緊急事態だというのに
時間外の投稿になります。
暇つぶしにテレビを見たら、自分の顔写真と共に指名手配されてる珍事。
なんてこったい。このままだと善良な一般市民の俺に全責任を負わされた挙げ句、断頭台で人生がゲームオーバーしてしまう。
焦燥に駆られて慌ててる俺とは対照的に他のヤツらは、
「第1回『誰が一番巨乳か比べてみよう』選手権を開催しよう」
何でこんなに余裕でいられるんだろう。他人事だからか。
流れ的に桜が反論してくる。
「ちょっと今そんなことしてる場合っ?」
「私たちに何が出来る? 精々ここで乳繰り合うことしか出来ない私たちだぞ」
「乳繰り合うこと以外にあるでしょうが!」
「ふんっ、ならばコイツでも連れて行くか? 警察とかに」
「ちょっ……!」
急に触れてはいけない問題に触れてしまったような気まずい表情を浮かべないでほしい。
気づかいなんてされる筋合いはない。
「まあ、私は外に出てわざわざ刺される危険を冒してまで連行する勇気はない!」
「私にだってないわよ」
「ほう、恋か」
「阿呆!」
彩華は桜が殴ろうとした拳を掴み、懐に入って胸を鷲掴みにした。
「なるほど。着痩せか」
「うがぁー! もうコロス!」
部屋の中で暴れないでほしい。秘蔵のエロ本とか出てくる要因となりうるのだ。
もし見つかったら、死にたくなる。
「全く……疲れます」
アリアスがゲームに目を向けたまま話しかけてくる。
「ところで逢坂さんは一体どうされたいのですか?」
「凛に会いたいに決まってるだろう」
「でも、異世界に行く方法がないと?」
「そうだよ」
やはり、こういう時は国の力を借りるべきだろう。でもなぁ、面倒くさい事が絡んでくるから却下だ。
「あっ、だったらひーくんが居たっていう世界に行けばいいんじゃないかな?」
「玲、それが出来ないから困ってるんだよ」
ちょっと言い争いしてる彩華と桜そっちのけで説明。
「俺が語ってた世界はパラレルワールドであって、こことは似て非なる場所となる。普通に行けるハズがないだろう」
「でも、ひーくんはいて世界を作り上げたんだよね?」
「だから偶然にも凛の―――」
違う。
「どうしたの?」
「俺の部屋だ」
「ついに認知症?」
やかましい。
ようやく思い出せた。
何でか知らないけど、パラレルワールドに部屋の押し入れが繋がったんだ。それで俺は通った。凛を兄離れさせるために。
ついで凛からしてきた最後の約束を思い出す。
「ずっと一緒にいて、お兄ちゃん。凛を1人にしないで」
息も絶え絶えで危篤状態だった凛が言った。
もちろん約束した。
叶うはずがない願いだったのに、押し入れとパラレルワールドが繋がったことにより叶えてしまった。まあ、ここは似て非なる別世界だから押し入れは繋がっていないだろう。
未だに怯えてる桜と口数が多くて下ネタを連発する彩華が、桜の手を握って監視するようにアリアスと玲をちらほら窺っている。
まるで異物を排除するタイミングを計らってる目じゃないか。
あっちの世界での主要メンバーは俺と彩華、桜と白雪だったから、だから予定外の人間がいるから排除したいのだろう。
こうしちゃいられない。
「俺、トイレに行ってくる」
「大中小どれだ」
「全部だよ!」
「中をどうやって出すのか見てみたい」
「桜が変態になった!?」
「き、気になったんだからしょうがないでしょっ」
だからといって見ようとするなよ。
危機的状況だから、ちょっと性格に乱れが生じるのは仕方ない。
でもさぁ、
「皆の疑問を口に出していいかな? 玲とアリアスに」
「なぁに、ひーくん。もしかして中のほうを先に出すの?」
「バカを言うな。中は両方だろう」
「それは特大」
「ああ、確かに」
知らんがな。
「どうして俺の部屋が一番安心だって解ってたんだ?」
「それはミレイが教えてくれて」
「そのウソはいらん!」
「アハッ、バレた?」
悪戯が成功した子供みたいに無邪気にアリアスは笑む。
無駄に可愛いから、ドキッとして心臓に悪い。ときめきって心臓に大きな負担を与えるらしい。
「さっきから結城さんが監視してくるから、いつ訊いてくるのかなって身構えてたけど、まさか逢坂さんから訊いてくるなんて予想だにしませんでした」
「あ、ども」
「あんたはさっさとトイレに行きなさい!」
「ちょっとやめて! 尻とか刺激されちゃうと俺……俺……」
「ここで漏らさないでー!」
冗談を真に受けて必死になる桜を尻目に、とっととトイレに行く。
「ここが安全なのは事実ですよ」
安心してトイレに行ける。
俺の家は二階にもトイレが完備されている。風呂場も兼ねてる。
ビジネスホテルみたいだが、二階には人が住む部屋は俺の部屋しかない。
一昔前のアパルトヘイトみたいに隔離政策が実行されて、俺だけ二階で1人寂しく居座っている。冷蔵庫には勝手に食料が補充されるから、快適といえば快適だった。
下の階では悪魔兵がうろついている。
「おい、二階には上がってこないのか?」
声を掛けてみるが、一瞥するだけで上がってこない。
改めて見ると、悪魔兵ってブーメランパンツしか着用してなかったんだな。解像度の高いモザイクって設定してなかったのに。
まあ、いいだろう。先ずはトイレだ。
勢いよく扉を開けた。
そして閉めた。
浴槽に何かがいたような。
もう一度開けてみる。
浴槽に体育座りで幼女がいた。
「ギャァァァァァァァァァ!」
思わず叫び声が出てしまった。
「ちょっとどうしたのよっ?」
桜が真っ先に駆けつけ、それに続けとばかりに残りの輩が出てくる。
反射的に入って閉めた。鍵もかけて。
「逢坂、大丈夫なの? スゴい叫び声出してたけど」
「大丈夫だ。痔が悪化しただけだー」
「ひーくん、痔に効く薬持ってるけど使う?」
「なんでお前持ってんの!」
「だってひーくんが寝てる間、世話してたの私だよ?」
「そうだった」
「ほら、塗ってあげるから出てきて」
「自分で何とかするから!」
「ほう。ならば中からちゅうっと注入か?」
「汚いから! もうその話やめて!」
痔なんて嘘つくんじゃなかった。
「とにかく部屋に戻ってろ!」
部屋に戻っていった。
改めて浴槽に侵入した子猫を見る。
「アババババ、悪魔だ」
「違うから」
目の前の幼女、じゃなくて。
鷹見白雪だった。
「君、どうやって侵入できたんだ?」
「むー、いつも悪魔みたいな所行を私にしてるんだよ? 忘れたとは言わせない!」
「白雪でいいのか?」
「正真正銘の白雪だよ。何でか知らないけど、15歳になった鷹見白雪だよ」
「なーるほど」
コイツ、記憶とかそのまんまかよ。面白みがない。
何も知らなかったあの頃の白雪だったら、とてつもない幸せを感じれたのに。
「はぁ」
「何で溜め息っ? 不本意なんだけど!」
「いちいち喋るガキだな。食べちゃうよ」
「洒落にならないからやめて」
あー、癒される。
人の質問に答えないのも。
「改めて聞くけど、どうやって侵入した?」
「開いてたから、どうやって侵入しようか考えてた時に悪魔が現れたから、慌てて浴槽に逃げたの」
「普通に考えて一階の浴槽に行けよ」
「だって二階しか解んない」
「あー」
そういえばウチに集まっても、一階には集まらせなかったな。隔離政策の弊害か。
カーテンしか仕切りがないから、雨降ってシャワーを使わせた時なんか大変だった。
「さて。白雪はなんで俺のことを覚えてたんだ?」
「その前に痔はどうしたの?」
「俺の下半身を見たいんなら、ずっとガン見してるがいい。刮目せよ、我が下半身っ」
「阿呆っ」
カーテンで仕切ってしまった。
俺も見られたくなかったから、好都合だ。
男のトイレは短い。
本当に尻から血が出てきて大変だったが、まあ割愛。
白雪を連れて部屋に戻った。
「あっ、桜と淫乱」
「それは褒め言葉だぞ、白雪」
褒め言葉なんだ。
「あのさ、高橋さんと彩華さんって俺のこと覚えてたりするのか?」
「そうだが?」
「どうして若返ったのか知らないけど、とりあえず逢坂のことなんか忘れてないんだからねっ」
「じゃあ早めに言えよ。知らないふりを装ってたのに」
「ふむ、無駄な努力だったな」
それはそうと、と彩華はアリアスと玲を睨む。
「貴様らは私の記憶では存在しなかったハズだ。しかも片方はアイドルじゃないか。サインください」
「私はアイドルじゃないから。ひーくんの幼なじみ」
「逢坂くん、羨ましくなんかないんだからね」
「恐ろしくツンデレが似合わねー」
無表情でやられても、どこも萌える要素がない。
「それは私が答えましょう」
不承不承、アリアスが語り始めた。
「ここは簡単に申し上げて微妙な世界ですね」
「び、微妙?」
俺の家から学校までの距離みたいだ。
そう微妙だ。ビミョー。
「次元の狭間に辛うじて存在しているいつ呑まれてもおかしくない世界です」
「貴方たちは一体なんなんですか?」
「管理人です。こっちは端末機です」
「にゃはっ」
笑顔を向けられた。
玲であって玲じゃなかったのか。
なんか残念だったような。
「どっかの誰かさんが異世界を作り上げたおかげでこうなりました」
「俺が悪いのかよ」
「いえ、その後の妹から逃げ出したせいです」
「結局、俺じゃん」
「ええ、全て貴方です」
グサッ!
「だから、貴方が責任を取って何とかしてください」
「責任を取るって言われても、どうすればいいのか解らない」
「解ってるくせに」
「はい、そうですよ。押し入れですよ」
全部解っておきながら、答えさせるとか獄門に行くことに等しい。
「ふむ。この世界が壊れそうなのは理解した。それと私たちが若返ってるのとはどういう関係がある?」
「時間の流れが違いますから」
「どうせなら白雪だけでも、記憶は15歳の時のままにしておいてほしかった」
「解るよー、その気持ち」
うん、無垢だったあの頃の白雪を返してほしい。
とか思ってたら、桜に頭を叩かれる。
「何となくよ」
「何となくで叩くとかヒドいやつやねん」
「ところで逢坂がここにいるのは解るけど、私や彩華と白雪は関係ないでしょ?」
「貴方たちが逢坂さんの背中を押したんじゃない。貴方たちにも責任の一端があります」
「とばっちりよ」
まあ、そうだろうな。
俺が同じ立場だったら、そう考えて当然だ。
「さあ、早く行きなさい。もうすぐ呑まれますよ?」
「お前、異世界には行くな、とか言わなかったか?」
「状況が変わりました。貴方を守りたかったのですけど、妹さんが暴走したことによって出来なくなりました」
アリアスはそう言って押し入れを開ける。
いつぞやの真っ暗ルートが再見されていた。
「さあ、どうぞ」
「どうぞって……ええっ?」
「さあさあ!」
アリアスの手によって彩華から桜、白雪と順に放り込まれていく。
最後に俺となった時、それまで沈黙を貫いていた玲が立ち上がって抱きしめてきた。
「お願い。凛ちゃんを助けてあげてね」
「そのつもりだけど」
「私はいなくなるけど、アリアスは頼ってあげて」
居るのか。
「さあ、行けよ。ハゲー」
真っ暗ルートに投げ出された。
ようやく凛が出てこれそうなフラグです。
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