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第六話 ≪転入生の依頼≫




 夏季休暇が終わり、新学期が始まってから既に一週間が過ぎた。“学院”に入学した新入生はようやく新たな生活に慣れ始め、休み明けの上級生も一部を除いて落ち着きを取り戻しつつあった。

 “学院”から少し離れた位置には生徒たちが暮らす学生寮が点在している。オクタヴィオとカイトが住んでいるのはその中の1つである。様々な技術が集まるイリオスらしい先鋭的な造りで、デザインを損なうことなく、より機能性を重視した建築となっている。イリオスの学生寮は2人から数人に一部屋が貸し出されるのが一般的であるが、この寮では生徒一人につき一室が貸し与えられるという、滅多に見ないほどの高待遇な学生寮である。

 その日の講義も終わり、既に日は暮れかかった夕暮れ時。学生寮の中のカイトの部屋を訪れたオクタヴィオだったが、まず出てきたのは呆れの言葉だった。


「何が『精々スカイボードの整備しか出来ない』だよ。もう原型ないじゃんか」

「そんなことないぞ。まだ欲しい機材もあるけどこれで我慢してるんだ。流石にここで金属の加工とかは出来ないしな。あとオクト、スーパーオクタヴィオ号な。今修理中だけど」

「知らないよ」


 部屋の中を見渡したオクタヴィオが率直に思ったことは、こいつは借り物を何だと思っているんだ、と言うことだった。

 部屋に入ってまず目に入ったのは壁に設置された祭壇のような物だ。祭壇にはいくつかのマナ結晶が設置されており、絶えず複数の魔術式が作動し続けている。勿論他の部屋にはこんなもの存在しない。

 また、日の入る窓の下には巨大な作業台が置かれ、その上にも所狭しと機材や作りかけの魔導具、修理中のスカイボードが置いてある。本来あるはずの勉強机は撤去されたのか見当たらなかった。

 本棚は改造され、マナ結晶や細かな部品、小型の魔導具を収める収納スペースと化しており、本もあるにはあるが、魔術関連の参考書が申し訳程度に入れられているのみだった。


 他にも金属パーツを入れてあるボックスや、何に使うかも分からない装置が床に散らばっており、総じて述べると、“魔導具製作に特化した部屋作り”とでも言うべきか。むしろ“工房”と呼んでもいいかもしれない。オクタヴィオは呆れたような表情で部屋を見回した。オクタヴィオがこの部屋に入るのは初めてではないのだが、その頃はまだこのような行き過ぎた模様替えは行われていなかった。恐らく研究棟から出禁を喰らっていなかったため、わざわざ自室を改造していなかったのであろう。


 オクタヴィオが部屋の入り口で立ち尽くしていると、コンコン、と閉ざされていた扉がノックされる。思い当たる人物が居らず、疑問に思いながらもカイトの方を見やると、「おお来たか。オクト、開けてくれ」と催促された。


「うっわ、もう原型ベッドしかないねー」

「セレーネさん、せめてお邪魔しますくらい言いましょうよ……」


 そうして入ってきたのはカイトと同じくオクタヴィオの中で問題児認定をされているセレーネ・コルリと、最近やって来た転入生のクレア・レイスだった。女子の身で男子寮に居るせいかクレアは少々居心地が悪そうな挙動だったが、対するセレーネはそんなものお構いなしといった様子で、遠慮なしに部屋へと踏み込んでくる。

 予想外どころか想像すらしていなかった来客に呆然とするが、入り口を塞いでいた形のオクタヴィオは慌ててスペースを譲り、2人を招き入れる。一室に4人は少々手狭だったが、招かれた3人がベッドの上に座ることで何とか収まり切る。生徒に貸し出された部屋はそこまで広い訳では無いが、4人で一杯になるほど狭くはない。機材やらが多いせいで使えるスペースが少なくなっているのである。


「手伝ってほしいって言うからどうせ魔導具関連のことだと思ってたんだけど、セレーネさんとクレアさんまで呼んでたんだね」

「どうせとは何だどうせとは。まあその通りなんだけどな」


 全員が部屋に入り、扉が閉まったところでオクタヴィオから話を切り出す。今回、オクタヴィオはカイトに「少し手伝ってほしいことがある」と言われてこの部屋を訪れたのである。

 セレーネとクレアに関しては、女子寮への男子生徒の立ち入りが禁止なのと同様に、男子寮にも女子生徒は立ち入り禁止なのだが、当たり前のように無視されていた。規則の裏や敷地内の抜け道など、変なことに詳しいカイトが手引きしたのだろう、とオクタヴィオは考えるが、それ以上の思考は無駄だと察し、放棄した。


「まあ待て、オクトと2人は別件だ。2人の件は俺が依頼を受ける側で、詳しい話はまだ聞いてない。部屋も狭いし、先にそっちから進めようか」

「なんと、カイト君は美少女2人を部屋に招き入れておいて狭いと申すのかー。これは厳罰ものだねー」

「うっせ、さっさと進めろ。あと勝手に物色すんな」


 視線を全くカイトへと向けずに近くの棚を漁っていたセレーネだったが、カイトに睨まれたことで軽く肩を竦めて姿勢を正した。

 そして、隣に座るクレアの両肩に手を置いて話し出す。


「簡単に言うと、我らが美少女転入生さまが魔導具をご所望なのですよー。それでカイト君に頼んだってわけなのですよー」

「び、美少女って……えっと、初めまして。クレア・レイスです。その、お噂はかねがね窺っています」

「へぇ、噂かぁ。イケメン凄腕魔導具師とか、そんな感じかね」

「冗談は顔だけにしてよ」

「暗黒大魔王が何を言ってるのさー」

「オクトテメェ、ちょっと顔が良いからって馬鹿にしやがって! 俺だって目と鼻と口と輪郭を変えればイケメンになるだろ! あとセレーネのはお前が広めたもんだろ!」

「それほとんど全部変えてるじゃないか」

「カイト君も割とノリノリで“魔王”やってるじゃんかー」

「あ、あの……あ、いえ。何でもないです……」


 3人の掛け合いに入り込めないのか、クレアが少々涙目になったところで漫才のような言い争いは終了した。そして、こほん、と咳払いをしたクレアは軽く息を吸ってカイトを見つめ、改めて口を開く。


「実は私、固有魔術の所持者(ホルダー)なんですけど、そのままだと戦闘には活かせなくて。戦いはあまり好きではないですけど、身を守る手段は持っておいた方が良いと思って。それでセレーネさんに話してみたら“あたしに任せて”とのことで……」

「ふむふむ、固有魔術か。なるほどね。それはともあれ、金蔓もといお客様だ。セレーネぐっじょぶ」

「いぇい!!」


 いえーい、と手の平を勢いよく叩き合わせる問題児(カイト)問題児(セレーネ)。盗み聞きして既に知っているはずなのに何が「なるほどね」だよ、やら、仮にもお客さんの前でその態度はどうなのさ、やら突っ込みどころは多々あったが、流石にそんな話の流れを叩き斬るような発言はしない。顔は少し顰めてしまったが、オクタヴィオは空気の読める少年なのである。


「さて、冗談はさておき魔導具か。固有魔術持ちってことは充填式だよな。コストはどれくらいが良い?」

「そうですね……機能を優先してください。幸い純度の高いマナ結晶には心当たりがあるのでそちらの心配は大丈夫です。お金に関しては、うーん……全部含めて高くても50万程度に収めて欲しいです」

「50万ね、了解。それにしても流石はマナ結晶原産地の出身。羨ましいなー」


 少し考えて口に出されたクレアの言葉を受け、カイトはぼやきながらも手元の紙に何事かを記入していく。


「50万ユルドってそんなにポンと扱われる物だっけー?」

「まあ“学院”に通うような人は家がお金持ちってことよくあるしね」

「おー、流石お金持ちの坊ちゃんは言うことが違うねー」

「まあ確かに貧しくは無いけど……」


 無邪気に放たれたセレーネの言葉に嫌味は含まれていなかったが、イリオスの最高権力者の1人、エルフセリア市長の息子であるオクタヴィオは、どう返していいのか戸惑い、困ったように頬を掻いた。

 50万ユルドと言う金額は決して少なくない出費であり、学生の身であることを考慮するとなかなか簡単に決断できる金額ではない。だが、希少金属や生産性が不安定なマナ結晶を使用する関係上、要求値が高い戦闘用魔導具は基本的に高価になりやすい。50万ユルドと言うのは、高性能と呼べる性能を確保するためには最低限必要な金額であった。


「機能はどんなのがいい?」

「防護系は大丈夫なので、敵対者を昏倒させる感じですかね…………あ!」

「どうしたのー?」


 声を上げたクレアに、セレーネが疑問符を打つ。


「いえ、出来れば、その……殺傷能力が高い物は勘弁していただけると……」

「「ああー」」

「ああー、って……キミタチが俺のことをどう考えてるのかありありと分かるよ」


 まったく、と不満げに呟きながら紙に魔導具の内容を書き上げた。


 そこでカイトは椅子に座ったままの状態で身体を倒し、作業台の下へと手を伸ばす。しばらくそのままゴソゴソと動き、起き上がって取り出して見せたのは拳銃型の魔導具だった。銃身は30センチメートルほどで、黒の胴体に銀の装飾がされた展示品のような外見を持つ銃である。だが、カイトが作った物が見た目重視のガラクタであるはずがないと身を持って知っているオクタヴィオは、何が出るのか分からないびっくり箱を開ける感覚を味わいつつ、疑問符を投げかけた。


「カイト、これは?」

「銃」

「いや、そうなんだけどそうじゃなくて。作ったの?」

「オクトは覚えてるだろ? ちょい前の決闘であのムカつく爺さんから貰ったものだよ。一から作るのは時間もコストも掛かるし、これを代用しよう」


 オクタヴィオの疑問にカイトはしれっと答えた。

 それを聞いて思い出したのは夏季休暇の最後のこと。つまり、この装飾銃こそが決闘の原因となったダノンの“秘蔵の一品”なのである。


「ったく、なーにが起動方法が分からない魔導王関連だよ。調べたらただ単に壊れてるだけの普通の魔導具だったぜ。使われてるのは結構良い素材だが、正直期待外れも良いとこだな」

「だから眉唾物だって言ってたのに。と言うか、まだ根に持ってるんだね」

「うっせ。とにかく、これは俺が使う用に考えてたから、しっかり外付けの結晶充填式に改造してある。あとは壊れてる魔導回路を希望に合わせて弄ればいい。ピッタリだろ?」

「あー、まぁうん。そうなんだけど、不安しか湧かないのは何でだろうね……」


 魔導具の一種である魔導銃は、それなりの威力を持つ弾丸を手軽に連射することが出来るため、魔術式が内蔵されている関係上融通の利かないことに定評のある魔導具の中でも、それなりの融通性を誇る分類である。威力不足に陥りやすいと言う難点が存在するが、一般市民が護身用として利用するのであれば十分で、比較的人気の高い分類の1つと言っていいだろう。


 オクタヴィオの発言は無視して、カイトは自信に溢れた表情で自分の作品をクレアへと渡す。恐る恐る装飾銃を受け取ったクレアはずっしりとした重量感に瞳を瞬かせた。

 それを見つつ、我慢が出来なくなったのか、セレーネが身を乗り出すようにしてカイトへと尋ねる。


「ねーねー。それで、この銃はどういう魔術にするのー?」

「まあ焦んなって。まだ正式には決めてねぇが、取りあえず銃身がミスリル合金製だから大出力の魔術にも耐えられるし、巨大魔導砲ってことは確定だろ? とは言え、それだけじゃ面白くないしなぁ」

「じゃあ着弾したら爆発とか、麻痺とか、いろんな効果が出るのにしようよー!」

「おま、えー、かなり無茶なこと言うなぁ……でもまあ、そんなのこの天才魔導具師のカイト様に掛かればチョチョイのチョイってもんだ」

「わー、気持ち悪ーい」

「うっせえぞ腹黒チビ」


 使用する本人をそっちのけでやいのやいのと盛り上がるカイトとセレーネ。クレアはまだこのノリに慣れていないのか少々置いてけぼり気味だった。とは言え、慣れる慣れない以前に、「敵を確殺」やら「とにかく瞬間被害を大きく」といったフレーズが飛び出す暗黒会議に入って行ける剛毅な者はそう多くは居ないだろうが。

 と言うより、依頼者から殺傷能力を無くしてほしいと言われているのに物騒な言葉が飛び交うのは一体どういうことなのか。オクタヴィオは先行きの余りの暗さに額に手を当てた。


「だが、魔導具の大きさからしてそこまで回路のスペースが取れない。いくつか方法は思いつくし、やってみないと分からないが、多機能にするのは難しいかもな」

「んー?」


 暗黒会議を打ち切り、表情を真面目なものに戻してクレアの方を見て話すカイトの言葉に、セレーネが疑問符を浮かべた。

 また、セレーネだけでなく、クレアにとっても馴染みのない内容だったのか、その隣で小さく首を傾げている。


「……おにーさんは君らが魔導具について何も知らなくて悲しいよ」

「す、すみません。魔導具の作り方については流し読み程度でしか勉強したことが無くて……」

「あたしは聞いたことも無いよー」

「まあ、縁が無い人には触れる機会のない知識だし、仕方がないでしょ」


 額に手をやって項垂れるカイトに(まあ演技だろうと付き合いの長いオクタヴィオたちは見抜くが)、クレアは肩を竦めて縮こまり、セレーネは呑気に笑う。魔導具の地位は現在も刻々と向上を続けているが、その多くは生活を助ける補助具としてであり、世間一般の“魔導具に関する知識”とは、それらの使い方を示す。“学院”やその他の教育機関でも魔導具製作関連の講義は必須科目ではなく、専門的な魔導具の知識は未だ常識からは遠いところにあった。

 昔からカイトに手伝いとして駆り出されているため、人並み以上には知識があるオクタヴィオは、その様子を見て苦笑する。

 1つ溜息を吐いたカイトは、手の中の装飾銃を弄りながら口を開いた。


「じゃあレッスン1。魔術とはどういうものだ?」

「え、えっと……ん? 魔術とは何……? うーん、マナに性質を与えて色んな現象を起こす技、かなー?」


 改めて考えたことが無かったのか、セレーネは少々言葉を迷わせた。

 その隣ではクレアがふむ、と自らの顎に手を添える。


「魔術行使のプロセス……いや、魔導回路の話ですか?」

「正解。なんだ、分かってるじゃんか」

「詳しい内容までは分かりませんよ。ただの想像です」


 謙遜の言葉を口にしつつも納得したようにうなずくクレアに対し、カイトは笑みを浮かべた。


「流石は難しい試験を突破しただけある、と言うべきか。とは言え、そうもあっさり意図を読まれるのは面白みに欠けるな」

「言葉だけ聞くと酷い人ですよ?」

「人生楽しい方が良いからな。人は皆探求者さ。ロマンがあるだろ?」


 作業台に肘をついてケラケラと笑うカイトに、クレアは困ったような表情で笑みを浮かべた。

 そんな2人に蚊帳の外にされたセレーネは、「むぅ」と頬を膨らませて疑問符を上げる。


「それで、どういうことなのー?」

「ああ、さっきセレーネの言ったことも正しいんだが、今の質問は正確に言うと、そこのお嬢さんが言ったように“魔術はどのようなプロセスで行使されるか”ってことを聞きたかったんだ。言葉足らずで悪かったな。勿論、まだ解明されてないとこもあるしアバウトで良いぞ」

「えー、うーん……気合かなー」

「アバウト過ぎだろ。それで納得できるのはごく一部だっつーの」

「まあまあ。カイト、取りあえず話を進めようよ」


 思考が停止したセレーネをフォローするように、オクタヴィオが口出しする。


「何だよオクト、これからが面白いのに」

「セレーネさんの頭が爆発しちゃうでしょ。いいから早く話を進めてよ」

「爆発しないよー!?」


 オクタヴィオの言葉にセレーネは思わず立ち上がって反論し、よよよ、としな(・・)を作って座り直した。


「まさかオクト君が弄ってくる日が来るなんて……」

「じゃあ火事になる前に話を進めるぞー」

「だから爆発しないよー!」


 頭が回り、周囲を掻き回すことを好むセレーネではあるが、魔術に限って言えば根っからの感覚派であり、理論関係の話には非常に弱い。「使えるんだから良いじゃん」を地で行くタイプである。


「……爆発するんですか?」

「クレアちゃーん!?」


 そのため、多くの人が抱く腹黒策士な第二印象とは異なり、彼女が弄られるのは割と良くあることではあった。

 疲れたように肩を落として項垂れるセレーネへと、カイトは笑みを噛み殺しながらその頭上から声を投げかける。


「結論から言っちまうと、人が魔術を使う時のプロセスってのは三段階だ。意思によってスピラが起動し、それがイメージを読み取って魔術式を作り、マナが燃料として注ぎ込まれて発動する」


 そう言って、カイトは作業台に置いてあった黒一色の立方体型の魔導具を掴み、起動させる。魔導具は微かな駆動音を発しながら魔術式を展開し、カイトの手を離れ宙へと浮く。


「これを魔導具に当てはめると、まず道具だし意思が無い。次にイメージもスピラも無い。マナは結晶やら使用者のとかで補えるとして、この足りない物を埋める必要があるわけだ」

「そこで登場するのが魔導回路ってことー?」

「その通り。意思はつまり起動の切っ掛けだから、スイッチやら何やらで補える。が、スピラの代わりとなるものが必要だ。回路の種類はいくつかあるけど、俺は空中に魔術式を描くタイプを多用してるな。一工程増えるけど、持ちが良いし便利だし」


 そう言ってカイトは宙を浮遊する立方体の魔導具を手に取り、かちゃかちゃと弄った後に軽く力を込める。すると、魔導具は軽快な音を発して2つに分かれ、中から銀と透明な結晶が入り混じった部品のような物が現れた。


「これが魔導回路だ。材料は主にマナ結晶と金属。特にマナ結晶は使う魔術の規模がでかければでかいほど高純度の物が必須だ」

「なんでー?」

溶ける(・・・)んだよ。これ見たら分かると思うけど、回路はマナ結晶を削って作るんだ。んで、魔導金属で補強する。これにマナを通すことで魔術式が形成されるんだが、その量によっては回路になってる結晶が変形する。そうなるともうダメだ。二度と機能しない」


 カイトはこれ見よがしに溜息を吐いて見せた。カイトが今話したことが、魔導具が元々初心者の補助用の道具であった最大の理由だ。要は、当時の魔導具は大規模魔術の使用に耐え得る構造になっていなかったのである。

 だが、技術は発展し、今では戦闘ですら使うことが出来る魔導具が開発された。魔導金属と掛け合わせることによって回路の強度を上げることに成功したのである。

 とは言え、カイトが夏季休暇の終わりに傭兵ラルフと戦った時のことから分かるように、いくら強度を上げたところで溶けるときは溶ける。カイトが溜息を吐いたのはその時のことを思い出したからだろう。オクタヴィオが知る限り、あの時壊れた魔導具の回路は変形では済まず、完全に溶けて消えてしまっていた。かなり高価なマナ結晶を素材に使っていたらしく、その落ち込み様は尋常ではなかった。


「魔導回路なんて初めて見ましたが……むう、割とコストが掛かりそうですね」

「これは手が届く中では最高級の素材を使っているしな。市販されてるような家庭用の物にはこんな高価な物は使われてないな。まあ、機能と金額は要相談、ってとこだ」

「わー、きれーい。おにーちゃんひとつちょーだい?」

「わざとらしいんだよ、腹黒チビ。誰がやるか」


 そのままカイトは慣れた手つきで魔導回路を魔導具の中へと仕舞い込む。それを見るセレーネは少々残念そうな表情だが、最高級の素材を使われた魔導回路に掛かる金額は手の平に収まるサイズでも決して低くない。と言うか、一般的な感覚を持つ人なら目を回す程度には高額だ。流石に今の言葉は冗談だろうが、カイトの反応も当然と言えば当然だった。


「ま、簡単に魔導回路について話したところで今日のレッスンは終わり。魔導具の機能は……こんな感じか」


 そう言って、手元の紙に最後に何事かを書き込み、クレアへと放る。


「それがこの銃の設計だ。要望がありゃ言ってくれ。無けりゃ、取りあえず来週までには仕上げるよ。機構は既にある物を使うしな」

「あ、はい。でもあの、こんな凄いもの50万ユルドでいいんですか?」

「あー、まあお友達価格ってことでいいさ。魔術式も俺の好みで色々と……っと、それはいいか」

「え、なになにー?」


 脇からクレアが持つ紙を覗き込もうとするセレーネだったが、立ち上がったカイトに首根っこを掴まれ、そのまま部屋の外まで連れ出されてしまう。

 まるで猫か何かを運ぶような動作だが、セレーネは特に嫌がって暴れたりはせず、そのまま成すがままに運ばれる。何とも珍妙な光景だった。


「他の人には出来てからのお楽しみ、さ。取りあえず良い時間だし飯にしようぜ。ここの食堂は女子入れないし、たまにはどこかのレストランにでも行くか」

「カイト君のおごりー?」

「食後のお茶くらいなら出してやるよ。オクト、鍵はそこの棚にあるからよろしくー」


 オクタヴィオたちの返事を待たずにどんどん先を歩いて行くカイトとセレーネに、流れるように自然に話が決まったせいか、一言も挟めなかったクレアは目を瞬かせる。

 そんな彼女の心情を何となく読み取るが、オクタヴィオとしては掛けられる言葉はあまり多くない。


「まあ、退屈はしないことなら保証出来るよ」

「……そうみたいですね」


 新学期の初日にセレーネが口にした言葉である。その時のオクタヴィオは溜息で応えたが、よくよく考えればこれほど的確な言葉は無いとも思えた。

 そんなオクタヴィオの苦笑に苦笑で返し、クレアは座っていたベッドから立ち上がった。


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