後悔
人生というのは後悔することで一杯だ。
俺の最大の後悔は「生まれてきたことに対して」だったが。こればっかりはどうにも出来ない。もし幼なじみがいなかったら、とっくの昔に生きることを諦めてただろう。
そして今、新たな後悔が押し寄せてきていた。
「逢坂くん。実は私、異世界がとても怖いの」
清楚で可憐にして儚げな女の子の印象と雰囲気を持つ彩華が甘えてくるから、すげー後悔していた。でも、幸せな気分に浸れてる。
というワケでもない。
「逢坂! いい加減にソイツから離れなさい!」
「フシャァー!」
桜に怒鳴られ、白雪に至っては猫みたいに威嚇している。
アリアスは笑って眺めてるだけで、何も手助けはしてくれない。
確かに下着を取り替えろと命じたのは俺だが、あまりに理不尽じゃなかろうか。
「大体、下着を取り替えたのは桜だろうが!」
「命令したのは逢坂でしょうが!」
「責任転嫁は良くない! 俺は止めたんだぞ!」
「言ってないでしょー!」
「いや、言ったね。コイツの下着を初めて取り替えた時に」
「どんだけ昔よ! 勝手に事実を捏造するな!」
そうです。俺は別に何も言ってません。
何て言ったかな。
『今度は別な色の下着で試してみようぜ』
それだ! 無論、言った次の瞬間には桜がジャーマンスープレックスをしやがった。
だが、それでも! 俺は声を大にして主張する。
「俺は悪くない!」
「いや、元凶はアンタでしょ」
「そもそも何で今すぐ取り替えないんだよ!」
「こらっ!」
「ギャッッ!」
何で彩華が脇腹を指で刺すんだ。性感なんだから、本当にやめてほしい。
「いつから逢坂くんは変態になったんですか? 女の子に嫌われるから、そういうエロい発言と行動は自重しないと駄目だよ?」
「してねーよ、今はまだな!」
「でも、自分の責任を相手に押しつけるのはダメ。ちゃんとごめんなさいしなさい」
「俺は悪くない」
「でも、ちゃんと迷惑かけたんだから謝りなさい」
「だから――」
「いいね?」
「………はい」
お前はアレか。俺の母親か姉なのか。
くっ、こんな風にされる経験は無いから口答え出来ない。
「ふんだ。知るもんか」
「逢坂くん!」
「うっぷ」
脇腹をこちょこちょしてきた。くすぐったい。
性感だから余計に辛い。感じちゃう………ビクンビクン。
だがそんなことは気にした様子を彩華は見せない。
「ほら、逢坂くん」
「ぐっ……」
「謝らないと断食ね」
「ごめんなさい!」
土下座しました。
だってホンの少し垣間見せた笑ってない鋭い目には、彩華がどれだけ本気か思い知らされた。
「よろしい。良くできました」
頭を撫でられた。褒められると天まで高く昇ってしまうぞ。
「ええい。結城さん、いい加減ソイツに構ってあげないで!」
「あら、ヤキモチ? 可愛いねー」
「なっ!? そ、そんなワケないでしょうっ?」
「照れちゃって可愛い」
「もう勘弁して」
桜が耐えきれなくなって白旗を上げる。
そんな中、白雪は気に食わない目で見ている。
「可愛いは白雪の特権なのに」
「なぁに、白雪ちゃん。相変わらず可愛いわねー」
「ちゃん付けするな。あと、抱きつくなー」
「素直じゃない白雪ちゃんも可愛い」
「ウギャー!」
普段通りの残念キャラだったら、それなりに対処しやすかった。けど、今は雰囲気とかがガラッと変わってるから難しい。
発狂した白雪に哀れと同情してしまう。
そんな無双状態の彩華が、今度はアリアスに照準を向ける。
「アリアスちゃんもおいで」
「要りませんわ。暑苦しいので抱きつかないでくれます?」
「またまた。本当は嬉しいくせにー」
「ちょっとやめなさい」
「嫌よ嫌よも好きの内ってヤツよ」
「絶対に違いますわ。近づかないでください」
じりじりと距離を詰められ、ついに彩華は飛びついてアリアスを捕まえて抱きしめた。
「捕まえた」
「離しなさい」
「嫌がるアリアスちゃんも可愛い」
「何でも可愛いって言う節操なしですわ」
「あら、可愛い子に可愛いと言って何が悪いの?」
「可愛さが減りますわ」
「可愛いと言うから、女の子は可愛くなるの」
「ものは言いようですわ。実際にそうなると決まったワケではありませんですの」
「じゃあアリアスちゃんの言ってることも、そうなると決まってるワケじゃないよ」
「うっ……」
言い負かされちゃったか。
なまじエロいことをしてこないで、抱きつかれて頭を撫でられるだけだから反抗のしようがない。しかも満面の笑みで包まれてるから、余計に何も出来ない。
でもまぁ、本題に入らなきゃいけないから彩華に自重を促しておく。白雪を可愛がりに行っちゃったよ。南無。
「アリアスはここがどこだか解るか?」
「ガリアにある小さな地方都市くらいしか」
「ふむ」
さっぱり解らん。
「そういえば制御装置がどこにあるか知ってんの?」
「知りませんわ」
「使えんなー」
「貴方に言われたくありませんわ」
「言ってろ」
そうとしか言い返せなかった。だって痔が辛くてコイツの確保を手伝えなかったもん。
これぞ戦わずして勝つ、ということか。なるほど。
「って、納得できるか!」
「静かにしなさい。白雪ちゃんが起きちゃうじゃない」
彩華の膝を枕にしてスヤスヤと寝息を立てる白雪の姿があった。
それにしても、ヤツが白いと落ち着かんな。
「えと、逢坂凜って勇者やってる女の子知らない?」
「確か魔界にいますわ」
「あ、そうですか」
「今は魔界に行かないほうがイイですわよ」
「なんで?」
「悪魔兵が大量に出入りしてますので、返り討ちに遭いますわ」
「げっ」
「あの中年太りの集団がウジャウジャいるの?」
あまり語りたくなかったことを言うとは、余程お気に召さなかったらしい。
中年太りでしかも全身汗だくの悪魔って誰が得するんだろうな。あのルシファーですら、ヤツらを襲うことを生理的に受けつけなかったくらいだからな。
「そうだ。ならばこの世界のどこかにいる上級悪魔に会いに行こうじゃないか」
「あの中年太り悪魔の上に立つ輩って………うぷっ」
「吐くなよ、桜。それに上級悪魔は残念な性格したヤツらばかりだけど、顔だけはイイぞ」
「あ、別にイケメンとか要らないんで」
「そんなこと言ってると、苑馬が泣くよ」
「知らないわよ、あんなヤツ」
「ウホッ、辛辣だな」
ちなみに凜が好きなる予定の王子様の性格は、苑馬のイイ部分の性格と少女マンガに出てくる男性キャラを真似ました。
「ということだ。先ずは彩華の下着を取り替えるぞ」
「そうよね。あのままだと調子が狂うわ」
「私も同意しますわ」
アリアスと桜の同意を得られたことだし、さっさと彩華の下着を前の大胆なヤツに変えた。
なんやかんやで楽しい旅路になりそうだったが、それに楔を打つ者が現れることは知る由もなかった。
「と言い残しておく」




