吸血鬼退治2
ルシファーのキャラ設定をその場のノリで書いてたら、なんでこんな風になっちゃったんだろう。今更、キャラ修正するわけにもいかない。
結論。
このままで行きます。
吸血鬼退治。
引き受けたまでは良かったものの、本物は想像とかけ離れていた。
おいしい血を求めるあまり、性癖とか恋愛観までも変えたイケメン吸血鬼。無差別に同性の血を吸い、あまつさえ同性の処女(?)を奪い去る超危険な吸血鬼に変貌していた。
その吸血鬼、ルシファーは俺を狙ってきた。
兄を奪われたくない凜が応戦。ここまでが前回の流れ。
戦闘というのは、すぐに終わった。
秒殺でルシファーが敗れた。
現在、ボコボコにされたルシファーが亀甲縛りで床に正座させられている。縛ったのは俺。
縛られて嬉しいのか知らないけど、やたら恍惚な表情でルシファーは辱めを受けている。
「いやはや、まさか上級悪魔にまで上り詰めた俺がヤられるなんて………」
「お兄ちゃんの慈悲がなかったら、とっくの昔に死んでるんだからねっ」
「さすが愛しのマイエンジェル。惚れ直したよ」
―――ゾワッ!
背筋が粟立った。全身に鳥肌が立ったみたいで、服の着心地がすこぶる悪い。
凜が冷ややかな目でルシファーを見下ろし、聖剣を首筋に突き立てる。
「気持ち悪いことをお兄ちゃんに言わないでくれるかな?」
「ふんっ。そうやって血の繋がってる兄に特別な感情を抱いてる君のほうが、よっぽど気持ち悪いんじゃないかな?」
「………っ」
明らかに説得力ないんだから、凜は反論できるのに。なんで押し黙るんだよ。
それだとルシファーがつけあがるんだが。
「君とは違い、俺はマイエンジェルと同じ男性だ。つまり愛を育むことも、それ以上のことも超えることができるのさ!」
「できねーよ」
俺はノーマルだからな。最近では、同性の恋愛を認められてるらしいけど、異世界では認められてるのか?
素朴な疑問。一度抱いてしまうと、気になって仕方がない。
「ねぇ、レミさん」
「は、はひっ?」
いきなり話し掛けられてビックリしたらしい。こっちを見てたのに、一度視線を逸らして戻した。
「なんでしょうか?」
「同性愛者って社会的に認められてるのか?」
「ええと………認められてません。何分、特殊なものでして。でも、女性同士は意外と認められてるね」
「なんだと!?」
声を荒げたのは俺ではない。ルシファーからだった。
「そんなバカな。俺とマイエンジェルの恋愛は認められないというのか………!」
「仕方ないんじゃないか? 本人にもその気がないんだし」
レミがあっけらかんと告げると、ルシファーは魂が抜け真っ白になった。
ていうか、
「誰がマイエンジェルだ! その呼び方はやめろっ」
「マイエンジェルはマイエンジェルじゃないか。それとも我が嫁とでも呼ぼうか?」
「次言ったら殺す」
「ヤンデレになってまぁ、可愛いねー」
「死ね!」
どっちが正しいのか解らなくなってきたぞ。男に対して可愛いとか………可愛い系の男は存在するが、俺はソレ系に属さない。周りから不思議系の男子と、新ジャンルにカテゴリーされてる。
断じてヤンデレではない。
俺が本気で嫌なので拒むのは当たり前だが、その行為を凜の目の前でやるのは愚か者のすることだ。
凜が再び、ルシファーの首筋に剣を突き立てる。
「もう我慢できない。お兄ちゃんを不快な思いにさせる奴は切り落とすっ」
「ふんっ、殺すがいい」
あれ、やけに潔い。
ルシファーは不敵に笑んだ。
「俺を殺したら、魔王への道は永遠に閉ざされると思うがイイ!」
なんかムカついたので、そこら辺に落ちてた鞭で叩いた。
男なのにルシファーは喘ぎ声を出して、恍惚とした顔で悶えている。生理的に嫌悪感を出すのは、俺に特殊な趣味が無いことを証明していた。
そんな事はどうでもいい。今は拷問………じゃなかった。体に直接聞かなければならない。
「なんでテメェを殺したら、魔王へ辿り着けないんだよ」
「この程度の快感―――痛みで俺は喋らんぞォォォー!」
「うぜー」
なんでイケメンなのに、こんなに残念になったのだろう。違う理由だけど、同級生にゲイがいる。
俺って異性にはモテないけど、同性にはモテるんだなぁ。
しみじみと思いながら、俺は鞭を振る手を休ませない。
疲れてきたら、そろそろ交代しよう。
「ミレイさん、鞭打ち交代です」
「えっ、私なのか!?」
「やめろォォっ! 女にヤられるなんて爆死してしまうぅぅっ!」
「………だってよ」
「あり得ねー」
鞭が似合いそうな人にやらせるのは、ルシファーのお気に召さなかったのか。
だが、まだ方法はある。
「レミさん、鞭打ち交代だ」
「げぇっ!? 飛び火した!」
レミは嫌そうな顔しながら、しぶしぶ交代した。
女でも男装してれば、気づかれずにやり遂げてくれるだろう。
「イヤだァァァーーー! なんで女が出はるんだぁ!」
「バレた!?」
バレてないとでも思ってたのか?
「ミレイ様しか知らないハズなのに」
「いや、普通に初めて会ったときにバレバレだったぞ」
「な、なんだと!」
「へー、女の子だったんだー」
「お前は気づいてなかったのかよ!」
凜が気づいてなかったのは仕方ないと思う。だってコイツ、俺以外の人間に興味とか示さないからな。
なんやかんやで俺以外に興味を示したのは、幼なじみだけだったな。
女の子だとバレたレミは、茫然として座り込んでいる。
「そう驚くことでもないだろ?」
「私は男を捨てた身だ。女であることを知られたからといって、これからもこの姿をし続けるつもりだ」
「そうなのか」
それは残念でいて、そうでないようなあるような。
ルシファーを鞭打ちする人間が俺しかいないから、必然的に情報を聞き出す人間は俺しかいない。
「なぁ、まだなのか? 焦らされると喋んないぞ」
うずうずしてるルシファーが気持ち悪いから、俺は何もしない。
焦らしてるんじゃない。
「凜、レミさんが女だと知ったんだから仲良くできるよな?」
「うん、無理」
笑顔で凜は言い切った。しかも即答。
「たく、友達とか作れよ」
「私にはお兄ちゃんさえいれば、何も要らないもん」
「ああ、うん………そっか」
何でこうなったのかな。いくらなんでも、ここまで依存するものなのか?
だけど、俺は口で言うだけだ。まだ直接関われないから。
俺は改めてルシファーに向き直る。
「そろそろ本気で話し合おうか?」
「鞭でしごいてくれたら、すぐにでも話そう」
上からものを言える状況なのか?
「真面目に話してくれないかな? ペナルティー出すぞ」
「お仕置きかな? それもまた一興」
「然り」
「縄を解いてくれ」
「はぁ、ダルい」
ようやく話してくれるらしい。
「魔王を倒すには、先ず上級悪魔を倒す必要があるのは周知の事実だ。けど、魔王城の居場所を知ってるのは上級悪魔と魔王だけ。
魔王は魔王城にいるから無理となると、必然的に上級悪魔から情報を聞き出すことになる。もちろんタダで教えないよ?
上級悪魔である俺たちから情報を聞き出すには、俺たちが出す課題をクリアしたらになる」
「じゃあ今すぐ課題を出して」
凜が不機嫌な表情で言った。斬り殺さんばかりの雰囲気だ。
「ここじゃ無理だ。俺の拠点に行かないと課題は出ないよ」
「さっさと連れて行ってくれない?」
「無理だ」
聖剣で斬りかかった凜を止めるのは、骨が折れる大変な仕事だ。
「止めないでお兄ちゃん。コイツを殺したってあと5人もいる」
「落ち着けよ。ちゃんと課題クリアして行こうな?」
凜の頭を撫でてやって、ひとまず落ち着かせる。
「規則として拠点の居場所はヒントしか出せない。ヒントは………そうだな………………日の当たらない街、かな?」
「また解りづらいものを」
「勇者の兄を寄越してくれたら、無条件で魔王城まで案内しよう」
「却下」
うん、俺も却下。生理的にテメェは受け入れられない。
なんやかんやで縄を解くのを忘れてたのに、ルシファーは亀甲縛りのままで飛んでいった。
「とりあえず、ミレイさんとこの国の男たちの腰痛と貧血の原因を取り除いたよ」
「感謝する」
「私は単なる調査だったのに」
「そこでだ。私から感謝の意を示すためにも、君らの護衛役を努めさせては貰えないだろうか?」
「はぁっ?」
素っ頓狂な声を上げたのは凜だった。
「別に要らないっ。私1人いれば、お兄ちゃんを守れるもん」
「1人では守りきれない時があるから、護衛役をもう1人出そうと提案しているのだ」
「要りません」
頑として凜は譲ろうとする姿勢を見せない。
ミレイさんがチラチラと俺に目配せしている。これは「お前も説得してくれ」と頼んでいるらしい。
気は進まないけど、俺は凜に後ろから抱きついた。
「お兄ちゃん!?」
凜が驚きの声を上げる中、俺は彼女の耳元で囁く。
「俺を誰にも取られたくない気持ちは素直に嬉しいよ。でも、せっかくの人の厚意は無碍にするもんじゃないよ」
「うん」
しっかりと頷いてくれた。
任務完了。すぐに離れようとしたが、こっちを向いた凜が笑顔でしがみつくように抱きついた。
俗に言う大好きホールドだった。
「凜のことを本当に理解してくれるのはお兄ちゃんだけだから、凜はずっとお兄ちゃんと一緒にいる!」
「ミレイさんが同行しても問題ないんだな?」
「変な女が1人増えるだけだもん。別に気にしないよー?」
いつも通り、妹は誰も歯牙に掛けない。
凜の世界には、凜と俺とその他大勢しか映らないらしい。
凜の兄離れは進歩なしだが、仲間が1人増えたので辛うじて及第点だった。
俺は空を仰ぐことしかできなかった。