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第十八話 ≪急転≫




「おっかしーな。オクトの奴いねぇぞ?」

「場所違うんじゃないのー?」

「合ってるはずなんだけどなー。通話デバイスにも出ないし、何やってるんだか」


 やれやれ、と黒い板状の魔導具を手にしたカイトは肩を竦めた。


 今朝突如来た連絡によると、オクタヴィオは何事かを父親に押し付けられ、その用事で昼頃まで遅刻するらしかった。フローリオ卿ってたまにオクトに無茶ぶりするし、その用事とやらが長引いてるのかもな、とカイトは自分のことを棚向こうに放り投げて考える。


「ま、別にいいか。そのうち連絡来るだろ」

「いいのー?」

「いいのいいの。別に子供って訳でもないし、過度な心配は必要ねぇよ」

「へぇー。信頼してるんだー」

「ふっ、伊達に2人で死線は(くぐ)ってないぜ」

「無理やり巻き込んで、でしょー? オクト君からしたらいい迷惑だろうねー」

「死線、ですか?」


 セレーネと言葉を交わし合うカイトに、隣にいたクレアは疑問の声を上げた。カイトが口にしたのは学生と言う身分にはそぐわない言葉だった。どちらかと言うと歴戦の傭兵などが使うような言葉だ。

 ちなみに、今この場に居るのはカイトとクレア、そしてセレーネだ。レオナルドとエリスも行動を共にしているのだが、屋台を見に出歩いており、現在姿は見えなかった。


「あー、そうだな。例えばこの夏、俺はオクトを連れ出して大陸の方に出かけてたんだが……」

「えー、何それ聞いてないよー! 面白そうなのはあたしも連れて行ってって言ったのにー」

「だー! ったく、話の腰を折るなよ。苦情は後で聞きつけますー」

「ぶー」


 突撃してくるセレーネの頭を押さえつけたカイトは、さて、と気を取り直して再び口を開いた。


「この夏に行ったのはマナ溜まりの1つの“幻想の森”だな。本当はその奥にある遺跡の方に行きたかったんだが、それは流石に難しかった」

「げ、幻想の森って、Sランクの超危険地帯じゃないですか! そんなところに行ったんですか?」

「あー、まあな。ちょいと野暮用で」

「ほへー、毎度のことながらカイト君は意味わかんないねー」

「うっせ」


 まったくもー、と肩を竦めるセレーネを小突き、カイトは言葉を続ける。


「凄かったぞ。AランクやSランクの魔物が勢ぞろいだった。流石の俺とオクトも逃げ回るしかなかったな」

「当たり前ですよ! マナ溜まりは魔物の活性化が進んでいる超が付く危険地帯ですよ? こう言ってしまっては何ですが……その、よく生きてましたね」

「カイト君は馬鹿だねー」


 クレアの言葉尻に乗っかり、そんなことも分からないなんてー、とセレーネは溜息を吐いた。もちろん冗談の類だが、癇に障ったカイトは無言で両の拳をセレーネの側頭部に当て、そのままぐりぐりと押し付ける。


「いたたたたたー!? ちょ、こら、やめれー!」

「ほれほれ、ここがええんか? ここがええんか?」

「んきゃー! 変態がいるよー!」

「こいつ、誰が変態だ」


 わいのわいのと騒ぐ2人に、おずおずといった風にクレアが声を掛ける。


「あ、あの……カイトさん?」

「ん? ああ、そんな強くしてないから平気。ほれセレーネ、別に痛くは無いだろ?」

「このへんたいー。いたいけな少女の頭を何だと思ってるのさー」

「それで腹黒な思考が無くなれば安いもんだろ。うりうり」

「やーめーれー」

「いえ、あの、そうではなくて。周りの視線が……」


 囁くような声量のクレアの言葉に、はて、と周囲を見渡す。すると、自分たちに注目し、ひそひそと何事かを話している群衆がいた。明らかに不審に感じている様子だ。

 カイトは手元のセレーネの頭を見返し、少し考える。ふと、婦女暴行の文字が頭に浮かんだ。とは言え、その対象はあの(・・)セレーネなのだが。


「ふむ」


 カイトはセレーネの頭から手を離し、腕を組んで群衆を睨みつける恰好を取った。ちなみに、頭を解放されたセレーネも同様のポーズをとっている。


「見世物じゃねぇぞコノヤロー!」

「そうだそうだー! 見物料取るぞー!」


 そうして2人で声を張り上げながら突撃し、集まっていた群衆を散らしていく。いつも通りの問題児っぷりと言うか、どちらかと言えばやっていることはチンピラのそれである。だが、一応クレアが危惧したような問題になるような空気は霧散していた。傍目から見て被害者と思われたセレーネが嬉々として群衆を散らしているのだから、霧散するのも当然なのだが。

 そうして騒ぎに包まれた広場を見てクレアが溜息を吐くと、背後から凛とした声が響く。


「毎度毎度、少しでも目を離したらあの2人は騒ぎを起こすのだな」

「あ、エリスさん」


 クレアが振り向くと、そこには苦笑いを浮かべたエリスが立っていた。


「レオくんはどうしました?」

「奴なら騒ぎの中だ。嬉々として飛び込んで行ったよ。オクタヴィオの苦労が(しの)ばれるな」

「あ、あはは……」


 止めないどころか、騒動の種類によってはあなただって嬉々として飛び込んでますけどね、とクレアは心中で呟いた。


 クレアもイリオスに来てひと月になる。それだけあれば、カイトたち問題児が騒動を起こし、それを処理するために奔走するオクタヴィオを見ることにも慣れてしまう。

 クレアや他の生徒たちも協力しているが、問題児たちや彼らに扇動された生徒たちの暴走を止めるのは生半可なことではない。毎回駆り出され、かつ最終的に騒動を治めるオクタヴィオの精神力には感嘆と悲涙を禁じ得なかった。


「ようエリス、戻って来たか」

「うむ。中々面白かったよ」


 戻ってきたカイトに、エリスは微笑んで答えた。

 その答えを聞いて、カイトに肩車をされていたレオナルドは胸を張り、威張るようにして口を開く。


「今回はおれの勝ちだな、エリス!」

「ふ、仕方ない。勝ちは譲ろう。今回だけだがな」

「次もおれが勝つ!」


 そうして静かに火花を散らす2人に、やれやれ、といった風にセレーネが肩を竦めた。


「2人はどこへ行ってたんですか?」

「ん、大食いだって。よくやるよねー」

「お、大食い……ですか」


 クレアの疑問の声ももっともだった。身体の小さなレオナルドもそうだが、少なくとも、完成された造形美を誇るエリスにはそぐわない言葉である。


「む、私だって食事くらいするさ。それが少々人より多いくらいで」

「お前の“少々”は俺らの想定とは遥かに異なるだろ」

「おれの方がいっぱい食えるぞ!」

「あーはいはいレオレオは黙ってようねー」


 エリスの言葉にカイトは呆れたように返し、続くレオナルドの言葉はセレーネがすかさず流す。洗練された連携であり、その流れるような言葉のやり取りにクレアは思わず笑みを浮かべた。

 カイトの肩から降りてセレーネに絡みに行くレオナルドを眺めつつ、周囲を見回して「そういえば」とエリスは呟く。


「それで、オクタヴィオはいないのか?」

「んー、そうなんだよな。ま、さっきも言ったが大丈夫だろ。何か巻き込まれるなら俺の方が先だし」

「悲しい現実だねー」

「楽しくなってくるな!」

「はっは、レオもセレーネも笑ってんじゃねぇぞコラ」


 自嘲するようなカイトの言葉にセレーネは人を喰ったような笑みを浮かべ、レオナルドは満面の笑みを浮かべる。そして、すぐさま獰猛な笑みを浮かべたカイトに顔面を鷲掴みにされた。無論本気で掴んではおらず、2人ともきゃーきゃーと楽しそうな歓声を上げる。

 そうして楽しげな笑い声を上げる2人を横目に、クレアはふと何かを考えるような表情を取る。


「ん、どした?」

「……いえ、少し」

「ああ、例の件か」

「れいのけんー?」


 カイトの言葉に反応したレオナルドに「何でもねぇよ」と返しつつ、掴んでいた2人をエリスに引き渡し、クレアにのみ聞こえるように話しかける。


「一昨日も言ったけど大結界の警備は厳重だ。あとは結界さえあれば爺さんが何とかするさ。心配はいらねぇだろ」

「そうなんですけど……」


 苦悩するような表情を浮かべるクレアに嫌な予感が鎌首をもたげ始めるカイトだったが、気を取り直すように笑みを浮かべた。


「ま、今はこの祭りを楽し―――」


 もうぜ、という言葉は最後まで発せられることは無かった。


 突如、空を裂く風切り音が響き渡り、次々に硬質な衝突音が鳴り響いたのである。


「―――ッ!!」


 一瞬で意識を切り替え、衝突音の発生した方向を見やる。すると、遠くに見えるコスモスタワーの外壁から粉塵が上がっているのが見えた。

 それだけではない。そうしてタワーを見上げている間にも頭上を“何か”が高速で通り過ぎ、そのままコスモスタワーへと突撃し、再び衝突音を響き渡らせた。


「……何が問題ないだよ、問題ありまくりじゃねぇか。あのくそ爺め」


 今までの楽しげな雰囲気が一瞬で消え去り、周囲が騒然とする中、カイトは脳内で微笑むアルフレードへと悪態をついた。



 ◆ ◆ ◆



 カイトたちから少し離れた場所で、オクタヴィオとアンジェリカもまた白亜の塔へと突撃する魔導人形(ゴーレム)の姿を見ていた。

 魔導人形はコスモスタワーに仕掛けられた障壁型の防護結界に阻まれたが、「何者かが攻撃を仕掛けている」という意思表示としてはインパクトが幾分強すぎ、わいわいと賑わっていた大通りは一瞬で沈黙が支配し、すぐさま不安と恐怖に感染する。


「あれは!」


 逃げ惑う群衆の中で、予想外に派手な攻勢に驚愕するオクタヴィオだったが、対するアンジェリカは取り乱さず、顎に手をやり少しの間思考を巡らせた後、虚空に向けて口を開く。


「メアリー」

「はい」


 誰に向けた訳でもない言葉だったが、しっかりとした返答があった。そのことに驚いたオクタヴィオがアンジェリカの方を振り向くと、アンジェリカの傍には一瞬前には存在していなかった少女が控えていた。

 メアリーと呼ばれた少女はアンジェリカと同じような背格好で、違いといえば濃紺の髪に映える水色の瞳と、着ているメイド服くらいだろうか。少女のメイド服姿はこんな街中では浮いており、いやに目立つのだが、それでも現れるまで接近に気付けなかったことに心中で再度驚く。

 アンジェリカはメイドの少女を示してオクタヴィオを振り向く。


「侍女兼護衛兼親友のメアリーよ。いくら変装してるとはいえ、他国だし護衛としてついていてもらったのよ。言わなくて悪かったわね」

「姫様。他者に紹介するのに“親友”はお止めください。それと、言葉遣いはきちんとしたものをお使いください。侍女長様にいつも言われているでしょう?」

「あー、はいはい。後でね……メアリーはちょっと堅物でね。昔はあんなに可愛かったのに……」

「……姫様?」

「あー、はいはい。後でね」


 耳を塞ぐポーズを取るアンジェリカに、メアリーはこれ見よがしにひとつ溜息をついて見せた。その様子に緊急事態にもかかわらず思わず和んでしまい、オクタヴィオは苦笑する。


「護衛に関してはいるだろうなとは思ってたから別にいいよ。それで、アンジェたちはこれからどうするの? ……あ、今はアンジェリカ様、の方が良い?」

「別にいいわよ、正式な場じゃないし。周りの目は気にしなくていいわ。……そうね、メアリー。タワーの方に行って敵を殲滅し、終わり次第巡洋艦の方に向かうように指示しなさい」

「姫様、それなら既にジャックさんに行って貰っています。イリオス側とも連携が出来ると思うので大丈夫でしょう。それよりも、敵の狙いの可能性がある姫様の避難が先決です」

「そう。なら巡洋艦に向かうわ。オクトも来なさい」

「え、僕も?」


 次々と決まっていく事案を口出しせずに見守っていたオクタヴィオだが、アンジェリカから告げられた言葉に思わず聞き返してしまう。ダガーから出来る限りアンジェリカを守るように言われているオクタヴィオにとっては都合の良い話だが、実際それは良いのかな、と疑問に思う。そこで視線をずらしてメアリーを見てみると、案の定溜息を吐いていた。


「……姫様、巡洋艦は機密の塊です。一般人を、それも他国の人間を連れて行くことは出来ません」

「いいじゃない。今は緊急事態だし都合が良いでしょ? それに詳細はまだでもイリオスとは同盟関係にあるから方便は色々と用意できるわ」

「……はあ」


 再びため息を吐くメイドの少女に、アンジェリカは面白そうに口角を吊り上げた。


「あらあら、主の前で溜息なんて不敬よ、メアリー」

「…………分かりました。ですが、色々と言われると思うので言い訳は考えておいてくださいね?」

「あら、得意分野よ」

「知ってますよ」


 話が纏まったところで、さて、とアンジェリカが口を開く。


「じゃ、行きましょう。今だけオクトはあたしの指揮下みたいなものに入って貰うけど、いいわね?」

「一時的に指揮下に入るけど自由権があるってとこかな? 僕はそれでいいよ」

「理解が早くて助かるわ。でも、別にあたしはオクトだったら歓迎よ?」

「……魅力的なお誘いだけど、遠慮しておくよ」


 引きつった笑みを浮かべるオクタヴィオとその様子を労しげに眺めるメアリーに、アンジェリカは皇族らしくない普通の少女のような笑い声をあげた。

 緊急事態にもかかわらず緊張感の欠片も無い光景だったが、ふと、何かに気付いたかのようにメアリーが上へと反応し、数瞬遅れてオクタヴィオも上空に気配を察し、腰に帯びた愛用の魔導剣へと手を添える。

 周囲にいた人々の中にも気付いた人がいたのか、その中の誰かが空を指さし、周りに注意を促すように大声を上げた。


「落ちてくるぞ!」


 そして次の瞬間、風切り音をあげてアンジェリカたちを包囲するようにガーゴイル型の魔導人形(ゴーレム)が上空から次々と舞い降り、地響きをあげて着地した。だが、慌てて距離を取る群衆に構わずすぐさま魔導人形に突撃したメアリーは、動き辛そうなメイド服のままロングスカートを翻して蹴りを叩き込み、胴体に円形に穴を貫通させ、あっという間に一体撃破する。

 ズン、と重音を響かせて瞬く間に地に伏せる人形を傍目に、アンジェリカの傍に着地したメアリーは油断なく辺りを見回す。


「残り……8体ですか」

「6体だよ!」


 メアリーの呟きに、一瞬で2体を叩き斬ったオクタヴィオは叫ぶ。そのままアンジェリカはメアリーに任せ、逃げ惑う人々に近い位置にいる魔導人形を次々と斬り伏せる。モノレールでの一件でコアの位置は確認しており、その動作は手慣れたものだ。


「あら、オクトやるわね。あたしも負けてられないわ!」

「姫様、街に被害が出るのでお止めください」


 肩を回すアンジェリカに向かって来た魔導人形を撃破しながらメアリーが静止をかける。アンジェリカは残念そうな顔をするが、告げるメアリーの顔は真剣なものだった。

 そうして問題なく魔導人形を殲滅した後、オクタヴィオはつけていた眼鏡を外しながら疑問に思ったことを口にする。


「でもなんでアンジェを襲撃できたんだろ? 変装の魔術も機能してるのに」

「敵側に変装を見破られているか、もしくはマーキングでもされていたかもしれないわね。変装は止めるわ。マナの無駄よ」

「かしこまりました」


 アンジェリカが懐から取り出した魔導具を弄ると、眼鏡を外したオクタヴィオにはイリオス人に見えていたその姿が、歪むようにして変化する。

 金の髪は緋色に、ありふれた顔立ちは気品あふれる美貌へと変化し、その変貌に未だ周囲に留まっていた人々からどよめきが起きる。


「ふっ、あたしの美貌にみんな見とれているわ。罪な女ね、あたしは」

「姫様」

「分かってるわよちょっとふざけただけよ。それで、どうなの?」


 無表情で窘められたアンジェリカは少々むくれるが、一瞬で気持ちを切り替えてメアリーへと尋ねる。

主語が無い問いはオクタヴィオには何が何だか分からなかったが、メアリーにはしかと通じているようで、返答代わりにとある魔術式を組み立てる。

だが、それは効果を成さず、完成せずに消え去ってしまう。余りにも不自然なその光景を見て、メアリーは思わずといった風に顔を顰めた。

 その後もいくつかの魔術を試しに組み立てた後、額に手を当てて口を開く。


「転移魔術が使えませんね。考え辛いですが、広域ジャミングのようなものが張られているのかもしれません」

「……それは不味いわね。段取りが狂うわ」

「どうされますか?」


 ふむ、とアンジェリカは腕を組んで考える。


「転移魔術が使えないこと、どう見る?」

「え、僕?」


 アンジェリカと、加えてメアリーにも視線を向けられたことで、少々緊張しつつも思ったことを口にする。


「正直、間違いであってほしいけど……もしかしたら“大結界”がやられたかもしれない。都市全体を覆うような魔術の構築なんて、“大結界”を支えるマナ循環装置を利用しない以外考えられない。他にも随分と好き勝手されてるみたいだし、この状況を作るのに一番簡単なのは大結界を書き換えることだよ」

「……オクト、タワーが落ちてる可能性は?」

「最悪あるね。でも、完全に落ちてるってことは正直考えにくいかな。一番高い可能性は、単騎が突入して装置を弄ってすぐ逃げた、ってとこ。“大結界”がやられた可能性の後に言っても信憑性が低いかもしれないけど、タワーの警備は本当に厳重だよ」


 それに、と思い浮かんだ光景に心の中で溜息を吐く。

 正直な話、オクタヴィオは“大結界”の心配など微塵もしていない。理由は簡単で、「カイトがいるから」である。

 敵の手に落ちたかもしれない。ふーん、それが? とまさに東風の如しである。

 普段は居るだけで迷惑な騒動発生器(トラブルメーカー)だが、有事の際にこれほど頼もしい者はいない。正直、先日ダガーに紹介しなかったようにこの件に巻き込みたくは無かったが、こうなっては仕方がない。自ら嬉々として突っ込んでいくだろう。最早止められない。


 ともあれ、もし“大結界”が敵の手に落ちていても、既にカイトが向かっているだろう。想像通り怒り狂いながら。

 あの魔導具馬鹿はやること為すこと無茶苦茶だが、“大結界”への思い入れは特に強いため、結果的に何とかするだろう。

 つまり、今オクタヴィオが為すべきは、先に父やダガーに約束し、自らも胸に誓った通り、アンジェリカを護衛することだ。

 まあ、実力者のメアリーもいるし、他にもどうせ護衛はいるだろうし、必要かと聞かれれば口を閉ざすしかないのだが。


「なるほどね。オクト、もうひとつ質問だけど、ここからだと飛空艇の発着所とコスモスタワー、どっちが近い?」

「大して変わらないけど、どちらかと言うと発着所かな。……あ、あと人の多さはタワー付近の方が断然多いと思うよ」

「ふむ、人形は明らかにあたしを狙ってるし……メアリー、取りあえず手筈通り巡洋艦に向かうわ」

「畏まりました。敵の飛行速度を考えると、空高くを飛ぶことは控えた方が良いでしょう。こちらも認識阻害魔術を張って地上付近を行くのが良いかと」

「そうね……あー、もう。転移魔術が使えればこんなことにはならなかったのに!」


 まったくもって気品の欠片も無く頭を掻きむしり、アンジェリカは憤る。メアリーはそんな主の様子に溜息を吐いた。


「さて、そうと決まれば移動だけど……オクト、何かそこそこ広くて人のいない都合の良い抜け道ない?」

「それは都合良すぎじゃないかなぁ……いや、そうだね。あるよ」

「え、あるんですか?」


 思わず反復したメアリーに頷き、オクタヴィオはすぐ近くにある民家を手で示す。


「少しくらいは目立つかもしれないけど、空飛ぶよりはましでしょ。って訳で―――屋根の上でも走ろうか」


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