エピローグ ≪青空に響く声≫
しれっと投稿。
ひと月遅れは正直すまんかったと思ってる。
あとこれ最終話です。
7/21 スクィナの髪色修正。ちゃんと人物表作ってるのに何故間違えたし。
夏も終わりに差し掛かり、季節はようやく秋の装いを見せ始めていた。
窓の外、遥か彼方の入道雲を眺めながら“学院”の廊下を歩いていたオクタヴィオは、向かう先に何やら人だかりがあることに気が付いた。生徒たちは壁の掲示物を挙って見ているようで、この季節にそんな注目するようなイベントなんてあったかな、と不審に思いながらも近づいて行った。
「どうしたの?」
「あ、オクタヴィオ君」
「なに? オクタヴィオ・フローリオか!」
人だかりの一番外側に居た知り合いの女子生徒に声を掛けると、その声に反応して内側から声が上がり、瞬く間にオクタヴィオは衆人の視線にさらされる。その様子に何事かと目を剥くが、考える暇も無く人の輪の内側へと引っ張り込まれた。
「ちょ、ちょっと!?」
「まあまあ、落ちつけよ。で、これを見てくれ」
輪の内側に居たやけに馴れ馴れしい男子生徒――ネクタイの模様から、ひとつ上の学年らしい――に見せられたのは、廊下の壁に貼り付けられた何の変哲もない一枚の張り紙だった。だが、その内容は大いに問題があった。
以下、抜粋である。
≪集え勇者! 魔王生誕祭、開幕ッ!!≫
武闘会でその雄姿を見せつけ存在を知らしめ、我らが魔王カイトさまがまさに魔王としての産声を上げたあの日から早3年。4年目の今年は、記念すべき生誕日をみんなで楽しく騒ぎましょー!
~ルールだよ~
・死傷、後遺症を患うような攻撃以外は何でもありあり! でも禍根は残さないように気をつけてねー?
・判定、降参、場外のいずれかで敗北。そこら辺は従来の武闘会と一緒だよー。変えるのも面倒だからねー!
・乱入とかも大歓迎! ただし武闘会として第4学年の実力検査も兼ねてるから、指定のブロック以外への乱入は禁止だよー。破ったら我ら魔王軍の“偉大なる”邪悪な魔術師、アルフレード・アステリオスに呪われちゃうよー?
・予選はバトロワ、本線は1対1! 優勝者には勇者の証として魔王さまへの挑戦権が与えられるよー!
・見事魔王さまを打ち倒した勇者には……うぷぷ。後は実際のお楽しみだよー。
それでは! ルールを守って楽しく騒ぎましょー!
文責:魔王軍筆頭軍師、セレーネ・コルリ
「……これは」
思わず絶句するオクタヴィオ。
「お前の領分だろ?」
「……正直、他の人がやってくれるなら任せたいです」
「ははは、俺らもあの厄介者をぶっ飛ばしたいが、それにはお前の協力が不可欠だ。頼むぜ、勇者さま?」
「あはは……はぁ」
笑みを浮かべて肩を叩いてくる上級生や同輩に引きつった笑みを返し、オクタヴィオはガックリと肩を落とした。
その時、人だかりの外側が再びざわめき、やがて人が割れ道が出来る。
そして、そこから燃えるような赤髪の少女と彼女に付き従う黒髪の少女が現れた。
「あらオクト。奇遇ね」
赤髪の少女――アンジェリカがオクタヴィオに語りかけた。同時に、背後に控えたメアリーも静かに頭を下げる。
大国の皇女が1人の少年に親しげに話しかける。その様子に周囲がざわめくが、本人たちは大して気にせず――オクタヴィオのみ苦笑いだが――親しげに挨拶を交わす。
例の事件が終了した後、なんとアンジェリカは“学院”へと編入してきたのだ。しかも、オクタヴィオたちと同じ第4学年に。
何でも、アンジェリカのイリオス留学は前々より計画されていたことで、親善の儀でアンジェリカが親善大使を務めたのはその前準備だったらしい。さらに言うと、留学の期間やアンジェリカの学力から編入は出来るだけ上の学年が好ましく、その他さまざまな思惑をエドアルドが読み切ってオクタヴィオと引き合わされた。そして、その後の本人の希望から“学院”の第4学年に編入が決まったらしい。
ちなみにだが、今後ろに控えているメアリーも合わせて編入し、同じく護衛隊の隊員たちも駐屯している。女性隊員はアンジェリカが暮らす女子寮で寝泊まりし、時たま臨時講師として学院にも顔を出す。男性隊員も学院の近くで警邏や臨時講師として治安維持その他に協力しているらしい。オクタヴィオも何度か知り合ったたしいイリオス人と酒場で酒盛りしている姿を見ている。それでいいのか、とも思ったが。
何はともあれ、最初から姿を晒して編入してきたアンジェリカ一行に周囲は愕然としていたが、何だかんだで今はそれなりに馴染んでいた。
「おはよう。アンジェ、メアリーさん」
「ええ、おはよう」
「おはようございます、オクト」
挨拶を交わしたアンジェリカはオクタヴィオの前に張られた張り紙に気付いたのか、オクタヴィオへと身を寄せ、張り紙に顔を近づける。
ふむふむ、と張り紙を読み終えたアンジェリカはひとつ頷くと、オクタヴィオへと振り返って満面の笑みを浮かべた。
「楽しくなってきたわね!」
「ええー」
「ふむ、そうだな」
同意したのは別の声。再び人混みが割れてオクタヴィオたちがそちらを振り向くと、現れたのは水色の髪を靡かせたエルフの少女、エリスだった。
さらに、「おれもいるぞ!」と人混みを飛び越えてレオナルドまで飛来してくる。
続々と集合してくる友人たちに自然と笑みを浮かべるオクタヴィオだったが、ここに来て嫌な予感を感じて廊下の先へと視線を送る。
すると、それと同時にこれまたオクタヴィオの友人にして、これから起こるであろう騒動の首謀者の一角である少女の高笑いが響き渡った。
「はーっはっはっはっはっは!!」
「お、おまえは、セレーネ・コルリ!!」
「反応ありがとうレオレオ! そうあたしこそ、魔王軍筆頭軍師!」
やけに「筆頭」という言葉を強調し、セレーネは小さなその身をすっぽり覆うマントを翻す。
そして、ドドン、と効果音でもつきそうな所作で右手を前に突き出した。
「セレーネ・コルリであるー!!」
そう叫ぶと同時に、セレーネの後ろで爆発音と花火のような閃光が上がった。無駄に凝った演出である。
オクタヴィオは痛む額に手をやり、それで、と語りかける。
「セレーネさん。今度は何を企んでるの?」
「しっけいなー。あたしはカイト君の提案に乗ってちょっと儲けよゲフンゲフン」
やけにわざとらしい咳払いをして一拍置く。
「楽しいイベントをお届けしようというこの心意気! まさに奉仕者の鏡だねー」
「裏の目論見が隠しきれてないよ、セレーネさん」
「な、何の事かなー? ハッ、さてはここであたしを捕えようとしているなー!? そうはいかぬぞオクト君! 腐っても軍師、このセレーネ、無策で勇者の前に姿を現すはずがないーっ!」
「……何も言ってないけど」
「無駄だオクタヴィオ。役に入ったセレーネは基本人の話を聞かない」
「知り合って間もないけど、仲良く出来そうな予感がひしひしとするわ」
「おやめください、姫様」
思い思いの反応をする友人たちの言葉を聞いているのか聞いていないのか、セレーネはむふーん、と笑みを浮かべ、格好つけてひとつ指を鳴らした。
ちなみに、反応の無いレオナルドだが、早々に飽きてボーっとしていたところで、上級生らしい女子生徒たちに差し出された飴玉に飛び付き無心で頬張っていた。もはや扱いが愛玩動物であるが、気にしてはいけない。
「これこそ我が軍の最終兵器、クレア・レイスの登場だー!!」
「クレアさん!?」
「え、えっとセレーネさん? どういう状況ですか?」
セレーネの後ろから姿を現したクレアに、オクタヴィオは驚きの声を上げる。同時に周囲も「そんなレイスさん!」「彼女も|問題児(向こう)側に行ってしまったのか」「クレアちゃんまで……」「僕たちの希望が!」と思い思いのポーズで思い思いの反応をしている。薄々と察していたことだが、彼らはかなりノリが良いようだ。
そして、そんな反応に気を良くしたのか、セレーネは事情が分かっていないらしく戸惑うクレアを置いてけぼりにし、高らかに声を上げる。
「ふふん! クレアちゃんは凄いんだぞー! 我が軍の魔王妃(暫定)なんだぞー」
「セレーネさん!? それわたし断ったはずじゃ……!」
「えー? クレアちゃんはカイト君のお嫁さん嫌なのー?」
「え、い、いえ、そうではなくて……わたしはこのような騒ぎを起こすのはどうかと――」
「えー、良いじゃんクレアー」
口籠ったクレアの後ろから、少女と呼ぶにも幼すぎる翡翠の髪をした女の子が顔を出し声を上げた。
「え、いや、でもスクィナ。皆さんに迷惑を掛けるのは良くないですよ?」
「えー、でも面白そうだよ? 良いじゃんクレア、折角だしボク協力するよ!」
その女の子はクレアたち一族の永遠の友にして、先の事件にて解放された嵐の精霊、スクィナであった。先の事件の後、力を使い果たしたのか大人の女性の姿から幼女化して一同を驚かせたのは記憶に新しい。
現在は学院長の許可を取ったクレアが仕立て直した“学院”の制服を着て、クレアの近くをうろちょろする子どもとして扱われている。精霊であることは秘匿されているのだが、本人(本精霊?)が仲良くなった人物にぺらぺらと公言して回ってしまっているため、知っている人はそれなりに居る。公然の秘密、という状態だ。
とは言え、幼女化して弱体化した状態でもエリスを軽く一蹴する程度の実力はあるため、どうこう出来る人物はいないと半ば放置されている。
「おー、それはありがたい! じゃあスクィナちゃんは、そうだねー……スクィナちゃん強いし、邪神役かなー」
「じゃしん?」
「守り神みたいなものかなー」
「守り神! 良いよ! じゃあボクじゃしんねー!」
「え、えっと、スクィナ……?」
オクタヴィオたちが口を挟む隙も無く、話がどんどんと進んで行く。それでいいのか、という思いが一同共通して渦巻いていたが、それを口に出す者は居なかった。
外見が幼女化したせいか、スクィナの思考もそれに伴い短絡化しているようであった。
「ね? クレアも一緒にやろうよ!」
そんなスクィナの、やけに輝いている純粋な瞳に見詰められ、クレアは――
「そ、そうですね……ならわたしもやろうかなー、なんて」
「クレアさーん!?」
オクタヴィオの叫びも虚しく、クレアは魔の手に陥落した。
オクタヴィオが見る限り、どうも最近スクィナが関わると途端に折れやすくなった気がする。と言うのも、スクィナとの失われた時間を埋めようとしているのか、最近のクレアは一分一秒でも長く触れ合おうとしている。休み時間はいつもスクィナを抱えて談話室でほっこりしているのは有名だ。その所為か、スクィナの意見に流されることが多々であった。
「ようし! じゃあさっそく準備をしなきゃー! 行こ、クレアちゃん、スクィナちゃん!」
「おー!」
「あ、ま、待ってください! 手を引っ張らないでくださいぃー!」
そうして、嵐のように去って行くセレーネたち。オクタヴィオは呆然とする生徒たちの中で溜息を吐いた。
「また面倒くさそうなことに……」
「楽しくなってきたな!」
「楽しくなってきたわね!」
「うむ、楽しくなってきた」
「…………もうやだ」
「が、頑張ってください、オクト」
再びガックリと項垂れたオクタヴィオに、メアリーはテンションを上げる自らの主を見て、気まずそうに肩に手を置いた。
◆ ◆ ◆
時を同じくして、カイトは再び訪れた学院長室にて、ソファに一体化しながら紅茶を楽しんでいた。
芳醇な香りと滑らかな舌触りは紅茶について詳しくないカイトでも一級品であると分かるもので、それを折角だからとがぶ飲みするカイトはやはり紅茶について素養が無いのだろう。
そんな様子を眺めながら、対面に座ったアルフレード・アステリオスは、まるで孫を見るかのように目を細め、優雅な所作で紅茶を口に運んだ。
そうしてしばらくお茶会を楽しんだ後、アルフレードは口を開いた。
「さて、カイトよ。その後の大結界の様子はどうじゃ?」
「問題ねぇよ。あの時止まったのは精霊にマナが吸われて、かつそんな弱った状態で対艦砲も目じゃないような砲撃を喰らったからだ。もう一回精霊にでも来襲されない限り問題ない。ま、時間があれば術式を書き加えてセーフティでも作りたかったが、今は無理だな。年単位の時間が掛かる」
「そうかのう。何はともあれ、お疲れであったの」
「良いよ別に。大結界については俺がやりたいからやってるんだ」
それより、とカイトは目を細め言葉を紡ぐ。
「あのクソ野郎……“探求者”のことは分かったか?」
「詳しいことは何も、じゃな。調べてみれば各国で目撃条件がある。しかも、何十年も変わらぬ容姿でじゃ。さらに言えば、どうも複数人行動を共にする仲間がいるようじゃ。今回は一人であったが、何かしらの組織に所属していると見ていいじゃろう」
「けっ、どうせ碌な組織じゃねぇな」
「うむ。数十年前のオロペディオ王国の“王竜事件”から近年の“聖女失踪事件”も、どうやら奴らが関わっているらしい。さらに、16年前の“人造精霊事件”も、じゃ」
「…………そうか」
「まあ、後のことはわしら大人に任せると良い。子どもはしっかり学ぶことが仕事じゃて」
「……そうだな。ありがとよ、爺さん」
「学院長として、お主の友人として、当然のことじゃよ」
「へっ、そうかよ」
紅茶のカップから立ち上る湯気がゆらゆらと揺れる。それを口にするカイトに、アルフレードは再び話しかけた。
「ところで、ご褒美は本当にあれでいいのかのう?」
「第4学年のトーナメントの運営権の事か? ああ、あれでいい。ちょいとやんなきゃいけないこともあるし、やりたいこともあるし、そのために都合がいいからな」
「ふむ……危険なことではないのかの?」
「問題ないって断言できるぜ。それに、いざとなったらあんたが居るだろ? 邪悪な魔術士さんよ」
「“偉大なる”を付けてくれぬか、我らが魔王さまよ」
ホホホ、ハハハ、と2人笑い合った。
そんな最中、どこからか生徒たちの騒ぎ声が2人の耳に届いた。詳しい内容は聞き取れないが、カイトにはその内容が何となく想像出来た。
「なんじゃ?」
「俺の仕込み……さて、んじゃそろそろ行くよ」
「ふむ。計画の仔細は知らぬが、あまり先生方の負担にならぬ様にな」
「はっ、分かってるよ。世の中WIN-WINの関係が一番ってね。ちゃんと上手くやるさ」
紅茶ご馳走さん、と言ってカイトは紅茶を飲み干し、席を立って学院長室から出て行った。
アルフレードはその様子を見届け、手に取ったカップを口に運ぶ。
程なくして、先程と同じように騒がしい生徒たちの声が聞こえてきて、アルフレードの口は自然とを弧を描いた。その中にはカイトの声もあるだろう。オクタヴィオの声も、彼らの友人たちの声もあるだろう。
目線を上げると、大きく取られた窓の外には雄大な入道雲が見えた。夏もそろそろ終わり、次第に季節は移ろい秋となるだろう。これはアルフレードが過ごして来た三百年以上の時を経ても変わらないことで、青空の下に子どもたちの声が響くのもまた変わらぬことだ。
「どうか、子どもたちに幸あらんことを」
呟きは、湯気と共に揺らめき消えた。
はい。完結です。
蛇足編(魔王生誕祭編)のプロットも一応あるけど、多分書かないかなぁ。
一応今回の目標である「ストーリーのある小説を書く」「独自の魔法理論を設定する」「空飛ぶ船の上での派手な戦闘」は達成したから、次はこの経験を活かしてもっと上手くやる。
あと投稿速度か。こればっかりはなんとも……モチベ管理ってほんと大変。人気作家の人やプロの方を尊敬します。正直ひと月遅れはほんとすまんかった。
以上、それではまたどこかで。




