第十四話 ≪三日前、昼≫
「ほら、これが資料だ」
手にした紙束をテーブルの上に放り投げ、そのままカイトはソファへと深く身を沈めた。
資料を受け取ったアルフレードは、カイトの様子を面白そうに眺める。
「ふむ、お疲れじゃのう。何かあったかの?」
「どうもこうも……こんな面倒事に巻き込みやがって、これ以上なんかあっても俺は知らねぇからな」
「ふむ、それは済まんかったのう」
ほっほっほ、と笑うアルフレードにカイトは盛大にため息を吐き、天井を仰いだ。
時は瞬く間に流れ、帝国との親善の儀を数日後に控えた今日日。ようやく漆黒の魔導具の概要を調べ終え、カイトはその情報をまとめた資料を手に学院長室を訪れていた。
ようやくこれで頭痛の種から解放されると思うと、何やら感慨深いものがある、とカイトは深く息を吐くが、その瞬間茶髪の少女が微笑む光景が脳裏を過ぎる。
その光景にあー、と気が抜ける声を発して脱力し、本格的に手足の力を抜いてソファとの一体化を始める。
「この俺が振り回されるなんざ、世の中間違ってるぜ……」
「ほほ、それはなかなか興味深いのう」
「うっせー」
アルフレードから向けられる柔らかな視線を右手で降り払い、そのままソファに投げ出していたウェストバッグを目を向けずに探り、漆黒の魔導具を取り出す。
それを手の中で弄んでしばらく眺めた後、アルフレードに向かって投げ渡す。
「ほらよ」
「おっと、危ないのう。年寄りは労わるものじゃて」
「詳しくはそっちに纏めてあるが、そいつは簡単に言えば増幅器みたいなもんだ。起動に大量のマナが必要だが、起動すればそれ以上の莫大な量のマナを吐き出して、疑似的なマナ溜まりを作るって感じか」
アルフレードの抗議を無視して一方的に言葉を投げる。そんなカイトは相変わらず視線は天井に向けたままと他の教員が見れば怒り狂うような態度だが、態度を向けられているアルフレード本人は気にも留めずに顎に手を当て、考え込むようにしてぽつりと声を発する。
「ふむ、そんなこと可能なのかのう?」
「普通は不可能だけど……正確には増幅してるわけじゃないんだ。どっかから引き出してるんだと思う。そいつを増幅器って言ったが、正しくは“門”だな」
「ふむ、大量のマナのある土地に直結しているのかの。転移系の亜種かのう」
「土地じゃない可能性もあるがな。……何にせよ機能の解明は8割程度で、“門”の機能を解明するので精一杯だ。接続先やら何やらは魔導回路を見ないと分からねぇ。精密過ぎて完全な分解は出来なかった。もしやるなら壊す覚悟でだな」
「転移系は暴走の危険性が高いしのう。何が起こるか分からんし、壊されるのはちと困るかの」
「俺もそれで何とか踏み止まったよ。流石に手に負えないこと起こしてイリオスを吹っ飛ばしたくはないしな。ま、詳しくは資料を見てくれ。割と頑張って作ったから」
「ほうほう、それはそれは」
そう言ってアルフレードはテーブルに放られていた資料を手にし、視線を落とす。それを視界の外に感じつつ、天井を見上げたカイトは改めて深くソファへと沈み込んだ。
最初にオクタヴィオと共に行った起動実験が失敗したのは、単純に注ぎ込むマナの量が足りなかったためであった。通常魔導具という物はどれだけ使いやすいかが機能として優先される。そのため、常人より遥かに多いオクタヴィオのマナ量でも足りないほどの量が起動に必要だとは露にも思わず、機能の解明に時間がかかった。
そして、マナの当てを得てようやく起動に成功したと思ったら、当然のようにマナ溜まりもどきが発生し、その技術的革新と戦略的価値、ついでに後始末に頭を抱えることになった。その後、“学院”の端で実験を繰り返し、時にはよく分からない悪寒や誰かに見られている感覚に晒されながらも、何とか事象の解明に至った。割と何度か本気で諦めようかと思ったほど、それは困難な道のりだった。
よっ、と息を吐いて上体を起こし、資料を読み込んでいるアルフレードへと話しかける。
「ま、依頼に関してはこれが限界だ。報酬はその分差し引いていいから」
「ふむ、了解した。報酬は後日ということで、しばし待ってほしいかのう」
「分かってるよ。検証するんだろ? その後でいいよ。つうか明らかに関わるとまずい厄介事って感じがするし、平穏無事に解決してくれるなら文句はねぇよ」
「そうじゃのう。なら、わしもひとつ頑張るとするかの」
「ああ。是非ともそうしてくれ」
そう言ってカイトはソファから立ち上がり、後方にある廊下へと続く扉を開く。
その背にアルフレードは声を投げかける。
「ありがとの、カイトよ」
「依頼だし感謝はいらねぇよ。報酬も後でしっかり貰うからな」
「それでも、じゃよ。おぬしら師弟には随分と世話になっているからの」
「……ああ、そうかい」
アルフレードの言葉に、カイトは珍しく純粋な微笑みを浮かべた。
「そりゃ、師匠も草葉の陰で喜ぶだろうさ。師匠は爺さんのことをライバルみたいに思っていたからな」
「ふ、奴が生きていた時は色々と競い合ったものじゃ。ただの人間の身でわしに並び立ったのはそう何人も居るまい」
「そらそうだ。なんたって俺の師匠だぞ?」
「ほほ、違いないのう」
そうして笑い合った後に、部屋を出て行こうとするカイトへとアルフレードは声を掛ける。
「ああ、そうじゃ。彼女にもしっかり礼を伝えておいてくれると嬉しいのう」
その言葉には特に返事をせずに手だけをひらひらと振り返し、そのまま後ろ手で扉を閉める。
そして、そのまま息を吐き、思わずといった風にぼやく。
「あーあ、ばれてーら」
「何がですか?」
「おわっ!?」
横合いからかけられた言葉に驚き、思わずその場から飛び退いた。
そこには、窓を背にして寄りかかったまま、こちらを眺めて首を傾げるクレアが立っていた。
学院長室は学舎の最上階、長い廊下の先にある。廊下には等間隔で窓が並んでおり、暖かな陽の光が差し込んでいる。クレアの立っていた位置は扉を開いた際に死角にでもなっていたのか、カイトの心拍を早める結果となった。
見渡す限り人影は無かったが、念のためと魔導具を操って盗聴防止の魔術を起動し、クレアへと向き直る。
「この魔術は?」
「認識阻害による盗聴防止。それより驚かすなよな。完全に気を抜いてたからびびったぜ」
「いや、そんなことを言われても……それで、どうでした?」
「ん? ああ、別に問題なかったよ。これで依頼は完全に終わりさ」
内心の希望が少々混じった言葉ではあったが、それをおくびにも出さずにカイトは言い切った。
おどけたように発せられたカイトの言葉にクレアの顔が明るくなり、両手を合わせて笑みを浮かべる。
「じゃあ!」
「ああ、これで平和な学生生活が―――」
「これでようやく“目的”のために本格的に動き出せますね! まだ猶予はありますし、学院長の依頼もそれに役立つことなので手伝ってましたが、間に合うのかと冷や冷やしてましたよ!」
「ああ、うん。はい、そうですね……」
きらきらと輝いているかのような眩い笑みを浮かべたクレアに、カイトは困ったように頬を掻く。
そして、あー、と歯切れが悪そうに口を開いた。
「えーっと、クレアさん? 俺頑張ったし、超頑張ったし、昨日も資料まとめるので夜遅かったし、今日はもうお休みで―――」
「駄目です!」
即答だった。
食い気味に真っ向から否定されたカイトは思わず硬直し、そのまままったく、といった風に頬を膨らませて腰に手を当てたクレアに詰め寄られる。
「“親善の儀”まで今日を含めてあと3日なんですよ? 敵が何を企んでいるかも分からない以上、どんな事態にも対応できるように事前にあらゆる場面を想定して準備しておく必要があるんです!」
言葉を発しながら1歩1歩詰め寄ってくるクレアに追い詰められ、とうとう壁際まで追い込まれる。
背中越しに廊下の壁の感触を確かめつつ、カイトは視線を空に彷徨わせながら、あー、と口を開いた。
「つってもあの爺さんもいるし、俺らが今更何かする必要ある?」
「学院長先生は確かに素晴らしいお方で、世界有数の魔術師ですが、それでもわたしたちに出来ることはあるはずです! それに、いくら学院長先生でもテロなどが起きれば全力で対処しなければならないはずです。その際に秘宝が紛失でもしたら目も当てられませんよ」
力説するクレアに少々辟易としつつも、「あの最終兵器爺が全力出したら余波で国が滅ぶんだけど」と言う言葉は辛うじて呑み込んだ。そして、翡翠の瞳の中に見え隠れする僅かな焦燥感を見定め、ひとつ溜息をついた。
クレアに造った魔導具を試射した日、カイトはクレアとひとつ契約を結んだ。内容は簡潔で、親善の儀の記念式典の日に現れるはずの“非合法組織”とやらが持っているはずの魔導王の“作品”を奪取する。カイトはそれに協力することで事が済んだ後にその魔導具を思う存分解析することを許される。加えて、奪取した“作品”に問題があれば補修する。それが契約の内容だ。聞いたときはその突飛さに思わず思考が停止し、気の抜けた面を晒したのは余談だろう。
聞くところによると、その“作品”は元々クレアの一族に伝わる秘宝であるらしく、それを件の非合法組織に奪われたらしい。クレアの言う悲願とは、その作品の奪還のことだ。
無論カイトはそのことを鵜呑みにはしていないが―――というより秘宝について聞くとクレアは急激に歯切れが悪くなるため全く信用していないが―――その話が本当だと言うことにして動くことにした。魔導王の作品はただでさえ確認数が少ないのに“大結界”のように重要財に指定されていることが多く、自由に解析できるものは非常に少ない。
魔導具は作り手よりも明瞭に作り手のことを語る。一魔導具師として、何より自分が「カイト」である以上、魔導王の作品を解析できる可能性はどれだけ小さくても逃したくはなかった。
例えそれに至る道、または至った先が、どう考えても悪路であろうとも。
実際はアルフレードにクレアと協力していることがばれているだろうと考えていたため(そして実際にばれていたため)、何かあっても最悪フットワークが恐ろしく軽い学院長が乱入してくるだろう、という希望的観測もあったが。
「けどさ、現状何もすることねぇぞ。てか、敵さんが大規模な行動するまで俺ら動けねぇだろ」
廊下を歩きつつ、そう口にする。時刻は既に夕暮れ時で、窓の外を見ると雲の狭間に隠れつつある夕暮れが見えた。
カイトの言葉を受け、茜色の光の中でクレアはふむ、と考え込み、やがて自信無さ気に口を開いた。
「確かに、わたしたちは敵がどのような姿で、どれほどの数で、何を目的としているのか全く分かりません」
「駄目駄目だな」
「駄目駄目ですね」
そうして2人で溜息を吐く。最早取り戻すどうこうといった話ではなかった。誰が“敵”なのかも分からないのだ。
「分かっているのは“親善の儀”で何かをすること、そして魔導王の作品を所持していることです」
「あー、クレア」
「はい?」
廊下の突き当たりを曲がり、階下への階段を下りながら口を挟む。
そして、首を傾げたクレアへといい加減気になっていたことを単刀直入に聞いた。
「そろそろ本格的に動くってことでいくつか質問がある。ひとつめ、秘宝を奪った敵の姿。ふたつめ、秘宝の詳細。最後、敵の狙いはどうやって知った?」
「え? あ、いえ。ええっと、あのですね。その、それは……」
「いい加減隠しっこなしだぜ、クレア。そっちが俺のことを知っていて、俺がそっちを知らないのは対等じゃねぇだろ?」
目を逸らしたクレアの前に回り込み、今度はカイトが壁際へと追いつめる。
そうしてカイトが目を合わせていると、やがてクレアは観念したかのようにひとつ息を吐き、カイトの視線を真っ向から受け止めた。
「……分かりました。ですが、その質問に答える前に腰を落ち着けません?」
「おお、いいぜ。ならそこの談話室に入るか」
クレアの提案に頷き、階段を降りたところで近くにあった談話室の扉を開く。時間が時間と言うこともあり、中に人影は無かった。既に本日分の講義はすべて終了しており、生徒は皆寮や自宅、繁華街へと繰り出しているのだろう。
扉を潜ると、クレアは「おや」と声を上げた。
「どうかしたか?」
「いえ、ここってわたしが最初に来た談話室なんですよ。入学式が終わった後に仲良くなったセレーネさんに連れてこられて、その後カイトさんとレオくんが襲撃してきた」
「あー……あったなー、そんなことも」
扉の先の談話室は、数ある談話室の中でも比較的落ち着いた雰囲気の、暖炉とソファが主体のくつろげる空間だった。そして、カイトたちが新年度初めに談話室襲撃を行い、エリスに撃退された思い出の部屋でもある。
テーブルを挟んだ2つのソファの内の片方に座り、クレアは懐かしむようにして口を開く。
「あの時は何事かと思ったんですからね? まあ実際は何事でもなかったんですけど」
「俺らにとっちゃ普通のことだからなぁ」
「いや、本来は全然普通じゃないはずですからね? 皆さんちょっと慣れ過ぎな気がするんですけど……」
そう言うわたしもですけど、とクレアは溜息を吐き、その様子を見てカイトはケラケラと笑い声を上げた。
クレアが転入してから約一ヶ月が経ったが、その間に少なくとも2日に1回以上のペースで何かしら騒動が起きている。初日の談話室襲撃を始め、カイトとエリス、もしくはレオナルドによって周期的に起きる決闘騒ぎや、学舎の吹き抜け部分をスカイボードで移動するカイトと彼を捕まえようとする指導教員のデッドヒート、セレーネの号令の元唐突に起きる鬼ごっこやその他サバイバルゲームなどなど、本当に騒動には事欠かない学生生活だった。まだ一ヶ月であるということに愕然とするのは、それほどの“濃さ”であったことの証左であろう。
オクタヴィオに協力して騒動を鎮める側に回ったクレアだったが、ライフワークとでも定めているかのような問題児たちの問題行動には手を焼かされていた。
クレアがジト目でカイトを見つめると、黒髪の問題児はすぐさま口笛を吹いて目を逸らす。その様子にせめてもの抗議とばかりにこれ見よがしに溜息を吐いて見せた後、気持ちを切り替え、さて、と口を開く。
「それで、さっきの質問の答えですね。ひとつめの“敵”のことですが、その頃私はまだ幼く、避難していたので実際に見た訳ではないんです」
「ふうん、いつ頃だ?」
「6年程前です。なので、分かるのは大量の魔物が襲ってきたというくらいです」
「魔物だと?」
クレアの言葉に、カイトは首を傾げる。
マナによって体組織が変質し、凶暴性を得た動物を先祖とする魔物は世界各地に存在する。だが、それがクレアの一族を襲ったこととクレアの言う“敵”が結びつかない。
「ええ。討って出た同胞はそのほとんどが戦死し、詳しいことは分かりません。ですが、魔物の中に白の衣服を身に纏い、狂ったように笑い声を上げる死神を見たという話がありました」
「死神か……まあそれはいいか。次は?」
魔物はマナによってスピラが異常活性化しているためか、魔術による制御を受け付けない人類の永遠の外敵である。よって、魔物と行動を共にするということは考え得る限り嫌な予感以外しなかったが、思い当たることも無く、今は考えても仕方ないと諦め話の続きを促した。
カイトの言葉に頷き、クレアは再び口を開く。
「秘宝に関してですが、これに関しては言えることは少ないです。伝わる話によると、魔導王は秘宝を“制御装置”とおっしゃっていたようです」
「制御装置? 何の?」
「それは……えっと、よく、分かりません。元々わたしたちの一族に受け継がれていた秘宝に魔導王が手を加えたものが現在の秘宝の形です。そして、わたしたちは秘宝を受け継ぎこそするものの使うことは無いのです」
「使わないのに守るのか……危険物とかを封じているのか?」
「危険物なんてそんな!」
考えを纏めている間に零れ落ちたカイトの言葉を、クレアはかぶりを振って否定した。そして、すぐさま「すみません」と俯いてしまう。
「確かに、何故わたしたちの一族に秘宝が伝えられているのかは分かりませんし、正確にあれが何かと言うことは分かりません。恐らくは手を加えた魔導王さまなら分かるでしょうが……」
ですが、とクレアは言葉を紡ぐ。
「あれはとても大切なものなのです。絶対に、取り返さなくてはなりません」
強い意思を瞳に灯し、クレアは真っ直ぐカイトを見つめる。それを真っ向から受け止め、カイトは「分かってる」と返した。
そして同時に、ここか、と確信する。クレアの中に存在する焦燥感は、一刻も早く秘宝を取り戻さなければ、という強い意思から来ている。そして、秘宝に関してクレアはまだ何かを隠している。それが何かは分からないが、クレアにとって大切なことなのだろう。
恐らくは今の問答で言葉に詰まった箇所。秘宝の内容に関してだ。カイトの勝手な想像だが、クレアは秘宝の内容について間違いなく知っている。そして、それを他者に話せない理由がある。
―――もしくは、俺だけには話せない理由、か。
ふう、とカイトは一つ息を吐いた。隠していることはあるだろうが嘘を言っているようには見えないし、少なくとも秘宝とやらは魔導王の手が加えられた魔導具か何かであることはほぼ確定と見ていいだろう。これで嘘なら大した役者だ。
最後に、と再びクレアが口を開いた。
「情報に関しては、提供者がいるんです」
「へぇ、信用できるのか?」
「ええ。襲撃によって一族も離散し、わたしたちだけでの秘宝の奪還は難しく、立ち尽くしていた頃に手を貸してくれた方です。どうやら彼女にとってわたしたちが目的を達成するのは都合が良いらしいのです。この“学院”への転入の渡りをつけてくれたのもあの方々ですし」
「なぬ、裏口入学か」
「ち、違いますよ! 何言ってるんですか! 元々それなりの知識はありましたし、転入試験のために勉強もしました。試験結果はわたしの実力です!」
「わーってるって、冗談だよ冗談」
「もう……」
両手を上げて降伏の意を示すカイトに、クレアは苦笑が入り混じった溜息を吐く。
「とは言え、金銭的な援助は相当受けましたけどね。あと、“親善の儀”の日に敵が事件を起こすというのも彼女からの情報です。現在情報収集と裏付けの最中らしくて、今日明日中にでも連絡が来るはずなんですけど……」
ほう、とカイトは目を瞬かせた。他にも協力者がいるとは初耳だが、考えてみればおかしなことではない。むしろそれを早く言え、と言いたいところだが、積極的に伝えることを控えるような理由が何かあるのだろう。
それよりも、その協力者が誰か、どこに所属するのかが分かれば非常にやりやすい。また、どうやらクレアは連絡が取りあえているようなので、その“彼女”とやらが信用できる人物ならば非常に助かる。カイトは事態に光明を見た気がした。
「ちなみに、それは誰か言えたりするのか?」
「そうですね……多分、大丈夫でしょう。えっと、念のためですが、盗聴防止は?」
「さっきから持続中。問題ないよ」
クレアの問いに、カイトは黒の立方体をひとつ取り出して答える。カイト謹製の魔導具、固有魔術の有効活用を目的とした遠隔操作デバイスだ。
その答えを聞いてひとつ頷き、クレアは握りしめた右手に一瞬視線を落とし、口を開く。
「私が協力しているのは、“親善の儀”でイリオスに親善大使としていらっしゃるイフェスティオ帝国の第三皇女、アンジェリカ・グラナティス・イフェスティオ殿下ですよ」
きらり、と。クレアの右手に存在する指輪が光を反射し、鈍い銀色の輝きを発した。




