった後だから頼れない。
「……やっぱり、僕がなんとかします」
そんな皆を見回して、セシル君は表情を引き締めそう言った。確かに、この状況じゃ他に手はなさそうだ。うう、わたしも何か出来たらいいのに!
「燃えよ、赤き炎。猛き神の息吹きを受けし原初の炎よ。我が眼前に立ちふさがりし敵を灰塵とせよ!」
いつもより長い詠唱を口にして、セシル君は片手を振るう。横一列に炎が渦を巻き、芋虫とアルマジロを黒焦げにする。
さっすが! 強いぞセシル君!
だけどかなりの魔力を使ってしまったセシル君は青白い顔でへたりこんでしまった。まだ魔獣は残っているのに!
「危ない、セシル!」
一体のアルマジロに攻撃されかけたセシル君を庇って、エルシュが前に出る。レーザーガンでそのアルマジロを倒し、ホッと一息ついたところで、なんと同時に二体の芋虫に襲い掛かられてしまった。
「エルシュ!」
一体はレーザーガンで倒れた。でも、後一体残っている。レーザーガンは、もう光を発射しなかった。
エルシュが腕を広げる。後ろにいるわたしとセシル君を守るように。
馬鹿エルシュ! あっさり諦めないでよ!!
「エルシュー!!」
わたしはカッと目を見開いた。わたしも何か出来たら! わたしにも何か力があったら!!
「うわああーっ!!」
芋虫が大きな口を開けてエルシュに飛び掛かるのを、わたしは見た。わたしは無我夢中で叫び、次の瞬間。
――目から光が出た。
「へ?」
バシュンッ、と音がして、わたしの目から出た光は芋虫の身体を真っ二つにした。まるで、エルシュの使うレーザーガンのように。
魔獣がいなくなったその場に、なんとも言い難い沈黙が落ちた。え、えー?
「わ、わたし目からビーム出しちゃったよ……」
「……すごいね、チハル。助かったよ、ありがとう」
エルシュが振り返って笑顔を向けてくるけど、ええー?
わたし、本になっただけじゃなくて、目からビームも出せちゃうの? そのうち口からミサイルも出ちゃったらどうしよう。
「……化け物っぷりに磨きが掛かってきたな」
「なによ、馬鹿……ラク……」
失礼な事を言うガラクに食って掛かろうとして、わたしは急に目眩に襲われた。ぐにゃり、と歪む視界の中、皆が驚いた顔で駆け寄ってくるのが見えた。
*****
わたしは魔力の使い過ぎだった。わたしに魔力があるなんて初耳だったけど、この身体(本)を構成しているのが魔力らしい。使い過ぎると命に関わるかもしれない、という事で、くれぐれも多用しないようにセシル君に注意された。
そのセシル君も魔力の使い過ぎで、二日ほど寝込んでいたけどね。
「まったく。人騒がせなやつらだな」
「そう言うな、ガラク。二人のおかげで助かったのだから」
ベッドに寝ているセシル君と、その枕元に置かれているわたしを見ながらガラクがぼやき、ウォードさんに嗜められた。
「そうだね。特にチハルのおかげでレーザーガンのエネルギーも満タンになったし、すごく助かったよ」
ベッド脇の椅子に腰掛けて果物を切り分けているエルシュが機嫌良く笑う。
そうなのだ。あの、わたしが目からビームを出した後、チェックしてみると空になった筈のビームガンのエネルギーが、満タンになっていたらしいのだ。
つまり、それくらいわたしの放った魔力は大きかったというわけで、今もろくに喋れないくらい、疲れきっていたりする。
「そうだな。だが、今度からは大事な話はもっと早く言ってくれ。今回は肝が冷えた」
「だよなー」
「う……ごめん」
ウォードさんとガラクに責められて、エルシュは頭を掻いた。そして切り分けた果物を一切れフォークで刺して苦笑する。
「反省してるよ。今度からはちゃんと皆に相談する。仲間だもんな。はい、チハル。あーん」
差し出された果物を、あーん、と口を開けて食べる。甘酸っぱくて爽やかな味がした。
こうして、エルシュの悩みはひとまず解決したわけなんだけど、エネルギーが無くなる度にわたしがビームを出すわけにはいかない。
やっぱり、次に大きな町についたら何かいい方法はないか調べてみる事になった。
だけど、なんとなくまた何かあるような気がする。ただの気のせいならいいんだけどなー。
「もっと食べる? はい、どうぞ」
そんな事を考えながら、わたしはむしゃむしゃと果物を食べるのだった。
目からビームを出す系のヒロインって、需要あるのでしょうか。自分で書いておいてなんですが、とても不安です;
お読みいただき、ありがとうございました。




