第三十話 ≪雪解け≫
剣はビームを放つもの。
「おーおー、頑張ってるなぁ」
徐々に数が少なっていく結晶の柱に身を隠し、時折飛んでくる砲撃を躱しながらカイトは呟いた。
その視線の先では、オクタヴィオとダガーが協力し合ってスクィナの周りを駆け回っている。時折人が飛びまわる羽虫を鬱陶しそうに手で払う様に、無造作に凶悪な砲撃が放たれるが、オクタヴィオとダガーは互いが互いを守る形で切り抜ける。その様子はまさに歴戦の戦士であり、強大過ぎる力を持つが知性を失っている精霊に対し、自らを囮に攻撃を誘発し互いを守り合い、何とか時間を稼いでいた。
そんな彼らに助けられているカイトは、呑気な口調とは裏腹に、自分に出来る事を成すために射線を掻い潜って甲板上を駆け回る。
「よし、仕込みは上々っと」
そして、最後の小細工を柱に仕掛け、流れ出た額の汗を拭う。そして、そのまま後方へと飛び退き、ピンポイントで降ってきた光の柱を回避した。
「くっ……上からとかマジかよ!?」
「カイトッ!」
慌てて避けたために柱の陰から姿を晒し、スクィナからの射線が通ってしまう。そして、そんなカイトを守るためにオクタヴィオは甲板に降り立ち、放たれた幾筋もの砲撃に身を投げ出した。
「んなっ、おいオクト!!」
親友の蛮勇に思わず目を剥くカイトだが、それにオクタヴィオは軽く笑って応え、込められたマナで薄く輝く剣を振い、飛来する砲撃を斬り裂いた。
一閃、二閃、三閃。流れるように振るわれる剣閃は一振りごとに砲撃を弾き打消し相殺し、致命的な隙を見せたカイトを見事守り切った。
だが、安心するのはまだ早い。相手は精霊、マナを司る“災害”に等しき存在である。攻撃を防ぎ切ったオクタヴィオに何か感じた様子も無く、すぐさま次の砲撃が、更に数を増やして用意される。
棒立ちのままのスクィナの頭上の空間全てが揺らぎ、マナが収束した塊が数え切れないほど展開された。その埒外な光景に、オクタヴィオの顔は完全に引きつった。その膨大な数は圧倒的な暴力と化して強固な防護魔術だろうと削り取られそうだ。放たれればオクタヴィオたちは逃げる暇も無くハチの巣にされるだろう。
だが、この男が助けられたまま黙っているはずがない。
「オクト、飛ぶぞ!」
声を飛ばし、カイトは結晶に覆われた甲板に拳を叩きつけた。その瞬間、解かれたマナがカイトとオクタヴィオに纏わりつき、2人は急激な加速を身に受け、砲撃群が発射される一瞬前に上方向へと射出された。
ドドドドドドドッ!! と艦体が削り取られる音を背後に聞きながら空を飛び、やがてスクィナの頭上を越える。それに合わせてカイトは残り少ない高純度のマナ結晶を白雷の球体へと変化させ、未だ突っ立ったままのスクィナを爆撃した。
「だ、大丈夫なの?」
「この程度でどうにかなったらこんなに苦労してねぇよ」
甲板をクレーターのように陥没させた白雷の威力に若干顔を青ざめさせたオクタヴィオの言葉に、上がる煙の中で相変わらず存在する人影を確認したカイトが少々嫌な顔をしつつ言った。
そのままスクィナを大きく飛び越えるようにして反対側へ着地した2人へと、丁度近くに居たクレアが駆け寄った。
「カイトさん! オクトさん!」
「クレア、結晶は?」
「出来ました! これが私の全力です!」
そう言ってクレアが差し出した結晶は、吸い込まれそうなほど透き通った空の色をしていた。
それを受け取ったカイトは、指でつまめる程度のそれを「へぇ」と呟いて眺めた後、雑な扱いでオクタヴィオへと放る。そんな軽い調子で重要アイテムを投げ渡されたオクタヴィオは、動揺を漏らしつつも取り落とさないようにしっかりとキャッチした。
そして、それを右手に持つ剣の窪みにはめ込む。そのまま剣を甲板へと投げ落とすように突き刺すと、その反動でマナ結晶は鍔の中に収納され、剣身が輝きだした。
込められた莫大なマナは波打つように金剛石の刃に浸透し、マナの輝きに追随するように剣身に複雑な文様が浮かび上がった。最高峰の魔導金属が、今ようやく真価を発揮し、刃としての産声を上げたのだ。
「オクト、行けるな」
「うん」
剣を引き抜いたオクタヴィオに声を掛けると、決意を秘めた瞳と共に返事が返された。その答えにニヤリと笑って見せ、カイトはスクィナへと視線を移す。
漏れ出す莫大なマナを察知したのか、スクィナは周囲を飛びまわっているダガーを無視してカイトたちの方を向き直る。そして、手の平を前に突き出し、その周囲に六つのマナの塊を作り出した。
マナの塊は徐々に形を変え、杭のような形となる。そして、それらはカイトたちを―――正確には莫大なマナを持つオクタヴィオへ照準を合わせ向きを変えた。
「あのデカい砲撃じゃないなら俺が防ぐ。オクト、突っ込むぞ!」
「あーもう! 無茶だけはしないでよ!」
「今しないで何時するんだよっ!」
「あっ、カイトさん!」
オクタヴィオの言葉を無視し、カイトは生身で突っ込んでいく。その様子に後ろでクレアが何か言いたげに声を上げるが、オクタヴィオは一瞬迷うもののクレアから視線を外し、カイトを追いかけることを決めた。
「クレアさんはそこに居て!」
そう言い残し、オクタヴィオはカイトを追って走り出す。言ってすぐにその言葉にクレアは納得しないだろうと思い至る。深い話は聞いていないが、友達であるという精霊を助けようとする中で、自分だけが何も出来ないというのは酷な状況だ。
だが、固有魔術師のクレアでは精霊と接近戦をするのは難しい。本来精霊と相対するだけで危険が伴うのであるから、身体強化もせずに精霊の前に飛び出すのは自殺行為にも等しいのだ。
それはカイトにも同じことが言えるのだが、常識は破るためにあると本気で思っているカイトには言っても無駄だろう。
クレアを残したカイトとオクタヴィオは、手を翳したスクィナへ向かって最短距離を駆け抜ける。その途中で遂に光り輝くマナの杭が射出されるが、対するカイトは足を甲板へと叩きつけ、施していた仕掛けを作動させた。
クレアの収束の巻き込まれなかった結晶柱が一気に融解し、その全てが雷撃となって迸る。それらは全方位からスクィナへと向かって殺到し、同時に途中にあったマナの杭をもあらかた消し飛ばした。
消し飛ばずに残った杭もその威力を減反されており、カイトが手を添え干渉して弾き飛ばし、見当違いの方向へ飛んでいった。
今までで一番の規模の雷撃によって精霊の動きに支障が出る。見ると、スクィナが背負う円環は回転が不規則になり、その表面には徐々に亀裂が走り始めていた。
今までになかった明らかな隙に、カイトは叫び声を上げた。
「オクト! 撃てッ!!」
その声に応え、オクタヴィオは地を踏みしめ、担う直剣の力を解放した。
「はああああああああッ!!」
剣を掲げて絶叫し、黄金色に輝くそれを振り降ろす。その瞬間、剣から光が迸り、雪崩れるようにしてスクィナへと向かって金色の極光が放たれた。
それはまさしく雪崩れであった。剣から放たれる光は制御されぬまま暴力的な勢いでスクィナへ向かって直進する。
だが、無機質な瞳のまま精霊スクィナは右腕を掲げ、そこから白色の光を放ち金の剣閃を受け止めた。
「なっ!?」
オクタヴィオが驚愕から声を上げる。驚くのも無理はない。この一撃はもはやオクタヴィオにも制御が不可能で、ただ指向性を放つ方向を大まかに定めるのが精一杯の理不尽な暴力だ。それを、隙を晒した状態からノータイムで受け止めるなど思ってもいなかった。
だが、これこそが精霊。これこそが大自然の化身である。世界創生の時から語り継がれる理不尽の権化たる精霊の力の前に、並び立つ者は無いのだ。
徐々に、白と金の極光の勢いに差が出始める。押していた金の勢いが衰え始め、白の極光がじりじりと境界線を押し戻していく。剣を持つオクタヴィオの額に一滴の汗が流れた。
「くっ」
剣を持つ手は震え、剣先が揺らぐ。また、服の袖やその下の肌に亀裂が走り、所々から血が滴り落ちた。莫大なマナの制御が甘くなり、余波がオクタヴィオを傷つけ始めたのだ。
普通ならばこうはならない。だが、あまりにも莫大なマナとそれを限界まで一気に放出しているため、余波から身を守る余裕が無いのだ。
じわじわと迫りくる白色に、オクタヴィオは顔を歪めた。
「諦めないでください」
そんな時、柔らかな声とともに剣を持つ手に重ねられる手があった。
隣を見ると、豊かな黒髪を靡かせたダガー―――いや、メアリーがオクタヴィオの横に並び立っていた。メアリーはオクタヴィオの手の上から剣を支え、裂かれた腕を治し、余波からオクタヴィオを守り切る。
「私がサポートします。あなたはただ、前を見ていてください」
柔らかな口調は戦闘によってフードが完全に消し飛び、顔を晒してしまったせいか。黒衣の執行者の仮面を取り払った素顔に笑みを浮かべ、少女はオクタヴィオを支え立つ。
オクタヴィオは暖かなものが身体に流れ込んでくるのを感じた。震えが止まり、剣先は定まる。ただ暴れるだけであった光の奔流は徐々に収束していき、一筋の柱となって白の光を押し返して行く。
「「行っけぇぇぇええええええッ!!!」」
オクタヴィオが叫び、メアリーもまた叫ぶ。剣先から溢れ出る金色の光は勢いを増し、遂に白色の光を貫いた。
金の光はそのまま一直線に伸びて行き、遥か彼方の雲を弾き飛ばし、やがて消滅した。
その瞬間、敢えて表現するならバキバキバキッ!!! という、言い様も無い轟音が響き渡り、スクィナとオクタヴィオたちの境目を中心として甲板に亀裂が走り、そこを中心に折り畳まれるように船体が歪み始めた。
剣に込められたマナを使い切ったオクタヴィオとメアリーは、傾く甲板に思わずつんのめり、重なり合いながら転がるようにして倒れ込んだ。そして、すぐさま顔を上げたオクタヴィオが見たのは、肩口あたりから右腕が消失した、しかし左手をオクタヴィオたちに向け、その先に極光を束ねたスクィナの姿だった。
「そんな……ッ!?」
オクタヴィオたちは折り畳まれつつある船体のちょうど境目付近に居り、スクィナはそこから数メートル離れた場所に居るため、見下ろされる形となっていた。
逃げなければいけないのに、身体が動かない。それはメアリーも同様なようで、立とうにも足が震えて上手く動けない有様だった。仕方がないこととはいえ、全力を出し過ぎたのだ。
せめてもの足掻きとしてオクタヴィオはメアリーを庇うように背に庇う。そのメアリーもまた、オクタヴィオを守ろうと防護魔術を構築しようとするが、魔術式は構築されずに粒子とかして消えて行く。
そして、オクタヴィオたちの前で白き光が輝きを増し―――
極光が放たれる直前に射線に割り込んだ人影が、そのまま光を弾き飛ばした。
「ぐっ……!」
「カイトッ!?」
カイトが掲げられた左腕を弾くのと同時に極光は放たれ、そのままオクタヴィオたちから逸れて傾いた甲板に直撃し、艦体を貫き周囲十数メートルを丸ごと消し飛ばした。この結果が僅か数秒のチャージタイムでもたらされているのだから開口するしかない。しかも、放ったスクィナは操られて自我も無く、全戦力の数パーセントも発揮できていない。精霊がどれほど埒外な存在かが分かるだろう。
だが、例え全力にほど遠かろうと精霊の一撃を逸らしたのだ。代償はそれなりに高くつき、カイトの右腕からは至る所から血が噴き出した。苦痛に呻き、カイトはそのまま腕を抱え込んで崩れ落ちる。
そして、誰も立つ者が居なくなり精霊スクィナが改めて左腕に光を束ねようとしたところで、最後の人影がスクィナの前に現れた。
◆ ◆ ◆
クレアはずっとカイトたちの戦いを後ろで見ていた。最初はカイトに抱きかかえられ腕の中で、オクタヴィオたちと合流してからはその背の後ろで。
確かにその方が都合は良かった。クレアの戦闘力は低く、特に攻撃手段は無きに等しい。結晶化の力で壁を作り出し砲撃から身を守る事は出来るが、それもあの極光の前には役に立たない。
収束によるサポートも必要であった。極光の前には無意味とは言えその他の砲撃は防げたし、また、オクタヴィオの放った強大な一撃はクレアの収束があってこそだ。そしてそれには集中が必要で、一歩引いた位置に居るのは仕方の無いことであった。
だが、それでも。
それでも、わたしはスクィナの友達だ。
その思いが、クレアの足を前に進ませた。
今まさに、目の前ではカイトが血を流して甲板に崩れ落ちたところだった。その前は、オクタヴィオとメアリーが力を使い切って立てもしない状態に陥った。
カイトやオクタヴィオとは知り合ってまだ一か月程度だ。メアリーに至っては今日先程知り合った。皆それぞれ理由を持ってここにいるのだろう。それも、クレアの理由とは異なる理由でここに立つ者もいるだろう。
だが、それでも皆ここまで力を振り絞っている。なら、自分ひとり後ろで見ているのは絶対に間違っている。
そしてなにより、クレアは友達が友達を傷つけるのを、もう見たくは無かった。
クレアは走り、スクィナの前に飛び出した。
「スクィナ!!」
叫んでも足は止めない。足場の悪い甲板を、そのまま一直線に駆け抜ける。
呼びかけると、スクィナはクレアの方を向き直り、そのまま停止した。スクィナの瞳は虚ろのままだが、先程と比べると揺れ動いている。微かな変化だが、クレアには分かった。小さい頃からスクィナの表情豊かな様を良く知っているからだ。違和感しか感じない今の無表情の中に、ほんの少し昔と同じ“色”が戻ったのだ。
恐らく、背中の円環が壊れかけ、支配から脱しかけているのだ。ならば、クレアがすることはただひとつ。それを後押しするため、完膚なきまでに円環を破壊することだ。
スクィナまであと一息というところで、その腕がのろのろと動き出す。先程までとは異なる、明らかに揺れ動いた仕草で、しかしゆっくりとクレアに向かって左腕が差し向けられた。そして、それだけでクレアは安易に近づけなくなった。
この遅さなら声を掛けずに近寄れば接触も適ったかもしれないが、倒れたカイトたちへと向いた意識を奪うためには声を掛けるほかなかった。
収束という手もあるが、それも他ならぬスクィナの傍では敵わない。クレアの収束魔術は本来結晶化までは行きつかない程度でしかないのだが、それがスクィナからの力の譲渡によって強化され今の形となっている。その結果、スクィナの周囲数メートルでは力が元の持ち主に引かれるのか、マナの結晶化に時間が掛かるのだ。若干ではあるのだが、この状況でその隙は致命的だった。
つまり、クレアの手で残り数メートルを埋めることは叶わない。
なら、クレアでなければどうか。
「跳べ……クレアッ!!」
地を這うカイトが、顔だけ上げ、爛々とした瞳を向けて掠れた声で叫んだ。
そして、弾かれたようにクレアがスクィナへと跳んだ瞬間、カイトは無事だった左手を甲板に叩きつけ―――刹那、巡洋艦が真二つに割れた。
傾いていた甲板は直角に近い角度となり、そのすぐ傍は果て無き蒼穹の世界だ。
空を跳ぶクレアはカイトの成したことをすぐさま理解し、若干遅れる結晶化を行う。マナ結晶の檻がスクィナの周囲に展開され、スクィナを巻き込んで重力に引かれ落ちて行き、そしてすぐさま何もなかったように解除された。
しかし結果はそれで十分で、今の位置関係はスクィナが下、クレアが上だ。後は落ちるだけで接触が叶う。そして、その一瞬を埋める心強い友が、クレアには居るのだ。
スクィナの左腕が再びクレアへと向けられる。だが、その瞬間に何かを察知したスクィナが機敏な動きで半身を引く。同時にその身体を掠めて剣が飛来し、反対側の甲板に突き刺さった。なけなしの力を振り絞った、オクタヴィオからの援護射撃だ。
そして、一瞬の間は埋められた。
「スクィナ!!」
2つの陰は交錯し、クレアはスクィナの首に抱きつくようにして背後の円環に触れる。先程まではスクィナに妨害されて不可能だったが、ここまで近ければそれも関係ない。親友の自由を奪う憎き魔導具へ向け、全力で己が魔術を叩き込んだ。
リィン、と鈴の音が鳴るかのような音が響き、背負われた円環はマナ結晶に包まれ動きを止める。そして、クレアは円環にさらに収束の魔術を注ぎ込み、円環を包むマナ結晶が透き通った輝きを放ち始めた。
収束魔術はそれでも止まらず、さらに、さらにと結晶は輝きを増して行く。周囲一帯のマナを丸ごと奪うような強引な魔術行使だが、それでも至近距離に居る純マナ的生命体であるスクィナには何の影響も出していない。荒々しい中にも優しさが感じられる魔術であった。
「スクィナを……スーを、返せぇぇええええッ!!!」
クレアは絶叫し、円環を包むマナ結晶は神々しいまでの輝きを放つ。
やがてピキピキ、と結晶にひびが入る。余りに莫大な量のマナが一か所に集中したことにより、結晶化ですらその圧力に耐え切れなくなったのだ。
そして、包まれた円環諸共、マナ結晶は砕け散った。
砕けた結晶は太陽の光に反射し煌めき、それが広がる様はまさに純白の翼が広げられる様を想起させた。
元は円環であった漆黒の破片は、致命的な損傷を受けて砂となり、やがて風に流れて消えて行った。
全力を使い果たしたクレアは、そのまま重力に引かれるまま遥か下方の大洋へと落下していくのを自覚した。だが、クレアに使える魔術は収束のみで、空を飛べるようなものではない。ならば、とこの状況を作ったカイトを探すと、どうやら無理な魔術行使が祟ったのか気絶しているようだ。その隣では疲労困憊のオクタヴィオが焦りながらカイトを揺さぶっており、その傍ではやけに冷静なメアリーが特に動揺せずに落下している。
何と言うか、相変わらずとも言うべきな光景に思わず微笑むと、腕の中でスクィナが身じろぎしたのを感じた。
決して離さぬように意識しながらその顔を覗き込むと、今までの虚ろなものではない、意思の力が、魂の煌めきが籠った翡翠の瞳が開かれた。
その瞬間、支配から解放されたスクィナを中心に疾風が巻き起こる。疾風はスクィナを中心に渦巻くようにして流れ、その流れを通ってマナがスクィナへと入り込んでいく。
すると、半透明であったスクィナの身体に色が戻って行き、肌は陶磁の如き白さを持つ肌色に、豊かな髪は瞳と同じ翡翠に染まる。
頭部には耳の後ろから後方へと伸びるように角のように結晶が伸び、身体は薄絹のような衣服で包まれる。
やがて落下速度が緩まり、2人は抱き合ったまま空中に降り立った。
久々に見た友達の笑顔はクレアの凍てついていた心を溶かして行き、本当に久しぶりに心からの笑みが溢れ出た。
それは春の訪れによる雪解けのようで、クレアの止まっていた時がようやく動き出した証でもあった。
「おかえり、スー!」
目尻に溜まった雫を拭いながら、蒼穹の中、クレアは満面の笑みを浮かべた。
「ただいま、クレア」
穏やかな笑みを返してくれたスクィナに、クレアはもう一度、今度は溢れんばかりの親愛を持って飛びこんだ。




