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真田幸平という女(修正版)

ちょっと修正します。大幅でないので見つけるのは難しいと思います。

そういえば今更だけど、凜とキスについて語りたいと思う。

アイツのキスは、いわば強烈な魅了だ。アイツに魅了されることによって催眠状態となり、暗示が効きやすくなる。

それで何度も凜に記憶を書き換えられてきた。だが持続性は無いらしい。

美人は3日で飽きる、ということか。

長い間、凜と離れていたから効果が薄れてきている。アイツの魅了によって書き換えられた記憶とかは、全て元に戻ったと言っても過言ではない。

感想を述べるとすれば、「まあ、家族に依存しても仕方ないか」程度だ。

それは置いといて、今はあの女――真田幸平だ。

ヤツは一体、何者なんだろうか。

俺の幼なじみを自称していたが、ヤツと一緒にいた記憶なんてない。ましてや「家族になってあげる」云々の約束をした覚えもない。あれは玲としたハズだ。

俺は玲に依存してった………覚えがある。家族に見放され、一人ぼっちの俺を慰めてくれた。これに依存しない人間はいない。

ヤツは嘘つきだ。


「おい、無視するな」


ズドンッ!


「うぎっ!」


本当に痛い。形容し難い激痛が尻を駆け抜け、脳にまで轟いた。

そのせいで考え事が吹き飛ばされた。


「何すんだよ! 彩華」

「人がエロい声で話し掛けていたのに無視するからだ」

「誰が得するんだよ」

「DTたちだ」

「はぁ?」

「ヤツらは右手が恋人だからな」

「あ、そう」


ソイツらだけとは限らないだろう。それに彩華のエロい声で発情した男たちが、血迷って襲ってくる心配しろ。

そんな事よりも、だ。


「ムグゥー! ムグゥー!」


両手足を縛られ猿轡を噛まされた真田さんについてだ。彩華が捕まえた。

怯えた目で見てくるから、なかなかに嗜虐心を煽ってくれるじゃないか。


「さあ。全身を弄るぞ」

「ムッ!?」

「阿呆か!」


手が卑猥な動きをしている彩華を羽交い締めにする。

他のヤツらも押さえに入って、何とか落ち着いた。

桜が真田さんの縄を解いてから、彼女に質問する。


「貴方、名前は?」

「真田幸平です」

「女装してるの?」

「れっきとした女です。ほら!」


そう言って真田さんはスカートを捲った。アニメでしか見ないような縞パンですね。

ていうか女の証=パンツを見せる、の方程式はおかしいだろう。

桜は怒りのあまり顔が赤くなった。


「逢坂! このセクハラ!」

「げふぅ」


鳩尾に蹴りがヒット! 効果抜群だ。

派手に地面を転がり、家の壁に激突した。レンガ設計だけに、背中が痛いぜ。

何で俺が蹴られなければならないんだ。


「見せた人間が悪いのに、俺は悪くない!」

「ガン見してた人間が何を言ってるのよ!」

「いいじゃん! 俺が見たかったんだから!」

「やめて! あたしのために争わないで」

「その言い方は間違ってるわ!」

「お前が余計なことをしただろうが。嘘つき」

「嘘ついてない! 本当のことだってば!」

「俺はテメェと遊んだこともなければ、会ったこともない」

「なんで何も覚えてないんですか!」

「いや、覚えてない云々以前の問題だって」


初対面だし。全く知らない相手なんだぞ。

この話、不毛でしかないなー。


「まあ、その内思い出すかもしんないから一緒に行動しようぜ」

「お前、これ以上人を増やすな」


何気ない提案だった。

美少女と行動できて嬉しいハズの彩華が、何故か反論してきた。


「おや、相手は純和風の美少女だぞ。穢れを知らない美少女だぞ」

「知らん。とにかくソイツはいらん」

「どういう意味だよ」


『美少女』という単語を強調してあげてるのに、全く興味を見せない。

まあ、彩華はなんやかんやで人見知りだからな。他の面子に了承を得よう。


「桜。きっと生真面目属性同士、仲良くなれるよ」

「無理に決まってるでしょ。私も反対」

「何でだよ」

「私は嫌いな人間がたくさんあるの。例えば、草食系とか肉食系、ロールキャベツ系とか白塗りの殿様とか……」

「それは男嫌いだよ!」


そして最後に挙げた人物を嫌いだなんて、ヒドいぞ。俺はファンなのに。

桜はダメだったから、次は白雪だ。


「白雪、お前も一緒にいて癒される相手が欲しいだろ?」

「それは逢坂だけなんじゃないの?」


否定できない!?


「ほら、白雪だって俺と価値観を同じくする仲間じゃないか。この思い、理解してくれるだろ?」

「逢坂と価値観を共有したことなんて一度も無いけど」

「もう何なんだよ。ちょっとくらいワガママ許してくれ」

「ヤだ」

「あ、そうですか」


しょんぼりとする。

ここまで冷たくされるとは、夢にも見なかったぞ。あの凜でさえ、誰が一緒にいようとどこ吹く風だったのに。

いつの間にか他者の新入を許さなくなっていたのか。

ここは無理に入れるより、様子を窺ったほうがイイかもしれない。


俺は真田さんに向き直り、とりあえず平謝りする。


「すまない。どうにも新参者を許さない傾向にあるから、お前と一緒に動けない」

「いいよ。どうせ判ってましたから」

「どういう――」


意味だ、と言葉を紡ぎたかった。

けど、彼女の見せた悲しい表情に声が出なかった。


真田さんは背を向ける。同時に艶やかな黒髪が揺れ動き、否が応でも見惚れさせた。


「氷雨、これだけは言わせて」

「なんだよ」

「いつまでも誰かの思い通りに動かないで自分の意志で動きなよ。この臆病者」


頷くことは出来なかった。

図星を突かれた、とかそんな問題じゃない。俺はいつだって地に足がついてる。

ようやく見つけた。妹を。


傍を歩いてたのは別人。俺じゃない別の男。でも、俺はソイツを知っている。


俺と桜の因縁の相手にして、観察野鳥部の天敵の苑馬未来だった。


無我夢中で駆け出した。後のことなんて考えていないし、知る必要もない。


「テメェ、人の妹に手を出してんじゃねぇー!」


全力で拳を放った。見事に空振り。


苑馬はやれやれと頭を振った。


「誰かと思えば、逢坂くんじゃないか。不意打ちとは容赦ないね」

「お、お兄ちゃん!?」


俺は凜と苑馬の間に割って入る。傍目から見れば、美男美女のカップルに嫉妬した冴えない男が邪魔しに来た程度の認識だ。


それでも、俺は凜を背に隠して苑馬を睨む。


「まさかテメェまでいるとはな。世の中、広いようで狭いようだ」

「確かにね。まあ、僕は与えられた役割をこなしてるから君と対峙しなきゃいけないんだけど」

「相変わらず何を言ってるか意味不明だ」

「ははっ、相変わらず羨ましいよ。君だけは」


爽やかに笑う苑馬は正にイケメンだ。遠巻きで眺める女性たちを魅了して止まない。


「で、お前は何で凜と一緒にいるんだよ」

「君がいなくなった代わりだよ。今回は代替品だ」

「テメェがこの世界を壊そうとしてるらしいな」

「それが僕の役なのさ。君は早く元いた世界に戻りな。君がここにいる理由は無くなった」

「似たようなことを言ったヤツがいたんだが。終いには、俺をこの世界に送り出したぞ」


アリアスですね。ヤツは結局、何をしたかったんだろう。


後ろから追いついてきたのは、桜を先頭にして部のヤツとアリアス。真田さんはいない。


「ふわぁー、お兄ちゃんの友達が一杯」

「突然だが、そこの美しいお嬢さん」


早速、淫乱が発情してきた。人の妹に。


「私と甘い蜜月を楽しみませんか?」

「嫌です」

「即答されただと!?」


当たり前だろう。ウチの妹にそんな特殊な恋愛観は持ち合わせていない。


淫乱はどうでもいいとして、目下の問題は桜だ。


「うっ……」

「あっ、桜だ。久しぶり」

「え、ええ、久しぶり」

「もうすぐ君は僕のものになるから、今の内に楽しんでおくといいよ」

「はぁっ? 私は未来のものになんか……」

「これは決まってることだから、逆らうことは不可能だよ」

「それでも……!」


いまいち話の意図が掴めない。妙に苑馬の確信している笑みが気になってしまい、変に勘ぐってしまう。


結局、ヤツの妄言だと思う俺は普通だろう。誰が誰と付き合うとかなんてものは、全て自由だからだ。


「あっ、そうそう。そういえばここの豪商の家でパーティーがあるんだ。君たちも来なきゃいけないよ。そういう決まりだから」


苑馬はそう言い残して立ち去った。

後に残ったのは、申し訳なさそうな顔してる凜と真田さん以外の女子連中だ。


俺は彩華に抗議の目を向ける。


「人の妹に手を出すな」

「知らんかった。めんご」

「お前、妹に手を出しておいて真田さんには手を出さないんだな」

「そんな奴いたか?」

「はい?」


ボケるの早いだろ。


「桜がさっき話してただろ。男みたいな名前で、パンツを見せたヤツ」

「そんな痴女がいたのか。見たかった」

「凝視してただろ!」


俺は鮮明に覚えてるぞ。


「桜が真田さんのパンツを見てた俺を蹴ったこととか」

「えっ、逢坂。誰かのパンツを見てたの?」

「いやいや、桜、お前話してたじゃん」

「誰の話をしてるのよ。私たち以外に誰かいたの?」

「白雪、証明してくれ」

「知らぬ存ぜぬ」

「左様ですか」


何がどうなっているのかさっぱりだよ。


ここは頼みの綱、アリアスに助けてもらおう。


………って、


「いねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


あの金髪の美少女はいつの間にか姿を消していた。


反射的に捜しに行こうとして、誰かが背中に抱きついた。


「お兄ちゃん、ようやく会えた」


妹の涙で潤んだ瞳は綺麗で美しかった。兄である俺でさえ見惚れているのだから、他の人たちには抜群の破壊力を発揮しているだろう。


もう少し見たかったのに凜が「こっち見ないで」と言ったので断念。


「私は決意します」

「何を……」

「もうお兄ちゃんを縛りません。……だから……」


一緒にいさせてください。


それは凜の切実な願いだった。


答えなんて言うまでもなかった。




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