表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/44

勉強会(加筆修正版)

最後に付け加えました。



「お兄ちゃんのバカっ!」


こんなの言われた覚えはないけど、何となく言われた気がする。

目の前には赤いランドセルを背負った小さい凛が涙目で怒ってる。ランドセルには反射板がついてるからして、凛は小学一年生らしい。

対して俺は小学3年生で、凛に申し訳なさそうな顔してる。


「ゴメンな。これから後片付けとかいろいろあるから、一緒に帰れないんだ」

「うー、一緒に帰るって約束した」

「だからゴメンって」


こんな約束したんだな。しかも破ってるし。

俺が凛と約束したら、どんな事よりも優先してきた。

全て凛の喜ぶ姿が見たかったからだ。泣いてる姿なんか絶対に見たくない。

そうだ。


「凛、今度からお前と約束した時は絶対に破らないから。約束するよ」

「本当に?」


泣き止んだか。


「うん。一緒に帰るって約束は破ったけど、次からは絶対に破らない」

「約束、だよ?」


小指を出してきたから、俺も小指を出す。指切りだ。

俺から提案した最初で最後の約束だ。


「凛、ソイツに構ってないで帰るわよー」


母さんの呼ぶ声。

凛だけを見ていて俺に見向きもしない。父さんも同様だ。

あの人たちにとって凛だけが全てなんだろう。

まあ、暴力を振るわれなくなっただけマシな部類だ。無視されるだけなら、気が楽でいい。

左手で握り締めたのは、児童養護施設への申込書みたいな紙がクシャクシャになっていた。

事故が起きる数分前の会話だった。







◇◆◇◆◇◆◇◆


「はっ」


夢か。

やけにリアルだったな。

って、


「顔、近いよ」


桜が顔を覗き込んでいた。

キスが出来そうなほど近くて、心臓にすげー悪い。


「なんで起きたのよ」

「ああ、勉強中だったよな。ゴメン」

「そういうことじゃなくてっ!」


違うのか。まさか……!


「暗殺しようと……?」

「はあ?」

「俺は触手先生並みに回避と攻めは得意だ」

「せ、責めるとか……」

「んー?」


おやおや、いけない妄想をして顔を赤くしちゃったか。可愛い。


「このスケベェッ!」

「なんでだよっ」


まあ、イイだろう。


「勉強するのって好きじゃないなー」

「将来に繋がってるんだから、ちゃんと取り組みなさい」

「今から勉強したって時期尚早じゃね?」

「将来に早いも遅いもあるかっ!」


まだ二年もあるじゃないか。

まあ、二年もあれば世界は消えてるかもしれないけどさ。それも一蓮托生だ。

でも、そういうのとは関係無しにだけど、俺は凛に会わなければいけない気がする。

何故かは解らないけど、必ず会って一緒にいなければならない。

大事なハズなのに、本当に解らない。


「どうかした?」

「どうもしない」

「ウソ。だって険しい表情してたじゃん」


考え中は無表情になる予定だったのに、あからさまに表情に出てたのか。用心が必要だ。

それでも感知されてしまったなら、語るしかあるまい。


「いや、実は俺、ここ数十年の間中ずっと意識が別の世界にあったらしいんだ」

「……中二病?」


スルーだ。


「で、死んだらしい妹と一緒に暮らしててある日、異世界に召還されたんだ。そこでいろいろあって、妹が怖くなって逃げ出して……気づいたら、ベッドの上だった」


甘んじてキスを受け入れてさえすれば、今こうして勉強してるハズがなかった。

どこで一体、何を間違ったんだろう。何が凛を狂わせてしまったのか。


「逢坂くんは妹が怖いの?」

「よくわかんない」


会わなければいけない、なんて考えれば考えるほど、あの時の凛の狂った笑顔を思い出して会いたくなくなる。

それに、


「どうせ妹に会いたくても、方法がないから無理だ」

「逢坂くんの会いたいって気持ちが強ければ、きっと会うことが出来ると思うわ」

「少年マンガか」


気持ちの問題でどうにかこうにか出来るんだったら、こんなに悩んだりなんてしない。

会いたくないけど、会わなきゃいけない。

なかなか複雑な心境だ。

それが桜の目には女々しく映ったらしい。


「まだるっこしい! 会いに行きなさい!」

「いや、だって……」

「文句無しよ!」


強引だ。そこらへんの男より男らしいんじゃないかな。

で、大事なことを忘れてた。


「勉強中だったよな?」

「あ、そうだった」

「まあ、今はテスト週間だから妹のことは後回しにする」


なんて言った瞬間だった。

不意に気配を感じた。

動くものがあると、何となく視線がいってしまう。

その何となくで見た「もの」に驚愕する。

悪魔の翼を広げた真っ黒い怪物。

登場予定の無かった「悪魔兵」という魔王の軍団だ。武器は槍。


「ちょっと何アレ!」


桜も驚きの声を上げる。

不細工な馬鹿面に設定してたハズなのに、ヤツは憤怒の形相で目が赤く光ってる。


「あ、アハハハ」


不思議と笑いが込み上げてきた。

こうまで世界のバランスが崩れてるとは……。

だが俺が彩華たちに言ったことは、あくまで俺が凛と一緒にいた世界での話だ。

ということは既に呑み込まれたのかもしれない。

やべー、どうしよう。


「よし、逃げるぞ!」

「うわっ、ちょっと……!」


桜の手を引っ張って駆け出した。

同時に悪魔兵も飛んでくる。


「あれは一体なんなのよ!」

「ここじゃない別の世界に存在する悪魔兵というヤツらだ」

「なんでいるのよ!」

「この世界が呑まれ始めてるのかもしれん」

「どういう―――」

「説明は後回しだ!」


今は逃げることに専念しよう。

そうしてる間にどんどん悪魔兵が増えてくる。

ヤバい。ずっと校舎内を逃げ回ってたら、囲まれて刺されて終わりだ。

玄関を急いで出て学校から抜け出す。

外にも悪魔兵が現れてくる。


「もうイヤ。なんなの一体……」


俺だって知りたいよ。

何でこうならなきゃならないんだよ。

どこで何を間違えたんだ……!

とりあえず走り出す。桜の手を掴んで。

細くスベスベしてて、それでいて温かい。

そんな時だ。

着信音が鳴った。

相手はアリアスだ。昨日、一斉にメアド交換したんだっけ。

ちょうどいい。こんな緊急時に何の用か見てみようじゃないか。


『すみません、勝手に君の部屋に避難させてもらってます。早く来てください、話があります』


俺の部屋って安全なのか?

走ってる最中、家に侵入している悪魔兵がいる。

通行人に襲い掛かった悪魔兵は、槍で刺したあと、別のところへ飛んでいった。通行人は凍りついたように静止していた。

それを見た桜が取り乱した。


「こ、これは夢よ! たちの悪い夢ね。ゲームよりもずっとたちが悪いわ!」

「落ち着け。とにかく俺の家は安全らしい」

「これが落ち着けるハズがないでしょうっ!」


まあ、確かに。

逃げるだけで精一杯で誰かを助けることなんて助けてられない。

ちなみにだが、俺の家はモノレールを使っても使わなくても大して変わらない。学校から微妙に遠く駅から微妙に近い誤差の範囲内に家が存在している。

モノレールを使えば20分。徒歩は40~50分くらい。走れば30分。大差ない。

ようやく着いたマイホーム。

人気はなく薄暗い。

ちょっとホラーだから、怖がりの桜は右腕に抱きついてきた。


「俺の部屋、二階だから」


足元を気づかい、自分の部屋へ辿り着く。

扉を開けた先、そこには部活のメンバーが寛いでいた。


「お前ら自由だな。外は大変なのに」

「存じてます。それが全て君の責任であることも」

「やっぱりか?」

「そうです」


全ては俺が凛から逃げたのが始まりか。


「ひーくん、そんなに落ち込んでても何も変わらないよ」

「どの道、この世界は異世界に呑まれてお終いだ」

「まだ決まったワケじゃないよ。方法はきっとあるはず」


無いから諦めてるんだよ。


「彩華さんは何も言わないんですか?」

「言葉責めされたいのか?」

「なんかニュアンスが違うね」

「どうせ何とかなるんだから、アリアスはここに避難させたんだろう。全てが駄目だったら、遠慮なく快楽責めしてやる」

「うぇ……」


発言が汚い。

精神的に不安定な桜をベッドに座らせる。


「まあ、聞いての通りなんだけど……全て俺の責任だ」

「じゃあ今すぐ何とかしなさい。自己責任は自由主義の象徴よ」


落ち着いたみたいだ。

とにかく全員が無事で良かった。

同時に否が応でも決心しなければならなかった。

俺は覚悟を決めて口を開く。



『街に突如現れた怪物に対して政府は非常事態を宣言し、重要参考人として鳳神館学園に在学中の逢坂氷雨くんの身柄を確保する、という声明を出しました』



緊急事態だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ