危機回避
定期テスト。
学校に通う者ならば必ず経験する鬼門。期末テスト同様、赤点取ったら補習がプレゼントされる。
まだ学校に入ったばかりで1ヶ月も経ってないのに、定期テストをやるんだから楽勝じゃないか。
それなのにウチの部員たちは、
「なんでそんなに死にそうなんだよ!」
部室に集まるゾンビもしくは干からびた死体が転がってる。
これが学園では上位に入る美少女たちなのに、あまりにも残念すぎだ。
テストまで一週間を切ったので、今はテスト週間で部活は原則活動禁止だ。
だがまぁ、ここは活動してもしなくても一緒なのでこうして集まっている。
ダラケていては、一向に学力は身につかない。
それでも机の上に勉強道具を広げているのは感心する。
「玲、勉強しなくていいのか?」
「無理。こんなの覚えれるハズがない」
「第一、逢坂さん。学年主席に私たち赤点組が勝てるハズがないでしょう?」
机に寝そべってゲームをやってるアリアスが言う。
アリアスのあの諦めムードは、俺の受験生だった頃を思い出す。
勉強もしないで遊んでばっかりだった中学三年生。学力は落ちもしなければ上がりもしなかったから、この鳳神館学園に余裕で合格した……。
というのが凛と一緒にいた世界での俺の受験活動。
「というワケで私はゲームでもして、現実逃避します」
「おい、廃部になっていいのか?」
「その前に赤点にならないようにしませんと」
『そうだそうだ』
「意識が低レベルだ」
総合点で勝つ云々以前に先ずは赤点を取らないといけない。
でも、勉強を教えるのは難しい。
俺は机の上にある教科書の要点を抜き出して、マーカーでチェックしておいた。
居心地が悪いから帰ろうとして、玲に袖を掴まれる。
「ひーくん、見捨てないで」
上目づかいに見上げる玲の瞳は潤んでいる。抜群の破壊力を発揮してる。
「俺、人に何かを教えるのは苦手なんだ」
「見殺しにしないで」
「要点だけでもまとめておくから、自分で何とかしろ」
罪悪感に苛まれながら、何とか部室から出ることが出来た。ああ、凛にも似たようなことしたっけ。
あれは凛が中学一年の期末テストの時だ。その時も要点だけまとめておいて勉強法とかは教えなかった。で、またキスされてる。
よく考えたら俺、実の妹とキスしまくってんじゃん!
うあー、やらかした。
頭を抱えて悶えてる。傍目から見れば、変人にしか見えない。
「何してるの?」
その変人に話し掛けるなんて、君も変人かもしれない―――グハッ!
「私を変な部類にカテゴリーしないで」
読心術に長けてる様子。
それにしてもボディブローはキツい。油断すると吐いちゃうかも。
名を明かそう。この暴力女は部を潰そうとする悪の化身、高橋桜だと。
「おや、今日はボーイフレンドがいない様子」
「その言葉に含みを感じるんだけど……」
「で、卒業したら結婚か。世は晩婚化してるというに早いな。さすがは幼なじみ」
「妄想も大概にして」
真顔で返されたので、精神的に居たたまれなくなった。
やはり俺の記憶通りに桜は苑馬のことを『幼なじみ』としてしか見ていない。
だが、それがヤバい。
元々、この茶番は苑馬が仕掛けたことだ。桜が俺に話し掛けようとしていたのが気に入らなかったらしい。
勿論そんな事実は確認されてない。むしろ話すキッカケを与えただろうが?
まあ、過ぎたものは仕方ない。
ここは某女優の交渉術を披露してやろう。
「あのさ、この戦いは不毛だと思うから、やめにしないか?」
「はぁ、なんで?」
「俺らが総合点で高橋さんに勝てないから」
「むしろ好都合じゃん」
「こっちは赤点を取らないようにするのが精一杯で……」
「じゃあ赤点取ったら補習は倍にしてあげるよう、先生と掛け合ってくる」
おや、悪化した?
「待って、待ってくれ! 俺を置いてくんじゃないジョニー!」
「私はジョニーじゃなーい!」
「じゃあハゲ茶瓶」
「死に腐れろ」
「ガハッ!」
優雅な脚線美を描いて蹴りが顔面にヒットした。
ああ、思い出した。
桜に蹴られたんだった。
「いったいな。お前は人を殺したいのか?」
「うるさい。変なことを言うな」
ですよね。解ってます、俺が悪かったです。
「ところで高橋さん。ここにいると前みたいに襲われるよ」
「ご忠告ありがとう。素直に受け取っておくわ」
やべ、手遅れになりそう。
去り際、桜がこちらに振り返る。
「ハンデをあげるわ」
「マジで」
「勉強を見てあげる」
「あ」
別に要らないんだよなー。
「ありがとうございます」
一応感謝すると、桜は満足して立ち去った。




